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2020
02.03

届かなかった言葉をあなたへ。『ラストレター』感想。

last_letter
2020年 日本 / 監督:岩井俊二

あらすじ
拝啓、乙坂鏡史郎様。



姉の未咲の葬儀に参列した裕里は、未咲の娘である鮎美から母宛ての同窓会の案内状を渡される。姉の死を知らせるため同窓会へ行った裕里は、そこで初恋の相手である鏡史郎と再会し、姉のふりをして彼に手紙を出すことにするが……。手紙をモチーフにしたラブストーリー。

二世代に渡る男女の恋愛模様やその後の関係、そして家族の物語を描く、『スワロウテイル』『リップヴァンウィンクルの花嫁』の岩井俊二監督作。岩井監督と手紙と言えば1995年『Love Letter』がありますが、それに連なるような話です。姉の未咲の同窓会へ姉の死を告げに行きながら、姉と勘違いされてしまった主婦の裕里は、そこで高校時代に一緒の部活だった鏡史郎と再会。思わず姉のふりをしたまま鏡史郎に手紙を出す裕里だったが、鏡史郎が返信を裕里の実家に出し、その手紙を未咲の娘である鮎美が開封してしまったことで、思わぬ方向に話が転がっていく、というお話。いやこれ、すんごい良かったです……手紙が繋いでいく関係が、やがて思いがけない事実を知らしめ、思いもしない展開をもたらす連鎖の面白さがあるんですね。そのなかで描かれていく、甘酸っぱさとせつなさ、身がよじれるほどの後悔、思い出から転じる希望。映像も台詞も役者も良くて、岩井俊二作品で観たなかでは最高です。

岸辺野裕里役は『来る』松たか子。二人の子を持つ主婦ですが抜群にキュートで、過去の関係への思いや、姉への複雑な感情がじわりと滲むような演技がとても良いです。そんな裕里が再会する乙坂鏡史郎役は『三度目の殺人』福山雅治。小説家として賞を獲りながらその後書けなくなってしまった彼が、手紙に綴る過去の思い出がせつない。高校時代の裕里役には『東京喰種 トーキョーグール【S】』の森七菜、その姉の未咲役に『ちはやふる -結び-』の広瀬すずといいとこ揃えていて、この二人の若さゆえの不器用さとか無邪気さとか、もう本当にイイ。そして若き日の鏡史郎役は『屍人荘の殺人』神木隆之介なので全く心配なし。神木君の「え」って言い方いいよね。あと裕里の夫、宗二郎役は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の(監督の)庵野秀明。この意表を突いたキャスティングは面白い。

手紙を送ることで取り戻す繋がりというのが、過去の話とも関連してノスタルジックでありながら、手紙で新たに結び付く繋がりが過去の思いを優しく包んでくれたりもして、いやもう爆泣き。配役の妙がとても良いし、あるサプライズなキャストもニクい。ラブストーリーというよりも、もっと幅広く豊かな物語です。ゆったり流れる時間が贅沢で、二人の少女が愛しくて、タイトルの意味に震えます。

↓以下、ネタバレ含む。








裕里たちの住む舞台である宮城県仙台市泉区が、かつて泉市という名前だった子供時代に住んでたことがあるんで、なかなか感慨深いです。まあそれは置いといて。冒頭、滝で戯れる子供たちが母親に呼ばれて行くとそこは葬儀場。ここで広瀬すずと松たか子が一緒にいてあれっと思うんですが、裕里の子供時代と娘の颯香役の森七菜、未咲の子供時代と娘の鮎美役の広瀬すずがそれぞれ二役なんですね。結構思いきった配役だと思うんですが、母親の青春を娘が追体験してるかのような不思議な感じがするし、鏡史郎が終盤娘たちに会ったときのデジャブ感もあって、ファンタスティックな効果が出ています。鏡史郎が書いた母宛の手紙を読んじゃうのはお行儀悪いですが、未咲と鮎美がどちらも広瀬すずなだけに罪悪感がちょっと軽減されるというのもありますかね。それにしても鮎美と颯香の仲良しいとこぶりが超カワイイ。配役の妙としては庵野秀明が裕里の夫役でホラー漫画家というのも面白い。「スマホ禁止だー!」て。親か。あてつけにデカい犬2頭も飼うとかもね、厄介だけど愉快。スマホ禁止を食らったがために裕里は手紙を書くことになるので、そういう意味では意外と重要な役回りでもあります。

松たか子の裕里は、バス停ベンチで鏡史郎に気付いたときの驚き方とか、先生の家で鏡史郎に書きかけの手紙を見られて、うわーって言っちゃうのとかやたらキュートで、デカい犬に引っ張られる姿や、ガキどもに「おいらくの恋ですね」とか気安く言われる辺り親しみやすさが滲んでます。これで最後と言いながら一方的に鏡史郎に手紙を書き続けるとか、突然訪ねてきた鏡史郎に慌てふためき義母の口紅に「年のくせに」と言いながら「これいいかも」って言ったりと、かつての想い人との再会に自制しながらもときめいてるのが何ともカワイイ。姉のことは高校の頃から自慢だったようで、「姉は美人だ」と言った直後に会った未咲がマスクを外したら広瀬すずって、そりゃ鏡史郎も一瞬で恋に落ちますよ(マスクが立体的じゃなく昔の平たい型なのが懐かしい)。鏡史郎が好きで彼の姉への手紙を渡せないというのも、裕里が自分の気持ちを手紙で渡して思わず「知らなかった」と鏡史郎が謝るのも何ともせつない。でも姉のことも好きだったんだな、というのが随所に窺えるので、よりせつないです。

乙坂鏡史郎は最初は同窓会でワンチャン狙う奴かと思いかねないですが、実は彼女が未咲ではなく裕里であることは気付いていて、そう知りながらも手紙を書くのは若干のいたずら心もあったのか、あるいはいまだに未咲とのことを引きずりながらも過去のことがあってすぐに聞けないからなのか。鏡史郎の純情こじらせ感は冷静に見れば少々重い感じもありますが、実は未咲とは付き合っていたこと、それを小説として発表し賞まで獲ってることで本気度がわかります。何より福山雅治のハマり具合のためにイヤな感じも相殺されるという、ここも上手いキャスティング。高校時代の未咲とは、階段の踊り場でのときめいちゃうやり取りなどが淡い映像で描かれたりして、美しい思い出の面が強調されます。しかしその後裕里から未咲の死が自殺であることを聞き、しかも知ってる男によるDVが原因と知るのはショッキング。裕里の「悔しいな、あなたが結婚してくれてたら」という言葉は、裕里の喪失感と鏡史郎の後悔とを一気に増大させ、美しい思い出を現実の悲劇に塗り替えます。

かつて未咲が住んでいたアパートを訪ねた鏡史郎は、サカエという女性に出会います。これがまさかの中山美穂!彼女から未咲の死の原因となった男、阿藤がいまだそこに住んでいると知った鏡史郎は居酒屋へ阿藤に会いに行きますが、もしやと思ったらやはりこれが豊川悦司!『Love Letter』の二人を、しかも全く違うキャラとしてここで登場させるというのは何ともニクい。阿藤はとんでもないクズ野郎で、未咲が死んだのは俺のせいだと開き直り、何者でもない自分になることを選んだとうそぶきます。さらに未咲にフラれたから小説が書けた、小説がなければお前の人生何もない、俺と未咲からの贈り物だと鏡史郎に畳み掛けます。その言葉は責任転嫁で結果論でしかなく、とても空虚なもの。でもその強い言葉に鏡史郎は何も言い返せません。表層は阿藤の言う通りであり、自分が繋ぎ止めていたら、という思いに囚われていたからでしょう。鏡史郎の小説を持っている時点で阿藤は鏡史郎を意識しているということなんですけどね。

人の手紙の開けてはいけないという背徳感、封を開けるまでのドキドキ、読んでいるときの没入感など、手紙が持つ段階的な魅力というのは独特のものがあるなあ、というのが本作では際立ちます。送られる手紙の経路が本来の送り主と宛先とがズレているせいで、なおのことそうですね。未咲のふりをした裕里から鏡史郎へ、鏡史郎の裕里と知りつつ未咲宛の手紙は鮎美たちへ、未咲を名乗る鮎美たちから鏡史郎へ。ついでに義母から裕里を経て先生へ。プラシバシーはどうなってるんだ、とも思いますが、本来一対一である手紙が他者を経由することで、想いが広がっていくという形になっています。誰かが読んで誰かが読めないというのは高校生の鏡史郎、未咲、裕里にも通じていて、それがせつなかったり。そして手紙として残っているからこそ、また真面目に過去を書き募った鏡史郎の手紙を鮎美が読んだからこそ、過去に鏡史郎が送った手紙の詰まった箱を「母の宝物です」という鮎美の言葉には泣けます。

鏡史郎が自著に書くサイン、これもまた手紙ほどではないにしろ同様に繰り返されます。最初のサインは「面白いの?」と聞いてくるサカエに言われて。それは阿藤との因縁に対して一旦ケリを付けるものでもあるでしょう。鮎美にもサインを求められますが、「この本を書いた人がいつか迎えに来てくれると思っていた」「もう少し早ければ」という鮎美の言葉に涙する鏡史郎。しかし未咲も鮎美も何度も読んだという本に自分の名を記すことで、二人との距離を縮めることになります。鏡史郎が最後に撮る二人の少女の写真は、時を越えてあの姉妹に再会したようなノスタルジックな感慨があって美しい。そして裕里にもサインを求められます。ずっと敬語で話す裕里は昔みたいに先輩と呼ばないのかと思っていましたが、最後に「やったー初めて先輩と握手した」と無邪気に喜ぶ姿に、一気に時間が戻る感覚を味わいます。

取り戻せないせつなさと、それでも前へ進むための踏ん切り。手紙やサインや写真という区切りを経て、事実を知りそれを受け入れた鏡史郎は、ようやく未咲への思いから解き放たれることになるのでしょう。そして鮎美もまた未咲が残した手紙をようやく開けることができます。入っていたのが原稿用紙というのに一瞬困惑しますが、それは鏡史郎が書き、未咲が読んだ卒業式のスピーチ原稿であり、同窓会で裕里が録音で聞いた姉の言葉と同じもの。人生思い通りにいかないこともあるだろうけど、ここに戻ればまた逢える、と卒業の言葉をそのまま娘に残した母。最後にタイトルが出て、これが「ラストレター」であると示すのには泣けます。淡く儚い思い出を現実への力に変える、素敵な物語でした。

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