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2020
02.04

昇れ、未知なる秘境へ。『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』感想。

The_Aeronauts
The Aeronauts / 2019年 イギリス / 監督:トム・ハーパー

あらすじ
天気予報の礎です。



1862年のロンドンで気象予測の調査をするための気球飛行が華々しく開始されようとしていた。気球に乗り込んだ操縦士のアメリアと気象学者のジェームズは、最初は衝突もありながらも、困難のなか徐々に心を通わせていく。やがて二人は前人未到の高度にまで達するが、想像もしなかった自然の驚異が襲い掛かる……。実話を元にした冒険ドラマ。

19世紀半ばのビクトリア朝時代のロンドンを舞台に、気球での高度世界記録に挑んだコンビの実話をベースにしたアドベンチャーです。それまで不可能と思われていた天気の予測が可能であると唱える気象学者のジェームズは、しかし学会からは揶揄され、それを証明するための実験資金も得られない。そんななかで気球操縦士のアメリアを知ったジェームズは彼女に気球飛行同乗を頼み込む。飛行中に最愛の夫を亡くしたアメリアだったが、悲しみから立ち直るためこれを受諾。かくして前人未到の気球によるチャレンジが行われることになります。気球乗りと科学者の二人による、嵐あり、酸欠あり、もっと大変なことありの冒険はスリル満点。何よりすぐそこは開けた大空である、というのが臨場感抜群に描かれ、『ラピュタ』の世界を実写で体感するかのような映像になっています。そしてなぜ飛ぶのかという人間味と、根底にある大義にはじんわりします。

気球乗りのアメリア・レン役は『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』フェリシティ・ジョーンズ、ジェームズ・グレーシャー役は『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』エディ・レッドメイン。二人はアカデミー賞を賑わせた『博士と彼女のセオリー』に続いての共演。互いに大作を経て、というのが感慨深いし、とにかく空ではこの二人しか映らないので、二人の掛け合い含めた演技力に加え、場をもたせるためのビジュアルも必要で、その点でもナイスなキャスティングでしょう。また地上でのドラマを支える者として、アメリアの妹アントニア役の『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』フィービー・フォックス、ジェームズの友人ジョン役の『イエスタデイ』ヒメーシュ・パテルが出演。

19世紀半ばなので、計器類はあるものの、電話はもちろんカメラも酸素ボンベもなく、ほぼ身一つで超上空に飛んで行くのが凄い。ライト兄弟が飛行機による有人飛行を遂げたのが1903年なので、それより40年近く前に飛行機なみの高度まで飛ぶわけです。この気球、デザインもスゴく良いんですけど結構巨大で、しかもこれを実際に飛べるものとして作って空中で撮影もしたらしいですよ。すげーな。それだけにリアルさもひとしお。気球の上によじ登るという恐怖もあったりして見応えあります。また、凪いだ空って無音なんだ、という新鮮さもあり。予想外の体験が出来ます。

↓以下、ネタバレ含む。








空というのは未知の領域であり、天候を予測するなんて不可能だという時代だからこそ、気球で高高度を目指そうとすることもできた、というのはあるでしょう。高度計、温度計、湿度計といった計器類はあるものの当然アナログで、通信手段はなんと伝書鳩。舵もなく風任せなので、どこに飛んで行きどこに降りるかもわからない。360度オープンなので簡単に落ちるし簡単に死にます。そんな心許ない乗り物で、いきなり嵐のなかに飛び込んでもまれるというのは相当な恐怖ですよ。でも雲の上まで浮かんでしまえば、そこは一面青く果てしない大空。たなびく雲海は美しく、「丸い虹」として写真だけは見たことがある「光輪」、図らずも昆虫が鳥よりも高く飛ぶことを裏付ける蝶の群れなど、当時としては誰も見たことのない景色が広がっているのは感動的。そして空の上は思いの外静謐で、気球のロープがギシギシいう音くらいしかしないんですね。高度7000mと出た時点で確か70数分と表示されるので、結構な速さで昇っているのには驚き。全部合わせても2、3時間ほどの冒険である、というのも意外。

そんな気球を乗りこなすのがアメリアで、離陸をショーアップして観客を沸かせたり、パラシュート付きの犬を空から落として驚かせるという演出までこなすことから大道芸人的な立ち位置も感じますが、空中では冷静な判断力と有事での決断力で猛者なところを見せてくれます。彼女はかつて夫のピエールと気球に乗っていたものの、落下しかけた気球を軽くするためにピエールが自ら落ちて犠牲になったという過去があるんですね。そのため半ば引退し、ジェームズに誘われたときも最初は断っています。結果的に引き受けるのは、ジェームズの熱意にほだされたというよりは、妹のアントニアの言う家庭に入って女としての幸せを享受しろ、という考えに反発したから。先進的な考えの持ち主であり、根っからの冒険家なわけです。フェリシティ・ジョーンズが結構なアクションで魅せるのもあって非常にアクティブ。

一方のジェームズは天候を予測できるという持論が学会で認められず、何とかこれを証明したいというのが飛ぶ理由。ただ、バカにされたのを見返そうとする思いも見られるので、ちょっと冷静さに欠けるのが危なっかしい。と言うか実際危険なことになります。超高度の-15度のなかで防寒着を着ろと言われても、気の持ちようで何とかしようとするという、科学者らしからぬ面も。冷静に観測しようとしながら焦りや優越感が微かに滲む辺りはエディ・レッドメインは上手い。気球で飛ぶ現在とその前の地上での様子が交互に映されますが、ジェームズがかなり屈辱な目に逢っているのでわからなくはないんですけどね。地上でのドラマパートはわりと長くて若干退屈さもありますが、ジェームズの痴ほう症の父親が息子のことをわからなくなっているという描写はせつないです。大事な双眼鏡を息子に渡した直後にまた忘れてしまうとか。それだけに最後に新聞を読んで「せがれだ」と言うのにはグッときます。あとヒメーシュ・パテルのジョンはもう少しクローズアップしてあげてもよかったかも。

高度7000mに行くだけでもヤバいですが、ジェームズがまだ降りないと言い張る辺りからさらにヤバくなります。酸素欠乏で思考が働かず、歯止めが効かなくなるんですね。しかも気温は氷点下、伝書鳩は息絶え、それでも昇り続けて10000mまで昇るのは信じがたい。いざ降りようとしても弁が開かず昇る一方という危機に、アメリアが気球の上に向かうのにはヒヤヒヤします。指は凍傷に掛かったのかロープも掴めず、気球の頂上でガンガン弁を蹴った後に気絶、ずるずると落ちて、気球の横に垂れてるロープに引っかかる。このシーケンスには手に汗ですよ。ブランコの要領でロープからカゴに取り付くアメリアの気迫は凄まじくて力が入ります。ようやく下降し始めたと思ったら、降っていたはずの雪がその場で舞っている、というシーンにはゾッとします。雪が落ちるのと同じ速度で下降しているんですね。そしてあんなに高いところにいたのに気付けば地上が迫っているという待ったなしの恐怖。どう考えても打開策がないように思えるだけに、まさかのパラシュートには激アガりです。むっちゃ引きずられるけど。

アメリアはまた誰かを失うのではないかという恐怖を抱え、その恐怖に耐えきれず自らを犠牲にしようとします。それを抑え、最後は冷静な打開策を見つけるジェームズ。募らせた思いが窺える人間くささと、体力・精神力・知識を活かして見出だす活路が、この二人だからこそ乗り越えたと感じさせてくれるのが良いのです。そしてジェームズは、この冒険が混沌に秩序をもたらすものであり、安全な航海や作物の育成などより良い生活をもたらすと告げます。科学によって切り開こうという志、女の幸せを押し付ける世間にこの冒険がアリシアの力によるものであることを強調する高潔さ。娯楽作としての面白さに加え、アメリアの夫ピエールの言葉「空は上に開かれている」のように前向きな解放感があるんですね。最後にまた飛行する二人の笑顔が爽やかです。

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