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2019
12.15

王道に課せられた難しさ。『ルパン三世 THE FIRST』感想。

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2019年 日本 / 監督:山崎貴

あらすじ
ダイアリー?



その謎を解いた者は莫大な富を手に入れると言われるブレッソンダイアリー。考古学者ブレッソンが遺し、第2次世界大戦時にはナチスもその行方を追い求めたというこのお宝を狙うルパン三世だったが、同じくこれを奪おうとする少女レティシアと出会う。さらには怪しげな組織までが絡んできて……。『ルパン三世』を3DCGで描く長編アニメーション。

モンキー・パンチ原作『ルパン三世』の劇場版が登場。アニメとしては小池健のスピンオフ版とコナンとのクロスオーバーを除けば、実に1996年『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』以来の劇場用新作!しかもルパン初の3DCGアニメです。祖父であるルパン一世でさえ盗み出せなかったという秘宝「ブレッソンダイアリー」。これを盗み出そうとしたルパンだったが、謎の少女レティシアの妨害で失敗。その後ろにはある秘密組織が絡み、ルパンたちとの激しいお宝争奪戦が繰り広げられます。しかしブレッソンダイアリーに隠されていたのは単なる財宝ではなく、思いがけずとんでもないもの。こうして組織の謀略に対しルパン一味や銭形警部が立ち向かっていきます。

3DCGで描かれた映像は背景や細部が美しく、劇場用としてのスケール感も十分。お話も悪くないと思います。少なくとも一定の面白さはあるでしょう。よりハードボイルドな面を強調した小池健シリーズとは別の、王道アドベンチャーを目指したのだろうというのもわかります。でもなあ……個人的にはハマれなかったんですよ。「お、これは良いかも」と思った直後には「えっ、そこそうしちゃうの?」というのの連続で、それはストーリー以外の演出面が主なんですけど、どうも違うなあと思ってしまったのです。別にルパンはこうあるべきと頑なに臨んだわけでもなく、むしろフラットに観たつもりなんですけど。製作側が恐らくこだわったのであろう点が、逆にノイズすぎてツラい。

監督・脚本は山崎貴。『アルキメデスの大戦』は意外性と的確な見せ場の選択がとても良かったのでそういうのを期待したんですが、結局『STAND BY ME ドラえもん』『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』を観たときに近い感覚。これ時代設定いつなのかって出たっけ?そこ大事だと思うんですけど。あとこれは言っても詮無いことですが、せっかく予告ではキャストの名前を伏せてたのに、オープニングで名前バンバン出されてしまい、喋るたびにそのゲストの顔が浮かんで台無し。別に隠してたわけではないようなのでいいんですけど、最後に「あの人だったのかー!」ってなりたかった(演技自体は良かったです)。

↓以下、ネタバレ含む。








おなじみのキャラたちは3DCGになったことで頭髪がやたらリアルだったり、ヒゲまでも一本一本生やす念の入り用で、まあそれはいいです。でもルパンにうっすらあごヒゲ生えてるのってありなんですかね?衣装もしっかり生地の質感を出してきますが、ルパンのジャケットってレザーなのか、というのがどうにも違和感。そういう細部の描き込みがありながら人物の顔のデザインはやたら二次元的なのがなんかバランス悪く感じてしまいます。もう少しシリアス寄りのデザインにした方がハマる気がするんですが。それ以上に気になったのが、CGキャラの動きがオーバーアクトすぎることです。銭形がガニ股で喚いたり、ルパンが変なポーズを決めたりするたびに、スゴくわざとらしく見えてノイズに感じてしまう。コミカルなアクションがルパンの持ち味とは言え、リアルな造形になったぶんギャグも浮いてるように感じてしまいました。

次元が銃弾でナットを回して看板を落としたり、不二子ちゃんが最初におっぱい(着衣)から登場したりするのには、おお……!と思うんですけど、次元と五ェ門がルパンに協力しない理由が「あるかどうかもわからないお宝だから」って、不二子の頼みでもないのにあの二人がそんなこと言うかな?しかも後で平然と合流するし。不二子がふくれた顔はカワイイんだけどそれも不二子っぽくないし、銭形が最後に拠点を制圧するくらいしか役割がないのも不満。レティシアに銭形が頬赤らめるとか、五ェ門がお願いされて速攻陥落というのもなんだかそぐわない。と言うかレティシアちゃん、どんだけおっさんキラーなのだ。ショートパンツにブーツ姿がカワイイのでしょうがないのか?キャラ的には悪くないですが、泥棒をする理由が大学に行かせてもらうためというのが不憫すぎます。あとダイアリーのキーワードが「レティシア」って言うのが何の驚きもないのが驚き。

レティシア役の広瀬すずはそこまで悪くはないです。ただランベール役の吉田鋼太郎がうますぎるので格差を感じるというのはあるかも。このランベール、前半レティシアへの情を思わせる場面もあるもののそれ以上に憎しみの表情の方が多いので、終盤の狂気に暴走した状態で、しかもさっきまで罵倒してたレティシアを庇って撃たれるというのがどうにも納得しづらいんですよ。やたらこの爺さんがどアップになるのもうんざり。ゲラルト役の藤原竜也は、ああ藤原竜也の声だーって思っちゃうんですけど、激昂したときの演技などはさすがに迫力あります。ただキャラ的にはランベールに食われ気味だし、ランベールが裏切ったときに何もせず突っ立ってるのがマヌケすぎだし、かと思えば片手でルパンのアゴを掴み上げるという突然の怪力ぶりには唖然とします。むしろこいつが総統の代わりに俺が支配する!みたいになって、それを聞いて我に返ったランベールがレティシアを守って撃たれる、ならわかるんですけどね。

あとやたら既視感のあるシーンの数々は、オマージュと言うにはあまりにもそのまま。愛車がフィアット500、ルパンのパンツの柄、少女とのコンビ、その最後の別れ方からエンディング曲の曲調まで『カリオストロの城』を意識しすぎなのは言うまでもないですね。秘宝の眠る洞窟の三つの仕掛けは『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』まんまだけど、それぞれ次元、五ェ門、ルパンがクリアの鍵となるわりには、偶然クリアした感が強いです。次元が正解を見つけるのはたまたまだし、斬鉄剣がないと進めないというのはじゃあ本当のクリア方法は何なの?となるし、ルパンは自身の身体能力を使うものの祖父が残したステッキありきだったわけで、ということはルパンは祖父に追いつけてないんですよ。ワイヤーを使ったアクションはもろに『スパイダーマン』だし、辿り着いた"エクリプス"のマイクロブラックホールによる最終兵器感、操作盤の雰囲気などは『天空の城ラピュタ』。ここまでやられるとヒトラーの登場は『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』の影響じゃないかと勘繰りますが、さすがにそれはないか……。

エクリプスを始め、ブレッソンダイアリーの仕掛けやナチスの飛空挺など、SFメカ設定はやたら力入ってるのでそこの見応えはかなりのものです。が、そもそもブレッソンダイアリーは誰が持っててなぜオークションに出されたのかは謎。と言うかエクリプスってどう見てもオーバーテクノロジーなんですけど、あれは誰が作ったとか説明ありましたっけ?あとこれ時代設定はいつなの?仮にヒトラーが90歳だとすると1979年。わざわざ1979年公開の『カリオストロの城』の「さーすが昭和一桁」という台詞を入れてますが、仮に銭形が昭和9年生まれだとするとその年なら45歳だから、それくらいかもしれません。舞台を現代にしなかったのはなぜなのかはよくわかんないですね。ノスタルジックな雰囲気を出したかったのか、でもそもそも70年代とすぐ気付くような描写もなかったので混乱します。

というわけで、なんかちょくちょく雑だし、それでいて過去作オマージュ入れまくってて「こういうルパン好きでしょ?」という製作側のドヤ顔が見えるよう(きっと監督のせいだけじゃない)。テレビのスペシャル版を越えてやろうという気概が、あったとしても空回りしてるようで、何とも座りが悪いです。あとサブタイトルの『THE FIRST』はルパン一世を指してるにしてはそこまで一世推しの話でもないし、まさか「3DCGルパン第一弾」ってこと……?と思ったら実際そうらしいです。タイトルくらいもっとちゃんと付けてほしい。最後に4月に逝去した原作者モンキー・パンチの言葉を出すのは一見感動的だけど、なぜ素直に冥福を祈る言葉にしなかったのか?何だかその言葉を免罪符にしてるように思えるのは僕だけでしょうか。……ルパンは多くの作り手により様々な形で描かれてきた作品なのである意味何でもありなんだし、こんなに不満ばかり挙げるのは本当に嫌なんですが、ビッグネームに課せられた王道の意味についてちょっと考えてしまう作品でした。

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