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2019
09.02

歌って躍って見つけに行こう。『ダンスウィズミー』感想。

dance_with_me
2019年 日本 / 監督:矢口史靖

あらすじ
玉ねぎなのに甘~い!



一流商社で働く鈴木静香は、ある日姪っ子と訪れた遊園地にいた怪しげな催眠術師によって「音楽が鳴り出すと歌って踊らずにいられない」という催眠術にかかってしまう。あらゆる音楽に反応して踊り出すことに困り果てた静香は、行方をくらました催眠術師を探そうとするが……。矢口史靖監督によるミュージカルコメディ。

『サバイバルファミリー』『WOOD JOB! 神去なあなあ日常』の矢口史靖が今回監督・脚本を手がけたのは、なんとミュージカル。都心の一流商社で働く勝ち組OLでありながら、ミュージカルスターとなる催眠術で歌い踊るようになってしまう静香のドタバタを描くコメディでもあります。日本でミュージカル映画が少ないのは、いきなり歌って踊り出すのが不自然だと言う人がやはり多いからでしょう。そういう人でも楽しめること間違いなし。催眠術にかかってるから歌い踊るのはどうしようもない、という設定の元、自分を飾って生きている静香がミュージカルによって日常を(不本意ながら)ブチ破っていきます。そして催眠術師の助手をしていた千絵と共に催眠術師を探すロードムービーへと変貌していくのが楽しい。

使われる楽曲は懐メロからアイドルからヒップホップまで多彩。そんな楽曲に合わせて踊りまくる静香役は三吉彩花。『いぬやしき』の娘役だった人ですね。元モデルだけあってスタイルがいいですが、全ての歌とダンスを吹き替えなしでやったというのが素晴らしい。成り行きで静香と組むことになる千絵役にはお笑い芸人のやしろ優。意外なキャスティングですが歌は上手いし演技も悪くない。催眠術師の行方を探る興信所の渡辺役は『銀魂2 掟は破るためにこそある』ムロツヨシで、胡散臭さとコミカルさがハマってます。ほか、洋子役にシンガーソングライターでモデルのchay、村上役に『怒り』三浦貴大、そして催眠術師マーチン上田役で『GODZILLA ゴジラ』の宝田明がお元気な姿で登場。

日本のミュージカル映画というと『舞妓はレディ』くらいしか観た記憶がないんですが、本作は日本でミュージカルをやる不自然さをそうと感じさせない設定が上手い。全編ハッピーかと思わせてそこはさすが矢口史靖、現実(特に金)の怖さを存分にスリルに変えてくるし、どうってことのないキャラに好感を持たせてしまうのはさすがの演出。そして歌い踊る恥ずかしさが高揚に変わるときの解放感!全ての経緯があってのエンドロールの多幸感は想像以上。踊りまくる三吉彩花と共に、音楽とダンスの楽しさが現実のツラさを笑い飛ばします。

↓以下、ネタバレ含む。








ミュージカルというのは突然歌ったり踊ったりするもんなので、ミュージカル映画やディズニー映画、インド映画などを見慣れた身からすれば別に不自然でもないんですが、日本映画には少ないですね(観てないだけかもしれんけど)。それを逆手にとっての「催眠をかけられたから踊ってしまう」というアイデアがまず楽しい。しかも催眠術によって、という冗談のような設定が、躍り終わった後の騒動に繋がったり笑いに結び付いたり、あと意外と最後まで重要だったりするので侮れません。ミュージカル自体をネタにしたミュージカルというメタ構造なわけですね。冒頭で催眠術師のマーチン上田が躍り歌うところからこの構造が宣言されています。これには『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』がヒットしたという下地もあるでしょう。前半の社内で踊りまくったり高級レストランで暴れまわるのは静香にとっては悲劇でしかないんですが、見てる方としてはスマホの着信音でも踊っちゃうのが愉快だし、周囲を巻き込んで一大ステージになるのが楽しい。

静香は田舎から出てきて都会的な生活を送り一流商社で働くものの、人の噂に付き合わされたり周囲に合わせて食事も途中で止めたり、急な仕事を振られて休日も在宅勤務、姉からは無理してたんじゃない?と言われる始末。そんな人の目を気にする静香が、人目も憚らず踊り続けることで最初こそ困り果てるものの、やがてマーチンを追って旅に出てからは、旅で出会った人々との交流やトラブルなどのエピソードを通して自身を振り返り変わっていく。要は現状を打破して解放されるというお話です。肉体的に振り切ることで吹っ切れ、ロードムービー展開でさらに解放への説得力を増すというわけですね。幼い頃の苦い思い出からミュージカルを嫌っているけど、実は踊りたかったんだ、というのも効いてきます。実際は万事がハッピーなわけでもなく、レストランではどうやらとんでもない額の借金を背負うし、家財一式売り払ってもマーチンを追うためにさらに金がかかるし、結構追い詰められていくので笑い事じゃないんですけど。

何はともあれ三吉彩花が魅力的に撮られているのがイイ。ソーシャルダンスからアイドルの振り付けまで歌って踊りますが、本職のダンサーじゃないので上手すぎない、でもしっかり形にはなってるし歌もいける、というバランスが絶妙。特別じゃない女性だからこその親近感があって、でも華もあるんですね。回りすぎてパンツ見えるのドキッとするし、コミカルさも良い感じ。周りが一緒に踊ってるようでいて実際は一人でやってるので、音楽が終わると現実に戻る恥ずかしさがある、というのがミュージカル映画としては異例ですね。でもイケメン村上とのダンスとか、イナバウアーもとい田舎者たちとのダンスバトルは実際にやってるように見えるので、シーンによってそこら辺の線引きが曖昧なのは気になりました。楽しさ優先ということなんでしょうが。

やしろ優の千絵はいかにも適当で夢だけ語ってる感じだし金に汚いしで最初は印象が悪いところを、田舎のヤンキーに拉致されたり男に騙されたりという事件を通して、徐々に静香とのバディ感が増してくるのが良い感じ。静香とは逆に人生の負け犬感が凄くて、あんなとこでカップ焼きそばのお湯捨てたらそりゃ怒られるとは思うけど、そのシーンの情けなさが彼女をよく語っています。千絵もまた歌い踊ることで静香と共に解放へと向かうわけですね。またchayの演じる洋子の登場でチーム感も出てきて、三人で歌うだけでそんなに金になるのか?とは思うものの、楽しそうに歌う姿が自由でイイ。実際はとんでもないストーカーで、元カレの結婚披露宴でウェディングドレスらしき衣装を着て「ウェディング・ベル」を歌うとかヤバいにもほどがありますが(あれ披露宴で歌う曲じゃないからな)、予想以上の惨劇になるのが凄い。洋子もある意味解放されることになる……と言っていいのかな?最後に車を取り返して去るのは粋ですね。

楽曲は既存の曲が多いですが、流れてくる曲で踊るという設定があるので自然とそうなってしまうというのはあるでしょう、オリジナル曲じゃないという微妙さはありますが、むしろ既知の曲を使うことでさらに親しみやすくすることを狙ったのかも。「Tonight」とか「狙いうち」など懐メロが多いのもあらゆる世代を考慮したということですかね。ただミュージカルに慣れない人向けという設定ためか、若干気になるところも。先の現実と虚構の線引きの曖昧さ以前に、遊園地の片隅で催眠術小屋があるというのは不自然極まりないし(白鼻毛で催眠にかかるのは笑いましたが)、姪っ子との関係がやたら浅いとか(あの年頃ならあんなもの?)、前半のミュージカル然とした華やかさが後半はほとんどないとかはありますかね。ムロツヨシの渡辺が最後にちょっとイイ人っぽくなるのとか、胡散臭いマーチン上田の最後のステージが結構盛況なのも無理やり感はあります。

とは言え、三人の借金取りも巻き込んでの豪華なステージで後半の地味さは巻き返すし、実は女癖の悪い村上をエレベーターでフッてトレンディドラマの世界から自分らしい世界へと向かう静香の清々しさにはニヤリとします。そして「タイムマシンにお願い」に乗せて全員が楽しそうに踊るエンディングの多幸感。映像で語る演出の妙にチャレンジングな設定を活かして、新たなミュージカルを作り出したと言えるんじゃないでしょうか。

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