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2020
03.02

体感する戦場に何を見るか。『1917 命をかけた伝令』感想。

1917
1917 / 2019年 イギリス、アメリカ / 監督:サム・メンデス

あらすじ
牛乳は有能。



1917年4月、フランス西部の防衛線を挟んでドイツ軍とにらみ合う連合国軍の若きイギリス兵、スコフィールドとブレイクは将軍に呼び出され、撤退したドイツ軍を追撃しようとしているマッケンジー大佐の部隊への指示を伝える重要任務を与えられる。二人はいまだ危険が潜む防衛線を、徒歩で越えるべく進んでいくが……。第一次世界大戦を舞台に描く戦争ドラマ。

若き兵士がたった二人で戦場を駆けていく姿を全編ワンカット風に描く戦争ドラマです。先行するマッケンジー大佐の部隊へメッセージを届ける任務を命じられたスコフィールド上等兵とブレイク上等兵。ブレイクの兄も含めた1600人の仲間を救うという重要な命令を遂行するため、撤退したとは言えどこにドイツ兵が潜んでいるかわからない戦場を進んでいきます。特筆はやはり全編ワンカットという触れ込みの超絶長回しの映像。実際は疑似ワンカットですが、それでもひとつひとつが超長いワンカットの連なりなのがとにかく凄い。しかもそれが常に激しく動き続けるなかで行われるというのが凄いし、さらにカットを割ってないのにいつの間にか全く違う風景になっているのがもっと凄い。このシームレスな映像が、息詰まる臨場感と心揺さぶる没入感に繋がっていきます。緻密な計算と美術の配置、音響の迫力が見事に融合し、ゴールへ向かうだけのシンプルな話に奥深さをもたらすんですね。

スコフィールド上等兵役は『はじまりへの旅』ジョージ・マッケイ。ブレイク上等兵役はディーン=チャールズ・チャップマン。それぞれの思惑を抱えつつ、友人同士でもある二人が戦場を駆ける様には、カメラが常に彼らに寄り添うのもあって引き込まれます。ほか、思いがけない豪華キャストが二人の道行きにチョイ役で出てくるんですよ。知らずに観たのでアガりまくり。監督は『007 スペクター』『007 スカイフォール』などで知られ『アメリカン・ビューティ』でアカデミー監督賞を受賞したサム・メンデス、撮影監督は『ブレードランナー2049』で撮影賞を受賞したロジャー・ディーキンス。本作もまた第92回アカデミー賞で作品賞、監督賞を含む10部門でノミネートされ撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞してます。

本当どうやって撮ってるんだと驚愕続きのワンカットは、同じく全編ワンカット風の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』とは、戦場が舞台なのもあって大分印象が異なり、ちょっと今までにない感覚。オープンワールドのゲーム世界を歩いている感覚に近いかもしれませんが、時折舞台のような演出があったりしっかり物語としての見せ場もあって、やはり他とは異なりますね。シンプルな指令をこなすなかで恐怖や悲しみ、やるせなさ、戦争の無意味さまで描き出すのが素晴らしく、主人公同様に疲弊し、涙します。

↓以下、ネタバレ含む。








119分の上映時間ほとんどがリアルタイムで、かつ次々と場面が変わっていくので気の休まる暇がありません。正確には闇や水でカットは割ってるし、スコが気を失って暗転し時間が経過するところがあるので全編ワンカットでもないんですが、それでも凄い長回しの連続。まだ続く、まだ続くと思っているといつの間にか展開にのめり込んでいて、あっまだ続いてる!みたいに気付くというのが続きます。スコフィールドがトラックに乗ったときにカメラが車内でぐるりと動くとか、川に飛び込んでから滝を落ちていくまでを映すなど、"ドローンを使ってる"だけでは説明できないシーンも多くて驚き。またワンカット内にも関わらずいつの間にか背景が全く違うものに変わっていたりするので、停滞している感がないです。あまりにスムーズながら風景が一変してるので、時が飛んだのかな?スタンド攻撃かな?と思うほど。という感じで、そもそも全編ワンカットという触れ込みで観たのもあり、どうしてもそこに注視しちゃうんですが、スコフィールドとブレイクが道程で直面するエピソードもいちいち凄いので、決して技術面だけに感心する作品ではないんですよ。この技術面はあくまで没入を促すものであり、これによりまさに「体感」することができるわけです。

その「体感」は初っぱなの塹壕をひたすら歩くところからもう始まります。広々した原っぱを眺めてたはずなのに、いつの間にかテント群を過ぎたと思ったら、狭くて曲がりくねり延々と続く塹壕。長回しも凄いですが、あの塹壕を実際に作ったということなんですよね。しかもあれだけの人々が蠢くなかの撮影。凄い。そしてスコフィールドたちが塹壕から出て柵を抜けたときに広がる、絶望的に身を隠すところのない荒野。スコが有刺鉄線で手を切ったり、滑り降りた先でその傷付いた手を死体の中に突っ込んでしまったりと、早くも肉体的なえげつなさも描かれます。この肉体性という点ではかなりヘヴィで、動きが止まる画があまりないように終始動きっぱなし、撃ったり逃げたり走ったり、傷を負い疲れきり、でも止まらないので観てるこちらも休まらず、それがまた「体感」として共有することに繋がります。しかもシチュエーションがいちいち印象深い。敵塹壕の奥にある広い室内に呆気に取られてたら、まさかのネズミのせいで崩落の危機。遠くに飛んでる戦闘機を外野気分で眺めてたら、突如こちらへ突っ込んでくる大ピンチ。橋を渡ろうとしたらどこからともなく狙撃される恐怖、川から這い上がるときに越える死体の山などなど、挙げればキリがないです。

そしてさすがロジャー・ディーキンス、絵になるシーンも多い。戦車の残骸や巨大な薬莢などの激闘のあと、廃屋の入口で切り取る風景、真っ暗な闇のなか照明弾による光の移動、燃え盛る教会。そんな劇的なショットが動き続けるなかで現れては消えていく。刹那的なんですよね。それは人の命の儚さに通じるようでもあり、一期一会により命を救われる運のようでもあります。豪華キャストがごく短い出番で存在感を示すのもそんな刹那的な作りに似つかわしい。いきなりエリンモア将軍役で『キングスマン ゴールデン・サークル』コリン・ファースが登場したかと思えば、スミス大尉役で『シャザム!』マーク・ストロングが渋さを見せ、レスリー中尉役の『SHERLOCK』アンドリュー・スコットが武骨さを見せます。マッケンジー大佐役の『ドクター・ストレンジ』ベネディクト・カンバーバッチは思わず戦争のむなしさをこぼし、ブレイク中尉役の『ロケットマン』リチャード・マッデンは弟の死を嘆きながらスコフィールドを気遣う。戦場にいる以上もはや二度と会うことはないかもしれない人々との束の間の会話は、多くの動き回る人の波に埋もれていくだけにそれぞれが鮮烈に残ります。

そんななかでも特に心に刻まれる盟友ブレイクの死。墜落した敵飛行士を助けるという、無条件に救おうとする人間の善の行動が、パニックになった敵兵士による殺戮という人間の弱さで破られる。これもまた戦争の悲劇でしょう。もう少しスミス大尉たちが早く来ていれば、と思うと実にやるせないです。またスコフィールドが迷い混んだ地下室で隠れていた女性に出会うシーン、ここだけが唯一心安らぐ場面で、いっそ女性と共にここにいてもいいのでは、と観てる方としては揺らぐところ。赤ん坊がいるというのがまた何を守るべきかという決断を突き付けてくるし、「(赤ん坊の)名前は?」「知らない」「母親は?」「知らない」には愕然とします。水筒に詰めていた牛の乳が思わぬところで役立つのにはニヤリとしますが、女性に一緒に居て欲しいと言われながらそれでもスコフィールドは外へと出ていきます。それは1600人の命を救うためであり、友の遺志を継ぐためであり、彼女と赤子のような者をこれ以上生み出さないためでもあるでしょう。最後に突っ込んでいく兵士たちを横切り、ときにブチ当たりながらも走る姿には熱くなります。

森の奥から聴こえる歌声に辿り着き、スコフィールドはとうとうへばりこみます。気力が尽きかけたのもあるでしょうが、故郷を歌うせつない歌声が彼を過去へと誘ったのかもしれません。スコフィールドはブレイクとの会話で、故郷には「戻りたくない」と言います。でもラストで彼が取り出した写真には彼の妻子らしき姿が写り、裏には「帰って来て」というメッセージまであります。なぜ家族のもとに戻りたくないのか。スコフィールドは戦場にて激しい戦闘にも参加したような話もあり、戦争の悲惨さを知っています。この最前線に着くまでにも様々な悲劇に出会います。マッケンジー大佐が、その場をしのいでもまた命令で戦うことになる、みたいなことを言ったと思うんですが、まさにそれの繰り返しだったのかもしれません。伝令のミッションに逸るブレイクに無謀さを説くように、彼は戦争の危うさとむなしさを知り、身に纏っていたように思えます。そんな状態のまま家族の元へ帰ることを良しとしなかったのかもしれません。

しかしブレイクの遺品を兄のブレイク中尉に渡したとき、彼は弟の死をぐっとこらえ、スコフィールドに向こうで食事を摂るといい、と言います。家族を救うため駆けた友と、家族の礼を言って気遣う兄の姿は、スコフィールドに自分の家族のことを思い出させたことでしょう。それは遠く離れても忘れない自分の家族への思いと同時に、家族の自分への思いもあるということ。あの女性と赤ん坊に出会った際に感じた「何を守るべきか」という問いに、彼は1600人の同胞を守ることを選びましたが、それは彼らの家族をも救うことに繋がります。一兵士の伝令がもたらしたものは、単に1600人の兵士の命を救っただけではなく、1917年に生きたその家族たちをも救ったのでしょう。

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