FC2ブログ
2020
01.30

名前を知ればやってくる。『シライサン』感想。

shiraisan
2020年 日本 / 監督:安達寛高

あらすじ
鈴の音は開始の合図。



何かに怯えながら心臓麻痺で死亡する、という不可解な事象が連続して発生。親友を目の前で亡くした大学生の瑞紀と弟を失った春男が不審に思いこの件を調べ始めると、犠牲者にはある共通点があった。そこには「シライサン」という謎の言葉が関わっていた……。「シライサン」の恐怖を描くホラー。

小説家の乙一として知られる安達寛高が、長編監督デビューを果たした日本のホラー。直接の死因は心臓麻痺ながら、何かに怯えながら眼球が破裂するという不可解な死に方で弟を亡くした春男と、同じ形で親友を失った瑞紀。死んだ二人の共通の友人である詠子を探し出した春男と瑞紀は、彼女から「シライサン」の怪談話について話を聞く。事件を調べていた雑誌記者の間宮も加わって、シライサンの謎を追い始めることになるが……というお話。乙一の小説は大好きだったのでかなりの量を読みましたが、まさか映画監督をやるとは驚き、と思ったら今までもオムニバス作品などを監督してたんですね。それもあってか、初の長編である本作は、思いきったフィックスのカメラやあまりカットを割らずに長回し気味で映すなど、堂々とした演出ぶり。しかも呪いの恐怖とそれを解くための奮闘という正当なJホラーの系譜を実現してて、ちゃんと怖さもある。シライサンの造形もゾッとするものになっていて、これは思いの外良いですよ。

瑞紀役は飯豊まりえ。出演作は『劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ』で声を当てていたのしか知らないのでほぼ初めて観ましたが、大変カワイイし恐怖に震える演技も良かったです。春男役は『HiGH&LOW THE MOVIE』シリーズの稲葉友。木訥な感じの非常に丁寧な好青年を演じます。雑誌記者の間宮役である忍成修吾が話を広げる役割を担ってますね。あと渡辺役として『寄生獣』染谷将太がまさかの登場、いい味出してます。そして新たなホラーヒロイン、シライサン。「その名前を知ると現れて殺される」という設定では『バイバイマン』というのがありますが、よりおどろおどろしい湿り気があってこちらの方が断然怖いです。

脚本も乙一なので話はさすがによくできていて、『リング』のような拡散する呪いの恐怖と、謎を解いていくミステリーとしての側面、さらにせつない系乙一のテイストも含まれていてたまりません。見せない恐怖で行くのかと思ったらしっかり見せる場面もあって好印象。いや、よく出来てます。

ちなみに、スマホにアプリを入れてイヤホン着けて観ると3Dサウンドが聞けるという「イヤホン360」が採用されていて、これは面白い試み。ただ上手く使えず結局断念してしまったので、使い方はもっと詳細に書いといてくれ。

↓以下、ネタバレ含む。








何が起こっているのかわからず死んでいくという興味を持たせる冒頭から、何かただならぬ事態が進行しているという不穏さを煽る演出の数々には唸らされます。突然何かに怯えだし眼球が破裂して死ぬという恐ろしい死に方を、画面で見せないことで恐怖に変えていくんですが、油断してたところで詠子だけは思い切りドッパーン!と眼球破裂させてビビらせるという、画的なインパクトも入れてくるので驚かされます。カメラはフィックスで長く映すシーンが多く、固定の画面に不意に現れる異形の恐怖、あるいはそこだけぬるりと動く不気味さというのが際立ちます。そしてシライサンの造形ですよ。まずは異様に大きく白目が少ない目、これがこの世のものならざる感がスゴい。口の回りが血にまみれ、両手に穴を開けて赤い紐を通してるので合掌の形になっており、その紐に鈴が付いていて鈴が鳴ると出現の合図と、土着的、呪術的とも言うべき結構な意匠が凝らされています。服装が和装なんですけど、温泉地が舞台なのもあって遠目には宿の浴衣を着てるのかな?と思ってしまったのが少し残念。

状況も怖い。呪いで連鎖する死というのはまあよくありますが、名前を知ることで死を招くというのには、聞いちゃった!というショックがあります。『リング』のビデオテープ見ちゃった!みたいな取り返しの付かなさですね。加えてタイムリミットも切られてスリルに繋がります。今まで普通に話してた詠子が突然首を吊ってたりするのも怖い。染谷将太の渡辺君による怪談の話し方も不気味で、目を上げようとせず淡々と話し、指を立てて人に見立てるのには引き込まれます。そしてシライサンの現れ方、旅館の青年が振り返ると道の角からぬるっと現れるとか、詠子の目の前にいるのに隣の看護師には見えないとか、瑞紀が振り返ると広い道でにゅるりと立つとか、なかなかバラエティ豊か。どうすれば呪いが解けるのか、というのを探っていくのがミステリーとして面白くて、見てると来ない、目をそらすと近付いてくるという攻略法が見つかるものの、あの顔を映画一本分見続けなきゃいけないというのが地獄。こんな「だるまさんが転んだ」はイヤすぎます(マリオのテレサを思い出しました)。それで退散させたとしても、日を置いてまたやって来る、というのには気が休まりません。シライサン、ねばります。

シライサンが何なのかと言えば、昭和初期に調伏の一族のなかに力の強い者が生まれたとか、いけにえらしいとかわかってきますが、それ以上の由来は過去文献でサラッと映されるだけでそこまで詳しくは語られません。渡辺君が子供の頃通っていたという民族学者がもう死んでいるという時点で、由来探しも途切れます。若干物足りなさもありますが、そこを掘り下げるよりどう生き残るかの方にフォーカスしていくのは、根本的な解決策がないだけに話としてはむしろクリアになると言えます。それにシライサンを漢字で書くと「死来さん」だとわかった瞬間に意外なほどスッキリしてしまったので文句なし。見られることを求めるのがSNSの承認欲求のようだという解釈はなるほどなと思うし、三日おきに現れるという法則から、記事を拡散すればするほど現れる確率が低くなるという対処法も、ネット上でソースを辿る困難さを思わせます。怪異とSNSやネットを並べると少々下世話な感じもしますが、伝播し拡がるという点では通じるものがあります。

そんな恐怖のなかで、一緒に行動する春男と瑞紀の距離感がもどかしいんですよ。年はほぼ変わらないようですがずっと敬語で話すし、瑞紀が怖いからと春男を家に招くのには恐怖以外のものが始まりそうでドキドキするし、小学生の鈴の音にビビる辺りからようやくタメ口になったと思ったら、なんか手を!繋いでやがるし!瑞紀が「吊り橋効果は長続きしないんですよ」と言うのは春男への牽制というよりは自分への戒めのようですが、そんなことを言うこと自体がもう意識してるってことじゃないですか。キュンキュンするんですけど!しかしなぜ瑞紀は人のいない工場みたいな方へ逃げるのか。あとその廃工場で横を通りすぎながらわりとアップでシライサンを映し続けるのは、超常現象に現実感が出ちゃうのでかなりギリギリな感じです。

春男の父親が、親しい者が死んで一つだけ良いことは死ぬのが怖くなくなることだ、と言いますが、それでも死は恐ろしいというのがシライサンにより突き付けられます。一方で死の罠と知られても逃れられない手を使うのもえげつない。瑞紀の隣に死んだ親友が現れたり、間宮が子供を亡くしたという設定に何か意味があるのかといぶかしんでいたら、最後にこれを使ってきたりします。呪いで死んだ者以外も使ってくるということは、その人の記憶を見るなり親しい人が見えるように仕向けたりしてるわけで、そんなことまでされたらもう勝ち目はないですよ。逃れるためには名前を聞かなかったことにする、つまり忘れるしかない。ということで、偶然記憶を失った瑞紀だけが逃れることができます。しかしそれは同時に春男のことも忘れるということ。これからもっと仲良くなろうかというときに、死から逃れた瑞紀のために自分を忘れさせたままにする春男。あまりにせつなくて胸が詰まります。そして春男は自分が最後の犠牲者となることで死の連鎖を止めるのです。

しかし一人だけまだ残っている人が……間宮の消えた奥さん、冬美は果たしてどこに行ったのか。てっきり続編を作るための引きかと思ったんですが、どうもおかしいと思って調べたら、僕は見逃していたんですがエンドロールで脚本にクレジットされていたのが「間宮冬美」らしいのです。つまり、消えた冬美が映画を通してシライサンの名前を拡散していた、ということに……え、何それ、こわ!超怖い!突然現実を侵食してきた恐怖に、今さらながら背筋が震えますよ(と言うか気付かなかったことが悔やまれる)。メタまで使う工夫を凝らし真正面からホラーに取り組んだ、見事な出来です。これは小説版も読まねば!

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1645-57492c06
トラックバック
back-to-top