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2019
12.06

登れ、走れ、手を取り合って。『EXIT イグジット』感想。

exit
Exit / 2019年 韓国 / 監督:イ・サングン

あらすじ
進撃の鉄棒男。



韓国の都心部の高層ビルの中で母親の古希を祝う会に出席していた青年ヨンナムは、そこで大学時代に片思いしていた山岳部の後輩ウィジュと再会する。しかしそんななか、突如謎の有毒ガスが街中に広がり、ガスを吸い込んだ人は次々に倒れ街はパニックに。ヨンナムは家族を鍵のかかった屋上から脱出させるため、命綱なしで高層ビルの壁面を登ることにするが……。韓国発サバイバル・パニック。

有毒ガスが蔓延した都市を舞台に、高層ビル群からの脱出を図る人々の姿を描くパニック・ムービー。色々と人生上手くいかない青年ヨンナムは、母親の古希を祝う親族のパーティー会場に出席し、その会場で副店長として働く学生時代の後輩ウィジュと再会して久々のときめき。しかし時を同じくして広範囲に広がる有毒ガス散布事件が発生、ヨンナムらのもとにも有毒ガスの危険が迫ります。いやこれ超面白い!どんどん広がり徐々に上方に上ってくる有毒ガスから逃れるため、山岳部出身の男女がビルの外壁を登ったり、より高いビルへ命懸けの移動をしたりと大奮闘。迫ってくるガスが白く目に見えるので追い込まれ度が半端なく、どんどん拡散するガスの不気味さ、さっきまで通れたところがもう通れなくなっている緊迫感と、一難去ってまた一難の連続。スピード感がありつつコミカルさもあって、見事なサバイバル劇となっています。

主人公ヨンナムは独身で就活中、体を鍛えるくらいしかやることもなく負け犬人生邁進中。ヨンナム役のチョ・ジョンソクは半泣きの表情でミッションに挑む情けない姿が絶妙にマッチしてます。山岳部の経験を活かして登ったり降りたり、学生時代彼がフラれた後輩のウィジュとのコンビで、成り行きで人々を助けながら決死の脱出を目指します。そのウィジュ役は『コンフィデンシャル 共助』ユナ。「少女時代」のメンバーながら役者としての活躍も目覚ましいユナ、今回は体を張ったアクションもこなします。そしてカワイイ。監督のイ・サングンはこれが長編初作品とのこと。製作に『ベルリンファイル』『ベテラン』の監督リュ・スンワンが携わってます。

山岳部ってこういうボルダリングがメインなのかはよく知らないんですが、要は『ミッション・インポッシブル2』冒頭のシチュエーションが街中で行われる感じ。でもそれだけではなく、様々な工夫を凝らした難関が次々に襲ってくるのが実にスリリング。とにかく高い場所で展開するので高所恐怖症にはヒーッとなるし、意外にも結構笑えるところもあって愉快。ヨンナムが無様に泣きわめくのが可笑しくもリアルで、それでも勇気を振り絞って立ち向かうのが熱いです。最後まで面白いぞ。

↓以下、ネタバレ含む。








ヨンナムは就職に失敗し恋人もおらず、一人公園でトレーニングに励むのを子供に見られて変人扱いされ、甥っ子にはシカトされ、婆さんにはお情けでサムズアップされる、という冴えない青年。姉にはしっかりしろとどやされ、両親や姉妹の旦那らには憐れまれ、本人はやる気はあるのに姪っ子には伯父さんみたいに気軽に生きたいと言われる始末。過去にフラれたウィジュに未練タラタラで、古希のパーティーをわざわざ彼女が働く高層ビルの会場に予約し、後輩なのに既に副店長のウィジュに見栄を張って就職もしていることにするというカッコ悪さ。この情けなさがまずあるので、余計に大丈夫かな?というスリルに繋がります。でも冒頭のトレーニングシーンがあるので肉体的な優位性には説得力を持たせてますね。それにしてもヨンナムの大家族がやかましくて、パーティーで大騒ぎしたり、もう終わってるのにカラオケやろうとしたりと、ヨンナムが「恥ずかしい」と言うのもわかるんですが、でもそんな家族を救うために一人勇気を振り絞って救助を求めようとするヨンナムが好ましいです。

窓をブチ割るのも一回でできないカッコ悪さを見せるヨンナムですが、ロープやチョークやカラビナといった装備を整えるシーンにアガり、ファインディングルートに緊張感を募らせての最初の難関、ビルの壁面を伝って屋上まで行くのは、ちょうど足場がある都合のよさはあるもののそれもギリギリの配置だし、まさかのオーバーハングがあったり、つかまったライオンの飾りの牙がもげたりと、のっけからスリル満点。このシーンは特に高さを意識させるカットが多くて肝が冷えます。完登した後に電飾の点滅でヘリを呼ぶウィジュの機転もイイ。しかしヘリの定員オーバーで乗れないウィジュのために自身も残るヨンナム。ウィジュに迫ってたのに自分はとっととカーゴに乗り込むクズ店長とは違い、主人公の資格十分です。もちろんウィジュへの未練はあるわけですが、人のために危険を顧みない彼の人柄が描かれてきてるので、単なる下心には見えないんですよね。泣きそうになってるし。また過去に完登できなかった悔しさ、今の己の不甲斐なさを乗り越えようという自分との戦いも無意識下にあるのでしょう。

ガスなんて無色なものがほとんどだと思うんですが、そこをあえて白濁した色を付けることで、容赦なくせり上がってくる様子にタイムリミットものの焦りを加えるし、街中がガスに沈む光景が一種の異世界感まで醸し出します。あとこの世界に二人だけ、みたいなちょっとディストピアでの恋愛ドラマ的なシチュエーションにもなるんですね。とは言えいっぱいいっぱいなので恋愛的な進展はほとんどないんですけど。実際は眼下に倒れている人がいっぱいいる気がしますが、それを隠す意味合いもありますかね。あと思いの外コミカルなシーンがあるのが楽しくて、ウィジュのために駅で防毒マスクを探しに行くのに、何か言おうにもマスク越しだと聞こえないんでウィジュが置いていかれたと思っちゃったり、ウィジュが必死で登った屋上スペースに実はハシゴがあったり、向こうのビルに重しを投げるときにウィジュが体重を気にしたり。地面にシュバッ!て矢印を作る動きなども愉快。もちろんサバイバルものとしての工夫も随所にあり、テレビで見た手作り防護服を着込んでより高いビルを目指す、ヘリが大人数を優先するからと看板やマネキンで20人と偽る、途切れた通路に欄干を橋としてかけて渡るなど、技術と機転とあとは勇気で進んでいく二人には声援を送りたくなります。

ヨンナムもウィジュも決してヒーローではなく、特に強い人間というわけでもなく、なんなら本当は自分が助かりたいのに、でも閉じ込められた子供たちを優先させたりするのがいじましい。しかも泣きながらです。怖くてたまらないのに、善人であることを捨てられないんですね。結果として誰も傷付く場面がないので、嫌な気分にならずひたすら二人を見守ることになるわけです。パニックものでよくある人間の醜さ、というものがほとんどないのは珍しい。やがて親父の暴走のかいあってドローンに生存を映されて、本当に声援を送られるようになる二人。声は聞こえないものの、それでも孤独じゃないと希望を示す大量の有志たちのドローンに、無様に泣きわめくのをやめてひたすら屋上を駆ける二人の、何という疾走感。ドローンがこんな好意的に使われるのもまた珍しいです。絵面的に『ニューヨーク東8番街の奇跡』を思い出しましたよ。

常に泣きそうでいっぱいいっぱいだけど家族のために命をはり、少ないチャンスに勇気を振り絞り、手を繋いでただただ必死で立ち向かうヨンナムとウィジュ。終盤、隣ビルへのジャンプで落ちたと思った二人がなぜ無事にクレーンに辿り着けたのか、それは真下にあったネットでボヨンと中に入れた、というのをエンドロール直前のダイジェストでちゃんと流すのがフェアです。こうして見事に"完登"したヨンナムに真っ先に駆けてきて抱きつくのが、変人の伯父を避けていた甥っ子だというのが泣かせます。ガスを吸った姉も助かり、父は息子に「ありがとう」と言い、ヨンナムは「おんぶしたかったんだ」と母を背負って泣きます。ちょっとみんな泣きすぎな気もしますが、鬱陶しかった家族が暖かいものに変わるのでまあいいでしょう。ウィジュは『ダイ・ハード』の奥さん張りにクズ店長へ怒りの鉄拳!女性がクズ男を最後にブン殴る、というのは最高ですね。

そしてこの二人、最後にいきなりくっついたりしない、というのがまた良いじゃないですか。カラビナが重いから「今度」返す、とまた会う口実をあげるウィジュのキュートさ、その意味にようやく気付くヨンナムの鈍さ、というのもまた爽やか。そう、本作は逆恨みからの凶悪なテロの話でそれによる死傷者も出てるであろうに、あえて娯楽に振り切ることでとても爽やかな着地をするんですよ。これはテロを背景としたジャンルの韓国映画としても珍しいかも。そしてヨンナムは恋の"完登"ができるのか、という始まりの話でもあるのです。

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