FC2ブログ
2019
09.21

思いを託し、未来を繋ぐ手紙。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形』感想。

violet_evergarden_gaiden
2019年 日本 / 監督:藤田春香

あらすじ
騎士姫さま……!



「自動手記人形」と呼ばれる代筆業を生業とするヴァイオレット・エヴァーガーデンは、良家の子女のみ通う女学園でイザベラという少女の教育係をすることに。何でもこなすヴァイオレットに最初は反発するイザベラだったが……。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の新たな物語。

京都アニメーション制作で2018年にテレビ放送されたアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の長編作。正確には劇場版ではなくOVAという位置付けらしく、そのため「外伝」と銘打っているようですが、劇場長編として捉えても問題ない出来です。依頼人の思いを手紙にしたためる、という代筆業「自動手記人形」、通称ドールとしてC・H郵便社に勤めるヴァイオレットは、かつて戦うためだけに兵士として育てられ、戦争に参加して両腕を失った少女。人の感情がわからず愛という概念を知らずに生きてきたヴァイオレットが、代筆を通し様々な依頼人の思いに触れることで人間らしさを取り戻していく、というのがテレビ版のストーリーです。テレビ版大好きで毎回観るたびに泣かされてたんですが、本作もそれを越える涙腺決壊。ある姉妹のせつなくも愛しい人生が一対の手紙に凝縮される機微。家や街の美麗な美術に没入し、演出は仰々しくなく優雅でさえあり、それでも確実に響く作劇。素晴らしいです。

声優陣はもちろん続投。鋼の両腕を持つドール、ヴァイオレット役は『進撃の巨人』ミカサ役などの石川由依。感情の出し方が難しい役を魅力的に演じます。彼女のボスであるクラウディア役に『レゴバットマン ザ・ムービー』ジョーカー役などの子安武人、ベネディクト役に内山昂輝、カトレア役に『おそ松さん』遠藤綾といった面々に加え、今作のメインとなる貴族の娘イザベラ役に『夜明け告げるルーのうた』の寿美菜子、その妹テイラー役に『聲の形』悠木碧という布陣。監督はテレビ版でも演出を務めた藤田春香ということで地続きの安心感があり、さらに繊細な演出で魅せてくれます。

優雅で気品ある世界を繰り広げつつ格差社会の悲哀も背景に織り込み、そこにせつなくも希望のある未来が描かれます。イザベラの友情と信頼に触れ、姉妹が見せるドラマに涙し、ヴァイオレットが受け継いだ優しさに引き込まれる本作、まさかのベネディクト推しもあって、京アニの圧倒的クオリティにやられます。テレビ版を知らなくても響くんじゃないでしょうか。手紙だからこそ得られる幸福感が、今の時代だからこそ羨ましく感じられます。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭の船に乗る子供が何者かわからないまま進みますが、思いがけない二部構成で、この子が後のテイラーだったわけですね。で、そこに至るまでのイザベラのエピソードがまず描かれます。テレビ版からどれくらい時間が経ったのか明言されませんが、ちょっと育ったようにも見えるヴァイオレット。ドールなのに教育係を依頼されるというのには意表を突かれますが、それを難なくこなしてしまうのには驚きです。元々困難な命令を遂行していたのもあるでしょうが吸収力が凄いんですね。それも戦う機械として育てられたことの裏返しではあるのでしょうが、多くの人の愛情を知った今では仕事ができるという長所ともなっていて若干の皮肉さもあります。とは言えまだ己の愛という感情を理解しきれず戸惑う面もあり、ゆえにヴァイオレット自身の成長譚ともなっているのが本シリーズの特徴でしょう。

それにしても、何かあっても動じず事を荒立てない手際といい、礼儀作法の指導からダンスのエスコートまでこなす才女っぷりといい、彼女がますます完璧超人になっていく……なんだ騎士姫って……。ドレスと言いながらパンツ姿で踊るのにはちょっとあざとさも感じますが、あのダンスシーンは優雅で美しいです。ただ、仕事を任務、勉強を訓練、エレベーターを最新兵器などと言うあたり、軍人気質が抜けきってないのがちょっと可笑しい。イザベラにツインテールにされたときは「有事の際に視界を遮る」と言いますからね。有事って。あと入浴シーンや配達人スタイルまで見せてくれるのが特別感あります。星座の話やドールの友人など、少しだけテレビ版とリンクさせるのも外伝という感じがあって楽しいです。

イザベラことエイミーは、最初は学園を監獄と称するように自由のない生活を疎ましく思うわがままお嬢様かと思われましたが、元は戦争孤児として一人で生きていたという経緯があり、全く違う環境に反発していたわけです。そんな生活に耐えるのも全ては妹テイラーのため。同じく孤児であるテイラーを妹にすると言うエイミーが「これは復讐だ」と言うのが印象深いです。テイラーに新たな選択肢を与えることで、戦争や貧困に自分たちは負けないという強さが時代への復讐なのでしょう。イザベラとなったあと学園に馴染めないのも友人ができないのも、世界が違いすぎたから。そんな波乱に満ちたイザベラが出会ったヴァイオレットもまた戦争で自身の腕や大事な人を失っており、それでもイザベラが何をやらかしても対処する超人として一人立ちしています。それはカゴの鳥となったイザベラには羨望でもあったでしょう。ヴァイオレットにしても、思えば一緒に寝ながらお喋りするような友達は初めて。二人で風呂にまで入ったりするものの、百合というよりは友情と信頼と言いたくなる絶妙な匙加減です。「会いたい人はいないのか」と問うイザベラに「もう会えない」と返すヴァイオレットがせつないですが、ヴァイオレットとの別れを惜しむイザベラもせつない。でもその後で勝ち気そうだったお嬢様がイザベラに「家柄関係なく話したい」と言うのがじわりときます。

そんなイザベラが書いた妹テイラーへの手紙が、テイラーをC・H郵便社へと誘います。前半では言葉も上手く喋れないので2、3歳くらいだったんですかね、教育も受けていないため読み書きもできなかったテイラーは、イザベラにもらった手紙があるからこそ「郵便配達が運ぶのは幸せ」と配達員を目指します。ここでベネディクトが俄然クローズアップされるわけですが、テレビ版のときからあんなヒールみたいな靴やヒラヒラ装飾などのジェンダーレスな格好だったっけ?気付きませんでした。ベネディクトは配達だけでなく探偵のようなことまでこなす上に、見返りにサイドカー付きバイクをゲットまでして優秀です。でもベネディクトにはわりと有無を言わせぬ押しの強さを見せるヴァイオレットが愉快。結婚して辞めるのがドールの花道、というのを否定するかのように皆が将来の目標を言い合ったりと、女性が社会に出ることの普遍化を描きつつ、ベネディクトのように性差を越えて好きに生きるというのもあって、非常にジェンダー的に開かれた描写があるのが好ましい。かと言ってルクリアが結婚することを否定もせず、結婚したイザベラを不幸そうに描くこともしないので、多様な生き方全てを肯定するかのような優しさがあります。

前半と後半は様々な対になる描き方がされていて、髪を乾かす、手を重ねる、空に向かって手を掲げる、ありがとうの言葉など、イザベラとテイラーとヴァイオレットの三者が渾然となっていくのが連続性を感じさせて上手い。ダンスしたり踊るような足取りでベッドに座ったりサイドカーから降りたりといった「足で語る演出」も冴え渡ります。そして会おうと思えば会えたのに一人前になって自ら手紙を届けるまで会わないというテイラーと、かつてのテイラーのように最後にテイラーの名を叫ぶエイミーには爆涙。「手紙は思いを届けられる」というテーマをさらに純化したような展開に、この血の繋がらない姉妹の幸せを願わずにいられない、そしてテイラーがイザベラに手紙を届ける未来をも夢想することができる、そんな余韻の持たせ方もとても良いです。

本編後には新たな「劇場版」の予告も。手紙が電話に変わっていく時代を背景に、ヴァイオレット自身の物語になるのか?楽しみ。そして、京都アニメーションの火災で亡くなった方々のご冥福を心からお祈りします。ありがとう、どうか安らかに。

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1585-a2132e0f
トラックバック
back-to-top