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2020
03.12

傷付ける物語と、癒す物語。『スケアリーストーリーズ 怖い本』感想。

Scary_Stories_to_Tell_inthe_Dark
Scary Stories to Tell in the Dark / 2019年 アメリカ / 監督:アンドレ・ウーヴレダル

あらすじ
本が私たちを物語る。



1968年、ハロウィンの夜に忍び込んだ町外れの幽霊屋敷の地下で、一冊の本を見つけたステラたち。そこには噂に聞く怖い話が綴られていた。その本を持ち帰ったステラだったが、翌日から仲間が一人ずつ姿を消していく。本を開くと、そこにはひとりでに文字が浮かび新たな物語が書かれていた……。恐怖の本にまつわるホラー。

1981年から発表されたアルビン・シュワルツの児童書『スケアリーストーリーズ 怖い本』シリーズを、『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ製作で映画化。児童書でありながら内容や挿絵が怖すぎる!ということで全米で学校図書館に置くことに反対が起こったらしいですが、この映画版はそれも納得の怖さ。かつて家族により屋敷に幽閉された少女サラが書き、窓越しに子供たちに読み聞かせたという「怖い本」。ステラ、オギー、チャックの仲良し高校生トリオと、ひょんなことから知り合った青年ラモンは、今は廃屋となったその屋敷に忍び込んだ際、本当に噂の本を見つけてしまいます。しかしステラがその本を持ち帰った翌日から一人また一人と友人たちが行方不明に……。目の前で物語が書かれていくという、本が勝手に物語るのを止められないスリルに、どんどん怖さが増していく展開が凄い。本に書かれる複数の物語が現実となっていくので、色んな恐怖が入ってるお得感もあり。青春映画的な要素もあって非常に怖面白いです。

ステラ役のゾーイ・コレッティ、ちょっと内向的っぽいメガネっ娘ですが、やるときはやるみたいな強さもあって好印象。手で涙を拭う姿が印象的です。そんなステラの友人である、冷静ながらどこか抜けてるオギー役のガブリエル・ラッシュ、憎まれ口を言わずにいられない感じが非常にウザいチャック役のオースティン・ザユルの三人が、いじめ野郎のトミーに嫌がらせをするところから物語は始まります。そこで偶然出会った流れ者の青年ラモン役にマイケル・ガーザ、彼が何を抱えているのかというのもポイント。

監督は『ジェーン・ドウの解剖』『トロール・ハンター』のアンドレ・ウーヴレダルということで、単なるびっくり系ではないじわじわ迫る恐怖が秀逸。最初のアレとかはまだ愉快ですが、頬のアレは生理的にエグいし、赤い部屋のアレは造形も襲われ方も最恐すぎてのけぞりますよ。ジャングリーマンもすげーイヤで最高。伏線のちりばめ方をしっかり活かす謎解き要素もあり、さらに「物語」の持つ功罪にまで踏み込んでみせるのが良いです。

↓以下、ネタバレ含む。








幽霊屋敷の地下室で見つけた「怖い本」、この呪われた本というのがなかなか怖いです。家族に幽閉され死んだという本の持ち主サラの噂が、この本を見つけたことで突然現実感を伴う、というのが不気味だし、血で書かれていたと言われるように文字が全て赤い、しかも指でこするとまるでたった今書いたかのようにインクがすれる、というところでヤバさを出してきます。屋敷に返したはずなのにまたステラの元に戻るし、火にくべても燃えない(ステラも半ば予期してましたが)。目の前で文字が綴られていくのがページを破っても止まらない焦り、本を見つけた場にいた者全てが復讐の対象となる無差別さ。「私たちが本を読むのではなく、本が私たちを物語る」という構造には、そこに確固たる意志が存在していて、対処のしようがないところがスリルです。この呪いを解くために、サラがどういう目に逢い何が起こっていたのか、というのを新聞を遡ったり病院に出向いたりして調べ、サラを直接知っている人物にまで辿り着いたりと徐々に判明していく。アンドレ・ウーヴレダル監督作はこういう深掘りをしていくところがミステリーとして面白いです。

そして本に書かれて現実になっていく物語が怖い。最初はクズ野郎のトミーがカカシのハロルド化する話。カカシと言えば仮面ライダーなみに飛んだり跳ねたりする駄作ホラー『カカシ男』を思い出すんですが、本作のカカシは顔面の凶悪さや動きそうで動かないタメ、腹が空洞でダメージを与えられなかったり、トミーがカカシ化していく画もインパクトあります。この辺りはざまあないと思うしまだ楽しいんですよ。しかし被害がステラの友人たちに及んでくるところで急にヤバさ倍増。オギーは食うなっつってんのに足指シチュー食べちゃうという、思わずうげえと言ってしまう気色悪さが凄い。片足の親指だけないという異色さと、それを食わせることで襲う大義名分を作るえげつなさ。チャックの姉ルースは屋敷でクモに噛まれたと言う頬の傷に異変が起こるので、まさかクモの能力を得てスーパーヒーローに!?と思いきや(思わない)、傷はどんどん膨らみそれが蠢くというおぞましさ、からの大量のベビー誕生。彼女だけは失踪しませんが、代わりに精神病院行きです。さすがデル・トロ製作、子供にも容赦がない。最初のうちは物語の内容をある程度読んで現実と本とのリンクを印象付け、徐々に省略していくことで何が起きるかわからないスリルに繋げるのも上手い。

そしてチャックですよ。口は回るがビビりのチャックはなかなかウザさ高めで、病院でもなぜ逃げ場のない上の階に逃げるのかと若干苛立ち。でも話に書かれる赤い部屋なんて病院にはないし、案内板に「RED」という記載があるも資料室の略で、それも地下でありチャックの逃げた方向とは逆なので、大丈夫なのではと思わせるんですよ。まさか警報が鳴ると非常灯で病院全体が赤い部屋になるとは、この案には脱帽。しかも現れるレッドルームの怪物"ペール・レディ"、パーツは人間なのに完全に異形な顔面の造形が超怖い。遠くからゆっくり迫ってくる恐怖、逃げ道を次々に塞がれる絶望。ここまで文句なしに恐ろしいクリーチャーは久し振りです。最後に体に取り込んじゃうというのが"ぬりかべ"的ですが。またラモンの前に現れる"ジャングリーマン"もヤバい。全身バラバラで登場したときの切り口もエグいし、常に笑ってるような顔も圧力あります。わりとコミカルなのかなと思ったら、体の前後が入れ替わったりする動きも超キモい。車に追い付くほど早いスピード、周囲を破壊しまくるパワー、車に挟まれてもバラけて脱出する身軽さなど、これまた恐ろしいインパクト。

序盤にチャックが屋敷で扉の外に突如見える部屋、そこにいる老女と犬が扉に近付いてくる音とかも怖いし、ステラたちが蝋管でサラの声を聞いていたら突然口調が変わってチャックの話を始めるのもゾッとしますよ。あとイヤらしいのは、本が語る物語は語られる人の記憶や過去に影響されるらしいところ。オギーは足指男のことを聞いたことがある話だと言うし、ラモンもジャンガリーマンの名前を知っています。ラモンは兄がベトナムからバラバラで帰って来たというのが、バラバラで登場するジャンガリーマンに通じているのでしょう。ルースはクモが嫌いなようだし、トミーもカカシのハロルドをバットでぶん殴っていたのは怖さの裏返しだったのかも。その人の心の深くにある「何を恐れるか」というところを映し出すのが最も恐怖を与えるわけです。その意味では、ステラが本のなかに取り込まれサラの受けた虐待を追体験するのは、母が家を出ていった心の傷がサラが家族から受けた心の傷とリンクしたからなのでしょう。また物語を書くのが好きで作家志望というところでもサラと通じており、これが終盤の伏線にもなっています。

白皮病で他の人と違うというだけで地下に閉じ込められていたサラは、物語って他者を傷付けることで家族への恨みと自身の傷を癒そうとしたのか。ステラはそれに対して、水銀を垂れ流す家族や虐待されたサラの真実を彼女の代わりに書くことを告げ、自分の血で本に書き付けます。傷付けるためではなく癒すために。これは呪いを解くためのロジックでありながら、傷付けることもあれば癒しにもなるという「物語」の本質に迫るものでもあります。加えて1968年という舞台設定、その背景にあるベトナム戦争の影というのが端々に描かれ、最後は徴兵を逃れていたラモンも出兵することになります。戦争は「怖い話」より遥かに恐ろしく陰惨なもの、人を傷付けるものであり恐怖そのものです。その恐怖を乗り越えるため、ステラは今度は手紙で物語ることでラモンを癒すのでしょう。母が自分のために去ったという心の奥にあった恐怖を乗り越えたステラは、信頼を回復した父と深淵から戻ったルースと共に、失った友人たちを取り戻すことを決意します。恐怖に傷付いていたステラは、癒しをもたらそうという意思にその成長を見せるのです。

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