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2020
02.11

度し難い呪いと悲しき祝福。『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』感想。

made_in_abyss
2020年 日本 / 監督:小島正幸

あらすじ
愛です。



深く巨大な大穴「アビス」の縁にある街オース、そこで暮らす少女リコは、ロボット少年レグと共にアビスの探索を始める。深界四層で出会ったナナチも加えて五層に向かう三人は、そこを管理する白笛のボンドルドと娘のプルシュカに出会うが……。テレビアニメ『メイドインアビス』の劇場版長編。

つくしあきひとの同名コミックを原作としたテレビアニメ『メイドインアビス』から続く物語が劇場版として登場。世界に唯一残された秘境である地中深くへと開く大穴「アビス」、そこには未知の生物や貴重な遺物が存在し、それを探索する"探窟家"たちが後を絶たない。母親が最高峰の探窟家"白笛"だったリコはアビスへの憧れを止められず、アビスで発見された謎のロボット少年レグと共に探窟に挑みついに深界四層を突破、四層で出会った“成れ果て”のナナチも仲間に加わり、さらに地下への冒険を続けます。テレビ版が好きで全話観てたので期待はしてましたが、可愛らしいキャラとは裏腹にかなりハードな展開を見せたテレビ版を軽く越える、予想以上のえげつなさと激しさ。深層に蠢く悪夢的な現実には震えます。シビアな困難や危機の連続への工夫とチームワークに燃えつつ、踏みにじられる生命への尊厳に怒り、行きすぎた学術的興味が招く狂気に息を飲みます。

リコ役の富田美憂、レグ役の伊瀬茉莉也、ナナチ役の井澤詩織らは続投、本作で登場の"黎明卿"ことボンドルド役に森川智之、その娘プルシュカ役に水瀬いのりという布陣。知識のリコと戦闘のレグという微笑ましくも少し逞しくなったコンビに、アビスに詳しい上にモフモフが愛らしくちょっと斜に構えたナナチが加わり、パーティとしてランクアップしたにも関わらず、紳士な態度を崩さないがゆえに恐ろしいボンドルドの壁が凶悪。陽気なプルシュカが抱える運命もハードです。本作はテレビ版から直結する話なので、初見の人はキャラ設定くらいは調べておいた方がいいでしょうね。ちなみに本編前にオーゼンとマルルクの師弟コントの短編が付いてきます。

独自の世界観はやはり秀逸。キャラが可愛らしいから油断するけど、ビジュアルは結構エグいし襲い掛かる試練は容赦なく、R15+も納得です。リコの素直さと危うさ、レグの頑張りと秘密、ナナチの知恵と後悔。三人の必死さが愛しくてのめり込んでしまい、それだけに最悪を予感してしまって気が気じゃないです。謎だらけのアビスが見せるおぞましい姿とその先に唸ります。

↓以下、ネタバレ含む。








消息を絶った白笛の母を探すためアビスに潜ったリコと、失った記憶を取り戻すために同行するレグ。親友を化け物にされたナナチと共に深界五層へ向かいますが、ここまでも十分重い話が続いたのに輪をかけて重くなっていくのがスゴい。劇場版になってエグさ倍増、と言うよりテレビじゃできない展開だった、というのもあるでしょう。のっけから虫が人の体を苗床にするというショッキングなシーン、意識はないのに「だれ」とか言うのが怖いし、苗床を生かすために自分から食料になるというのもおぞましい。しかしここではむしろ人間の方が異物なのでまだ自然の営みの範疇ですが、それを越えるさらなるおぞましさが観る者を襲います。その中核が黎明卿ボンドルドで、表情はフルフェイスの仮面のために全くわからず、ナナチにやったことを悪びれもせず、常に温和な紳士っぽさで最後まで声を荒げないのが逆に不気味。大して驚いてる風でもない「おや」という言い方が人間味がなくて寒々しいです。しかしその娘だというプルシュカが、同い年くらいのリコにナメられまいとしながら実は友達になりたいというのが微笑ましく、そんな彼女がボンドルドを父と慕うのが最初は解せないんですね。

リコは無邪気さとも取れる前向きさで、プルシュカに「深淵の暗さでもあんたは明るいから大丈夫」と言われるほど。レグのちんちんを図解するのには困っちゃいますが、おどろおどろしい生物を調理して食料にしたり(あれちょっと食べてみたい)、遺物目録を暗記したという知識により敵の宝を言い当てたりと有能な面もしっかりあって頼もしい。しかし油断したがためにレグを捕らえられてしまいます。レグはロボットですが、自分がロボットであることさえ忘れていた謎の存在。メットのマークが活動限界を示すというのが今後の悲劇を予感させますが、とりあえず今作ではそこは先送り。レグは伸びる両手が最高なんですが、今作では伸ばした腕を体の回りで回転させて全方位な盾にするというのがイカす!また、充電したことで別の自分が出てくるというバーサーカーモード、意識が飛ぶので諸刃の剣ながら新たに強大な力を見せて、ますます何者なのかが興味深い。ナナチのもふもふでおっきする機能まで備えてますからね。

そんなレグが捕らえられて実験材料にされるのはトラウマ級に残酷。科学的興味で腹をまさぐったり排尿までチェックしたり、挙げ句右腕を切断しながら冷静に痛みを感じることを観察したりする非人道的な行いには身の毛がよだちます。ボンドルド自身はアビス究明の実験をやってるだけで、そのためには手段を選ばない、という倫理観の欠如が恐ろしいんですね。そのボンドルドに"成れ果て"という異形の姿にされながら、ボンドルドを恐れるあまり解体の手伝いをしたと過去の罪を告白するナナチが痛ましい。それだけにリコたちの逆襲には拳を握ります。ボンドルドに対して罠を張り、凶悪生物の巣に誘い込み、それも効かないところを上昇負荷によって体内から爆裂させ、岩を落としてブチ殺すのは快哉。迫力と緊張に満ちたアクションシーンが実に良いです。しかしボンドルドが意識を別の個体に移すことで再生するのに度肝を抜かれ、しかもやり返してくるわけでもないというのには凄まじい恐怖さえ抱かせます。かつて自分自身を供物にしたという経緯自体が、もはや狂気の具現化なのです(一人だけノリが軽い分身がいたのがよくわかりませんが……)。

人類のためと言いながら徹底して利己的、人間を解体し装備化するというえげつなさ、それを「愛です」と言うことに微塵も疑問を持たない傲慢さ。オーゼンがボンドルドを「筋金入りのろくでなし」と言った意味がわかります。父と慕うプルシュカの心を踏みにじり体を削ぎ落としカートリッジにするのは正視に耐えないショック。そこまで追い込まれてからの最終対決なので、レグが引き付けて足で撃って避けたところをリコがレグの右手で"火葬砲"、という流れは、無敵の黎明卿への決着としてもチーム連携での勝利の見せ方としても秀逸。片腕だけでも動かせるのね……いやいつ見つけたの?とは思うんですがまあいいです。こんな目に逢わされても「パパの痛みが感じられる」と言うプルシュカがツラいですが、リコたちとの冒険を望む彼女の思いがリコ専用の白笛になることで、彼女もまた同行者の一人となるわけですね。これには唸らされました。レグが右腕を失ったのがツラいですが、深界六層に進む彼らの冒険がどうなるのか、ぜひぜひ続きも映像化してほしいところです。

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