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2019
10.04

見失った道、見えてくる真実。『見えない目撃者』感想。

mienai_mokugekisya
2019年 日本 / 監督:森淳一

あらすじ
パル、ゴー!



警察学校を卒業した夜に車で事故を起こし、同乗していた弟を死なせ自らも失明してしまった浜中なつめ。それから3年後、車の接触事故に遭遇したなつめは、車中から助けを求める少女の声に気付いて誘拐事件の可能性を警察に訴えるが取り合ってもらえず、事故の目撃者であるスケボー少年の春馬と共に事件を追い始めるが……。韓国映画をリメイクしたサスペンス・スリラー。

2011年の韓国映画『ブラインド』の日本でのリメイク作とのこと。元ネタの方は観てないんですが『22年目の告白 私が殺人犯です』のように結構アレンジが加わっているらしいです。目撃者なのに「見えない」というタイトルが示す通り、主人公のなつめは明日から警察官になるという夜に事故を起こし、視力を失った女性。事故から3年経ち、たまたま横を通り過ぎた車が誰かと接触事故を起こしたことに気付いたなつめは、その車から微かな助けを求める女性の声を聞いたものの車は走り去ってしまいます。事件性を疑ったなつめは動かない警察に耐え切れず自ら色々調べ始めることに。いやこれは凄い!盲目の女性が目撃者であるという設定を最後まで活かしつつ、目が離せないサスペンスで引っ張りまくられながら、恐ろしいほどのスリルに戦慄が止まりません。R15+も辞さない猟奇殺人のエグさもありながら、人生に絶望した女性と将来を見失った少年を描くドラマには思わず落涙。ミステリーとしても素晴らしく、クオリティ高いです。

キャストが皆良いんですよ。浜中なつめ役は吉岡里帆。彼女の出演作は『幕が上がる』くらいしか観たことなかった(しかも覚えてない)のでほぼ初見なんですが、警察学校トップの有能さと目が見えないことによる無力さの両方を見事に体現しています。なつめと共に目撃者となる少年、国崎春馬役は『十二人の死にたい子どもたち』高杉真宙、気だるさと情熱を合わせ持つ若者という感じがとてもイイ。定年間近という木村刑事役の『孤狼の血』田口トモロヲ、事件に懐疑的な吉野刑事役の『ロマンス』大倉孝二、若手刑事の日下部役の『劇場版 零 ゼロ』浅香航大も良いし、刑事課長の高橋役に『検察側の罪人』酒向芳というのが個人的にスリリング。

監督は『重力ピエロ』の森淳一。不穏さと緊張の持続が見事だし、音や匂いから組み立てる見えないものを見せる演出、グロも辞さない気概、音楽とその使いどころも実に良い。警察官が無能じゃなくカッコいいところもある、というのを見せるのが好感です。あと常になつめと共にいる盲導犬のパル!なんておりこうなわんこ!超面白かったです。

↓以下、ネタバレ含む。








警官として新たな人生を始めようとしていたなつめが事故を起こしてしまい、じわじわと視界が消えていく怖さと、助けを求める弟が見えないというもどかしさ、そして爆発炎上という悲劇。この苦い冒頭から引き込まれます。なつめは3年経ってもまだ自分を許せず、弟の墓参りもできない状態で、それでも接触事故の車から聞こえた声、すかさず聞いた名前、アルコールの匂いというわずかな情報から事件性があると睨みます。しかし目が見えないということと精神科に通院しているというのが非情にもネックとなり、信憑性を疑われてしまうんですね。のっけから絶望的な状況なわけですが、これをどう覆していくのかというのが見もの。見えない状況を音で判断し、白地に風景が立ち上がってくる演出も面白いし、声のする位置や匂いから吉野の身長や昼飯を言い当てるのにはシビれます。心を閉ざしていたなつめがなぜそこまで事件にこだわったのか、それは内に秘めた正義感に突き動かされたからであり、さらわれた女子高生が死んだ弟と同じぐらいの年だったからでしょう。そうしてなつめが徐々に自分を取り戻していく話でもあります。

春馬のウソを見抜き、もらった札を指紋調査に回し、名前から人物を特定し、JKリフレに聞き込みまで行うなつめの熱意は凄いですが、見えないがゆえの危なっかしさも当然あって、それを緩和させるのが春馬です。最初は頼まれて同行したり名簿業者を紹介したりと成り行きでなつめと行動を共にする春馬。彼の事件に対する温度感の低さはごく普通にも見えますが、それ以上に無気力さが滲み出ます。序盤の面談での教師の口ぶり、面談に現れない親、そんな大人たちの無関心が春馬をさらに無気力にさせ、やりたいことなど何もないという人生への失望を抱かせたのでしょう。でもなつめは春馬を頼り、それでいて春馬を心配して遠ざける。そして見えなくても諦めずに犯人を追おうとする。そんななつめを放っておけず、被害者たちの親が自分と同じく子供に無関心というのを知り、車で襲われてもめげない春馬は、実はとても熱い心を持った少年だったということです。落ち込むなつめに向かって「なつめさんはすごいって!」と言うのには泣きますよ。春馬が死んだ弟と同じ年であることがなつめを心配にさせるものの、最後の方は必死で互いを救おうとする二人がとても好ましい。

さらわれた少女が閉じ込められた謎の空間、わずかなダクトの隙間から見えた別の少女の酷い顔色、意味ありげに映される一部が欠損したぬいぐるみと不穏さが募るなか、「救さま」かと思われた男(『ジョジョの奇妙な冒険』でアクアネックレスにやられる彼だ)からさらに怪しい人物に辿り着いた、と思ったところで現れる女子高生たちの死体。耳、鼻、口、手を切り取ったエグい死体もちゃんと見せるのにはちょっと驚きますが、この猟奇性には五感+意識という「六根清浄」の見立てがあるという点や、警察官なら成し得るという推理がしっかりミステリーとして機能していて高揚。犯人の意外性も良いし、冷静な狂気を湛えた姿もおぞましく、手をゴリゴリ切るシーンなどはうすら寒くなります。木村がお礼だと言ってシューマイをあげながら変な笑い方して周りが引く、というシーンによって、そこにいた真犯人もちゃんと印象付けているのが上手い。犯人に結び付く重要な話を聞きに行くというところでは、ここで國村隼を投入するか!と嬉しくなりますよ。てっきり酒向芳が犯人かと思わせる辺りも上手いキャスティングです。

最初は懐疑的だった警察も、徐々になつめと協力していきます。人を救うために警察官になったと言う木村、警察官は正義の味方だと見せてやると言う吉野。犯人を捕らえようとする警察がちゃんとカッコいいし、それだけにあっけなく騙される木村も「意識」の見立てにされてしまう吉野も痛ましい。「吠えないよう訓練されている」と言っていた盲導犬のパルが、なつめを守ろうとして吠えるのにも泣けます。なつめと春馬が二人だけで敵地に乗り込むのには息を飲むし、泣き止むことができない少女にはヒヤヒヤするしで、クライマックスはスリルの連続。電気を消すことで有利になるのは「私には昼も夜も同じだ」という自虐的な言葉の裏返しとしてちゃんと効いてるんですよね。しかも弟の遺品がここにきてしっかり活かされるし、最後に犯人の「目」を撃ち抜いたことで「六根清浄」にもケリを付ける。見事な脚本です。

なつめが声を聞いた少女が「助けてくれてありがとうございました」と言うところで、なつめは諦めずにやってきた自分が正しかったことを知り涙します。ようやく弟の墓参りを出来たことからも、彼女の行動は救えなかった弟への贖罪だったのかもしれません。そんななつめに警察官になろうかな、と告げる春馬。生きる目標を見失っていた春馬はなつめを見て、そして恐らくは木村や吉野を見てそう思ったのでしょう。そしてパルも生きてたよー!スリルもミステリーもドラマも良し、人物もわんこも良しで実によく出来た一本でした。

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