FC2ブログ
2020
01.24

格差の恋路は誰のため。『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』感想。

Long_Shot
Long Shot / 2019年 アメリカ / 監督:ジョナサン・レビン

あらすじ
世界、救っちゃわない?



アメリカ国務長官であるシャーロット・フィールドは、偶然再会した幼なじみでジャーナリストのフレッドに大統領選のスピーチ原稿作りを依頼する。自分との格差を感じながらもシャーロットに惹かれていくフレッドだったが、独自の感性を持つフレッドをシャーロットもまた意識をするように……。政治の世界を舞台にしたラブコメディ。

ジャーナリストと国務長官との恋を描く格差ラブストーリーにしてコメディ。勤める出版社ブルックリンが大手ウェンブリーに吸収されたことに腹を立てて辞めてしまったフレッドは、友人のランスと訪ねたパーティーでかつて自分のシッターで淡い恋の相手でもあるシャーロットに再会。しかし彼女はいまや世間からも人気のアメリカ国務長官。シャーロットからスピーチ原稿を依頼されたフレッドは戸惑いながらも仕事を受け、自分らしくこなしていく。そんなフレッドにシャーロットも徐々に惹かれていくのだが……というお話。政治劇としては甘いと言うかおおらかなところも多いですが、ラブコメとしては大人の下ネタも込みで別の意味で甘く、高嶺の花と地べたの雑草、美女と野獣といった感じの二人がどうなっていくのかというのが見もの。立場の違いや思いもかけない出来事での二人がとにかく笑えるのでコメディとして秀逸だし、それでいてこの話で様々な多様性を描き出しているのが素晴らしい。超面白いです。

何と言っても才色兼備の国務長官シャーロット役である『アトミック・ブロンド』シャーリーズ・セロン。とにかくエレガントで神々しいまでの美しさなのに、予想を遥かに越えるコメディエンヌぶりが超絶キュート。フレッド役の『ソーセージ・パーティー』セス・ローゲンも、一見冴えないけど実は有能だというのが熱いし、彼らしいトークや下ネタも随所にあって笑えます。フレッドの友人ランス役の『ザ・アウトロー』オシェア・ジャクソン・Jr.、恰幅がよくなりますます親父のアイスキューブ似になってますが、これが非常にいいキャラで好ましい。ほか、シャーロットと噂になるカナダ首相役に『ターザン:REBORN』アレクサンダー・スカルスガルド、ウェンブリー社のトップに『ブラックパンサー』アンディ・サーキス。

監督は、ローゲンと『ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー』でも組んだジョナサン・レビン。小気味良い演出で笑いを醸しつつもときにシニカル。住む世界の違う二人の関係が劇的で、どっちに転ぶかわからないのもスリルです。映画ネタも随所にあって愉快。

↓以下、ネタバレ含む。








住む世界が違う男女が恋に落ちるなんてのは『ローマの休日』を始め色々あると思いますが、本作はその落差が激しいです。一方はアメリカ国務長官、一方は無職になったジャーナリスト。王女と一般人に比べればマシかもですが、逆に現実感があるとも言える、かな?シャーロットを演じるシャーリーズ・セロンがとにかく美しいので高嶺の花感は数段上がります。あれだけアップになっても全く問題ないどころか見惚れますからね。しかもカナダ首相というルックスも立場もハイレベルに釣り合った人物が出てきたりするので、どうにもできないんじゃないかと思わされるわけです。でも見た目は『美女と野獣』という感じながら、フレッド・フラスキーは体を張った突撃取材も辞さず、正しいと思ったことは権力に歯向かってでも報道しようとする実に男気ある人物なので、環境問題に本気で取り組もうとするシャーロットに負けてないんですよ。セス・ローゲンの人好きのする雰囲気もあって、好ましいカップルに見えてくるのです。シャーロットの発言力が大きいのに対して、フレッドは声がデカいし(関係ない)。

そんな二人がなぜ知り合ったかと言えば、フレッドが13歳のとき16歳だったシャーロットがシッターだったからですね。なんて都合のいい!と思いますが、それはそれで愉快だし、当時思わずキスして勃起したという最低なエピソードが付いてくるので全然許せます。あとシャーロットが高校生の頃から環境問題に真摯に取り組んでいたというのがちゃんと今と繋がっていますね。シャーロットは国務長官というまさに分刻みのスケジュールをこなす激務の立場であり(立ったまま寝れるのが凄い)、大統領選に出馬するというさらに遠い存在になりそうなところを、たまたま再会したフレッドにスピーチ草案を依頼することで一気に距離が近付きます。最初はフレッドが断ろうとするし、受けた後も互いに距離を保とうとするし、環境問題の海、森林、蜜蜂から海を外されたときには衝突もしますが、自身の意見を真っ直ぐぶつけてきたりオーロラに感涙したりするフレッドに、シャーロットが惹かれ始めるのが結構丁寧に描かれてるので受け入れやすいです。あとはきっかけだけ、というところで、フィリピンでの突然の攻撃という場面で一気にくっつくことに。戦争映画になるのかと思ってビビりますけど。

でもそこはまだ中盤であり、両思いでした、ベッドも共にしました(「いつもはもっともつんだけど」ってシャーロットが男みたいなこと言うのが笑う)だけでは終わらず、ここから立場の違いをどうしていくのかというのが面白い。大統領選の前なのでイメージ的にバレたらマズいという枷があり、要は苦い結末に転ぶのかハッピーエンドなのかが読めないんですね。そこがスリル。そのなかで、ブエノスアイレスの部屋でダンスというロマンティックさがあったり(ドア窓から見られたら一発アウトだけど)、ラブラブな二人が微笑ましい。ハジけたいと言ってモーリーをキメてハイなシャーロットが、頭に紙吹雪付けたまま人質交渉するシーンは最高です。最後にピースするのカワイイ。シャーリーズ・セロンは本当にキュートで、手の振り方だけはヘンだったり、フレッドが民族衣装を着せられたときの水の吹き出し方は芸術的に美しいし、終盤のフレッドの部屋で愛を告白する表情とか可愛すぎてキュンキュンするしで、今までにない魅力が全開です。

二人に関わる人々も面白い。フレッドの友人ランスは、自分がこれから友人を慰めるからって自社の社員全員休みにしちゃったり、フレッドの勃起話も真面目に反応して励ましたりとむっちゃイイ奴。最後に「フレッド・コールしたのは俺だ!」て言うのもカワイイ。あと黒人のSPが二人のチューについて「誰も信じない」「グッドラック」と言うのも粋です。シャーロットのスタッフ二人の、仲よくないけどヤっちゃってるというのはなかなか衝撃。元テレビドラマ役者の大統領が映画の世界に行きたいから再選は目指さないというのはバカすぎるし、カナダ首相のアレクサンダー・スカルスガルドが「自分の笑い方は気持ち悪いと言われる」と言って笑うのが本当にキモいし、ブルックリンを買収したウェンブリーの周りのことなど考えない傲慢さも強烈。あれがアンディ・サーキスとはエンドロール見るまで全然わかんなかったですよ。

そのアンディ・サーキスが出てるのもありますが、テレビでフューリーが出てるのを観たりとか、ランスが「ワカンダ・フォーエバー!」って叫んだりとか、やたらマーベルネタを入れてくるのが笑えます。サミュエル・L・ジャクソンは帽子ネタでもう一回名前が出るし、ドラマから映画スターになったのはジョージ・クルーニーとウディ・ハレルソンくらいってのを繰り返したり(山ほどいるだけに笑う)、Boyz II Menが出てきたりとサブカルネタが豊富。セス・ローゲン的な下ネタの笑いも色々あって、シャーロットが思いがけないプレイを要求してきたり、特にフレッドが『メリーに首ったけ』みたいなことになるのは酷すぎて笑います。

シャーロットが苦労するのは女性だからというのもあるんですよね。テレビ番組の男性キャスターたちはシャーロットを国務長官よりも女としてしか見てないし、大統領選のイメージ戦略も女性であることを含みます。一方でランスが共産党支持派でクリスチャンだと知ったフレッドはこれに拒否感を見せますが、GOP(共産党員)でGOD(クリスチャン)とリズミカルに言うランスが「それでも友達だ」と言うことで、フレッドは自分の狭量さ、固定観念に気付きます。

これは大統領候補と顔射男(酷いな)を格差と感じることの愚かさにも繋がります。シャーロットもまた大統領選のために己の気持ちを押し殺すことをやめてフレッドの元へ。しかしこれが人々に受け入れられ、シャーロットは大統領に、フレッドは「ファースト・ミスター」になるわけです。こんな二人の組合せがあってもいい、夫がサポート役でもいいという、つまりは多様性の物語にまで昇華されるんですね。そしてセクハラテレビではそれまで苦笑いしていた女性はブチ切れ、差別の象徴である半端な鉤十字タトゥーはフレンドリーな棒人間に変わるのです。原題の『Long Shot』は「望みの薄いこと」という意味で、最初の二人を表しているかのようですが、それが転じて「大胆に立ち向かうこと」という意味に変わっていくのが良かったです。

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1640-6af7a3d1
トラックバック
back-to-top