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2020
02.23

不可解な死の謎が炙り出すもの。『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』感想。

Knives_Out
Knives Out / 2019年 アメリカ / 監督:ライアン・ジョンソン

あらすじ
ゲロは嘘つかない。



85歳の誕生日を迎えた世界的ミステリー作家ハーラン・スロンビーが、パーティー翌朝に彼の豪邸で遺体で発見される。匿名で捜査の依頼を受けた名探偵ブノワ・ブランは、ハーランが莫大な資産を抱えていることもあり、他殺の線も考慮して調査を行う。容疑者はハーランに近しい者ばかり。果たしてブノワは謎を解けるのか……というミステリー映画。

レトロな洋館で起こる老作家の死の謎を描く本格ミステリー。世界的ミステリー作家で資産家のハーラン・スロンビーが首をナイフで切った遺体で発見され、他殺の線を疑う警察は前夜のハーランの誕生日パーティーに参加していた者を事情聴取します。容疑者は屋敷にいたハーランの子どもたちとその家族、家政婦、専属看護師。その事情聴取に同席するのが名探偵ブノワ・ブラン。彼が調査を進めるうち、やがてスロンビー家の複雑な人間関係が炙り出されていきます。舞台はクラシカルな屋敷の密室、容疑者は一族の者たちと、趣は王道本格ミステリーですが、そもそも何が謎なのか、という点で結構捻っているのがなかなかに異質。さらに移民問題にも言及するという幅広さを見せながら、より普遍的な信頼と正義の物語となっていきます。まさに「ドーナツの穴」を埋めようとする展開が実に面白い。

曲者揃いのキャストも超豪華。探偵ブノワ・ブラン役は『ローガン・ラッキー』『007 スペクター』などジェームズ・ボンド役でもおなじみダニエル・クレイグで、出過ぎないけど渋い存在感があるというのが良いバランス。犠牲者ハーラン・スロンビー役の『手紙は憶えている』クリストファー・プラマーも渋い。ハーランの家族としては、長女のリンダ役に『ハロウィン』ジェイミー・リー・カーティス、その夫リチャード役に『ジャンゴ 繋がれざる者』ドン・ジョンソン。ハーランの次男に『シェイプ・オブ・ウォーター』マイケル・シャノン、ハーランの亡き長男の嫁ジョニ役に『ヘレディタリー 継承』トニ・コレット、さらにハーランの孫の一人ランサム役に『キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ』シリーズのクリス・エヴァンスとそうそうたる顔ぶれ。

監督は『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』『LOOPER』のライアン・ジョンソン、アガサ・クリスティに捧げて書いたというオリジナル脚本は予想を裏切る展開の連続で、人物の動かし方も上手い。そして何と言っても看護師マルタ役の『ブレードランナー2049』アナ・デ・アルマス、彼女が中心だからこそ展開する一族の愛憎劇が定番ながら盛り上がるし、「嘘をつくと吐く」という実にミステリー的制約にして映画的工夫の設定が最高。ミステリーとしての面白さと、込められた独自の視点、役者たちの演技アンサンブルに酔います。

↓以下、ネタバレ含む(一応真犯人やトリックは伏せる)。








豪華な屋敷には様々な物が置かれ、歴史を感じさせる調度類や、大量のナイフが飾られた装飾など、いかにも殺人事件が似つかわしい舞台からして雰囲気あります。そしてどこか事情がありそうな登場人物たち。長女のリンダは自ら会社を立ち上げる豪腕ながら父から資金を借りていたようだし、夫のリチャードはハーランに不倫がバレたことが後に明かされます。次男のウォルトは父の書籍を扱う出版社の責任者から追われそうになっており、長男の嫁で未亡人のジョニは娘の学費を二重で受け取っていたことを責められます。リンダの息子ランサムは祖父に金をせびる放蕩息子、ジョニの娘メグは大学に行けなくなるのではと不安げ。要するにみんなハーランを殺す動機があったことを徐々に匂わせていくんですね。クリエヴァにシャノンにドン・ジョンソンと男臭い男優陣に対し、ジェイミー・リー・カーティスやトニ・コレットといったホラーもこなす女優陣も強烈なので、性差による優劣というのを感じさせないキャスティングなのは上手いところ。

そんななかでウルグアイ系移民の娘である看護師のマルタだけは真面目でハーランの信頼も厚く、スロンビー家からもハーラン亡き後も支援すると言われるほど。このマルタの「嘘をつくと吐く」という特性が最高です。吐けば嘘、と真実かどうかの判断材料になるわけで、ミステリー的なルールとなるんですね。加えて嘘をついてもギリギリまで我慢するとか、そもそもアナ・デ・アルマスのような美女がほいほい吐くというのが映像的にもインパクトがあって、上手い設定。最初のうちは、実は自在に吐ける体質で、推理をそらそうとしてるのでは?という可能性も考えますが、ブノワがいないところでも吐くのでそれはなし。でもランサムと個別に会話したりもするので、良い子に思えるけど実は裏があるのでは?という線も若干残しながら進んだりして目が離せません。で、そんな人物たちを相手に真実を探る名探偵ブノワ・ブラン。事情聴取の間に後ろになんかいるな、と思ったら彼がブノワです。会話中にピアノを鳴らすのはその話はもういいよってことなのか、とにかく的確に情報を集めていく名探偵。それこそクリスティの生み出した名探偵ポワロを思わせる雰囲気がありつつ、そこまで嫌みっぽさもない「紳士探偵」っぷり。ブノワの魅力はダニエル・クレイグの存在感によるところも大きいですね。

面白いのは、ハーランが自殺であるということがわりと早い段階で観客には明かされる、というところ。マルタが誤ってモルヒネを大量投与してしまったことが自殺の要因ではありますが、これはマルタが自ら明かすので本当に事故であるように見える。そうなると謎自体がなくなってしまうわけです。それでも物語は終わらない、どころか、全ての相続権がマルタにあることが明らかになると、ますますドライブが掛かっていくという珍しい展開に(ちなみに遺書を読む弁護士役はヨーダの声ことフランク・オズです)。物語はマルタに相続権を放棄させようとする家族の嫌らしさ、という新たな局面に移行し、ドロドロの相続争いが続くのかと思わせますが、しかしブノワが「ドーナツの穴を埋めたと思ったらまだ穴がある」と他殺の線を捨てないことで、ミステリー的な要素も残しながら進んでいきます。やがてマルタとランサムとブノワが交錯しながら、足跡の謎、被害者の母の「"また"戻ってきたのかい」という言葉、囚われた家政婦など、映像でも魅せる展開になっていくので飽きさせません。

そうしてマルタがモルヒネを投与してしまった理由が明らかになり、全てはハーランの遺産を手にするために殺人者を仕立てる計画であったことが判明。豹変する探偵に面食らい、死ななくてよかった作家に驚愕し、「嘘で吐く」ことを逆手に取っての証明に興奮、と畳み掛けられるのがスリリング。真犯人が手に取ったのが仕掛けナイフだったのは偶然なのか、飾られていたナイフが全て仕掛け付きなのかはわかりませんが、マルタを救うために自ら命を絶ったハーランの意志が感じられるようなシーンです。思えばマルタだけが見返りを求めずハーランに接してきた、それがラストに至るまでしっかり重ねられてくるので結末には納得。ブノワの言うマルタの「優しさ」が彼女自身を救うわけです。ハーランの行動と言い最後の仕掛けと言い、ナイフという凶器は本作ではその「優しさ」を象徴するものになっている、というのも面白い。

一方でスロンビー家は、最初こそマルタに目をかけるようなことを言いますが、マルタが相続権を得た途端に手のひらを返し、マルタの母が不法移民であることで脅しまでかけてきて、差別意識が露になります。ハーランの資産に頼ってここまで来たスロンビー家と、何もないところから信頼を勝ち得たマルタ。それはまるで自分たちが移民であることを忘れたアメリカと、労働力として搾取されながら都合が悪くなると排斥される移民の人々の縮図のよう。そしてそれをイギリスの俳優であるダニエル・クレイグが探偵として炙り出す。そんな見立てが可能なような作りになってるんですね。それまで優位な立場にあったスロンビー家が最後に屋敷の上にいるマルタを見上げ、マルタがそれを見下ろすという立場の逆転は、まさに「驕れる者久しからず」。オリジナル脚本の本格推理ものでそこまで深みを込めて作り、でもそういう点を意識しなくても娯楽作として十分面白い。ライアン・ジョンソン、大したものです。本作はシリーズとして続編の製作も決定しているとのことなので、またブノワに会えるのかな?楽しみです。

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