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2019
10.24

吹き荒れる嵐、這い寄る牙。『クロール 狂暴領域』感想。

Crawl
Crawl / 2019年 アメリカ / 監督:アレクサンドル・アジャ

あらすじ
嵐が来たら避難しましょう。



巨大なハリケーンが近付きつつあるフロリダで、大学競泳選手のヘイリーは父と連絡が取れないことを知り、様子を見に行くことに。実家の地下室で重傷を負った父を発見したヘイリーだったが、直後何者かに襲われる。それは水かさが増した排水溝から入り込んできたワニだった……。凶暴なワニと対峙するサバイバル・スリラー。

大嵐がやって来た!と思ったらワニまでやってきた!最大級のハリケーンに襲われたフロリダを舞台に、ワニが迷い込んだ家に閉じ込められた父娘を描くアニマル・パニックものです。疎遠になっていた父が電話に出ないという連絡を姉から受け、様子を見に行ったヘイリー。しかし家にいたのは飼い犬のシュガーだけ。ハリケーンがどんどん勢いを増すなか、シュガーを連れてかつて家族で住んでいた家まで行くと、父の車はあったものの姿が見えず。地下室へ降りていき倒れた父を発見したと思ったらそこにはとんでもないものまでいた、というお話。床下の狭く暗いスペースに2メートルはある狂暴なワニと閉じ込められ、父親は大怪我、大雨で水没の危機まで食らう、という止まらないスリルの連続。サメとは異なり水陸両棲な上に、噛まれたらサメをも上回るパワーを持ち、暗がりのどこに潜んでいるかわからない、というワニが超怖くて息が止まります。

主人公ヘイリー役は『メイズ・ランナー』シリーズ『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』のカヤ・スコデラーリオで、かなりの気の強さを滲ませる眼力が凄い。普通の女子大生ではあるんですが、大学で競泳の選手をしているというのがこのシチュエーションでのドラマを成り立たせます。彼女の父デイヴ役は『プライベート・ライアン』のバリー・ペッパー。この人『メイズ・ランナー』シリーズにも出てるのでカヤとは再共演なんですね。ほぼこの父娘二人で進んでいくんですが、完全なジャンル映画でありながら二人のドラマが予想外に染みるのもとても良いです。

監督は『ルイの9番目の人生』『ホーンズ 容疑者と告白の角』のアレクサンドル・アジャ。数で一気に来る『ピラニア3D』とはまた異なる水陸両用の重量感ある恐怖を、しっかりスリリングに描き出すのがさすがです。2回ほど驚きで飛び上がってしまいましたが、驚かし系はむしろ助走。ワニは噛む力No.1の生物だけにかなりエグいシーンもあるんですが、それでいて痛快さもあるのが凄い。動と静、近と遠の恐怖の乱れ撃ち。これは面白い。わんこも頑張るぞ!

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭、クロールで泳ぐヘイリーのレーンに重なるように浮かぶタイトルがイイ感じ。原題の『Crawl』には「這う、腹這いで進む」という意味もあるそうで、ヘイリーとワニの両方を表してるんですね。導入部は水泳の記録が伸び悩むヘイリーと父との微妙な関係が暗に示されつつ、どこを探しても父がおらず薄暗い地下室にまで行くというのがもうスリリング。徐々にワニの存在を感じさせる、というのではなく、最初にバーン!と登場させるのには思わずビクーン!となりましたよ。同時に階段を破壊して簡単には脱出できないようにするのも上手い。そうして一度派手に見せておきながらその後はなかなか姿を見せずに緊迫感を煽り、父親が負傷しているという危機感、武器も何もないという心許なさ、何より床下の低いスペースから出れない閉塞感に息が詰まりそう。ヘイリーの使うハンドルをぐるぐる回して充電させるライトがまた、回してる間に何か起こるんじゃないかとか、ライトを付けた瞬間何かいるんじゃないかというスリルに繋がります。実際明かりが点いたら二匹目がいてまたビクーン!です。

嵐で徐々に水がたまってくるのがさらに焦燥感となり、もう一つの出口は塞がれ、本気でこれ以上対抗のしようがあるのか心配になるんですよ。なので火事場泥棒の三人組が出てきたときは「よし今度は五人でサバイバルだな?」と思うんですが、そんな希望はサクッと食われて消えていきます。知り合いの警官ウェインがやってきたときには「よし今度は警察だし相棒の方は食われるかもしれんがこの場は何とかなるかも」と思うんですが、そんな予想はよそ見中にガブリといかれて崩れます(相棒はやはり死ぬけど五体バラバラという予想以上の末路)。でも火事場泥棒のボートや警察の拳銃や発煙筒が後に活かされるという役割もあるんですよね。で、そのボートに乗るため雨音で誤魔化して進もうとしたら、道のど真ん中でハリケーンの目に入って雨が止むとか、何とかボートに乗ったのに堤防が決壊して家に戻されるとか、何この不幸の連鎖!噛みながらローリングするし、卵まで生んでるし、水面のものが微かに動くだけで緊張するしで、こんなにもワニで怖がらされるとは。もう気軽にバナナワニ園には行けなくなりそうです。

しかしこれだけスリル描写のバリエーションをかましてくるのは本当に大したものです。『ジョーズ』のような水中ワニ目線があったり、離れた場所にも姿が見えることで絶望感を煽ったり。ワニがあんなに声上げて唸るものなのかはちょっと疑問ですが、あまりのピンチの連続に疲弊してくるほど。でも単に「襲ってきたギャー!」ではなく、ワニが地上ではスピードと聴覚が変わるという説明をさりげなく付けたり、ちゃんと"ワニ注意"の看板を映すことでワニが元々いたのだというのも示していたりと、作りが丁寧なのが好ましい。ヘイリーの車にサメに食われてる人の人形が飾ってあるのがその後を暗示してて愉快だし、父を床下から救出する際のタイム・サスペンス、救い上げてからの蘇生のギリギリ感なども良いです。噛まれたり吹っ飛ばされたりで無傷ではないというのもスリルを増すんですよね。父親なんて肩を抉られ足を折られ、最後には右腕まで持っていかれながら、それでも生き残ろうとするのが凄い。この二人の諦めない姿勢というのにも惹き付けられます。

丁寧さという点では父娘のキャラ造形と抱えるドラマにもそれは表れます。ヘイリーは足を噛まれながらもドライバーで目を潰し、腕を噛まれながらも銃連射するという、やられるばかりではない、クロコダイル・ダンディばりの抵抗力を見せます。水中を潜って進んでの脱出、ワニに追われながらも泳ぎきってのギリセーフ、シャワールームで誘き寄せ素早く登って逆に閉じ込めるのなどはアクション俳優かというほどの動きのキレ。フッと集中したときの目力も凄まじく、まさに「最強の捕食者」という感じです。しかし幼い頃から父の指導による水泳三昧だったヘイリーは、自分のせいで母が出ていったのだという負い目を抱え、それもあって父とは疎遠になっていたんですね。父も久し振りに会った娘に水泳の話をしたりして、そんなこと話してる場合ではないとは思うものの、そうやって距離感を測ってる感じが二人の現在を物語ります。そもそもなぜ父が売りに出した家にやってきたのか、直前に今の家で昔の写真を広げていたことを思えば、寂しかったからに他ならないわけです。

お前はやればできる、信じている、という思いを「最強の捕食者」と言う辺り、不器用な父親なのでしょう。そしてヘイリーもまた素直に愛情を表現できない。そんな父娘が生死の境でサバイブすることで、絆は失われたのではなく上手く話す術を持てなかっただけなのだ、とわかってじんわりします。家を売るのをやめた理由を「思い出の家だから」と最後に認めた父に対し、ヘイリーが「ただの建物だ」「家族がいるのが家だ」と言うのは泣けますよ。しっかりした親子のドラマをも描くのはやはり丁寧。あと犬のシュガーが大丈夫か!?というのがまたスリル。警官が来たときはここだよーと吠えるし、序盤は犬がいることでヘイリーが何か喋っても独り言にならないという効果もあり、いやあ無事でよかったよシュガー。ラストに屋根の上で発煙筒を掲げるヘイリーは自由の女神のようでもあり、そんな風に見えるのが父親の視点だというのがまたグッときます。ワニ映画って過去にもあったと思うんですが(記憶には残ってないけど)、本作は記憶に残るスリルとドラマで、サメ以外の危険生物でも面白い映画が作れることを改めて証明してくれます。

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