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2019
11.20

踊り、狂い、目撃せよ。『CLIMAX クライマックス』感想。

climax
Climax / 2018年 フランス、ベルギー / 監督:ギャスパー・ノエ

あらすじ
フランスが誇る映画(自称)。



1996年のある夜、有名振付家の元に集まった22人のダンサーたちは人里離れた建物でアメリカ公演のための最終リハーサルを行っていた。リハーサルが終わり打ち上げパーティーが始まって、特製サングリアを飲みながら楽しむダンサーたち。しかしそのサングリアには何者かによりLSDが混入されていた……。壮絶な一夜を描くトランス・ムービー。

『カノン』『アレックス』『LOVE 3D』などのギャスパー・ノエ監督が、酒とドラッグにより繰り広げられる狂気の夜を描きます。今まで何となくイヤな予感がして敬遠していたんですが、今作で初ギャスパー・ノエをキメてやはり予感は当たってたな、というくらいエグい作品(それでも今までのなかではエンタメ寄りらしいですが)。ある有名な振付師のオーディションを受けたダンサーたちが雪の降る郊外にある廃屋に集まり、公演に向けた最終リハを行います。無事にリハも終わり、じゃあ打ち上げだと大音量の音楽を鳴らしてお手製サングリアを飲み始めるものの、誰かがそのサングリアに投入したLSDによりどんどん様子がおかしくなっていく面々。かくして洒落にならない一触即発の宴が始まります。狂乱の修羅場、幻惑される恐怖。凄まじい長回しや特異な演出に取り込まれ、絶叫と嗚咽と怒号と慟哭に囲まれていきます。

セルヴァ役は『キングスマン』『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』ソフィア・ブテラ。彼女が振付師ということなのかな?元々バレエ出身でダンサーでもあるのでソフィアも踊るシーンはありますが、DJダディ役のキディ・スマイルと子役の男の子を除けば、他はみんな役者ではなくプロのダンサーだそうです。この22人ものダンサーが見せるダンスシーンはひたすら圧巻で度肝を抜かれます。最初はやたら人数が出てくるので覚えきれない、と思いますが何となくわかってくるし、しかもこれだけの人が演技や台詞をほぼアドリブで行っているらしいんですよ。マジか。信じがたい。

知らずに飲んだドラッグ酒は、そこにいる全ての者を巻き込みながら、人間の本性を露わにしていきます。ビートの効いた音楽が歯止めの効かないアゲ感に拍車をかけ、集団心理はちょっとしたきっかけで生け贄を見つけ出し、生の高揚感と表裏一体の死の恐怖が渦巻きます。しこたま飲んで悪酔いした気分を、酒なしで味わえるという地獄映画。二回は観たくないなーと思ったけど、日が経ったらまた観たい気もしてくるのが不思議。ただし観るための気力・体力は必要です。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭、雪原を薄着で逃げてくる一人の女性。いかにも何か事件が起きた、と言わんばかりの『ウインド・リバー』のような始まりですが、上からの俯瞰で倒れた女性を執拗に映しながら、ぐるりと回ったカメラが徐々に下に動くと雪の白が空に繋がり舞台の建物が映る、この流れが美しくも不穏です。そしてオープニング、かと思いきやエンドクレジットが始まるという奇抜さ(これはもうちょい後だったかな?)。そしてテレビに映るインタビュー風の映像。どうやら有名振付師のオーディションを受けに来た人々の面接のようです。それぞれがダンスへの情熱を語りながらも、家族のことや異性関係、ドラッグ経験の有無を語り、なかには他人を見下すようなことを言ったりフランスの素晴らしさを謳う者も。これが10分は続くでしょうか、やたら長いし、そのわりには各人の名前と顔を覚えるところまではいかないし、ただそのなかで「家族には理解できないから言わない」とか、妹の恋愛事情を聞いて真顔になる兄とか、「パートナーがLSDを目薬のように差す」という発言など、後の展開を示すような会話があるんですね。さらにそれが流れるテレビの脇には『サスペリア』『ポゼッション』と言ったホラーやサスペンス映画のビデオパッケージが山と積まれています。不穏さしかありません。

その後ようやく話が転がりだす、かと思いきや、今度は全ダンサーが入れ替わり立ち替わりで前へ後ろへ動きまくり踊りまくるダンスシーン。赤い部屋のなか、20人超の人々が蠢き、舞い踊り、その身体性を見せつけるダンスは相当な迫力。ダンスの種類とかはよくわかりませんが、肩をぐねぐね回したり新体操のようなリボンをひらめかせたりと多種多様。そしてこれもカットを割ることなく映し続けるので長い長い。ダンサーって肩柔らかいなーなどと思いながら観てましたが、ただこの時点ではまだしっかりした「ダンス」として見れます。ようやく終わったところで、打ち上げがスタート。しかしこの後もいくつかのエピソードはあるものの、全体を通してのストーリーらしきものはほぼありません。打ち上げのなかで、誰が酒を飲んで誰が飲まないのか、誰が誰を落とそうと狙っているのか、誰と誰が話しているのかというのが次々に映されていき、酒も入って気分がアッパーな者、逆にダウナーな者、様々に入り乱れます。この間、ダンスシーンからずっとワンカットというのが驚異的で、これが息苦しいほどの臨場感。

ようやくカットが途切れたと思ったら今度は延々と続く会話シーンです。これが常に二人ずつの会話が次々切り替わるというもの。誰が誰を疎み、誰を狙い、誰と仲がよいのか、そんな他愛もない会話だったのが、徐々に喋ってる内容がゲスな方向になっていき、しょうもない話に爆笑したり、感情を露にしたりしていきます。国旗が嫌だとか言う人もいてもうよくわかりません。この辺りからサングリアに入れられたLSDの効力が出てきたのでしょう。しかもそんな状態で踊ったら絶対ヤバいというダンスバトルが始まり、輪の中で一人ずつ踊るのが続き、やがて二人ずつのダンスに変わります。これをずっと俯瞰的な上からのアングルで映し続ける。そりゃ踊る方も観る方もトリップしてきますよ。やがて本性なのかバッドトリップなのか、暴力的になる者、欲情する者、泣き叫ぶ者が続出、男女間や男同士、女同士も垣根が曖昧になって入り乱れ、鳴り続ける音楽のなかどこからか悲鳴や怒号が聞こえるという阿鼻叫喚の事態に。放尿とかあれリアルだよね?あれもアドリブなのだろうか?

酒を飲んでないというだけでオマーは外に放り出され、頼れる兄貴だったはずのDJキディはラリラリで見る影もなく、ダヴィッドは蹴りまくられてもヤることしか考えず、兄は妹への欲望を露にする。なんとか理性を保とうとするセルヴァもムラムラを抑えきれない。妊娠したというルーが腹を蹴られ皆に煽られて自ら腹を殴るのはすげーイヤだし、息子のティトを閉じ込めたエマニュエルが鍵をなくして息子を出せないうちにティトが感電してしまうというのはもっとイヤ。そんななか一人ずっとうねうね踊ってるヤツがシュールでもあり狂気でもあります。足元がぐらつく怖さと、毒気に当てられて気持ち悪くなるようなヤダ味をイヤというほど味わえますね。ああ調子にのって飲み過ぎて悪酔いしたときってこんな感じだよね、というのをまざまざと見せつけられているようですよ。ぐるぐる回るカメラに字幕まで逆さまに出すという念の入れように、これだけ狂っててもワンカットで映し続けるとか常軌を逸してます。いや本当どうやって撮ったんだろう。これを「フランスが誇る映画」と言い切るギャスパー・ノエ、すげーな。

朝がきたときの祭りのあと感も凄まじい。様子を見に来た人々が目撃したのは、血とゲロと尿にまみれた狂騒の傷痕。外に出された男に、息子を失った母などのいくつもの死体。しかし奥の部屋にはしっぽりやって幸せそうな二人もいれば、なんでお前らがくっついてんだというダディと若造、何もなかったと言いながら「パパに言うなよ」と妹に釘を刺す兄。冒頭の雪のなかで泣き叫んでいたのはルーだったことにも思い至ります。最後に犯人が出てきますが、途中で笑いながら立ってた女だ、とは覚えがあるものの、こんなヤツ最初からいたっけ?LSDを目薬のように差す、というのを誰かが言ってたけど、誰だっけ?と、一人ずつのインタビュー、二人ずつの関係などをあれだけ映していたのに、もはや誰が誰だったかよくわかりません。と言うか全ては後の祭りで、残るのは取り返しの付かなさなのです。しかし振り返ってみると、この狂った一夜に感じるのは生の享楽、解放というプリミティブな喜びであるとも言え、同時に生と死の境界がいとも簡単に崩れることの恐ろしさであり、これもまたプリミティブなものなのです。強烈なアンチ・ドラッグムービーでした。

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