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2019
10.22

信じることは毒なのか。『毒戦 BELIEVER』感想。

Believer
Believer / 2018年 韓国 / 監督:イ・ヘヨン

あらすじ
ヤクやり過ぎたら氷風呂。



麻薬取締局の刑事ウォノが長年行方を追う、本名も顔も謎の巨大麻薬組織のボス“イ先生”。そんななか、爆破された麻薬製造工場から発見された生存者の青年ラクと手を組むことにしたウォノは、危険な潜入捜査を行おうとするが……。香港映画をリメイクした韓国のクライム・サスペンス。

正体不明の麻薬組織ボスを巡り、警察と中国ヤクザと韓国麻薬組織が、三つ巴で血で血を洗うノワール。元ネタはジョニー・トー監督による2012年の作品『ドラッグ・ウォー 毒戦』ですが、結構大胆にアレンジしてます。正体不明の麻薬王"イ先生"に辿り着くため麻薬取締局の刑事ウォノが組んだのは、組織の生き残りの若者ラク。この二人が中国マフィアのハリムとの交渉にイ先生のふりをして臨んだりしながら、徐々に組織の核心へと迫っていくのがスリリング。そしていつしかウォノとラクの間には信頼関係のようなものが芽生えていくものの、事態は思わぬ方向に転がっていきます。ジョニー・トー版とはだいぶ異なり、韓国風味満載の若干笑っちゃうほどの残虐性に、なかなか肝が冷える狂った人たちが揃い踏み。そして通じ合っちゃう男と男。タイトルが染みます。

チーム長ことウォノ役は『お嬢さん』チョ・ジヌン。強い正義感がありつつ情にも厚く、それだけに厳しい局面に立たされていきます。そんなチーム長とある意味バディとなる組織の若者ラク役は『タクシー運転手 約束は海を越えて』『ザ・キング』など出る作品ごとに強い印象を残すリュ・ジョンヨル。冷静さを崩さない能面っぷりが秀逸。また中国マフィアのハリム役は『コンフィデンシャル 共助』のキム・ジュヒョクで、ヤクに狂った大物としてとんでもない狂気を見せてくれます。しかしキム・ジュヒョクさん、2017年に交通事故で亡くなったそうで、これが遺作とのこと。

入れ替わりのヤク商談や聾唖者との葬儀など、オリジナル版同様に印象深いシーンは健在。残虐シーンにはちょっとあざとい演出もなくはないですが、生理的な恐怖演出やミステリーとしての決着の付け方、不意に訪れる怒濤のアクションなどしっかり面白い。何より相容れないのに信じたいという二人がとても良いです。

↓以下、ネタバレ含む。








チーム長のウォノは、冒頭でかつてヤクで捕らえた娘を心配する仕草を見せるように、厳しくあろうとしながら人情味が漏れ出てしまう人物。娘が自分の依頼した仕事で大怪我を負ったことで、その原因である麻薬組織にさらに闘志を燃やします。オリジナル版で同役に当たるジャン警部はもっと容赦ない感じだった気がしますが、こちらではラクの母親の葬儀にも同情を見せたりと人間味がアップ。ただこれは相手に同調してしまうということでもあり、潜入捜査で相手に成りきれるという利点もあるものの、心理的に通じ合ってしまうという危険性もはらんでいる、というのが後からわかってきて、これがラストにも繋がっていきます。それにしても成り代わり捜査のスリルはこのリメイク版でもかなりのもの。特に中国マフィアのハリムがクレイジーで、照明がLEDだったからキレるとかワケわかんないし、目玉酒とか唐突すぎてちょっと笑っちゃいましたよ。あとあの奥さんが下着姿で騒ぎまくるわ、おっぱいご披露するわでエロすぎますありがとうございます。潜入に付き合わされる女性刑事が色っぽい格好で頑張るのも素敵ですありがとうございます。

一方のソ代理ことラク、オリジナル版ではルイス・クーが演じるテンミンに当たりますが、年齢がグッと若くなったうえにキャラも全く異なり、ほとんど表情が変わらずどんな時も冷静で、ピンチでも機転を利かせて場を納めてしまうという、地味に優秀な男。兄貴分のソンチャンには使い走りのように扱われながら、聾唖のヤク精製集団の唯一の窓口でもあります。聾唖の人たちが大音量で音楽を流すのは振動で音を感じるためなんでしょうが、その中でも耳栓して平然としている。何だか読めない男なんですが、ウォノに何度も「信じてくれ」と言うし警察の指示にも忠実に従うので、ウォノも仲間に文句言われながらもいつしか通じ合っちゃうんですね。ラクが警察に協力するのが母が爆発で死んだからであり、愛犬もまた大怪我を負ったから、というのが余計信頼度を高めることにもなります。ハリムに殺されそうになったウォノを救うためハリムを撃ち殺すに至ってはどう考えてもこっち側としか思えないのです。

なぜハリムに正体がバレたのかがハッキリしないのは雑なんですが、その後の銃撃戦はスリル。ここでもハリムが自ら戦いまくるというのがどうかしていて怖い。そして終盤のブライアン理事との対決でも銃撃戦が展開され、聾唖軍団の生き残りによる煙幕張っての襲撃もあって三つ巴の戦いが展開。ソンチャンの腕が運ばれてくるという唐突なグロや、女性刑事と敵の女性幹部によるキャットファイトまであるのには、ちょっとあざとさは感じるもののクライマックス感を煽ります(オリジナル版の街中での銃撃戦の方がスリルでは上ですが)。ブライアン理事は最もイ先生の可能性が高いと思われましたが、何やら怪しげな宗教団体を隠れ蓑にしながら、優雅な振る舞いに時折顔を覗かせるゲスな本性にはどうも小物感が拭えません。精製場を襲撃したときも聾唖軍団に返り討ちに会うし。と思っていたら、ここでついに本物のイ先生の正体が明らかになり、偽者は報いを受けることになります。

正体については予想はしたものの、若すぎるというのが疑問点ではあったわけですが、彼が死体の両親と共にコンテナで運ばれてきたという壮絶な過去で納得させられます。犬の本当の名前が「ライカ」という薬の名前であることでウォノも気付くわけですが、観ている者の方が先に事実を知るので、種明かしのインパクトとしてはちょっと弱め。でもそれまで無表情を通していたラクが、ブライアン理事がイ先生の名を出したとき初めて笑うのは凄惨ささえ感じさせます。そしてラクがウォノに「信じてくれ」と言うのは裏切者を炙り出すために必要だったからであり、その意味では本心だったと言えます。しかし組織の中で正体を隠し、自分の地位を狙う輩だらけのなかで誰も信用できずにいたラクが、唯一信じたいと思ったのがウォノだったことも、表情や言葉の端々から伝わるのです。

警察を去りラクの居場所を探り当てて単身向かったウォノの目的は何だったのか。それは通じ合ってしまったがために放っておけない彼の人情味の発露か、生きるために修羅の道を進むラクを連れ戻そうという意思もあったのか。ラクが「僕は誰ですか?」と言うのは自分の生きる意味を見失った男の救いを求める言葉にも思えるし、ウォノが「人生で幸せだったことはあるか?」と問うのは理解したくてもできなかった悲しみの言葉にも思えます。ラストに響く一発の銃声は果たしてどちらが撃ったものなのか。聾唖の二人にはその銃声は聞こえないまま、雪のなか静かに佇む家から引いていく映像に、信じることの難しさと信じたかった者たちのせつなさが余韻となって残ります。

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