FC2ブログ
2020
01.28

地上より下、消せない匂い。『パラサイト 半地下の家族』感想。

Parasite
Parasite / 2019年 韓国 / 監督:ポン・ジュノ

あらすじ
リスペクト!



半地下の家に住み、その日暮らしの貧しい生活を送るキム一家。ある日、長男のギウがIT企業CEOであるパク氏の豪邸で娘の家庭教師をすることに。ほどなく妹のギジョンも同じ家で息子の美術教師をすることになる。正反対の2つの家族は、やがて想像を超える事態に進んでいく……。韓国の格差社会を描くドラマ。

底辺の家族がセレブな家族に「寄生」していく様を描く、『グエムル 漢江の怪物』『スノーピアサー』のポン・ジュノ監督作。2019年の第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画初のパルムドールを受賞、米アカデミー賞にも食い込む話題作ですね。半分地面に埋まった「半地下」の家に住む、キム・ギテクとチュンスクの夫婦と息子ギウ、娘ギジョンのキム一家は全員失業中。そんななかギウが友人の紹介で家庭教師をすることになったのがIT企業社長のパクさんの家。有名デザイナーが作って住んでいたという豪邸に招かれたギウは、そこからある計画を進めていきます。経済格差というテーマは明確にありますが、それ以前に超面白い!一つのきっかけから貧乏家族が金持ち家族にどんどん入り込んでいくのは、えげつなくも痛快。各人のスキルを活かしていくのはアガるし、中盤の長い一夜からの展開には手に汗。ある種ケイパーものの軽快さに、スニーキングのスリル、コミカルさもありながら、格差社会のドン底を描き出すのが凄いです。

キム一家はみんな個性的。キム・ギテク役はポン・ジュノ監督とは4度目のタッグとなる『タクシー運転手 約束は海を超えて』ソン・ガンホ、泰然としながらも微かな心の揺らぎを見せる演技はさすが。妻チュンスク役のチャン・ヘジンは、あの文句たらたらのおばさんがこうなるかという変貌ぶり。息子ギウ役の『The Witch 魔女』チェ・ウシクは、一見冴えないのに好機にはすかさず一手を打つのがやりおります。娘ギジョン役のパク・ソダムは適当さを覆い隠すクールさがイカす。一方のパク一家、社長ドンイク役イ・ソンギュンのしっかりした感じ、妻ヨンギョ役チョ・ヨジョンの世間知らずな感じ、娘ダヘ役チョン・ジソの可愛らしさ、息子ダソ役チョン・ヒョンジュンの無邪気さも上手くハマってるし、家政婦ムングァン役イ・ジョンウンの凄まじさも強力です。

「半地下」が示すかのように悪人にはなりきれない半端さが、さらなる深淵に飲まれるというのが皮肉。物理的な高低差で見せる経済格差、匂いで示す根本的な違い、計画という言葉に含む希望と絶望など、繰り返す要素による話運びや印象的なショットの数々も極上。最初から最後まで面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








題材としては他にも通じる作品はあると思いますが、それでも独創性を感じてしまうのが不思議な魅力。底辺の家族という点では『万引き家族』がありますが、他人が家族になるのと家族が他人として集まるというのは大いに異なるし、幸せな家族と入れ替わるという点では『アス』を思い出しますが、キム一家はパク一家がいないと困るので正確には入れ替わりたいわけではないんですね。何よりジャンルの垣根を越えた娯楽作としての面白さがあるのがスゴい。キム一家は貧困層が実際よく住んでるらしい半地下に家族4人で暮らしてますが、近くのフリーWi-Fiを求めて家の隅から隅まで電波探すとか、目線の先がちょうど地面の見える窓という半地下の構造ゆえに食事時に立ちションに遭遇するとか(水と尿の掛け合いが最悪で笑う)、ピザ屋の箱折りで効率化を目指したら逆効果だったりと、悲しくもコミカルであまり悲壮感は感じさせません。むしろ力強く生きる厚かましさがあって、だからこそパク家に一家総出で厄介になるということができるのでしょう。ギウの家庭教師を皮切りに、ギジョンの美術指南、ギテクの運転手、チュンスクの家政婦と、あれよあれよという間に全員就職。まさにパク家にとってのパラサイトです。

面白いのは各人が適材適所で持てるスキルをしっかり活かすというところ。ギウの最初の授業、奥さんのヨンギョと如才なく会話をこなし、娘のダヘの手を握るという思いきった行動をしつつも、脈を測るという理由付けと理念に裏打ちされたかのような物言いで信頼を得てしまう。このスキンシップのせいかダヘがギウにホレてしまいますが、それも狙ってやったのならスゴい。そして息子のダソ君が描いた絵を見てすかさず誉めそやしギジョンを送り込むことに成功。ギジョンはギウとは逆に謎めいた人物を演出、どうやったのか少年を手なずけてしまうのが可笑しい。ギジョンはネットを駆使してもっともらしい知識を披露しますが、それを暗記して要所で使うのが大したもんだし、文書偽造までこなすのが恐ろしい。しかも送ってくれた運転手の下心を感じ取った瞬間パンツを脱いで置いておき、ギテクの運転手起用に繋げる鮮やかさ。ギテクは出過ぎない態度で社長の信頼を得ると同時に、ギウの情報から家政婦ムングァンの桃アレルギーを使って追い出すことに成功、ソースを血に見立てて結核だと示す顔の見事な神妙さには呆れ笑います。晴れてチュンスクが家政婦となり寄生完了です。

やってることは非常に悪どくて全く誉められたものじゃないですが、どんどん繋がっていく気持ちよさがたまりません。いつバレるかというスリルもあり、特にギジョンを見たダヘがギウに「付き合ってるの?」と聞くのはなかなか鋭くて焦ります。それでもボロを出すことなく仕事をこなす四人は、つまりそれだけ個々の能力が高いということなんですよね。パク社長の屋敷は本当に豪華で、パク家がダソ君の誕生日に揃って出掛けたところで一家団欒しちゃうのもやむなし。彼らは「計画」という言葉を何度も使いますが、この入り込みも計画の成果だと思っています。ギウはダヘと結婚して婿になることまで画策。でも実際はたまたまハマっただけで運も味方してるし、人を蹴落としはしてもそれ以上の悪事はできないんですね。それが嵐の夜に舞い戻ったムングァンによって決定的になります。半地下どころか地下3階くらいの地中、下には下がいるという驚きの事実は、這い上がることには長けた彼らを戸惑わせます。どうすべきかわからない緊張感、マヌケすぎるバレ方で追い詰められるヤバさ。始末しようという考えが全く浮かぶ様子がないのには、なんだかんだで悪人になりきれない半端さが露呈してしまいます。

そもそも家主不在のときにムングァンを家に入れる必要がない。そんな判断もできないほど焦っているわけです。しかもここからのあまりに長い夜は、それまでのスピーディでコミカルな展開とはうって変わって緊張感の連続。帰ってくるというパク一家、ムングァンとグンセ夫婦の拘束、テーブル下への避難、そこに陣取ってしまうパク夫婦と、スラップスティックなコントっぽさもありつつバレたら全て水の泡というスリルが凄い。テーブル下に三人隠れてるのに、パク夫妻がエロいことをおっ始めてしまうのは非常に気まずいし地獄です。ようやく寝静まったところで脱出を図るも、ギテクが出てきたところで目覚めるのは手に汗ですよ。モールスでダソ君が「たすけて」まで読み解くのにもヒヤヒヤ。とにかく頂点に上り詰めた気分だったキム家は、それが錯覚であることを思い知るのです。そして豪邸から脱出した三人は追い討ちをかけるような大雨のなか坂を下り、長い石段を幾重にも降りていきますが、この「下に降りる」というのがそのまま彼らの実態でもあるわけです。降り立ったのはゴミ捨て場のような場所ですが、彼らの住む半地下はそれよりまだ下なんですね。途中ギウが階段で足の間を流れ落ちる雨水を見つめますが、この止めようのない流れが変えようのない自分たちの実態を表していると感じてしまったのでしょう。

大雨で浸水し便所が大変なことになった半地下は、地上と同じ高さにまで水で埋まってしまいます。そして避難所でギテクが言うのは、それまで拠り所だった「計画」の空しさ。「無計画がいい」と言う父にギウは打ちのめされ、自分が責任をとると言い出します。何度も挫折を繰り返したのだろう父と違って、ギウは束の間でも勝ち得た栄光にすがろうとするんですね。でも一度自身の立ち位置を痛感してしまったギウが、パク夫妻と金持ちな友人たちのごく自然なセレブ感に思わず「僕はここに合っているか」とダヘに聞いてしまうのが苦い。ギウは友人からもらった富の象徴である「石」、山水景石を持ち出しますが、逆にその石でやられてしまいます。グンセがとどめとばかりに石を投げ落とすシーンは強烈。そうなるとこの石は富の象徴と言うよりはしがみつく足掻きの暗喩のようなもので、だからもはや恐れるものなどないグンセには通じないのでしょう。この男、真っ暗な地下への入り口から表れるのが怖いですが、バナナの食い方が本当に不味そうなのも印象的で、食堂で美味そうに飯を食うキム家とは逆ですね。あと短時間で上手く作り上げたジャージャーラーメン(チャパグリ)は美味そうですが、取り繕ったキム一家と重なるようでもあったりして、食べ物演出も色々反映されています。

パーティ会場の庭に乗り込んだグンセにより、胸を刺されるギジョン。刺されながらグンセの顔にケーキをぶつけるのは、それまでのコミカルでさえあった一家の悪どさが、悪を超えた本物の狂気と邂逅するシーンでもあります。思わずギジョンの名を呼び、グンセを返り討ちにする母。ギジョンの傷を押さえて「余計痛い」と言われる父。ここでそれまでも繰り返されてきた要素として最後に立ち上がるのが「匂い」です。社長曰く加齢臭ではない、切り干し大根のような匂い。匂うと言われるだけでも人として結構精神的ダメージがデカいですが、それをギジョンは「半地下の匂い」だと言います。体に染み付いた半地下の匂い、つまりいくら金持ちの運転手をやろうが変えられない人としての低さの象徴です。車で鼻を押さえ窓まで開けるヨンギョにギテクが顔を強ばらせるのも、その態度に劣等感と屈辱を抱いたからでしょう。その思いは死んだグンセの体を持ち上げたパク社長が鼻を押さえたときに突如として再燃します。足掻いても好転しない人生、僅か一昼夜で失われたすべて、そんな必死で押さえつけてきたものが、ギテクを根本から否定するかのような匂いへの拒否感で爆発するのです。

ギウはよく生きてたなと思いますが、妹の葬儀でも笑ってしまうという副作用に苦しむことに。それはまるで現実から逃避して夢見心地に浸っているかのようでもあり、何ともやるせないです。そんななかギウが気付いたモールス信号。半地下で生き抜いてきた父は、いまや地下深くへと落ちてしまいます。そこでギウが思い付く「計画」。しがみついていた「石」を川に捨て、真っ当に金を稼いであの家を買い取るという「計画」を、「匂い」の沁みついた半地下で夢想するギウ。皆がもっと早くそこに至っていればというのが悔やまれるし、それでも半地下に縛られそうなこの先がやるせないしと、何とも言えない後味。そして人が悪いのか社会が悪いのか、それさえも曖昧模糊としていく現実と、引きずるような余韻が響きます。腹の中に大きな異物を残すような、それでいてとんでもなく面白いという、稀有な作品でした。

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1643-5ec258ce
トラックバック
back-to-top