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2020
03.16

旅立とう、内なる狼と共に。『野性の呼び声』感想。

The_Call_Of_The_Wild
The Call of the Wild / 2020年 アメリカ / 監督:クリス・サンダース

あらすじ
ゲー(左)!ハー(右)!



裕福な家で平和に暮らしていた犬のバックは、密売人に捕らえられてアラスカで売り出されることに。やがて旅の男ソーントンと出会ったバックは、彼と共に地図にない土地を目指して冒険の旅へと出ることになるが……。犬と老人のアドベンチャー・ドラマ。

アメリカの作家ジャック・ロンドンにより1903年に発表された冒険小説を映画化。過去にも映像化されており、本作はなんと6度目の映画化だそうです。初期はサイレント映画だというから長く語り継がれているわけですね。19世紀末、飼い犬のバックはある日飼われていた屋敷から盗み出され、地上最後の秘境と見なされるアラスカに連れてこられます。やんちゃし放題だった家庭の飼い犬から突如氷原へと放り込まれたバックは、犬ぞりを引く過酷な仕事をすることに。それでも厳しい自然と他の犬たちとの共存を経て逞しくなっていったバックは、やがて一人旅する男ソーントンと出会います。ゴールドラッシュに沸く時代、数奇な運命を辿る一匹の犬を中心に、使命に燃える郵便配達人や居場所を求める老人の人生も描き出す一大冒険絵巻。予想もしない展開にハラハラワクワクが止まらない、まさにアドベンチャー。内なる狼と共に居場所を探す旅にエキサイトし、人間との関係性にじんわりします。

思った以上に犬寄りの話で、主人公は完全にバックなんですね。そんなバックの相棒となる男、ジョン・ソーントン役は『スター・ウォーズ フォースの覚醒』『ブレードランナー2049』ハリソン・フォード。時折おなじみのニヒルな表情を見せながら、老いて深まった円熟味がとても良いです。御年77歳ですが、まだ脱いでもいける!もう一人バックと深く関わる人物ペロー役には『ジュラシック・ワールド』オマール・シー。フランソワーズ役のキャラ・ジーと共に泣かせます。ほか、ソーントンと衝突するハル役に『美女と野獣』ダン・スティーブンス、その姉マーセデス役に『ジュマンジ ネクスト・レベル』カレン・ギラン。

監督は『ヒックとドラゴン』のクリス・サンダース。これが初の実写映画監督作なんですね。厳しくも雄大な自然と、人と犬の助け合う関係、居場所を見つける旅に心洗われます。そして、船、雪の大地、急流下りなど、文字通りの壮大な大冒険には興奮。犬を連れて旅をしたくなります。

↓以下、ネタバレ含む。








犬のバック、セント・バーナードとシェパードの血を継ぐということでかなりデカくて、序盤の屋敷内を走り回るシーンで重低音が響くくらい。食べ物見るとすぐ食べちゃうので厨房の人たちが足音聞こえたら全部隠すとか、結局パーティーのご馳走全部食い荒らすとかやんちゃで、それでいて集合写真にちゃっかり収まろうとしたりして可愛い。フルCGということで、ちょーっと表情豊かに作りすぎな気もしなくもないですが、そこはまあフィクションだし、バックの心情に寄り添う話なのでそこまで気にならないですかね。ともかく最初は完全に飼い犬なので、いきなり捕まってアラスカに送られるのには生きていけるのだろうかと心配になるわけです。郵便配達のペローは犬たちを信頼する優しい男ですが、慣れない犬ぞり稼業は過酷で、今までのように夜に暖かな屋内で寝ることもできない。しかし厳しい自然のなかで暮らしていくうちに、仲間たちとの絆を深めていくのがたまりません。リーダー犬スピッツにエサを取られた仲間へ自分の分を与えたり、スピッツに水を飲ませてもらえない仲間のために氷を割って水場を増やしたり、最初は引きずられるだけだった犬ぞりもしっかり引っ張っていくようになったりと、徐々に優しさと逞しさを見せていくバックが愛しくてしょうがないのです。

もっと人と犬の関係を描くのかと思ったら予想以上に犬寄りの話で、もっと言えばなかなかソーントンとの旅が始まらないのも意外。でも氷が割れて落ちたフランソワーズを救うため躊躇なく飛び込むことでペローはもちろん犬に肩入れすることのなかったフランソワーズの信頼まで掴んだり、まるで『銀牙 流れ星銀』みたいな犬ドラマが展開したりするのには予想外の熱さがあります。特にリーダー犬スピッツとの一騎討ちには、パワハラに対して敢然と立ち向かう正義感があって燃えます。これにより皆からリーダーとして認められ自覚も生まれるという成長を見せるんですね。雪崩が双方から迫るピンチに、咄嗟にツララの下がる洞窟に入って爆走するシーンはスペクタクルも凄く、ペローの指示に逆らってまで皆を救おうとする判断力まで見せます。屋敷内でやんちゃに暴れていたバックとは違う成長の痕跡は、バックの前に時折現れる漆黒の狼としてビジュアル化されます。バックの目覚めつつある野性の象徴として、要所で彼を導いていくわけです。

本作はそれまでの生活を失った者が新たな居場所を見つける話であり、うつろい行く世の中で人生を自らコントロールしていく、という話でもあります。バックにとってはそれが郵便配達だったと思われていましたが、その居場所は再び奪われてしまいます。郵便配達の廃止が電報の登場のためという、時代の流れなのがせつない。その後にバックたちを買い取ったハルは無謀なほど荷を積みムチを振るう輩で、暴力により従わされるという苦難がバックを襲います。それを救ったのがソーントンで、彼はバックがアラスカに連れられてきたとき、郵便を受け取り出発しようとするとき、ハルに引かれていくときと、運命的にバックとの出会いを繰り返します。ソーントンは息子を失い、息子の夢見た地図にない土地を目指そうとして停滞しており、彼もまた居場所をなくし人生を上手く歩めない状態ということでバックと通じています。この二者がようやく一緒になり共に旅に出るのが必然のようでもあってドラマティック。ソーントンが酒を飲もうとするのをバックが止めたり、カヌーで急流を下ったり、ついには金脈に辿り着くのにはワクワクします。もう犬と人の間で普通に会話してるのが相棒感あって微笑ましい。

一方でバックが出会う狼たち。バックにだけ見えていた漆黒の狼が実在する野性として目の前に現れるわけです。群れの一匹が急流に流された際に、大きな体を活かして助け出すバックはここでも信頼を勝ち取り、遅くまで群れと行動するようになって、ソーントンは帰ってこないバックにやきもき。まるで子供が夜遊びするようになったのを心配する親のようで、そういう意味ではソーントンにとってバックは息子のようなものでもあります。その息子が彼女を見つけ新たな世界に巣だとうとするのを見て、ソーントンはようやく自分の居場所が元の世界にまだあることを認め、一人帰ろうとするわけです。しかしその矢先、逆恨みしたハルの再登場により撃たれてしまうソーントン。バックもまたトラウマである棍棒に怯むかと思いきや、もはや自分の運命を自分で決めることを知ったバックはこれに敢然と立ち向かうんですね。野性に目覚めたバックはもう虐げられたりしません。相棒の仇であるハルを燃え盛る家にブチ込んで勝利します。ソーントンを必死で助け起こそうとするバックが健気で泣けます。

ナレーションがハリソン・フォードだと思うんですが、ソーントンがバックの生い立ちから別れた後まで語るのはちょっと不自然だったり、バックの表情だけで十分語れているので入れすぎな気もしますが、冒険物語に相応しい言葉が並ぶのでそれもまた良し。そして居場所を見つけ、もはや人間に縛られることもなく、熊さえも眼力で退けるバックは、ついに自分が自分の主人となるに至ります。何度となく呼び掛けてきた野性の呼び声がバックの本能を目覚めさせたのは確かですが、それだけでなくペローや犬ぞり仲間たち、ソーントンといった共に人生を歩んできた者たちとの経験で得た信頼、培った判断力が、彼を狼の群れのリーダー足らしめてもいます。これは犬に限らず人にとっても理想的な姿。人生を自らのものとする、それこそが本作のテーマであり、逆境を冒険に変えるための一歩が大事なのだろうと思うのです。

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