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2020
01.27

走りの情熱が挑む本当の敵。『フォードvsフェラーリ』感想。

Ford_v_Ferrari
Ford v. Ferrari / 2019年 アメリカ / 監督:ジェームズ・マンゴールド

あらすじ
そこは7000回転の世界。



元レーサーで現カーデザイナーのキャロル・シェルビーは、フォード・モーター社からル・マン24時間耐久レースで勝利することを依頼される。常勝チームのフェラーリ社に勝つため、破天荒なレーサーのケン・マイルズを仲間に引き入れるシェルビー。しかし二人の前には数々の困難が立ちはだかる……。実話を元にしたカーレース・ドラマ。

1966年のル・マン24時間耐久レースで、絶対王者フェラーリに挑んだフォードの男たちを描いたドラマ。かつてアメリカ人ながらル・マンで優勝し、心臓病のため現役レーサーを引退したキャロル・シェルビーは、フェラーリ社の買収に失敗したフォード社からル・マンでフェラーリに勝つためのチーム作りを依頼される。シェルビーが目をつけたのは、雇う側からは扱いづらいと敬遠されるも確かな腕を持つドライバーのケン・マイルズ。上層部からは反発を受けながらも、二人は短い期間と限られた資金のなかで勝つための試行錯誤を続けていきます。シェルビーとマイルズ、中間管理職と頑固者というこの二人が、時にぶつかりながらも共にレースに挑む、この熱さ!男たちの限界への挑戦、内部にいる敵との軋轢などによるのめり込み度が半端じゃなく、歯噛みする悔しさや成し遂げた痛快さなどあらゆる喜怒哀楽には没入。レースシーンはド迫力の臨場感で、153分の長さを感じさせません。

キャロル・シェルビー役は『ジェイソン・ボーン』マット・デイモン、かつての天才ドライバーの矜持を押し殺し、上層部と現場との板挟みにあいながらチーム勝利を目指す人物が板についてます。ケン・マイルズ役は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』クリスチャン・ベイル、メカニックにも精通した頑固な天才レーサーという役どころはこれまたハマっていて、『バイス』とは真逆の無駄を削ぎ落としたようなシャープなルックスは肉体性でも人物を表現。奥さんのモリー役『マネーモンスター』カトリーナ・バルフ、息子のピーター役『ワンダー 君は太陽』のノア・ジュプ君も大変良いです。フォード社ではこれまた会社とチームの間で悶々とするリー・アイアコッカ役『ウインド・リバー』ジョン・バーンサルがいつものアクの強さとはうって変わってイイ。ヘンリー・フォード二世役の『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』トレイシー・レッツが見せる傲慢さと意外さ、副社長レオ・ビーブ役の『ステルス』ジョシュ・ルーカスの素晴らしいクソ野郎ぶりも見事です。

監督は『LOGAN ローガン』『3時10分、決断のとき』のジェームズ・マンゴールドということで、とにかく熱い男同士のドラマが炸裂。細かい描写による語り口や印象的な美しいショットもとても良いし、加えてレースシーンは超スリル。弱者が強者に挑む話でありながら、金儲けの腐った体制に走りへの情熱が挑む話でもあり、シンプルなタイトルの意味が反転するのが上手い。最初から最後まで面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








タイトルこそ『フォードvsフェラーリ』でありますが、もちろん同じ車メーカーであるフォードがフェラーリに勝つというのが目的ではあるものの、実際はほとんどが「フォード社vsシェルビー&マイルズ」です。それは車を売るための大企業体質と、走りの情熱を忘れない者との対決。そして結果的に商売気から抜け出せないフォードと、走りの芸術にこだわるフェラーリの対峙に戻ってきますが、それでも最後まで大企業の思惑vs個人の情熱の戦いでもあります。キャロル・シェルビーとケン・マイルズは共にドライバーでレースに魅せられており、デザイナーとメカニックという違いはあるもののどちらも表に出さない情熱は強く、しかし一方はフォード社の言い分も聞かねばならず、一方は天才でありながら危険視されるという不遇ぶり。時間は限られ、それでも勝つことを要求される理不尽さ。しかも発端は買収を断られたフォード社長が報復のためにレースでフェラーリに挑むというもので、そもそもが歪んでいるんですね。そんななかでも出来る全てを懸けて勝利への栄光を目指す男たちが熱いです。

マイルズの譲らなさは筋金入りで、閉まらないボンネットをガンガン叩いて無理やり閉めるところからもそれは窺えます。クリスチャン・ベイルの頑固そうな表情と頑なな佇まいがそれに輪をかけて説得力あり。闘争心が溢れすぎてフェラーリのドライバーにむっちゃメンチ切るのはちょっと笑いますが、レースに対しては真摯であり、車の欠点を正確に挙げていくのにはシビれます。息子役のノア・ジュプ君がまた上手くて、ル・マンのコースを教えてという息子、練習が終わったら即座に息子を乗せて走る父、ブレーキの心配をする息子、と親子の場面はどれも良いです。特に夕暮れのサーキットで佇む二人のシーンは美しい。奥さん役のカトリーナ・バルフも良き理解者なところが素敵ですが、ドライブ中にぶちキレて公道でブッ飛ばすのが怖くて面白い。留守番のマイルズのところに来て二人で踊るシーンは、飛行機の影がレース場を思わせる見せ方になっているのがせつなくも、そんな夫の心を分かっているかのような対応が良いです。

そんなマイルズをレースに集中させるため、中間管理職としてフォードとの間に立つシェルビー。立ち上げのスピーチで走りへの情熱を持つ者の名を言おうとして、一瞬言い淀んでからフォードの名を挙げるというのは、マイルズがグラサン外して期待するのもあってせつないものがあります。シェルビーは厄介なフォード社に対して結構思いきった策を実行するのが愉快で、最初のレースで負けた際に呼び出されたときも「フェラーリを追い詰めた、礼はいい」と強気に出たり、副社長を閉じ込めた隙にフォード二世を車に乗せて一緒に走るシーンなどはリスキーながら痛快。マイルズに謝りに行ったのに思わず「レースに出るための苦労も知らないで」からの取っ組み合いになっちゃいますが、固そうなもので殴ろうとしてそれを捨てて柔らかいものに替える辺り、不器用な二人による仲直りのためのスキンシップだというのかわかるんですよね。思わず泣き笑いですよ。奥さんが椅子に座ってそんな二人を眺めながら、男ってやつは、みたいな呆れ顔もイイ。

フォード二世は序盤で工場に出向き、アイデアのない奴は帰れみたいなことをぶちあげますが、偉そうにしながらどこか人任せのようなところが二世感があります。「司令官は一人だ」と言いながら結局全権を副社長に一任したり、エンツォ・フェラーリがずっとレースに張り付いてるのに対し、ヘリでランチに行き、戻ってきて「旨かったよ」とか言ってるのが坊っちゃん気質です(実際はエンツォもいなかったらしいけど)。シェルビーの車で爆速で走ったときに泣き出したのには一瞬引きましたが、そこで「父も乗せたかった」という一言に、偉大な創立者への敬意や彼の背負っている重責が感じられて、ちょっと憎めないところもあります。一方で副社長のレオ・ビーブは、映画館でここまで怒りを抱かせるのは久々というほどのクソ野郎で、野心を正当化する徹底した悪役として描かれます。勝手に別チームを立ち上げたり、勝手に「ez」と出させて速度を落とさせようとしたり、まさに肥太った企業の贅肉。でもこれでシェルビーとマイルズのドラマが余計際立つことにもなります。そんな社長・副社長らとシェルビーたちの狭間にいるアイアコッカ、そもそもは自分の交渉が最後の一言により決裂した経緯もあるせいか、どこかシェルビーたちにエールを送りたい感があって、でも言葉には全く表さず宥めるような視線だけを向けるのが何ともせつなげです。

レースシーンのスリルは素晴らしいです。カーブのギリギリ感、地を這うカメラのスピード感、夜の雨で先が見えない緊張感など、7000rpmを体現する世界はまさに息詰まるシーンの連続。シフトチェンジとアクセルとドライバーのカットを切り替えるタイミングが絶妙で、その小気味よさによりさらに激アガり。流線型のフェラーリも良いですが、GT40のカチッとしたスタイルもカッコいいですよ。あまり詳しくないんですが、ル・マンのスタートってあんな徒競走みたいな感じなのね。24時間走り続けるというのの端折り方もポイントやアクシデントで上手く繋ぐことで飽きがこないようになっているのも上手い。シェルビーが「俺たちは悪どい」と言ってたように、フェラーリ陣営にナットを転がして部品が外れてたのかと焦らせるのには笑います。そしてついにフェラーリを抜き去り単独トップに躍り出たマイルズ。バックミラーに誰もいない風景に我に返ったかのように、彼が取った行動は驚くべきもの。フォード3台の横並びの写真という、車を売るためにドライバーのプライドを踏みにじるような指令を受け入れるのです。それはきっと自身がやりきったことを納得できたからだろうし、シェルビーのことを考えたからでもあるでしょう。結果的に後ろからスタートした他チームが優勝して、3大会制覇を逃すマイルズが、怒りまくるシェルビーの肩を抱いて歩いていく姿には泣きます。エンツォと無言で頷き合うのもイイ。

マイルズの息子ピーターは、メカニックに「車に火がついたらどうする」と問いますが「耐火スーツだし車から出れば大丈夫」と聞いていました。それでも常に不安が消せない顔で父を応援し続けたピーターが印象に残っているだけに、ラフなテスト走行で耐火スーツを着ていなかったマイルズが事故に遭ったのは、史実とは言え本当にツラい。半年経っても立ち直れないシェルビーが、マイルズと絡むきっかけになったレンチをマイルズ家に持って行ったとき、ピーターがすぐに「父のだ」と言うのは、つまり父から二人の出会いを聞いていたということなんですよね。「君の父さんは」と言ったシェルビーに、ピーターがすかさず「友達だよね?」と返すのには号泣。共に困難を乗り越え、結果は不当だったもののこれからもっと速く走れると思っていた矢先の喪失、それはレースができなくなったということ以上に、友達を失ったということなのです。一人運転席で涙を流すシェルにはさらに泣かされます。歴史的快挙の裏にある、走り抜けた男たちの熱いドラマが素晴らしいです。

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