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2019
12.12

輝く力を曇らせぬように。『ドクター・スリープ』感想。

Doctor_Sleep
Doctor Sleep / 2019年 アメリカ / 監督:マイク・フラナガン

あらすじ
箱を開けろ!



40年前の展望ホテルでの惨劇以来トラウマを抱えながら成長し、酒に溺れるようになったダニー。ある日彼の元へ、アブラという不思議な能力を持つ少女からメッセージが届く。児童を狙う連続失踪事件の現場をその力で目撃してしまったアブラは、ダニーに助けを求めるが……。『シャイニング』の40年後を描く続編ホラー。

スティーブン・キングの小説を原作としたスタンリー・キューブリック監督による1980年の『シャイニング』、その続編が登場。あれから40年、惨劇を生き残ったダニーだったが、いまや父親と同じようにアル中生活を送る日々。そこにかつてのダニーと同じような特別な力「シャイニング」を持つ少女アブラからコンタクトが。児童失踪に関わる怪しげな集団の犯行を何千キロも離れた自宅から"見た"アブラは、ダニーに協力を要請するが、というお話。これは前作を念頭に置いて観るとかなり趣を異にする作品。ホラーではありますが、中年男と少女が異能を食らう悪と対峙するという、まさかの超能力バトルなのです。でもこれが超面白い。父と同じくアルコール依存に悩むダニーが、死に面した人々に接し、少女の勇気に触れ、正しく力を使おうとするのが胸熱。しかもこれを映画版『シャイニング』へと見事に繋げてみせるのが凄いです。

大人になったダニー・トランスを演じるのは『プーと大人になった僕』ユアン・マクレガー。なんか大人になることが多いですが、トラウマを抱えすっかりうらぶれたダニーを哀愁込めて演じます。そんなダニーを越える力の持ち主である少女アブラ・ストーン役はカイリー・カラン。13歳にして巨悪に立ち向かう姿が凛々しい。二人の前に立ちはだかる怪しげな集団「真の絆」を束ねるローズ・ザ・ハット役は『ミッション・インポッシブル フォールアウト』レベッカ・ファーガソン。とにかくこのレベッカ・ファーガソンが素晴らしくて、優雅で柔和ながら容赦なく襲いくるのがとんでもない存在感。マジシャンのような帽子を被っているだけでその異質さを表す衣装も良いし、あまりに美しくて見とれます。ダニーの友人ビリー・フリーマン役の『ワイルド・スピード スーパーコンボ』クリフ・カーティスもイイ。また前作に登場したハロラン老人や母ウェンディを、CGではなくよく似たキャストで再現するのも味がありますね。ちなみに『シャイニング』でダニー少年を演じたダニー・ロイドが野球場で会話する観客としてカメオ出演しています。

キューブリックの『シャイニング』は名作ホラーですが、作者のキングは原作の改変に怒りまくって自ら別実写版を作ったという因縁のある作品。今作もキングの原作がまずあるわけですが、監督・脚本の『ソムニア 悪夢の少年』マイク・フラナガンは、ホラーでありながら心に響く作劇を本作でも遺憾なく発揮、原作者のキングが絶賛するほど。原作は未読ですが、遡って『シャイニング』ってそういう話だったのか、キングが怒るのも無理ないな……と察することまでできるんですよ。それでいて、あのホテルの恐怖を絡ませることで映画版の続編としてもきっちり見せるのには驚愕。フレッシュな描写も多く、ジャンルをミックスしたような見事な続編です。いやこれは凄い。前作未見でも話は通じると思いますが、観ておいた方が断然楽しめます。

↓以下、ネタバレ含む。








■ドクター・スリープと呼ばれた男

あのメインテーマが流れ、ホテルの絨毯の柄をバックにタイトルが出る、というのにはアガらざるを得ませんよ。237号室のドアが開いて中の真っ黒な闇から徐々に何か見えてきて……というの怖い。ダニー少年は逃げ仰せた後もホテルの怨霊たちに付きまとわれ喋らなくなってしまいますか、ここでハロランさんが登場して悪霊を封じ込める箱の話をします。死んだはずでは、と思ったら彼もまた霊と言うか意識体みたいなものなんですね。40年後のダニーの前にも現れるのでそんなにずっといるんかい、とは思いますが、ともかくハロランが教えるのは「シャイニング」の使い方。それを使えば霊を閉じ込めることもできる。怯える一方だったダニー少年がバスルームの婆さん霊の元に行き、戻ってきてようやく母と喋ることで、ダニーは乗り越えることができた、かと思えるわけです。ただ、捕らえた霊は消えるのか、というダニーの質問をハロランがスルーしてるのが不穏ではあるんですよね。ともかく、この序盤からも本作が「シャイニング」自体をメインとした話であるというのは伝わってきます。前作の"トニー"も、単なるダニーのイマジナリーフレンドかはたまた二重人格かと思ってたらシャイニングのことだった、というのには唸りましたよ。

ニュージャージー、ニューハンプシャー、ニューヨークとやたらニューの付く地名が続きますが、それぞれの舞台で大人になったダニーとアブラとローズ・ザ・ハットが登場。三者が交互に映され、やがて少しずつ接点を増やしながら融合していく流れが非常に滑らかで、負け犬ダニーのドン底人生とアブラの真っ直ぐな明るさ、ローズたちの凶行という全く異なるドラマに地続き感が出ています。根底に共通項としてシャイニングがあるというのも大きいでしょうね。ダニーが「自覚しない人も多い」と言うように、人の善悪がわかるというビリーも一種のシャイニング持ちなのでしょうが、そんなビリーに誘われ禁酒セラピーに行ったダニー、ダルトン医師が忘れた腕時計の場所を言い当てるあたり力は衰えてはいないようです(あるいは酒を絶って復活したか)。自室で母と子の霊を見たりもしますね(あれは誰?)。あの医師と二人で部屋で話すシーンが、前作でジャックが面談を受けたシーンに似てないですか?ともかく、常に死の近くにいたダニーは、医師に誘われ勤めることになったホスピスで、猫に導かれて死に行く老人たちを自分の力を使って安心させて逝かせる、ということを始めます。「眠るのと同じだ」と直接脳に語りかけるダニーを老人は「ドクター・スリープ」と呼ぶわけです。


■ローズとアブラ

一方でローズ・ザ・ハット率いる「真の絆」たち、一見ヒッピーか新興宗教団体かと思いますが、彼女たちこそダニーがハロランから聞いた命を食べる者、闇の眷属とでも言うべきある種の魔物。人の生気を吸うことで命を長らえさせるという、これもまたシャイニングの一端なんでしょうが、より純度の高い生気を得るために、能力を持つ者へ恐怖と苦痛を与えるというのは、死に行く者へ安らぎを与えるダニーとは真逆の存在です。目が青く光るのは最初はどうかと思いましたが、暗闇で青い目が爛々と光るという画はなかなかに悪魔的な迫力。携帯やネットの影響で生気の質が落ちてる、というのが現代的ですが、一体いつから生きているのか、グランパなどは剣闘士の頃から云々と言われるので想像も付きません。特にローズは年齢不詳の美しさもあって余計そう思わされます。

それにしてもレベッカ・ファーガソンは悪役になっても素敵すぎます。能力はもちろん、終盤ダニーに物理でも傷を負わせるほど強く、それでいて両手を外側に反ったポーズが何かカワイイし、ダニーに乗っかって「その年でスゴい」とか言いながら生気を吸うのがなんかとてもエロいんですけど!スネークバイト・アンディも良いですね。ロリ親父を眠らせて金を盗ったあと頬に傷を付けるというのがエグい。彼女は本当に「スリープ」の使い手なのがダニーと対になってるかのよう。ローズがアンディを仲間にしたのは人の心を操る能力が便利なのもあるでしょうが、その闇の深さというのもあるのでしょう。つまり人の生気を吸うことを厭わない悪かどうか、です。死に際に、近付きすぎたビリーを操って自ら頭を撃ち抜かせるのなどは性悪です。

そんな彼らの犯行を目撃するアブラ。ラジオのように声を受信してしまうというアブラは、いつもイヤホンで音楽を聴いてるのも人の心の声が聞こえてしまうからでしょうが、その力の強さゆえに長大な距離を越えて救いを求める声をキャッチしてしまったのでしょう。襲われた野球少年もシャイニング持ちだから繋がってしまったんですね。この野球少年を演じるのは『ルーム』『ワンダー 君は太陽』のジェイコブ・トレンブレイ君。フラナガン作品の『ソムニア 悪夢の少年』にも出演してる縁なのか、出番はここだけという何とも贅沢な使われ方。でも恐怖と苦痛に打ち震える演技があまりに痛ましいのがさすがです。アブラが叫びながら起きるのも納得。

しかし自分の元を訪れたアブラに協力できないと言うダニー。今のご時世おっさんと少女が一緒にいたらヤバイよね、と自分で言うのには現代的な配慮を感じますが、それ以上に日陰で生きてきた故に腰が引けているようでもあります。ダニーは久々に現れたハロランに言われて考えを変えるわけですが、一周した、みたいに言うのが、終盤に今度は自分がハロランのようになる展開の伏線でもあるんでしょうね。そうして野球少年の遺体を掘り出したときの描写はショッキングで、喪失の大きさと奴らへの怒りを煽ってきます。


■オーバールック・ホテル

ローズはその強大な力を使うことで人を踏み台にする道を歩んでいますが、アブラもまたローズに匹敵する力を持つがゆえの危うさというのはあるんですよね。単身ローズと対峙して閉じ込め、手をズルむかせて情報を得るのは容赦がないし、目のない青い顔が怖い。この超能力絡みの演出では新鮮な描写も多く、幼いアブラによる天井のフォーク、アブラがローズの頭に入りカートを押していたり二人がガラスの向こうに相手を見たりといった頭の探り合い、ローズが空を飛ぶ姿を縦方向に流すシーンにはファンタジックな不気味さがあるし、グランパの死を悼みながら生気を吸いに群がる奴らには人間らしさを放棄した貪欲さが感じられます。長々と生きてきた化け物もホスピスの老人たちと同じように死を怖がるというのや、彼らが不死ではなく肉体が損傷すれば人間のように簡単に死ぬというのは面白いところ。あと印象深いのは時々鳴る心音のような効果音。シャイニング発動時に鳴るというわけでもないですね、何かが始まる、あるいは始めようというときに鳴るのかな?

ローズ以外の「真の絆」たちを葬ったダニーとアブラがローズを迎え撃つために選ぶのがあの「展望ホテル」という、ようやくここで前作『シャイニング』と繋げてきますか!というのにはたまげました。ハロランやダニー母、"REDRUM"の文字や浴槽ババアくらいだったのが、ここで一気にあの世界に引きずり戻されるわけです。荘厳にアレンジされたあのテーマ曲が流れ、あのときと同じ道を今度は夜に走るという不穏感。真っ暗で寂れたホテルが徐々に目を覚ましていく恐怖。かつてジャックが斧で開けたドアの裂け目からダニーが同じように顔を出し、『シャイニング』での怖がるウェンディのシーンがそのまま映され、ローズ来訪時にダニーが見つけるのが壁にかかった斧、とそれまでのギャップを埋めるかのように畳み掛けてきます。

でもここまでの丁寧な積み重ねがあるので、強引さはさほど感じないです。何よりバーテンのロイドとして父ジャックが出てくるのには震えますよ。ホテルに取り込まれたジャックは、酒を薬だと言い、人生という黒板の黒板消しだと言って、あの頃のまま変われずにいるわけで、それを拒否するダニーがセラピーで「父の分も感謝を」と述べたのが遡ってせつなくなります。ちなみに前作でジャック・ニコルソンが演じたこのジャックを今回演じたのは誰かな?と調べたら、なんとヘンリー・トーマス。『E.T.』のエリオットですよ、ブッ飛びました。


■輝かしい力

双子、"盛会ですな"さん、過去の殺人鬼なども総出で登場、もちろん浴槽ババアも再臨。つーかなぜいつもババアの方なのか、綺麗なお姉さんの方も出してほしいところですが、そんな頭の箱に閉じ込めていたダニーの宿敵たちがこれ以上ないほどの戦力となってローズに襲い掛かるのには燃えます。『レディ・プレイヤー1』でも再現されていた、あの有名なエレベーターからの血の濁流を「あらあら」くらいにあしらったり、実物より広大な迷路に囚われてもこれを破ったりと、ローズのラスボスっぷりが凄まじいだけに、ホテルの霊たち揃い踏みでローズを食らい尽くすのは圧巻。ジョジョ4部の吉良の結末を彷彿とさせますよ。直後、霊たちに取り付かれたダニーが負傷した足を引きずる姿が父ジャックを思わせるだけに、アブラにも同じ悲劇が訪れるのかというのもスリル。しかしダニーは父と同じ轍は踏まずに、霊たちを引き連れたまま最後は燃えるホテルのなか母に迎えられて去っていくのです。

ローズが最後の一人じゃないと言うのは気になるところですが、ダニーは後を託せるアブラがいるからこそホテルの呪いを断ち切る道を選んだのでしょう。それは13歳の少女には酷かもしれません。アブラは今回の自分の行動により父をも失っています(この父もまた物書きという類似性)。それでも真っ直ぐに正しいことをしようとするアブラを、ハロランと同じように霊体メンターとなったダニーは見守っていくのでしょう(ちょっと『スター・ウォーズ』みたいだけど)。多少の危うさも見守ることで教えられることもある、そしてその輝きを曇らせないようにする、ということですね。

ダニーの「君はそのままでいい、輝け(Shine On)」という台詞には、キングが「シャイニング」という言葉に込めた思いを感じるし、ホテルを登場させて燃やすことで映画版『シャイニング』にもケリをつけるという見事な結末。エンドロールの曲が前作と同じですが、この曲で不穏さを残した前作とは異なり、より優雅さと安心感が増してるようにも思えるのです。

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