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2020
02.07

彼女に自由を、偽りの友人にサヨナラを。『ジョジョ・ラビット』感想。

jojo_rabbit
Jojo Rabbit / 2019年 アメリカ / 監督: タイカ・ワイティティ

あらすじ
手榴弾の扱いには注意。



第2次世界大戦下のドイツ、母と二人暮らしの10歳の少年ジョジョは、兵士になるために奮闘するも訓練でウサギを殺すことができず教官から「ジョジョ・ラビット」と呼ばれてしまう。そんなある日、ジョジョは家のなかで不審な物音を聞くのだが……。ユーモアを交えた戦争ヒューマン・ドラマ。

第2次世界大戦時のドイツで生きる人々を一人の少年の姿を通して描く、一風変わった戦時下ドラマ。ナチスの将校を夢見る10歳の少年ジョジョは、青少年が集まる「ヒトラーユーゲント」で訓練に勤しむものの、からかわれてウサギ呼ばわりされる羽目に。アドルフという名のイマジナリーフレンドに叱咤激励を受けながらも事務方の仕事に回されたジョジョは、ある日一人で家にいるときに聞こえてきた物音に気付きます。この部屋の壁の向こうから聞こえてくる音の正体が、やがてジョジョに思いがけない価値観を与えてゆくことに。戦争を背景としながらもユーモアに溢れ、まだ幼い少年が先入観を越えて他者を受け入れるまでが微笑ましくも健気。まず名前がいいですね!(ジョジョ違い)小気味良い演出で与える爽やかさと寂しさと愛しさが胸に響くし、突き付けられる現実に抗い粋でいようとする大人たちの何というカッコよさ。笑いとスリルの極上のバランスが素晴らしいです。

主人公のジョジョ役は、これが映画初出演となるローマン・グリフィン・デイヴィス。口をひん曲げた顔がカワイくて実に愛らしいですが、シリアスな場面もちゃんとこなしていて主役としての存在感は十分以上。ジョジョの母親ロージー役は『アベンジャーズ エンドゲーム』スカーレット・ヨハンソン、真顔でお茶目なことをするのが愉快な、肝っ玉母ちゃんっぷりがとてもイイ。ジョジョの上官"キャプテンK"ことクレツェンドルフ大尉役は『スリー・ビルボード』サム・ロックウェル、アウトロー軍人な感じが最高です。そして謎の少女エルサ役のトーマシン・マッケンジーが、クールそうでもまだティーンという感じが良いんですよ。『ホビット 決戦のゆくえ』にもチョイ役で出てたようですがどこだろう。ほか、ミス・ラーム役に『ピッチ・パーフェクト ラストステージ』レベル・ウィルソンなどが出演。

監督は『マイティ・ソー バトルロイヤル』『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』のタイカ・ワイティティ。監督しながら役者としても出る人なので、今回もジョジョの空想の友達アドルフ役で登場。ジョジョと母の関係やジョジョとエルサとのやり取りなどは絶妙だし、意外と細かく積み上げているので後からの気付きもあったりと、演出が実に巧み。喜劇と悲劇の融合が秀逸で、重い話を軽やかに描きつつしっかり心に響く作りには感嘆します。タイカ・ワイティティ版『ライフ・イズ・ビューティフル』といった趣。すんごい良かったです。

↓以下、ネタバレ含む。








最初は戦争ドラマとしてはやけにライトな始まりで、キャンプに参加してバカにされたりしながらも、ジョジョ自身は真面目にナチス将校を目指しており、でもその姿が子供らしい憧れでしかないのが微笑ましい。それでいていきなり手榴弾でフッ飛ぶという笑っていいんだか心配したらいいんだか迷うシーンもあったりして、どう転ぶかわからない展開が実に面白いです。ジョジョのイマジナリーフレンドとして登場するアドルフも、誰かと思ったらまんまアドルフ・ヒトラーというのが愉快ですが、ナチスかぶれのジョジョにとっては最初は良き友人であり、自身を奮い立たせる存在でもあります。ナチスの象徴たるアドルフの言葉に励まされながらも、一方でエルサとの出会いによって徐々に盲信の愚かさの象徴へと変わっていく、というのが上手い。10歳の小柄な少年が自身の価値観と現実とのギャップに気付いていくという話でもあるわけです。

母のロージーはいきなりキャプテンKの股間を蹴り上げるような肝っ玉の持ち主で、ウインクして口を鳴らす仕草とか、ロボットダンスみたいな動きとか茶目っ気がキュート。顔に墨を塗って父のふりをしての茶番などもコミカルですが、途中夫のことを思い出したかのように黙ってしまうシーンがあったりもして、スカヨハの演技が光ります。実はナチス支配に反抗するレジスタンスであり、戦地で行方知れずの父も同様なわけですが、ジョジョを自分の信念とは異なるナチス好きにさせておくのは息子のことを守るためなんですね。随所に息子への愛情が感じられてじんわりするんですが、それだけに突然の死はショッキング。吊るされた人々を二人で見るシーンとか、ジョジョの靴のヒモを結んだりやけにロージーの足元を映したりするのが伏線になっており、ジョジョが子供らしく蝶を追って行ったら見覚えのある靴の足がぶら下がっている、というのには胸が締め付けられます。

そんなロージーがかくまっていたユダヤ人少女のエルサ。劇中の台詞から逆算するとまだ17歳のエルサが、亡くなった娘(ジョジョの姉)の代わりにエルサを見守ると言っていたロージーが退場し、ジョジョと二人きりになることには不安が募ります。でもユダヤ人は異界の生物、みたいに思っているジョジョがビビりまくったり、エルサがそれに合わせて脅したりするコミュニケーションが何とも可笑しい。ジョジョがユダヤ人の生態をノートに描いていくのも笑います。あの絵が味があって実に良いですよ。エルサのフィアンセだというネイサンを色んな方法で死なせる辺りは、ちょっと嫉妬が混じってる感じで可愛らしい。ネイサンのふりで書いた手紙で別れを告げたらエルサに泣かれて、やはり別れないと書き直したりするのも可愛いですが、後から思えば結核で死んだ彼氏を思い出して泣いていたんですよね。そんなエルサのためにリルケの詩集を読んで覚えようとするジョジョがいじらしく、母亡きあとエルサの肩にもたれかかるのなんて泣けます。

ほんわかしてると思ったら突然シリアスな展開、というのが何度もあって、そこで戦時下の緊張感を思い出したりするので気が抜けません。特に中盤のゲシュタポ訪問のスリルは格別。姉のふりをして大胆にも姿を現すエルサの行動が英断なのか無謀なのかも読めず、それでもいちいち全員に「ハイル・ヒトラー」言うのには笑えますが、このシーンが結構長いのでヒヤヒヤ。でも結果的にジョジョの書いた本がトンチキなおかげで助かる、と伏線が活かされるのがイイ。本作はユダヤ人だからと無条件に見下していたジョジョが、実際に交流したら人種など関係ない、むしろ好きになっちゃう、と価値観を変えていくのが素晴らしくて、特に逆上してエルサをナイフで刺したときに自分と同じように赤い血が流れるのを知って、ユダヤ人であろうが同じ人間なのだと知るくだりには、幼いながらも後悔と自責が滲んでせつないです。

脇の人々も良くて、特にキャプテンKことクレツェンドルフ大尉が実はエルサのことを見逃してくれていた、というのが後からわかるのにはシビれます。演じるサム・ロックウェルはぐだぐだとボヤきながらも軽快さがあって非常に魅力的。初っぱなから戦争に負けそうだとぶっちゃけるし、特許を取るという派手な軍服には笑うものの、最後にそれを着て笑みを浮かべながら戦いのなかに突っ込んでいくのが時代に翻弄された者として何ともせつない。いつも一緒にいる部下とは実はただならぬ仲であるというのを一瞬映して性差を越えた多様性も見せるし、ロージーのことをいい人だと何度も繰り返しながら、捕まったジョジョを罵倒する芝居で逃がすのが粋すぎて、直後の銃撃の音には泣きますよ。またジョジョの友人であるヨーキーがヒトラー自殺を知った途端サッサと見切りをつけるという、見た目に反して結構軽やかで現実的なのも愉快で、彼が生きてて良かったなあと心底思えるし、序盤でジョジョをバカにした奴らが何気に捕まってるのも事態の反転を示していて深い。そしてアドルフ、突然窓から飛び出ていくのとか笑うんですが、このアドルフが最後にナチズムを強要するところで「ファック・オフ、アドルフ」で蹴り飛ばすジョジョには喝采です。

戦争が終わっているにも関わらず「勝った」と言うジョジョには、エルサが去ってしまうという恐怖があるのでしょう。それでも終盤の戦闘で皆が突っ込んでいくなか逆方向に逃げたジョジョは、生きることを選択したからこそエルサをエスコートする決意したわけで、かつての虚勢とは違う強さが窺えます。靴ヒモを結ぼうとして結べなかったジョジョがエルサの靴ヒモを結んであげるところには、母亡き後に練習したことが察せられてじんわり。決死の脱出作戦はドアの外に出てアメリカの旗を持ったジープが走って終わり、ジョジョの身勝手さを知ったエルサは彼をぶちますが、それさえも受け入れる少年の成長が眩しい。そして二人の目の前に開けるのは自由。エルサは自由になったら出ていくと言ってたわけではなく、ダンスしたいと言っていたことをしっかり実現するのが爽やかです。思いがけずノリノリなダンスなのには笑っちゃいますが、ウサギ呼ばわりされたジョジョは、奇しくもアドルフが言ったように、実はウサギだって強いんだということを身をもって示すのです。シリアスでありながら、価値観の柔軟性とさりげない多様性を見せる粋な反戦物語、何度も観たくなる良さでした。

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