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2019
09.09

報復と愛情と映画の力。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』感想。

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Once Upon a Time... in Hollywood / 2019年 アメリカ / 監督:クエンティン・タランティーノ

あらすじ
1969年8月9日。



1969年のロサンゼルス。人気のピークを過ぎたと嘆く俳優のリック・ダルトンと、そのスタントマンで友人のクリフ・ブースは、最近リックの住む家の隣に越してきた映画監督ポランスキーとその妻シャロンを見かける。それはやがて世界を震撼させる大事件の前兆だった……。ハリウッドを舞台にしたクエンティン・タランティーノ監督作。

1969年のハリウッドを舞台に、テレビから映画に転身した俳優とそのスタントマン、そして同年ある事件に巻き込まれた実在の人物シャロン・テートを描く、クエンティン・タランティーノ9作目の長編監督作。かつて『賞金稼ぎの掟』というドラマに主演したものの今やゲスト出演の悪役ばかりオファーがある俳優のリック・ダルトンと、いつもマイペースなスタントマンで友人のクリフ・ブース。そして夫である『ローズマリーの赤ちゃん』の映画監督ロマン・ポランスキーと共にリックの隣に越してきた新進女優のシャロン・テート。彼らを中心に虚構と現実が入り交じったドラマが展開されます。シャロン・テート事件に向かって話が動いていくというのは予想できるものの、タランティーノ作品らしくどう話が転がるのかが予測できないまま、リックとクリフ、そしてシャロンのシーンが積み重ねられていきます。これがとにかく面白い。何てことのないシーンでさえ楽しく、161分という長さを感じさせません。優しさと愛しさと興奮と郷愁。せつないのに笑え、愉快なのに泣ける。映画愛がもたらすまさに映画の魔法に、様々な感情を刺激されます。

キャスティングがスゴく良いんですよ。リック・ダルトン役に『レヴェナント 蘇えりし者』レオナルド・ディカプリオ、クリフ・ブース役に『マリアンヌ』ブラッド・ピットという2大スターが初共演。情けなくも鬼気迫るディカプリオと、久々にセクシーさ溢れるブラピのそれぞれの活躍も見事だし、二人が見せるベタつかないけど確かな友情もたまりません。そしてシャロン・テート役の『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』マーゴット・ロビーが抜群にキュート。シャロンの友人ジェイ役に『ジェーン・ドウの解剖』エミール・ハーシュ、ヒッピーの女の子プッシーキャット役に『ナイスガイズ!』マーガレット・クアリー、スクィーキー役は『宇宙戦争』ダコタ・ファニング、ほかブルース・ダーンやアル・パチーノなど大御所に、タランティーノ作品でお馴染みの面々まで登場。

実話ベースの作品は、その実話を知らなければいつもなら調べずそのまま観るんですが、今回ばかりはその方がいい予感がしてシャロン・テート事件の詳しい記事を読んでから観ました。知らなくても多分面白いと思うけど、知ってから観ると感動が段違いです。理不尽な事件に傷つけられた映画の街を、映画で描くことの意義。何度も繰り返し観たくなる、タランティーノ監督作で一番好きな作品になりました。

↓以下、ネタバレ含む。








■あの頃のハリウッド

映画の都が舞台ということで、タランティーノの映画愛がこれでもかとブチ込まれているのがとにかく楽しくて、それは単に名作へのオマージュとかそういうのではなく、撮影現場のセットとか、映画館やドライブイン・シアター、スターの住む豪邸や街なかを走るときの景色など、演技して撮影して鑑賞してという映画というものの空気感全般のようなものが、あらゆるところに満ちているのが良いんですよ。そこを架空の俳優リック・ダルトンとスタントマンのクリフ・ブースが駆け抜ける。この二人は冒頭の『賞金稼ぎの掟』のインタビューシーンで並んで話してるのからして何だか良くて、その後のアル・パチーノに現実突き付けられてブラピの肩で泣いちゃうディカプリオというシーンでもう好きになっちゃう。その二人に連れていかれるのでどこもかしこも楽しいです。ブラピが延々とドライブしてるのもなんだか面白いし、時折挟まれる実際の映画やドラマをじっくり観るシーンも一緒になって観ちゃう。

そのなかでサラッと実在の人物も出てきたり、意外な人物がカメオ出演していたりして、虚実が入り乱れていくのがまた楽しい。スティーヴ・マックイーンが出てきたと思ったら、主役候補だったというリックが『大脱走』でマックイーンの代わりに演じるシーンが映されたり、ブルース・リーが出てきてクリフとバトルしたりする。リーを演じるマイク・モーの、顔はそうでもないけど動きや怪鳥音などが激似すぎて笑っちゃうし、リーの強気さにニヤニヤしながらも『グリーン・ホーネット』の撮影にクリフも参加しかけた、というのも愉快です。細かいネタをもっと知ってたらさらに楽しいてましょうね。また『ヘイトフル・エイト』カート・ラッセルがスタント・コーディネーター役、『デス・プルーフ in グラインドハウス』ゾーイ・ベルがその奥さん役、『レザボア・ドッグス』マイケル・マドセンが『賞金稼ぎの掟』でディカプリオと共演など、タランティーノ作品常連組も続々。エンドロールにティム・ロスの名もあったのでどこいたっけ?と思ったけど、名前の後ろに「(Cut)」とあったので「あっ……」となりました。それでもエンドロールに載せるタランティーノが良いですね。


■リックとクリフ

リックはかつてドラマで主演しながらもピークを過ぎた自覚があるからセンシティブなんでしょう。わざわざ全盛期を過ぎた男を描く小説を読む辺り、自分を客観視しようとしてるのかもしれませんが、8歳の子役の前で泣いちゃうというのが情けなくて最高です。あの子役を演じるジュリア・バターズちゃんのプロフェッショナルぶりがスゴくイイ。リックは台詞トチってわめき散らし「飲みすぎだ!」と言ってるそばから飲みそうになるのとか笑うんですが、そこには必死でチャンスをものにしようとしてるのに飲まずにいられなかった男の哀愁があって、引き込まれちゃうんですね。それだけにその後の悪役としての演技が見事で、監督に絶賛され子役にも誉められたリックが思わず涙ぐむのにはじんわりします。さすがはディカプリオ。このときの「リック・ファッキン・ダルトン」という台詞が、別れ際にクリフが言った台詞と同じだというのが、またリックとクリフの絆を思わせるので余計響きます。いやあ良い役者ですよリック・ダルトン、とか言いそうになりますね。『マクラスキー 十四の拳』観たいわー。

クリフはリックとは逆で何事もあまり気にしないと言うか、その時々を楽しんでるような雰囲気があります。フルタイムでのスタントの仕事がしたいと言いつつもダメならダメでまあいいかという泰然とした感じ。運転したりアンテナ直したりとほぼリックの付き人になってますが、それに関しては特に文句もなし。それが雇用主だから、というだけでないことは、リックと一緒に『FBI』を観たり、スパーン映画牧場でリックの車をパンクさせられたときの怒りっぷりにも見てとれます。終盤テックスに「他に誰かいるか」と聞かれたときもリックのことは言わなかったりするし(ラリってたせいかもしれんけど)。ブラピは『イングロリアス・バスターズ』では表情や口調でふてぶてしさが前面に出てましたが、今回はニヒルで圧も強くてとにかくカッコいいのが『ファイト・クラブ』を思わせます。ブルース・リーにも負けない強さ、未成年に迫られても相手にしない冷静さ。牧場でのパッと足を開いてのパンチなどは超シビれるし、あと何ですかあのカッコよすぎる屋根の登りかた!からの半裸サービス!セクシー!犬のブランディとの信頼感も抜群。

この二人が一緒のシーンって実はそこまで多くもないんですけど、要所要所でその仲を見せてくれるのがスゴく和みます。クリフの妻殺しの疑惑もリックは全く気にしてないし、イタリアから帰国の際にリックがいきなり結婚しててもやはり一緒だし。そもそもオープニングでブラピとディカプリオに被さる名前が逆になってる、というのがお互いを背負っているみたいな感じがして粋です。そんな結び付きが十分なので、それぞれのドラマも引き立つというもの。リックがリック・ファッキン・ダルトン言ってる間に、クリフ側では不意にスパーン映画牧場が出てきて一気にスリルが増します。一連の牧場シーンの緊張感は素晴らしい。小屋に入ろうとするクリフを皆が並んで見ているシーンなどはゾッとするし、特にスクィーキーの不気味さは恐怖です。え、マジでこれダコタ・ファニングなの?となりますよ。


■親愛なるシャロン・テート

もちろんシャロン・テートが出てきたときも、後の事件を知ってるだけに最初は緊張感を感じるんですが、無邪気に踊る姿だったり劇場で自分の出演作に嬉しくなってアピールしちゃうなど、とにかくキュート。ミニスカに白いブーツのファッションも素敵。で、自分の出演作に対する観客の反応に嬉しさが止まらないのがまた可愛らしい。上映されてる『サイレンサー第4弾 破壊部隊』の映像ではマーゴット・ロビーではなくシャロン本人の映像が使われてる辺り、ここでも虚実の境界が曖昧になって、シャロン・テートの幸せそうな姿が観る者に浸透します。そうしてリックとクリフ、シャロンのドラマが描かれて、一気に6ヶ月が経過。ここまで実質2日間しか描かれてないというのが信じがたいほど濃いです。

タランティーノは『イングロリアス・バスターズ』で見せたように本作でも実際の事件を覆すような展開にするんじゃないか、という予感もありましたが、まさかここまでとは。マルガリータをミキサーで飲みながら罵倒するリックにターゲットを移したのがマンソン・ファミリーの運の尽き、ここからの残虐性と痛快さの融合には超エキサイト。妻殺しに信憑性さえ持たせるクリフの空き缶スローにブランディとのコンビネーション、からの首ブチ折り、さらに顔面砕きまくりとか最高すぎます。「人殺しを演じた奴らを殺す」とか言ってたやつらが返り討ちに会うのがたまりません。そしてリックの火炎放射器!『マクラスキー 十四の拳』!プールだから潜れば助かるのに火炎放射器に焼かれるがまま、というマヌケさが奴らを貶めてもいますよね。「俺は悪魔だ。悪魔の仕事をするためにここに来た」という実際に言ったという言葉も、クリフによって「悪魔のクソがどうこう」という風にクソ扱い。この徹底した現実への報復、まさに虚構ならではの映画の力です。

救急車で運ばれるリックとクリフの「いい友達だ」「努力してる」のやり取りが序盤とはまた違った親しみを持って交わされるのには泣けます。そして様子を見にきたジェイがリックの作品を観ていたという事実にまた泣きそうになり、不意にスピーカーから聞こえてくるシャロンの声に、ああ生きてる、ここでは「犠牲者」ではないシャロン・テートがリックと言葉を交わしている、というのに落涙。最後にタイトルの「Once Upon a Time...」でちょっとだけ止まるのがifの物語であることを思わせて少しせつなくもあるんですが、この「犠牲者」ではないシャロンを描くことこそがタランティーノのやりたかったことなのでしょう。少なくとも我々はもう、シャロン・テートの死よりも、生き生きと動き笑う彼女の姿の方が記憶に刻まれているのです。映画という魔法による、なんという優しさと愛情。素晴らしい、そして最高に面白かったです。

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