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2019
12.17

異常な危機と二度目の別れ。『屍人荘の殺人』感想。

shijinsou
2019年 日本 / 監督:木村ひさし

あらすじ
あたり前田のスープレックス!



神紅大学ミステリー愛好会のメンバー葉村譲は、愛好会会長である先輩の明智恭介に振り回される日々。そんなとき自称探偵でもある同校の剣崎比留子から、音楽フェス研究会の夏合宿への参加を持ちかけられる。合宿参加を脅すようなメッセージがあったためだったが、山奥のペンション紫湛荘で研究会のメンバーと合流した夜、本当に密室状態の部屋で惨殺死体が発見されてしまう……。今村昌弘による同名ミステリー小説の実写映画化。

デビュー作にして国内主要ミステリーランキング3つで1位を獲得した今村昌弘による同名小説を映画化したミステリー。「神紅のホームズとワトソン」と呼ばれる(こともある)明智と葉村のコンビと、実際に事件を解決した探偵の顔も持つ剣崎比留子が、山奥のペンションで起こる密室殺人に挑むという本格推理ものです。なぜ、誰が、何の目的で事件を起こしたのかというミステリーとしてのお約束を踏まえながら、本作にはある特殊な仕掛けが施されており、これが知らずに観たら「そっち!?」と驚くこと請け合い。原作既読で臨みましたが、一部アレンジはあるもののわりとよく再現されています。かなりコミカルな方向に寄せすぎな気はするものの嫌ではないし、と言うかそこが面白いくてかつ一貫しています。建物の内装がイメージ通りで、暗めの館内と逆光の眩しさが異世界感あるし、謎が解明される終盤の高揚感もなかなかのもの。

役者陣が皆良いです。葉村譲役の『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』神木隆之介は言うことなしの安心感。彼が色々拾いつつ自分でもコミカルなのが楽しい。明智恭介役の『孤狼の血』中村倫也はキャラ付けが素晴らしい。神木くんとは『3月のライオン』でも共演してますね。剣崎比留子役の『アルキメデスの大戦』浜辺美波のキュートさはもはや神懸かってると言ってよいでしょう。音フェス研の重元役に『アイネクライネナハトムジーク』矢本悠馬、名張役に『“隠れビッチ”やってました。』佐久間由衣、静原役に『小さな恋のうた』山田杏奈などを配し、塚地武雅、ふせえり、池田鉄洋といったコメディに達者な人たちで脇を固めます。

よくも悪くもテンポよすぎてコメディ過多なのがスゴく『TRICK』ぽいなー、と思ったら、脚本がズバリ『トリック劇場版 ラストステージ』などの蒔田光治、監督がテレビシリーズのセカンド演出もやった木村ひさしなのでさもありなん。なのでそれ系が苦手な人には合わないかも。ちょっとね、もったいないなあという点はあるんですけど、若干駆け足ながら2時間でよくまとめてるし、明智のとある言動が彼の凄さを物語る改変には震えましたよ。Perfumeの主題歌もイイ。

↓以下、ネタバレ含む。








わりとシビアなテイストの原作が、予告編ではやたらポップでコミカルだったのでどうするのかと思ったら、そのまんまポップでコミカルだった、というのが驚き。最初だけ愉快にして後はシリアスにすることも出来たと思うんですけど、あえてなのかバランスが難しい方向にしてますね。役者陣のコメディ演技が活かされてるのが効果的です。結果的に原作よりもキャラが軽くなった感はありますが、そんな人がシリアスな面を見せることで引き締まったりもします。神木くんの演じる葉村は真面目だったりノリが軽かったり、明智へのツッコミもしながら自分もボケるというさすがの軽妙さ。比留子のことをカワイイって思ってるのが終盤は声に出しちゃってるし、2回もチューをエサにされて「失礼しまーす」ってチョロいです(そしてうやむやにされる)。比留子は変な喋り方が『TRICK』の山田みたいですが、浜辺美波のキュートさを崩さぬ変人ぶりが見事で、ムムムって言ったりずっと槍を持ってたり何かカワイイ(チョロい)。白目とか雲龍型はちょっとやり過ぎですが。

あと中村倫也の見せる存在感が凄いですよ。クールな話し方に強引な言説、指パッチンやナポリタンを使っての序盤からのキャラ付けが効いてて、出番はわりと少なめなのにインパクトが十分。だからこそ喪失感も大きいです。『ちはやふる』好きとしてはヒョロくんと肉まんくんが出てくるのは嬉しいところ。ふせえりの鬱陶しくもさすがのコメディエンヌぶりとか、塚地武雅のいるだけでコミカルな感じとか、池田鉄洋の真面目だけどとぼけた雰囲気などがコメディ部分を補強してます。「私じゃないです」の重ねとかしつこくて笑いますよ。小気味良いやり取りを実現するために極力テンポを良くしているのも本作には合っていて、原作では3階まであった紫湛荘を2階までにしたのもそのためでしょう。笑いどころを増やしながらも思ったより緊張感が削がれないのは、本作最大の特徴であるアレがあるから(一応伏せます)。その脅威が間近にあるなか連続殺人事件が起こるというのが、拭えない危機として機能しています。もちろんこれが事件の謎にも絡んでくるわけで、この辺りはわりと原作に忠実。舞台がイメージ通りなのもアガります。

ただ、テンポが良すぎて伏線や謎解きがサクサク進むのは、せっかくの珠玉のトリックがちょっと勿体ないなあとは思います。それでもフェアな撮り方はしてる方、かな?比留子が推理を開示していくときの畳み掛け方と音楽の使い方にはかなりの高揚感があるし。とどめを刺すシーンを全てレントゲン的にすることでレーティングも下げてるんでしょうね。美冬役の山田杏奈の、最後の寂しそうに微笑みながらの一言には胸がしめつけられますよ。最も感心したのは、原作では音フェス研でなく演劇部で、美冬、出目、高木も学生(とそのOB)なんですが、それを部外者にした意味です。これにより静原美冬を外部から招き入れるわけですが、部外者の美冬がわざとスマホを拾わせるのを見抜いたことで、明智が「まだ起きてない事件の犯人」を予見します。これによりそれまでヘボ探偵だった明智が実は凄い奴だった、というのに繋がり、葉村が明智を慕うのがただの腐れ縁だけではなく、そこにはリスペクトもあったのだと思えるのです。これがスゴくイイ。それだけに、明智は最後の最後まで生きてるんじゃないかと思わせてほしかったなあ。そこは残念。

なぜテロが起こったか、その背景や主犯については全く語られないので(原作には書かれている)、そこが気になる人もいるでしょうね。ただ本筋とは関係ないとも言えるのでそれほど問題でもないでしょう。ラストにあの状況で明智が一人だけ立っているというのはいかにも不自然なんですが、明智を見捨てられない葉村、葉村を連れ去ろうとする明智、それを比留子が阻止するという、三人だけの対峙を際立たせるシーンとして良かったです。「あげない」という比留子の台詞は、葉村の命以上に彼を二度目の別れという喪失感から救うんですね。それは劇中で重元が観ていたある映画とは逆の結末ですが、それがまた悲しくも晴れやかな後味をもたらしてくれます。

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