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2019
09.18

影として、人として。『SHADOW 影武者』感想。

Shadow
影 Shadow / 2018年 中国 / 監督:チャン・イーモウ

あらすじ
傘は凶器!



戦国時代の中国、炎国と休戦中の沛(ペイ)国で、20年前に炎国に奪われた領土を取り返そうとする重臣・都督。しかしその都督は実は影武者であり、本物はその影武者に自由と引き換えに炎国の将軍で剣の名手、楊蒼を倒すことを命じる……。チャン・イーモウ監督による歴史武侠アクション。

『HERO』『LOVERS』のチャン・イーモウ監督による久々の武侠もの。「三国志」のエピソードである「荊州争奪戦」が元ネタとのことです。弱小の沛(ペイ)国が敵対する炎国と休戦同盟を結んで20年、屈辱的ながら平和を維持しようとする若き王と、炎国に奪われた領土の荊州を取り返さんとする重臣の都督の派閥に分かれていた沛国。ある時、都督は王に無断で炎国の将軍・楊蒼に対決を申し込み、王は激怒。しかし実はこの都督は影武者であり、自由と引き換えに敵地の大軍との戦いを命じられていた、というお話。驚くべきはまずその映像。色彩豊かな『HERO』とは真逆で、カラーなのにモノトーンを徹底した、まるで水墨画のような映像で、これが震えるほど美しい。そして「影」として個を持たない男が、渦巻く謀略と見えない攻防のなか生死を賭けるドラマが重厚。異形の剣傘アクションが美しくも凄惨で素晴らしく、畳み掛けるような壮絶なラストまで最高にスリリングです。

都督と影の二役を演じるのは『人魚姫』のダン・チャオで、これが同一人物とは思えないほど見事な演じわけ。都督の妻であるシャオアイ役はダン・チャオとは実の夫婦でもある『三国志英傑伝 関羽』のスン・リー。このシャオアイと影との衝動を抑えた関係が逆にエロティックでドキドキです。同監督の『グレートウォール』にも出演していたチェン・カイの演じる沛国の若き王の資質が読めないとか、王の妹が単なるおてんば姫かと思いきやお飾りじゃないなど、人物描写も秀逸。

降りしきる雨のなか、白と黒のグラデーションで構成される画に、映える赤い鮮血。個々の関係性や国の対立など全編を貫くスリルに、アクションまで絵になる美しさ。そして展開の読めないサスペンス。大胆にして繊細な、見事な武侠アクションです。

↓以下、ネタバレ含む。








最初は白黒映画なのかと勘違いしたほどモノトーンの映像は徹底されています。ひたすら雨が降っているので景色の色合いもグレーに近く、川を渡るときの水面までも鈍色。沛国の城内も、人々の描かれた透けてる御簾や、王の書をあしらった掛け軸のような飾りなどで白と黒に統一されています。この美術が、まるで墨を流したような優雅ささえあって素晴らしい。「雨が降り続いている」というシチュエーションが、王が契機を窺うという物語的にも関係しているのが上手いです。また都督と影が立ち合うシーンの地面の巨大な太極図、あれは何でできてるんだろう、竹?あの上でそれぞれが位置取りして戦うのもひたすら絵になります。シャオアイと共に傘での倒し方の動きをスローを駆使して見せて、それを本番でもやってみせるのが熱い。また都督邸での簾を通した視点が影とシャオアイの微妙な距離感となっていたり、都督の隠れる洞窟のような場所が整った邸内との対比となっていたり、細かい点まで設計されてて実に良いです。

そんな静謐とも言うべき落ち着きがあるがゆえに、何かが起こるのではないかという不穏さが絶えず付きまとい、緊張感へと繋がります。王に言われても琴を弾けない都督のピンチにシャオアイが見せる機転に始まり、都督と影の入れ替わりがバレないかというスリルは至るところで見られるし、影が都督に忠誠を誓いシャオアイとも距離を置きながら、心の奥ではその奥方と通じちゃってるのでは、という背徳感もスゴい(影が傷の痛みに叫びながら生い立ちを語るのは説明的すぎて笑ったけど)。ワン・チエンユエンの演じるチャン将軍が辞めたるわー!言って王に殺されるんじゃないかとヒヤヒヤするし、荊州に乗り込む面子になぜか姫が混ざっているのにもヒヤヒヤします。あと敵国の楊蒼将軍がやたら人格者な出来る人っぽいのが、別に悪者じゃないな?となって戸惑うんですよ。決して勧善懲悪ではなく、歴史のうねりを描いているのだ、というのがわかるんですね。そんな楊将軍と影が、都督夫妻の琴の共演(というかもはや対決)をバックに戦うというのも、寝取られ現場見られた後だけにスリルが倍増。

アクションはやはり傘の使い方ですね。傘ですよ?これで剣をいなすし攻撃もするし、雨が降ってるから濡れずに済むしで一石二鳥!と思ったけどブレード傘なので雨具の役割は成さないというね!でも黒衣で傘を構える姿が雨の風景に映えるったらないです。しかも傘の刃を手裏剣のように飛ばすこともできるという優れもの。二つ繋げてマカロンみたいにして坂道を下るのなんてマジか!って思うけど矢を防ぐ意味があるわけですよ。大量のマカロンが整然と坂を下るのはカッコよすぎて震えるし、通ったあとにそれでも矢で射抜かれた兵士たちが倒れているのも震えます。あと手甲のように装着したハンドボーガンが『ベルセルク』みたいでイカすし、川を潜る際に竹の酸素ボンベを装着するのも最高。対する楊将軍の剣さばきも豪快。あれは剣というか大刀ですね。三国志っぽい武器でアガります。結構痛みを伴うシーンが多いのがリアルでもあったりして、特に姫がやられるのはツラいんですが、自分を側室扱いした楊の息子に「結納を返す」と言って短剣でブッ刺し最後に微かに笑うのには泣きそうになります。

なぜ王が無礼なことを言った臣下を殺さないのか?本当に臆病で愚かなのか?というのに確信を持てないのが布石となっており、全ては王の作戦であったことが明かされます。荊州が影であることも魯大臣がスパイであることも見抜き、自身の地位を脅かすのが敵国より都督であることまで見通して機を窺っていたわけです。妹の死は想定外だったのでしょう、妹を側室と言ったのを許せないと魯大臣をメッタ刺しにする辺り、もう弱気な芝居っ気は微塵もありません。伏線を回収し本物の都督を抹殺してこれでめでたし、かと思いきや、ラストの畳み掛けがスゴい。誰もが箱の中に都督の首があるかと思ったところで、その箱に重なるように剣先が現れるのには度肝を抜かれます。影の母を殺した者が王であり、妻と逃げろと影に言う都督に、実はよくできた人物だったのか、と思ったのも束の間、決して寝取られを許したわけではなかったという事実と、それを読んでの影の行動への驚き。そして「いま侍医を」と言いながらの王への仕打ちと都督に仮面を被せての、あまりに冷静な偽装。凄まじい幕切れです。

長く影を務めていた男は果たしていつから影ではなく人となることを考えていたのか。死を覚悟していた楊将軍との戦いから戻りなお生きている己は、もはや日陰者としての範疇を越えたと思ったのか。「人がなくても影はある」という荊州は、全てを闇に葬り自らがトップに立ちます。そこに走り寄ろうとしたシャオアイは真実を明かそうとしたのでしょうが、しかし外を覗いた彼女はそっと目を伏せます。この冒頭でも描かれた何かを覗くという行為、都督は妻の不貞を覗き、王は影の心の内を覗き、シャオアイはもはや止めようのない新たなうねりを扉の鍵穴から覗きます。そして我々観客は、時代の転換には人々の愛憎も深く関わるということを、スクリーン越しに覗いていたのかもしれません。

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