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2020
03.04

衝動こそ音楽、情動こそ青春!『音楽』感想。

ongaku
2019年 日本 / 監督:岩井澤健治

あらすじ
せーの!



退屈な日々をケンカで紛らわす研二、太田、朝倉のヤンキートリオは、ひょんなことからバンドを組むことに。楽器など触ったこともない彼らだったが初めての音合わせに感動、やがて成り行きでフェスにも出ることになるのだが……。音楽を題材にしたアニメ作品。

大橋裕之のコミック『音楽と漫画』のアニメ化。学校に行っても遊んでばかりで、倦怠感漂う不良高校生三人。そんな彼らがたまたまベースを手に入れた(パクったとも言う)ことから思いつきでバンドをスタート。楽器も触ったことがないどころかバンドの編成もよくわかってないものの、とりあえず三人で音を合わせたら気持ちいい!ということでのめり込んでいきます。なんだこれ面白い!実写の動きをトレースする「ロトスコープ」という手法を使い、手描きで4万枚以上の作画をし、製作に7年をかけたというアニメなんですが、それだけ凄いことをやりながらこんなボンクラ共の話かい!と思うんですよ、最初は。しかしそのシュールな味わいにすぐさま取り込まれ、笑いながら観てるうちに、いつの間にか魂が震え出すという見事な音楽青春映画になっていくのです。こいつはロック!シンプルすぎて検索に引っ掛かりにくいタイトルですが、内容に偽りなし。

不良学生という設定ですが、ケンカは強いらしいものの『ハイロー』の鬼邪高みたいなバトルなどもなく、授業サボって空き教室でゲームやったりなんだりする程度。スキンヘッドの研二(高校生に見えない)、リーゼントの太田(結構いイイ奴)、巨漢の朝倉(結構イイ奴)を中心に、彼らと仲のいい級友の亜矢ちゃんや、ライバル校のモヒカン大場など登場人物も個性的。特にバンド名が似てるというだけで研二たちに押し掛けられるフォークトリオの森田が最高。キャラデザインは独特で、特に目の形が印象的で描いてみたくなります。ミュージシャンの坂本慎太郎を始め、駒井蓮、前野朋哉、芹澤興人、平岩紙、竹中直人、岡村靖幸らが声優として参加。

野外フェスシーンでは実際にステージを組み観客を入れてライブするなどしたらしく、シンプルな絵なのに動きは生々しかったり、時折手書きが際立つリアル造形の絵になったりと特異な映像表現も面白い。バンドの楽器構成からしてふざけてるけど、そんな既成概念は打ち砕かれ、我々がどれほど固定観念に縛られているかを思い知りますよ。原初の衝動に突き動かされる興奮!突如豹変する絵柄!予想もしなかった魂の叫び!長すぎるモヒカン!頑張れ森田!ヤンキーが思い付きで始めたバンドに神が宿る奇跡に震えます。

↓以下、ネタバレ含む。








ある意味泰然とも言える研二の佇まいもあって、序盤はほのぼのと言うかシュールと言うか不思議な雰囲気が漂うなか、オフビートな笑いが続きます。他校にケンカに行くも場所を知らなくて帰ってきちゃったり、場所を聞いても今度はめんどくさいと言って行かなかったり、あとは授業サボってダラダラ過ごす研二、太田、朝倉の三人。要は何の目的も持てないでいる、夢中になる何かがない、という空しい青春を過ごしているわけです。ガランとした空き教室とか、オートレストランのひなびた様子とか、隙間の多さにも「何もない感」が強調されます。テレビで流れる変なアニメ、フレンドリーに圧迫してくるけど警察呼ぶぞというと静かにキレる「あっぱ君」とか何?って思うんですけど、あれも何かに迫られているけどどうしようもできない、みたいな強迫観念の表れなのかもしれません(深読みすぎかも)。

そんななか、偶然ベースを手に入れた研二。元の持ち主の正義感あるバンドマンは気の毒ですが、研二にしてみればバンドやろうというのも暇潰しではあったのでしょう。提案にすんなり従う太田と朝倉も人がいいのか暇なのかバカなのか、とにかく三人は適当に学校の楽器を(勝手に)持ち出しますが、まさかのベース2本にドラム(しかもスネアとフロアタムだけ)というド低音編成。つまり彼らはバンドの形態とか知らないし、そもそも音楽自体あまり興味ないまま生きてきたんじゃないか、ってことですね。ところが皆で初めて音を合わせたとき、それも一音だけドューン!と 鳴らしただけで、その快感を知ってしまう。バンドをやったことがある人はもちろん、やったことのない人も、同時に音を鳴らすという気持ちよさが実感できるシーンです。そのまま適当に音を鳴らし続けるのは「曲」という形には程遠いですが、まさに音を楽しむという点で「音楽」なんですよね。歪な編成ながらリズム隊だけは揃っているので、リズムにノることはできる。それは実にプリミティブな衝動です。

そして"古武術"という名を冠することで立派にバンドになっちゃうわけですよ。名前、即決かい!とは思いますが。凄いのは、いつこれが正されて誰がギターをやるのだろう、と思ったら、やらない、ということですね。最後に研二がリコーダーを持ち出しますが、それでもバンドらしい編成にはならない。そして、これを誰も「間違ってる」と言わないのです。音楽については一切否定がないんですね。まともに思えた亜矢ちゃんも「いいじゃん」とか言ってるし、音楽大好きの"古美術"森田までがまさかの傾倒。完成された"古美術"の曲を聴いても平気で演奏する"古武術"も凄いですが、その音楽を聴いた森田は涅槃と地獄、癒しと激情に流され、なぜか目に岩が刺さるほどの衝撃を受けます(受けすぎ)。森田は喋るときのか細い地声と力強い歌声が全然違ったり、フォークかと思ったらクリムゾンばりのロックなギター演奏を見せたりと面白すぎます。フェス宣伝のときに色鉛筆みたいなタッチに絵柄を変えてまで激情を迸らせるのが凄い。研二の影響を受けているんでしょうが、この演奏がバンドを離れた研二がバンドに戻ってくるきっかけにもなったのでしょう。音楽とはパッションだ、ってことですね。

研二は何を考えているかよくわからないヤツで、独特の間の取り方が面白かったりもするんですが、それでもバンドには夢中になっていたように見られたので、突然の脱退には驚き。飽きたというのが理由ですが、演奏がルーティンになっていたということなのか。でもきっかけは自分らの演奏を録音したのを聴いてからなんですよね。情動に身を任せるのが楽しかった音楽に、客観的に接することがつまらなかったのではないかと思うのです。そんな研二が、狂ったように弾きまくる森田に情動を見たなら、これは負けてはいられない。でも同じことをやっても変わらないと思ったからこそ、ベースを破壊したのでしょう(研二のベースじゃないんだけど)。そして新たな道として見つけ出したのがリコーダー。縦笛かい!しかし音は出る、メロディを奏でられる、しかも速弾きならぬ速吹きをこなす天性の笛吹き!イヤ、なんだこれ!ステージで研二を信じて待つ太田と、緊張すると言いながら初のドラムセットもこなす朝倉(地味に凄い)の前に、ヒーローよろしく登場する研二。そして「せーの」で再び彼らは走り出すのです。古武術イズ・バック!

そこにギターのストラップが外れて激沈していた森田もダブルネックギターで復活!"古美術"が加わったステージはカオスにして興奮のるつぼだ!なんだこれ!弾けそうなほどエキサイティングだし、ものすごいジャンプのシーンには神々しさまで感じます。研二はその無表情の下に満たされない思いを押し込めながら、同じところにとどまることを拒み、常に何かを求めていたのでしょう。「まあ待て」と現状にとどまる大場とは逆ですね。そんな思いがフィニッシュで解放されたからこそ、最後に感極まって泣きながら歌いまくるのです(上手いと思ったら歌は岡村ちゃんだ!)。バンドは解散するものの、今度は亜矢ちゃんをディズニーランドに誘うという新たな進化を見せる研二。何かと研二に激を飛ばしていた亜矢ちゃんもまんざらでもなさそう。これもまた青春だ。それでも太田が言うように、きっと"古武術"は復活するに違いないのです。だって音楽はいつでも新鮮で楽しいものだから。さあ、日常に飽きたなら、バンドやろうぜ!

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