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2020
02.17

言われなき罪、奪われた正義。『リチャード・ジュエル』感想。

Richard_Jewell
Richard Jewell / 2019年 アメリカ / 監督:クリント・イーストウッド

あらすじ
裏取りは大事。



1996年、オリンピック開催中のアトランタの公園で、警備員のリチャード・ジュエルが仕掛けられた爆弾を発見、被害は想定より抑えられた。英雄扱いを受けるリチャードだったが、FBIがリチャードを第一容疑者として捜査していることが新聞にスクープされたことにより彼の人生は急転する……。実話を元にしたサスペンス・ドラマ。

1996年に起こったアトランタ爆破テロ事件を元に、実際に犯人扱いされた人物リチャード・ジュエルの物語を描いたサスペンスです。法執行官を目指しながらも、穏やかな人当たりに太ましい見た目もあってナメられがちなリチャード・ジュエルは、オリンピックに沸くアトランタでパイプ爆弾の入ったバッグを事前に発見したことで一躍有名に。しかし事件の容疑者として実名報道されてしまい、メディアは手のひらを返したように堕ちた英雄扱い。リチャードと旧知のハドソン弁護士と母親のボビが無実を訴えるもFBIの追求はますます激しくなり……というお話。正義感が強く、真面目で、勉強熱心。そんな青年が晒される悪意なき制裁がツラく、英雄というだけで陥れられる先入観の醜さに憤ります。それだけに彼を信じる弁護士に熱くなり、そんな目に遭っても法を信じようとするリチャードの思いの強さに泣けます。

主人公リチャード・ジュエル役は『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』『ブラック・クランズマン』でやけに印象に残る存在感を見せたポール・ウォルター・ハウザー。今作では堂々たる主演っぷり(でもどこかキュート)で魅せてくれます。ワトソン・ブライアント弁護士役に『ジョジョ・ラビット』『スリー・ビルボード』サム・ロックウェルで、これがまた素晴らしくイイ。リチャードの母ボビ役の『ミザリー』キャシー・ベイツもさすがの演技で泣かせます。FBI捜査官トム・ショウ役の『ベイビー・ドライバー』ジョン・ハムはゲスっぷりが半端ないし、地元新聞の記者キャシー・スクラッグス役の『サード・パーソン』オリヴィア・ワイルドが見せる強気と野心も上手い。

監督は『運び屋』『15時17分、パリ行き』とすっかり「実話ものの巨匠」の感があるクリント・イーストウッド。色々と脚色はあるでしょうが、近年のイーストウッド実話ものでは一番良かった。功を焦るFBI、特ダネを求める新聞記者、センセーショナルな話題に飛び付くメディア、いけにえを求める民衆。利己的な思惑が、一人の人物とその家族を地獄に落とすのが怖ろしい。正義とは何かを問う話でもあります。

↓以下、ネタバレ含む。








パイプ爆弾で二人死亡、100人以上が負傷したという痛ましいテロ事件。今年はまさに東京でオリンピックが開催される年なので他人事ではないんですが、このアトランタでの悲劇はそのまま爆発したらもっと犠牲が増えていただろうことから、リチャード・ジュエルが英雄視されるのは間違いではないわけです。しかしこのリチャードさん、少々誤解を与えやすいキャラと言うか、正義感が強すぎて大学の警備なのに高速の車を止めるとか行きすぎてるところもあり、ちょっと危なっかしい。序盤にワトソンの机のスニッカーズを補充したりするのも勝手に引き出し開けてチェックしたってことで、そういうものなのか?やり過ぎでは?と思っちゃう。容疑を掛けられてからも、ワトソンが黙ってろと言うのに捜査に関する本をFBIに勧めたりなど余計なことを言っちゃうし、むっちゃ銃を持ってるしで、かなりヒヤヒヤさせます。観てる方としては本人に善意しかないのはわかるし、怪しさよりは愛嬌の方が強いのでちょっと複雑な心持ち。ポール・ウォルター・ハウザーの見た目や木訥さがこの人物像を好ましく見せているというのはあるでしょう。

そんなリチャードが唯一頼れるのがワトソン弁護士で、弁護士事務所時代に備品係をやってるリチャードを某ドラマのキャラである"レーダー"と呼んだり、一緒にシューティングゲームに興じたり、口は悪そうながら何かと付き合ってくれます。紙幣を渡して信念に従うよう諭す別れ方もイイ。サム・ロックウェルの強気だけど冷静さもある演技が魅力的で、本当にリチャードがやってないかを問い詰めたり、ナメられてると言ってリチャードをついにキレさせたりと、ときにぶつかりながらも信頼を深めていきます。リチャードがナメられてるという点に関しては観てる方もどこかで感じていたことなので、リチャードがワトソンに「あなただけが僕をバカにしなかった」という言葉にはハッとします。リチャードが「僕も法執行官だ」と繰り返すのは法執行官が彼の目標であるというだけでなく、法の正義を信じている、信じたいからなんですね。メディアが手のひらを返しても、元職場の学長が印象だけで不利な点をリークしても、真実は揺るがないはずだと信じたいわけです。

しかし権力や世論はリチャードの本質など知ろうともせず、彼を追い詰めていきます。リチャード本人はもちろん、母親のボビが本当に気の毒で、リチャードを英雄と報ずるテレビに心から息子を誇りに思っているのがわかる表情、その後全てを奪われながらも記者会見で息子の無実を訴える姿などが響くのはさすがキャシー・ベイツ。一方でFBI捜査官ショウたちがリチャードを貶めようとするのは実に不愉快に描かれており、犯人像が「警官に憧れる"孤独"な白人」と言いながら「共犯がいる」と矛盾したことまで言い出す始末で、イーストウッドが権力側の行き過ぎ感を炙り出そうとしているのは伝わります。ただどこまで真実なのかは微妙なところで、特にオリヴィア・ワイルドの演じるキャシーが体を使ってスクープを得たというのは事実ではないというクレームも上がってるようです。彼女が現場から電話までの時間を計ってリチャードが犯人じゃないと思い直したり、ワトソンらの記者会見で涙を流したりと後悔するのは、むしろ彼女の汚名を返上させようとしてるようにも見えるので、そこがちょっとちぐはぐではあります(実際の彼女がその後どうなったか知ると、非常にやるせないです)。

当時の文化みたいなのはなかなかに懐かしいです。ケニー・ロギンスがオンステージとか(「デンジャー・ゾーン」歌ったらどうしようかと思った)、「マカレナ」とか。あとアトランタ・オリンピックということで、マイケル・ジョンソンが走る姿とワトソンが公衆電話までの時間を測る姿を重ねる、なんてのもありますね。そうしてリチャードの無実を勝ち取ろうとするワトソンですが、ただこれ裁判になってるわけではないし、起訴さえもされてないですよね。容疑者であるというだけでいわゆるメディア・リンチを食らわせるという報道の「正義」を訴え、そして事件のセンセーショナルさに焦った結果の法執行官の「正義」も問うわけです。夢の中で爆弾に覆い被さってまで人々を救おうとするリチャードとの対比は随所に見られ、最後のFBIとの対峙では、法執行官への信頼さえ揺らぎを見せながら、それでも自身の信じる「正義」を説くリチャード。また余計なことを……とハラハラしてたら、思いがけず堂々たる主張には心が震えます。

ワトソンと二人で、容疑者から外された旨の書面に涙しながらハンバーガーを頬張るリチャード。食うんかい!とは思いますが、ずっと耐えに耐えて平常心でいようとした彼の苦しい心情が、泣きながら食べるという様にはよく表れています。驚いたのはその後リチャードが警官となること。ああいう体型の警官も映画ではよく見るので意外と違和感はないですが、リチャードが法の絶対性に疑問を持ちながらそれでも自身の思う「正義」を遂行するために、どれほどの努力をしてどれほどの自問自答をしたのか、と想像すると熱いものがあります。そして事件から4年も経ってからついに真犯人が逮捕され、ようやく彼の奪われた名誉は完全に回復されるのです。リチャードは44歳の若さで亡くなったとのことですが、彼と弁護士が冤罪と戦った姿は本作と共に記憶に残っていくことでしょう。

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