FC2ブログ
2019
10.07

救うのはもう一人の自分。『HELLO WORLD』感想。

hello_world
2019年 日本 / 監督:伊藤智彦

あらすじ
やってやりましょう!



2027年の京都、内気な男子高生の直実の前に10年後の自分だという人物、ナオミが現れる。彼は直実がクラスメイトの瑠璃と付き合うことになり、その直後に彼女が事故で命を落とすことを告げる。直実は瑠璃の死を阻止すべく、大人の自分と共に奔走するが……。オリジナルの長編アニメで描くSF青春ラブストーリー。

近未来の京都を舞台に、クラスでも目立たない存在の高校生、堅書直実が、大人になった自分と共にクラスメイトの女子、一行瑠璃を死の運命から救おうとするオリジナル作品です。少年が10年後の自分とバディ、というより師弟関係となるんですが、タイムスリップものとは異なる設定となっているのが特徴にしてキモ。この舞台設定の仕掛けはわりと早い段階で明かされるんですが、そこからどう転がるかというのがサイバーSFとして面白い。根底にあるのは青春恋愛ストーリーであり、直実が恋に落ち救おうとする一行さんも魅力的なので、キュンキュンしたりせつなかったり。さすがに何も考えないで観ると混乱しますが、とは言えそこまで難解なわけでもなく、直実の思いにシンクロできる作り。ただ考えすぎると色々引っ掛かる点はあるかも。意表を突く展開は楽しいです。

主人公の堅書直実役は『勝手にふるえてろ』北村匠海、一行瑠璃役は『アルキメデスの大戦』浜辺美波。二人は『君の膵臓をたべたい』でも共演してるし、図書室が重要な役割でもあったりしてもろ被りですが、特に気にならないです(アニメだからというのもあるけど)。10年後の自分であるカタガキナオミ役は『居眠り磐音』松坂桃李で、なかなかシブい声で聞かせます。ほか、同じ図書委員の勘解由小路三鈴に福原遥、徐依依に『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形』寿美菜子、『銀魂』釘宮理恵にディオ様こと子安武人といったキャスティング。

監督が『ソードアート・オンライン』伊藤智彦、脚本が『正解するカド』野崎まどということで、その辺りへの期待は満たされるかな。キャラクターデザインが『けいおん!』の堀口悠紀子なのがちょっと可愛らしさが目立つかも。世界の成り立ちに起因した「生成」のシーンはハガレンみたいで面白いし、カラフルな効果や肥大化する敵などもあってある種ヒーローもののような高揚感も。そしてタイトルの意味するところにシビれます。

↓以下、ネタバレ含む。








直実が10年後の自分であるナオミから聞かされる一行瑠璃の死。これを防ぐため、恋人どころかまだ意識もしていなかった一行さんのことを守ろうとすることになり、そこから二人の心が通じ合っていくという過程がちょっと変わった青春ラブストーリーとなっています。一行さんはとにかく本好きだという点で直実と通じ、LINE的なものはよくわからず連絡先に住所のメモを渡すのが個性的で、直実のできないハッキリ物申すこともやってのける。直実にとってはとにかく気になる要素満載なわけです。直実は最初は勘解由小路三鈴(かでのこうじみすず。読めない)さんに惹かれるし、ナオミから恋人同士になると聞かされて意識し始めるので、ナオミが来なくても一行さんを好きになったのか?という疑問はあるし、未来メモがなかったらどうなってたんだとは思いますが、直実が思い切って「SFが好きです」と言うのに「わかります」と返されたらまあ惚れますね、わかる。クールかと思いきや古本市では情熱的なところを見せるし、直実が思わず告白しちゃって早まったかと思いきや「交際は一人じゃできない」とあの格好で半分振り向きながら言われたらね、もうキュン死ですよ。キメ台詞の「やってやりましょう」がその後の大人になってからのシーンでも活かされるのも良いです。

世界の事象を操り自在に物を作り出すのには『鋼の錬金術師』『Fate/stay night』を思い出しますが、思いきってカラフルなエフェクトになってるのが独特です。舞台の成り立ちに付随しての、突然目の前に現れる異世界感とか、光の中へ飛び込んだときのドラッギーな映像など、現実と少しズラした表現がスリルになったり、あと狐面のシルエットや無言無表情での襲撃などはなかなか怖いです。と言うわけで、舞台がアルテラと呼ばれるほぼ無限の容量を持つ仮想空間である、ということはわりと早い段階で明かされるし、まるで『マトリックス』のような京都クロニクルの在り方は演出にも十分に活かされてきます。そして直実が一行さんを守りきったとき、明らかになるナオミの本当の目的。それはもう鮮やかなほどの裏切り。しかしその裏切りの理由が、ここに至るまでのナオミのフラッシュバックにより語られたとき、この話の主体が二人の直実のどちらにもあることがわかってきます。データの直実が実体のナオミをどう追いかけるのか、と言うのを、システムの隙間からダイブするという手で繋ぐのは少々強引ですが、実はナオミの世界も……という点でレイヤーが違うだけなのでそこはまあいいでしょう。

しかしここで、どうしても引っ掛かってしまう点が二つ。まず直実たちが「記録された過去のデータである」ということです。過去のデータを改竄し、そのデータを吸い上げて精神と同調させる「器と精神の同調」というのはいいんですけど、プログラムじゃなくて単なるデータであれば、それが意思をもって動くというのはやはりおかしい。実際はデータがメソッドを備えたオブジェクトみたいなものだと思うんですが、多少難しくなるためかその辺りの説明は特にないので、結果SFと言うよりファンタジーのテイストが濃くなってる気がします。シナプスの発火とか、何か有機的に例えてもいいと思うんですけどね。でもまあダイブするには神経系に直接連結しなければならず、そのせいでナオミは脊椎に損傷を負うということで、アルテラがとにかく複雑なシステムで単に複製するというわけにもいかないのだ、というのは伝わりますかね。もう一つ引っ掛かるのは、自分が自分とバディを組むという点。師弟関係を描くドラマではあるんだけど「でも自分でしょ」って思っちゃうんですよ。直実がアルテラの外に出てくるに至っては過去の自分と対決する、しかも相手はデータという何だかさらに複雑なことになります。

ただこれは、過去の自分と対峙して過去を乗り越えるというナオミと、未来の自分に惑わされず未来を掴み取る直実という、二面的な意味で自分と向き合う試練の話でもあるわけです。全てをデリートしようとする修復システムが巨大化までして襲い掛かる危機に、過去と未来が互いを受け入れ現在を生きることへと繋げていく物語なわけですね。そして一人の女性を巡る強い愛情の物語でもあり、そう考えると二人の関係は妥当なところなのでしょう。過去の一行さんの精神が言う「私を愛していたのですね」には、失った存在の大きさとそれを理解した人が別人であるという悲しみに泣けます。そしてナオミの世界が電脳空間アルテラを観測するさらに外側の電脳空間であるという複雑な構造と、直実がナオミから教わった魔法で世界を取り戻すという展開が、ラストの意外性へと結び付きます。直実を助ける謎のカラス(てっきり三鈴かと思ったらミスリード)が、大人になった一行さんだったというのが上手いんですよ。つまり、直実を使って救われようとするナオミを本当に救うには、その原点である直実をも救う必要があるということです。もっと簡単に言えば、大事な人を助けたことで精神が同調できたということですね。ああやはりわかりにくいかも。

2027年の京都を再現したアルテラ、それを使っていた2037年もアルテラ化されたのが、月で目覚めた2047年ということなんでしょう。現実のナオミは2037年にシステムに飲まれたことで意識をなくしていたのかな?細かいことを突き詰めれば瑕疵がありそうでもあり、逆にロジカルにまとまりそうでもあってなかなか不思議なバランスですが、それはそれで面白かったです。最後に直実が一行さんと見る世界は、もはや今までとは違う新たな世界。だからこそそこで『HELLO WORLD』というタイトルが表示されるわけですね。データであるというのはつまり精神とイコールということであり、それが「生きる」ということともはや矛盾しないことは、エンドロールの最後に見せる一行さんの笑顔と二人の繋いだ手に見ることができるのです。

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1591-30334d88
トラックバック
back-to-top