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2019
10.25

感情なきバディと、動かぬ体で復讐を。『アップグレード』感想。

Upgrade
Upgrade / 2018年 アメリカ / 監督:リー・ワネル

あらすじ
許可する!



妻と共に平穏な日々を送っていたグレイは、突然謎の集団に襲われて妻を殺され、自身は全身麻痺となってしまう。しかし巨大企業の天才科学者にAIチップを体内に埋め込まれたことで、超人的な身体能力を手に入れる。グレイは妻を殺した者たちへの復讐を始めるが……というSFアクション。

妻を殺され四肢麻痺にされた男がAIチップで無敵化する近未来SF復讐劇。これは面白い!完全自動運転カーが走る時代にガソリン車の修理を営むグレイ。ハイテク企業に勤める妻のアシャとは真逆のアナログさですが、二人は仲良し夫婦。しかしある仕事の帰りに妻と乗っていた車を何者かに襲われ、悲劇に逢います。生きる気力をなくし車椅子生活を送るグレイ、そこに現れた元顧客でもある天才科学者エロンは、自社の最新AIチップ「STEM」を脊髄に埋め込めば動けるようになると告げます。秘密裏に手術を行ったグレイは体の自由を取り戻したものの、突然STEMが頭のなかで話し出し、超人的な身体能力を発揮し出します。AIによる操作で意思とは関係なく戦う姿は『ロボコップ』のようでもあり、体内の声と会話する様は『ヴェノム』のよう。そんなグレイが復讐のため次々と犯人たちを追い詰めていく超人アクション、妻の死に隠された真実への驚き、二転三転するミステリーと、畳み掛ける面白さが抜群。

主人公グレイ役は『プロメテウス』『スパイダーマン ホームカミング』のローガン・マーシャル=グリーン。この人が今回トム・ハーディに似て見えるのでさらに『ヴェノム』感が増すんですが、どこか拭えない不穏さにより別物になっています。妻役のメラニー・バレイヨが美しくて素敵だし、天才エロンを演じる『ニード・フォー・スピード』ハリソン・ギルバートソンがデイン・デハーンを思わせる儚げな美青年で良いですね。またコルテス刑事役が『ゲット・アウト』の泣き笑いの人、ベッティ・ガブリエルで存在感あります。

監督は『ソウ』シリーズや『インシディアス』シリーズの脚本や監督(『アクアマン』などで役者もやってる)リー・ワネル。ということで、ちょっとスリラーの入った演出も納得。自動運転カーやタブレットのようなテーブル、車イスでも困らない設備群に人と機械の融合など、現実からの地続き感があるSF設定も良いし、思わぬ着地を見せるラストにも感嘆。そしてタイトルの意味するところに戦慄します。

↓以下、ネタバレ含む。








まずは何と言ってもグレイとSTEMのコンビネーションですね。脳の信号を経由して体に伝えることで四肢麻痺の体も動かせるようになるという夢のようなチップ、STEM。的確な判断と各種スキャン、超人的な体さばきをこなし、画像解析能力も優れ、エロンが「車の運転でも何でもできる」と言うように外部の電子機器を操ることもできる、とほぼ万能。電気信号だけであそこまで動けるものか?という気はしますが、脳の信号が増幅されたのだと思えばありでしょう。元の肉体が頑丈じゃないと体が壊れそうですがグレイはガタイもいいし。STEMが操作しているときのグレイは本当に操られている感が凄くて、体を伸ばしたまま起き上がったり突然変な方向に動いたりノールック・ショットまでお手のもの。演出もさることながら、これは演じるローガン・マーシャル=グリーンのパントマイム的演技が凄いですよ。突然喋り出すのには驚きましたが、これにより自分の体内にいるAIとのバディにより妻への復讐に向かうという、一見たまらん設定が提示されます。

STEMはどこまで何ができるのかに注目したくなりますが、それ以上に何のためにというのが実はずっと引っ掛かるところではあります。心が読める訳ではなくグレイが口にした言葉しか理解できないのに、最初に現れるタイミングが犯人の手掛かりが写った写真の場面。解析したタトゥーをプリンターみたいに出力するのが面白いんですが、なぜ犯人への復讐を手伝おうとするのかが釈然としません。人と機械のバディを期待もするところですが、『ヴェノム』と違って体を一にする共生体というわけでもなくあくまで機械。しかも見つけた相手を容赦なくブチ殺すという歯止めの効かなさにはちょっとうすら寒いものがあります。さらには余計なことをするなという意味で「何もするな」と言ったのに、本当に何も機能させず四肢麻痺に戻る、というのは、一見機械的な命令に従ったように見えますが、一方で脅迫にさえ思えます。インプットなんちゃらを削除して「もう許可は必要ない」と言うのも怖い。感情がない、体を支配できる、殺人も厭わないというのが終始不穏さを醸し続けるんですが、ただそこはもう少し抑えた方がラストの驚きは増したかもしれません。

グレイは基本善人です。彼自身が犯人を見つけろとSTEMに言うのに、殺したくないとも言います。でもSTEMが淡々と復讐を助成するので目をそむけることもしばしば。おかげで四肢麻痺だからと容疑者から弾かれたのにコルテス刑事には疑われ、さらにはエロンによる追跡も行われます。エロンはいわゆる天才実業家みたいなイメージではなくちょっと儚げな感じですが、これが後の展開を考えるとしっくりきますね。海岸にある岩の間の階段を降りると地下に豪邸という美術もイイ。で、グレイはさらに妻を殺した奴らとも戦うことに。元兵士である彼らもまたチップや機械を使った強化人間であり、手に埋め込まれた銃で殺すというメリットありそうでそうでもないような仕掛けが面白いし、STEMとの超人バトルもエキサイト。ナノマシンのくしゃみで殺すとかヤバいです。ライバル社の部品が体に使われていたというのはフェイクなのかな?手掛かりを探りこの兵士軍団のボスへ至るミステリ的な展開にもワクワクしますが、真相が明らかになっていくたびに不穏さはどんどん増していきます。

妻アシャが何か国家的陰謀にでも関わっていたのでは、というのを予想しますが、それはミスリード。敵ボスの通話記録にエロンの声が入っていることで全てはエロンが仕組んだことなのか、と驚愕します。でもエロンが見せる悲しく苦しげな表情がどうにも引っ掛かる、というところで明かされる、狙いはアシャではなくグレイだったという真相。久々にミステリとして震えましたよ。グレイとアシャの乗る車がエラーになったのは車内でエロいことしようとしたからか?と思ってましたが(違うよ)、カーチェイス中にSTEMが見せたように操ったからだし、兵士ボスを「不完全だ」として始末するのももはや用済みだから。そしてマシンであることを超えてさらなる進化を遂げるためにグレイをターゲットにした計画を立てたわけです。必死で抵抗するグレイをよそに、頭をブッ刺されて死ぬエロン、撃ち殺されるコルテス。このまま乗っ取られてしまうのかと思った矢先、グレイは思わぬ場所で目覚めます。

まさかの夢オチか!?と一瞬焦りますがそんなわけはなく、ハッカーの家で見たVRに興じる人々を「信じられん」と言っていたグレイが、耐えきれない現実ゆえにそこに囚われてしまうというのは何とも皮肉。グレイの肉体は階段を降りるときの覚束なさや角を直角に曲がる様など、よりマシンっぽさが強まり、ロボットダンスのような動きになり果てます。そして真実を知る者は誰もいなくなる。ラストにタイトルが表示されることで、アップグレードされたのはグレイではなくこの世界の方なのだ、という『エクス・マキナ』をも彷彿とさせる結末にゾッとするのです。

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