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2020
03.25

恋の始まりはサバイヴから。『初恋』感想。

hatsukoi
2020年 日本 / 監督:三池崇史

あらすじ
ユニディってなんでもあるな!



医者から余命わずかであると言われ自暴自棄になって歌舞伎町の街を歩いていたボクサーの葛城レオ。そんなときすれ違った少女モニカを追う男を咄嗟に殴り倒してしまったレオは、成り行きでモニカと行動を共にすることに。しかしその結果レオはヤクザや悪徳刑事が絡む抗争に巻き込まれていく……というクライムドラマ。

一人の少女に出会った孤独なボクサーを中心に、日中ヤクザの抗争や悪徳刑事の思惑などを描いていく物語です。天才的な才能を持ちながらまさかのKO負けを喫したレオは、病院の医師から余命幾ばくもないことを告げられ、生きる気力を失います。そんなときに父親の借金のかたに売られた少女モニカと知り合い、彼女を守ろうとするレオ。一方で策士なヤクザの加瀬と悪徳刑事の大伴が組のブツを奪い取ろうとし、殺された下っ端組員の恋人ジュリや昔気質のヤクザ権藤らに加えチャイニーズ・マフィアまでが絡んできてぶつかり合うことに。死を宣告されたボクサーと少女の関係を中心にしながらも、ヤクザや中国マフィアと多くの人物を配した群像劇の趣もあり、各人のドラマを描きつつそれらが交錯し絡みまくります。陰惨な話のはずが笑いも織り込んで予想外に軽やか、そして思いがけず爽やか。欲望が渦巻き血みどろの戦いが展開するのになぜこんなタイトルなのか、というところまで含めて抜群。

役者陣がみんな素晴らしくイイんですよ。レオ役の『東京喰種 トーキョーグール【S】』窪田正孝の繊細さと投げやり感、加瀬役の『バクマン。』染谷将太のずる賢さとぼやき、大伴役の『アウトレイジ 最終章』大森南朋の普通にダメな感じ、権藤役の『十三人の刺客』内野聖陽の武闘派な威圧感と昔気質のカッコよさ。そして女優陣が最高で、3000人のオーディションで選ばれたというモニカ役の新星、小西桜子が初々しくも色々と抱えた難役を演じきり、ジュリ役の『麻雀放浪記2020』ベッキーが凄まじいクレイジーさで男共を圧倒します。小西桜子もベッキーも大きな瞳が特徴的なのに真逆の印象なのが面白い。任侠に憧れるチャイニーズ・マフィアのチアチー役、藤岡麻美も魅せます。ほか、市川役に村上淳、組長代行役に塩見三省(お元気そうで何より)、ヤス役に三浦貴大など。

監督は『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』『無限の住人』三池崇史。かつてのギラギラした勢いに円熟味を加え、最高の娯楽作を作ってくれたことが喜ばしい。窪田正孝は三池崇史に抜擢されたことで役者を続けたという経緯があり、この二人が再び組んだという関係性も熱いものがあります。キャラ立ち抜群の面々が繰り広げるドタバタのなかで、欲望ゆえの必死さ、愛情ゆえの憎悪、信条ゆえの生き様が浮かび上がります。そして繰り返される言葉、重なる姿が深みを与える。これは奪われたと思った人生を取り戻す物語。超面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








死を宣告されたボクサーと、悲惨な境遇のシャブ漬け女性。この出会いには悲劇の予感しかせず、半裸で寝そべったモニカをバックに『初恋』という場違いなタイトルが出るギャップには、それだけで話がどう展開するかわからないスリルがあります。のっけから中国マフィアに切り落とされた首が転がるし、加瀬と大伴のシャブ強奪計画もきな臭い。しかしそんなお膳立てによる悲劇の予感を断ち切るかのようなレオの一撃から、全てがひっくり返っていくんですね。死が目の前にあるからこその投げやりさが、ヤクザ相手のヤバい状況を麻痺させ、レオの「やりたいこととかないの」というモニカへの言葉は、モニカの解放への手助けになると共に、やりたいこともできなくなったレオの生きる理由を探すことにも繋がっていきます。モニカの境遇は悲惨の一言で、性的虐待を受け身売りまでさせられた父親の幻影に怯え、すっかり自分を見失っていますが、そんな彼女に沖縄の曲を聴かせたらその幻影が踊り出す、というのが可笑しい。この「ツラいけど可笑しい」というのが全編にあるので悲壮感より前向きさが勝り、かつ二人でイヤホンを分けて聴く姿にキュン度が上がり、二人を応援したい思いが強まってのめり込みます。

これはシビアな展開になるのでは、と思っていたら、ヤクザ側のいざこざもまたあれよあれよとひっくり返っていくのが面白い。加瀬と大伴の計画はのっけからことごとく破綻、大伴はモニカに逃げられ、加瀬はヤスを気絶させるつもりが殺してしまい、ジュリを襲わせた中国人は返り討ち。ここまで裏目に出まくるとむしろ気持ちよいし、加瀬が不本意な殺しの連続に「何人目だよ」とぼやくのには笑います。加瀬役の染谷将太はインテリヤクザというより自分が頭がいいと思っている小者という感じなんですが、言動が突飛でごまかしも上手いのが独特で、それでいてバレそうになったときの「へ」とか「はい」とかの言い方も愉快。そのパートナーとなる大森南朋の大伴はトラブルにいっぱいいっぱいで、自分自身に「あきらめるなー」と言い聞かせるのが可笑しい。大伴は結果的にはそこまで悪どいことはしてないんですが、うまい話に乗っかったばかりにどんどん堕ちていくのが哀れでありながら、飄々とした感じが憎めなくて笑ってしまいます。

加瀬にとっての一番の想定外はジュリでしょう。自分を襲った中国人の刺客に「誰だよ」と言いながら容赦ない猛攻、自分で殺しながら「勝手に死んでんじゃねーよ」の理不尽すぎる言い分。車の後ろに張り付いた姿などはもはやホラーです。怖すぎます。権藤や組長代行よりも怖い。根底には恋人のヤスを殺された恨みがあるのでその行動は変ではないはずなのに、クレイジーな殺人マシンに豹変するのが最高です。婆さんと同居していて加瀬がそのギャップにぼやくのも可笑しい。彼女はモニカに客をとらせる元締めでもあるので、同情する必要がないというのが後腐れがなくていいです。この後腐れがないというのは本作のポイントで、出てくる奴は大体悪人か、殺し合うことを厭わない武闘派なので湿っぽくならないんですね。後者の代表が権藤で、義理人情を重んじ組のために命を張るという昔気質の男として登場、これが威圧感もありつつ渋さもあって無茶苦茶カッコいい。内野聖陽は意外にもこれが初めてのヤクザ役ということなんですが、しっかり迫力を出してきます。権藤がかつて片腕を切り落としたチャイニーズマフィアのワンさんもこの類いで、この二人のライバル対決が本筋そっちのけで繰り広げられるのも熱い。

笑えるシーンは思いの外多くて、これが軽やかさにも繋がります。ジュリが彼氏のスマホにGPS仕込んでいるというのを聞いてクールなはずの村上淳の市川がドン引きしたりとか、ムショ暮らしだった権藤がスマホを見て「便利なもんだな」とか言いながら使い方わかってないとか。レオに余命を告げた医師が「脳腫瘍じゃなかったですー」という留守電は、画面に出るとちょっとクドい滝藤賢一が声だけで重ねてくるという使われ方が絶妙です。歌舞伎町の占い師ベンガルが死を宣告されたレオに健康だと言い切るのもあちゃーという感じですが、この占い師が言ったことは全部当たってたわけですね。「誰かのために何かをした方がいい」というお告げもまた、図らずも当たっていたことになります。

クライマックスのホームセンターでの戦いは『イコライザー』のような緊迫感や売り物を使った工夫などには欠けますが、笑いもスリルもブチ込んで一気に収束していくのが面白い。シャブで無敵になった加瀬はなぜか素手で戦って、痛くなーい!と陽気で最期までエキセントリックですが、ワンさんのように腕を落とされ、冒頭での抗争のように首を切られてついに退場。ターミネーターと化したジュリも仇を討ったもののあえなく敗退。大伴は最後までドタバタして終わります。そんななか警察が来ても関係なくワンとの因縁の戦いを行う権藤、刀を背中越しに抜くのが超カッコよく、ここだけ別世界のように任侠の意地みたいなのが爆裂です。モニカことユリが利用されただけと言うのにも「わかってる」と返し、二人を逃がす権藤。レオに言う「今うちに来ればナンバー3だ」から、組長代行以外の他の組員は皆死んだということなんですよね。そして二人を車から降ろして一人死の逃避行に出るアウトローぶりもシブい(すんごい数のパトカーが追ってくるのは笑いますが)。もう一人、レオの働く中華料理屋にいたチアチーもまた二人を逃がしてくれます。彼女は「タカクラケン最高」と言うように"仁"を求めて日本に来た、というのが伏線になっているんですね。

レオとユリの関係やドラマは、幾多の繰り返しを経ること、あるいは過去と現在を重ねそれを打破していくことで進んでいきます。ユリが大伴を殴ったレオに父を殴った竜司を重ねたり、チアチーが逃がし権藤が逃がすという繰り返しがあったり。レオは「お前は誰だ」と何度も言われ、「死ぬ気になりゃあ」と繰り返して立ち塞がる敵にも挑んでいきます。ユリは何度も現れて自分を苦しめる父親の幻影を股間を蹴り上げて撃退し、自分を毒していたシャブをレオと共に車から振り撒いてそれが煙幕になったりもする。繰り返される苦難、そのなかで生きる道を掴み取っていく。これが爽やかさになっていくわけです。様々なアクションがそれに勢いを付けてもいますね。ホームセンター脱出時に突然アニメになるのはスタントができない事情があったかららしいですが、結果的には無茶すぎるシーンを上手くごまかし、かつ寓話性をもたらしているのが本作には似つかわしいかと。

タイトルである初恋、これはユリにとっては初めて自分を救ってくれた竜司に対する思いであるでしょう。初恋の人が幸せそうなのを見て「私、生きてみる」と精神的に生を受け入れるのです。ただ竜司への思いは恋というより恩という方が近いのかもしれません。一方でレオに出会わなければそこに至ることはなかったわけで、二人で切り抜けてきた道、その感覚を共有することで、本当の意味での初恋が始まったとも言えるでしょう。死んだように生きていたユリと死の影に打ちのめされていたレオは、命懸けの攻防のなかを生き抜き、シャワーの冷たさにより肉体的にも生きている実感を得るのです。最後にはユリは依存症から抜け出す試練に耐え、これしかないからと淡々とボクシングをやっていたレオは全身で勝利を喜ぶ、とそれぞれの戦いに挑みます。他の面子がみな死んでしまったのもあって、二人が生を求める姿は眩しいほど。そしてアパートの部屋へと二人で消えていく引きの画、というとても静かなラストの余韻が素晴らしい。不穏で劇的なボーイミーツガールは、静謐で純粋な「初恋」へと昇華され、新たな人生の始まりへと繋がっていくのです。

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