FC2ブログ
2019
10.31

演じて救え、気絶のヒーロー。『スペシャルアクターズ』感想。

special_actors
2019年 日本 / 監督:上田慎一郎

あらすじ
シャワーを!



役者を目指す和人は極限まで緊張すると気絶してしまうという症状に悩まされていた。ある日数年ぶりに再会した弟の宏紀から、日常で演じる仕事を請け負う俳優事務所「スペシャル・アクターズ」に誘われる。何とか仕事をこなしていく和人だったが、そんななかカルト集団から旅館を守ってほしいという依頼が事務所に飛び込んでくる……。上田慎一郎監督による長編第2弾。

単館上映から全国公開にまで拡がって大ヒットとなった2018年の『カメラを止めるな!』、その監督である上田慎一郎が再び脚本・監督を務める劇場長編です。何でも屋的な俳優事務所「スペシャル・アクターズ」にやってきた冴えない若者・和人が、同じく役者を目指す弟や他の役者たちと共に、旅館乗っ取りをもくろむカルト集団へ芝居を打って対抗するというお話。無名の役者たちを起用し、役者や芝居を題材にした小規模な群像劇ということで、最初は『カメ止め』と同じような感じだなあ、と思ってたんです。でも構造としては異なるし、多少の不自然さに引っ掛かりながらも観ていると、最後の思いもかけない展開にやられます。『カメ止め』再び、を求める要望もあっただろうし、それでなくてもプレッシャーは相当なものだったと思いますが、そこから大きくは逸脱せず、でも新しいものをという苦心が窺えるし、茶番に見せつつしっかり新たな驚きを入れてきたのには感嘆。

プロアマ問わず1500人のオーディションから選ばれたというキャスト陣は、上田監督が当て書きしたということもあってみんな役柄に合いまくり、かつ個性的なキャラクター。緊張すると気絶する大野和人役の大澤数人、その弟で若干チャラい大野宏紀役の河野宏紀を始め、社長の富士松役の富士たくや、その娘で鮎役の北浦愛、シナリオを担当する田上陽介役の上田耀介、演技が過剰すぎる清水八枝子役の清瀬やえこらが所属するスペシャル・アクターズ組に、教団を取り仕切る大和田克樹役の三月達也、教祖の大和田多磨瑠役の淡梨、色っぽさがヤバい七海役の櫻井麻七らのカルト集団ムスビル組、さらにムスビルに入れ込んで旅館を渡そうとしている女将の津川里奈役の津上理奈、その妹で超可愛い祐未役の小川未祐という旅館めぶき組と多種多様。キャストの名前がみんな役名と似てるというのは演技に入りやすいからかな?役名からそのまま役者たちの名前を覚えてほしいという監督の思いもあるのかもですね。

主人公が精神的持病持ちで社会的弱者で若干の妄想癖もあり役者を目指すも芽が出ない、ってほぼ『ジョーカー』なんですが、後味が真逆というのが面白い。計画を練って演技練習を重ね、胡散臭い奴ら相手の騙しのミッションにチームで挑む、というのにはケイパーもののスリルもあります。そして群像劇に見せながら実は和人の成長物語でもあり……という構造の妙。面白かった!あとおっぱいは安らぎです。

↓以下、ネタバレ含む。








『カメ止め』ではフィクションを現実が侵食していくという形でしたが、本作は現実をフィクションが凌駕していくという構造の違いがありますね。どちらもその現実部分がハラハラする紙一重感が共通していると言えるでしょう。あと若干の不自然さ。宇宙から電波もらってスゴいぞ、というムスビルはあまりに怪しすぎるし(そもそも奇跡を見せないから信憑性が薄い)、いくら教祖が怖がりだからってオカルト話で何とかしようとするの?というのもちょっとだけ引っ掛かるんですが、そういう不自然さが実はフィクションであるからという、瑕疵に見せてのヒントじゃないかとも思えます。和人が一度死んだのに超人として復活なんてさすがに信じる人いるの?とも思いますが、ターゲットにしてみれば積み重ねがあるので信じるのだろうなあ。などと思ってたら、このシーン自体が和人のためのものだというのが後からわかるわけです。この旅館乗っ取り阻止作戦が冷静に見れば茶番に見えるから、さらにそれを包む計画が茶番に見えない。こういうミスリードもあるかーと感心します。

あと、キャラが強い。パッと見そこまで濃いわけではないし、皆が超個性的というわけでもないんですが、キャラ同士が全く被ってないのとキャラ同士の絡み方、フォーカスされた際に意外とインパクトを残すのとで印象が強いんですよ。むっちゃ軽い感じの社長の富士松はシナリオの田上に「ボス」と呼ばれないことで扱いまで軽くて笑うし、娘の鮎はヤンキー感が半端なく宏紀がお気に入りなのと絡めて印象深いし、演技過剰でクレームがくる八枝子は最高です。信者の奥さんや若者は意外な行動や正体で一気に飛び込んでくるし、占い師とか長髪とか番頭さんとか原田医師などは見た目も強い。まあ見た目で言えば口半開きのパーマ教祖が抜群なんですが。ムスビルはおむすびというキャッチーさと薄緑色のイメージカラーがくどくていいですね。大和田の仰々しいけど滑らかな語り口や幹部男性のいかにも口が上手そうな感じも胡散臭さ抜群、女性幹部がおっぱいで攻めてくるの卑怯だな!と思ったら寄せ上げというショッキングさも抜群。旅館の女将は某女性芸人にちょっと似てますが「断口」のため喋らないまま佇んでる画が強いし、妹の祐未は可憐だけど意思が強い。

そんな強い人たちに囲まれてるのもあって主人公である和人は余計パッとしないんですが、仕事もなくし家賃も払えずすぐ気絶する和人からは目が離せません。自分に失望して自信を失い、医師に「ずっとこのままなんでしょうか」と聞くのが痛々しく、おっぱいボールに安らぎを求めるのがやるせないです。それで役者を目指すのは無理があるように思えますが、自分を変えるためという思い、そして幼いころから見続けているヒーローもの「レスキューマン」への憧れがあるので、そこは不自然でもないんですよ。和人と宏紀の兄弟に関しては不自然さが特に少なく感じるのは、この二人こそが本作のリアルだからでしょう。宏紀の「兄ちゃんに救われた」と言うのが伏線であり、ゾンビかと思いきやスーパーパワーで殺しまくる和人にはバレるんじゃないかとヒヤヒヤするのに、宏紀の「行け、ヒーロー」と呟くのに思わず震えてしまうのも、後から振り返れば納得。

ただ、肝心の「レスキューマン」があまりにもダサくて目を疑うのはどうなんだという気もしますが……一応スーパーマン的なヒーローのようですが、まあそこはわかりやすさというのもあるだろうし、腕力ではなく念力みたいなので敵を倒すのも和人で再現させるためには必要なのでしょう。ん、ということは和人が女将に「キャサリン」とか言ってチューしようとしてビンタ食らうのはアドリブってことなのか。ナイスビンタ。ともかく自信を取り戻した和人はとりあえず気絶することもなくなりめでたしめでたし。正直ここで終わりだと本気で思ってたので、最後の大仕掛けの種明かしには仰天ですよ。ムスビルの「ムッスー」や「シャワーを」といった台詞のキャッチーさ、揃いのシャツにブロマイド、四十万する(どう見てもしない)オブジェなどの金のかけ方、社長が最後にボスと呼ばれる芸の細かさなど、予算も手間も凄いな!宏紀は相当忙しい身のはずですが、仕事大丈夫か?

思い返せばカメラは常に和人の見ている場所から離れなかったし、またもや2回目でもより楽しめる映画になっているわけですよね。そしてスペシャル・アクターズの「芝居で解決する」というノウハウと兄を思う弟の心が、ヴィランに落ちかねなかった和人をヒーローにする、というまさにレスキューなのが熱い。そりゃあ緊張してなくても気絶するってもんです。

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1604-8721b966
トラックバック
back-to-top