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2019
11.09

燻る未来を救う過去。『空の青さを知る人よ』感想。

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2019年 日本 / 監督:長井龍雪

あらすじ
目玉スター!(鬼太郎の親父ではない)



姉のあかねと二人で暮らす高校生のあおいは、受験勉強もせず東京へ出てバンドをやるためベースの練習をする日々。そんななか町の音楽祭に招かれた大物歌手のバックミュージシャンとして、あかねの元カレである慎之介が町へ帰ってくる。同じ頃、あおいの前にはあかねと別れる前の13年前の姿をした慎之介が現れるという奇妙な事態が……。長井龍雪監督による青春アニメ映画。

13年前に事故で両親を亡くしたあかねとあおいの姉妹。当時高校3年生だったあかねは恋人の慎之介との上京を断念して地元で就職し、以来あかねが自分のために親代わりをしてきたことに負い目を感じるあおいは早く一人立ちしようとバンドでの成功を目指します。そんなとき突如あおいの前に現れたのが13年前と変わらぬ姿の"しんの"こと慎之介。過去からやってきたのか生き霊なのかもわからず離れの部屋からは出られないしんのにより、あおいの心は乱されていきます。時を同じくして行方知れずだった本物の慎之介も町に戻ってきて……というお話。いやもう最高に良かった!とんがったあおいの姉への思い、泰然としたあかねの選択した人生、という姉妹のドラマに泣かされ、未来を夢見るしんのとやさぐれてしまった慎之介の自分対自分の構造が響きます。なぜしんのは現れたのかという謎、あおいのせつない恋心、それら全てが絡み合い昇華されていくのが素晴らしい。

相生あおい役の若山詩音は、現状に苛立ち鬱屈した思いを抱える高校生を繊細に熱演。その姉で眼鏡が似合う相生あかね役は『見えない目撃者』吉岡里帆で、こちらも穏やかな振る舞いのなか、ふとした折に見せる感情が細やか。そして驚くのが金室慎之介役の『キングダム』吉沢亮、これがもうべらぼうに上手くて、高校生のしんのと大人になった慎之介の演じ分けも絶品、本職としか思えない演技には脱帽です。あと大物演歌歌手の新渡戸団吉役は松平健で、能天気さが良い感じ。監督の長井龍雪、脚本の岡田麿里、キャラクターデザイン&総作画監督の田中将賀は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』に続く布陣です。あ、埼玉県の秩父が舞台というのも共通してるんですね。

作画は高レベルで風景などの描き込みも細かく没入感を高めます。あいみょんの歌う主題歌も良いですが、「ガンダーラ」という選曲も秀逸。現実の厳しさに諦めた現在、どんな夢も叶う場所を目指した昔。あの頃の姉と同じ年になった妹が知る、姉の本当の姿。そんな描写に何度も泣きそうになりつつ、思いがけない爽快感までもたらす。珠玉の青春物語です。

↓以下、ネタバレ含む。








自分の選んだ道を諦めない。言うのは簡単ですが、夢と現実の違いに打ちのめされ、自分と現実を擦り合わせて生きていく、というのはまあ誰にでもあること。特に30代にもなるとそれは顕著に表れますね。東京に出てバンドやってビッグになって、という夢とは裏腹に、演歌歌手のバックミュージシャンとして生計を立てる慎之介もまさにそうで、彼が地元に戻らなかったのも目指したビジョンとは違う自分を見せたくなかったからでしょう。そんなやさぐれた自分をカッコ悪いとやじり倒すのが過去の自分、というのが本作の特徴。過去の自分と未来の自分が対峙する、というのは最近でも『HELLO WORLD』『ジェミニマン』と被りますが、タイムトラベルでもクローンでもない若きしんのは一体何なのか、というのが一つのミステリーとなっています。しっかり具現化してるし、あおい以外の人、大人の慎之介自身にまで見えるので、どうも生き霊でもない。それはあかねと別れたときのしんのであり、あおいが憧れていたしんのである、というのがメインの三人に大きな意味を持ちます。

全てが気にくわずナイフみたいに尖っているあおい。一心不乱にベースを弾く姿がロックです。「あかね好きだな」って本人に言われるほど姉のことを思っているのに、周りが必要以上にあかねを誉めそやしあおいに感謝を強要してくるので反発心が沸いてしまいます。いかにも軽そうな級友の千佳とも反りが合わず、いつも一人。でも単身上京しようとするのは、あかねが自分のために諦めた人生から解放させるためなんですね。あおいが夢見る「どんな夢も叶う場所」は、あかねが幸せになるという条件も含まれているのでしょう。それはかつてのしんのが目指した場所でもあります。アレンジしたゴダイゴの「ガンダーラ」を二人とも歌うのが印象的ですが、この歌詞がまさにそうですね。そんな張り詰めたあおいを、しんのは常に肯定します。自分と同じ「目玉スター」だと言ってあおいの夢を応援します。あおいが自分の上京の動機を不純だと認めるしかないくらいに。と同時に、認めてくれる存在であるからこそ、あおいは素直さも取り戻していきます。

一方のあかね、だいぶ年の離れた姉妹ですが、あおいとは異なりのんびりした感じで、むしろ超然としているというのが似合います。しかも結構な肝っ玉。友人で同僚の正道こと"みちんこ"に「自分で選んで生きてきた」と言うのが、強がりではなく確かにそう思わせる毅然としたところがあります。状況的にしんのとの東京行きは諦めざるを得なかったものの、彼女はそれを受け入れてこの町にとどまることを選んだんですね。恋人のしんのがいくらツナマヨがいいと言ってもおにぎりの具はあおいの好きな昆布、というのを貫いたように。あおいが見つけた秘密のノートに家事育児のためのメモがびっしり書いてありますが、それこそがあかねの覚悟の表れでしょう。でも辛くなかったわけではない、というのは、再会した慎之介とやっと普通に喋れるようになったあとに涙することからも窺えます。眼鏡に滴が落ちるという涙表現で、泣き顔はあおいにしか見えてない、というのがせつない。ある意味まっすぐ進むあおいと立ち止まったあかね、まさに青と赤の姉妹なんですね。

慎之介が町で千佳に会うところで、まさか女子高生に手を出すという取り返しのつかない展開じゃあるまいな、と思ったらそれはなくて一安心。人が変わったというより周囲が変わった故の変化が表に出ていたということなのでしょう。しかしついに慎之介がしんのに出会ったとき、過去の自分は周囲の変化に迎合した今の自分をなじります。でもしんのは「前に進むために閉じ込めた思い」であり、今の慎之介がそれを持っていないのも当然なのかもしれません。あかねを見たしんのが「可愛いばばあだ」と言うのは言葉自体は酷いけど愛情を感じるし、それは慎之介が確かに持っていた思いでもあります。そしてギターの弦が切れたことで解放されるしんの。それは弾けなかった曲=言えなかった思いが溢れたからなのか。出れないしんのを引っ張るあおいという不思議な物理法則のシーンが面白いですが、その後に空を駆ける二人には、それまでの打開できなかった現状を一気に飛び越えるような爽快感が弾けます。そしてあおいが初めて知る「どこにいたって空は青い」ということ。それは地元に縛られたあかねが不幸だというあおいの認識が、独りよがりな決め付けであるということをも示します。

軽そうな千佳が意外とよく手伝ってくれる娘だとか、みちんこの息子のつぐが冷静な上に人生設計半端ない小学生だったりとか、脇の人物たちも魅力的になっていくのが良いですね。そしてしんのに会った今のあかねの思いと、それを聞くしんのの納得、無事を見て姉に駆け寄るあおいと、ようやく過去に追い付けた慎之介。井の中の蛙だったあおいは空の青さを知り、あかねは初めてツナマヨのおにぎりを作ろうとし、それを聞いてしんのはようやく消えることができます。過去と現在が理解し合うことで未来が生まれる、ということなんですね。いつだって道は半ば、そんな希望に満ちた終わり方でした。エンドロールに写真の形で映される「その後」は正直蛇足かなあとは思いますが、見たら見たでそれも心地好いのです。

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