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2019
10.14

抗えるのは誇りと勇気。『ホテル・ムンバイ』感想。

Hotel_Mumbai
Hotel Mumbai / 2018年 オーストラリア、アメリカ、インド / 監督:アンソニー・マラス

あらすじ
信じがたいスリル。



2008年11月、インドの五つ星ホテルがテロリストに占拠され、多くの宿泊客と従業員がホテル内に閉じ籠もることに。テロリストにより次々と人質が殺されていくなか、ホテルマンたちは宿泊客のためにホテルに残り、特殊部隊の到着を待つが……。実話を元にした脱出劇。

2008年に起こったインド・ムンバイ同時多発テロを、テロリストに占拠されたタージマハル・パレス・ホテルを舞台に描きます。駅や街中で突如始まったテロ。500人以上の宿泊客と従業員が残るホテルはイスラム系テロリストによって占拠されます。容赦なきテロリストにより瞬く間に命が散っていく絶望的な状況のなか、宿泊客を守ろうと自らホテルに残ったホテルマンたちの何と高い職業倫理。しかし宿泊客たちは混乱を極め、地元警察は全く太刀打ちできず、都心の特殊部隊の到着までは数日かかるという過酷な状況。実話に沿った無慈悲な展開に打ちのめされ、すぐ隣にある悲劇に恐怖します。テロリストの目を盗んで脱出しようとする者、部屋に残した赤ん坊を危険を覚悟で救出しようとする夫婦など、あらゆるギリギリのシーンの連続がスリリング。そしてなんと痛ましい。これは凄いです。

ホテルマンのアルジュン役には『LION ライオン 25年目のただいま』『スラムドッグ$ミリオネア』デヴ・パテル。家族のために必死に働くアルジュンが、それでもホテルに残って宿泊客を守ろうとするのが熱い。アメリカ人旅行客デヴィッド役には『フリー・ファイヤー』アーミー・ハマー。妻ザーラ役のナザニン・ボニアディと共に赤ん坊を救おうとすしますが、赤ちゃんは泣く、というのがまたスリル。ほか、シッターのサリー役にティルダ・コブハム=ハーベイ、決して折れることなく人々を救おうとするホテルのオベロイ料理長役にアヌパム・カー、一癖ありそうなロシア人宿泊客ワシリー役に『フューリー』ジェイソン・アイザックス。

閉じ込められたビルでのスニーク&サバイバルのスリルは『ダイ・ハード』的でありながらも、甘えは一切廃し、現実に起こったテロの非道さを描ききります。反撃の機会がありそうに見えても実際は無理だというのが痛いほど伝わるんですよね。多くの登場人物を配しながらそれぞれが印象深いという群像劇としても秀逸で、短編映画出身で本作が初の長編監督作というアンソニー・マラスは大したものです。途切れない緊張感と凄まじい臨場感に震え、奪えない誇りと愛情に涙します。

↓以下、ネタバレ含む。








行われる非道さは言うまでもないですが、それと同時にとにかくスリルが凄まじい。突然振り撒かれる銃弾の雨、老若男女区別なく殺されていく人々といった直接的なシーンもさることながら、客が角を曲がったところでちょうど敵が通るとか、柱ひとつ向こうに銃を構えて歩いているとかのすれ違いシチュエーションも多いし、声を出したら気付かれちゃうという『クワイエット・プレイス』な状況もあって手に汗。赤ちゃんが泣いちゃう!というのはかなりのスリルですが、同時に口を押さえられた赤ちゃんが窒息しちゃう!というヒヤヒヤも。撃たれたアジア女性が叫び声を抑えられないのもビビります。あとそんなスリルまで付けちゃうの!?というのまであるので油断なりません。デヴィッドたちが必死で電話してるときにサリーがシャワー浴びちゃうとか、デヴィッドのエレベーターでの大ピンチとか。絶倫ロシア人のワシリーがデヴィッドの奥さんのザーラに手を出すのでは、という余計なことすんな系スリルまで。このザーラ役のナザニン・ボニアディという人がスゴい美人なので余計そう思いますよ。

そんな阿鼻叫喚のホテルで、料理長をはじめとしたホテルマンたちは宿泊客のためにホテルに残る決意をします。家族がいると言って逃げ出す人をちゃんと許容もするものの、いくらサービス業でも死んだらおしまいなので残ろうとする彼らにも「早く逃げてー」とは思うんですが、それを否定できないほどの高潔さ。特に料理長の的確な判断といかなるときも崩さない慇懃な態度には見入るしかありません。メインの一人であるデヴ・パテルのアルジュンは最初は生活のために今日の仕事にしがみつくのに、命の危機を感じながらも客を見捨てられません。イギリス女性が見た目で判断するのを、家族とシーク教徒のことをちゃんと説明して安心させるのなどは非常に丁寧。アルジュンが序盤にあのターバンをキッチリ巻き付けるシーンがありますが、あれがとても大事な意味を持つことがわかるのも効いており、客の血を止めるためターバンを外して巻き付けるのにはグッときます。靴を忘れたために小さいサイズの靴で走り回るというハンデを抱え、最後は裸足となるのがまた『ダイ・ハード』的ですが、それでも敵を倒すヒーローとはなり得ないのが現実です。

そういう意味では体格のデカいデヴィッドもヒロイックな活躍をしそうなのに、手も足も出ないんですね。インドの高級レストランで牛肉のチーズバーガーを頼むのでひょっとしてバカなのかな?とも思うんですが、アーミー・ハマーが演じてるだけに何とかしてくれるのでは、という予想とは裏腹に銃を持った奴らには敵わない。角を曲がるときはもう少し確認してからにしろよとは思うし、なぜ部屋を出てチェンバーに向かおうとしたのかが謎ですが、それでも最後に縄を解き見張りが出血で朦朧としているのでチャンスかと思うんです。でもできない。只者じゃない感を醸し出していたロシア人ワシリーはやはり只者じゃなかったわけですが、そんな彼も悪態をつくくらいしかできない。圧倒的な暴力の前には無力というのが恐ろしいのです。ザーラは電話で母に祈れと言われて「それがなんの役に立つの?」と言ってましたが、結局彼女を救ったのがそのイスラムの祈りの言葉であったというのが皮肉です。

何よりテロリストたちは全員殺害が目的なので容赦がない上に、明らかに訓練された動きであるのが怖い。彼らがボートで着岸しイヤホンを付けてタクシーに分散する冒頭で、皆まだ若くない?と気付くんですが、彼らは神を信じるからこそ、そして家族に金も出すから「殺して、死んでこい」と言われた使い走りでしかないというのがまたえげつない。死体であっても女性のブラの中を探ることもできないほど宗教的に純粋なのです。会話のなかで彼らの最終的な敵がアメリカであることが明かされますが、そのために他国をここまで蹂躙する首謀者の非道さ。この首謀者は「悲鳴を聞きたいから電話はそのままで」と言いますが、最後の二人が死にそうなときまで「電話はそのまま」と言うのがさらに非道さを印象付けます。若者の一人が父親に電話しても金は受け取ってないと聞き、自分たちが騙されているのではという疑念を押さえ付けようとする、という敵側のドラマも描くことで、その背後にいる元凶にまで意識を向けさせる作りなんですね。

料理長の鉄のメンタル、アルジュンの勇気、デヴィッドの家族への愛情など見せ場だらけですが、他にも、来る見通しのない特殊部隊を待てずに自分たちだけで潜入する刑事たちが撃たれて脱出せざるを得なかったり、浅はかな客が流した脱出計画がCNNに流れて犯人に居所がバレてしまったり、ついにはホテル中に火をつけられたりなど、ひたすらスリルの連続。それだけに、ついに脱出して互いを見つけアルジュンと料理長がしっかり抱擁するのには泣けます。これが実話であることは、単なるフィクションよりも抗えない恐怖と取り返しのつかない喪失感へと結び付き、観る者を打ちのめします。しかし実話であるからこそ、ラストの「ムンバイの戦士たち」のくだりで涙が止まらなくもなる。とても勇気ある作品でした。



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