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2019
08.29

切り開く数字と沈みゆく命運。『アルキメデスの大戦』感想。

The_Great_War_of_Archimedes
2019年 日本 / 監督:山崎貴

あらすじ
数字は嘘をつかない。



昭和8年、日本帝国海軍では巨大戦艦と航空母艦のどちらを建造するかでもめていた。戦艦建造を白紙に戻したい海軍少将の山本五十六は、偶然出会った数学の天才、櫂直を海軍に招き入れる。不承不承これを受け入れた櫂は、巨大戦艦建造の予算に関する不正を暴こうとするが……。三田紀房の同名コミックを実写化した半歴史ドラマ。

欧米との対立が激化し孤立していく日本という第二次世界大戦以前の昭和8年、戦艦「大和」の建造に隠された陰謀を暴くべく、数学の才能を活かして帝国海軍に立ち向かう男の物語。タイトルのアルキメデスはギリシャの数学者にして科学者ですね。いやあこれ、すんごい面白い!時代がきな臭くなってくる昭和初期ということで後の戦争を見据えた空気感のなか、そこに登場する型破りな天才、主人公の櫂直が、非合理な観念を「数学」で打ち負かそうとしていきます。まず序盤で示されるある結末、これがド迫力で見事なんですが、そこから遡ってその史実に基づく結末へどのように向かうのかという興味に始まり、数字に魅せられた突飛な天才と真面目な軍人のバディ関係の愉快さ、戦艦建造予算の不正を暴くという不可能に立ち向かうミッションの面白さ、謀略渦巻く輩との法廷劇に近いギリギリのやり取りで至る痛快さ、それても抱えざるを得ないやるせなさなど、色んな面で最高。合理性と論理性で詰めながら、その奥にある感情の滾りや燻りも混在する。ロジカルなのにエモーショナルなのがたまりません。

櫂直を演じるは『生きてるだけで、愛。』菅田将暉。何でも測らずにいられないという一見変人ですが、数学はもちろん洞察力にも優れた天才で、やると決めたら泥臭いことにも向かっていく強さがあります。櫂に振り回される海軍少尉の田中正二郎役は『居眠り磐音』柄本佑。軍人らしい抑制を利かせながら感情が漏れ出ちゃう好漢として、櫂とナイスコンビを見せてくれます。櫂を海軍に引き込む海軍少将の山本五十六役として『さらば あぶない刑事』舘ひろしが存在感を見せ、櫂が打ち負かすべき相手の造船中将・平山役として『無限の住人』田中泯がシブいにもほどがある素晴らしい演技で魅せます。ほか、五十六のライバル嶋田少将に『三度目の殺人』橋爪功、櫂が家庭教師をしていた尾崎財閥の娘・尾崎鏡子役に『君の膵臓をたべたい』浜辺美波をはじめ、國村隼、小日向文世、笑福亭鶴瓶などが出演。

戦争そのものを描くわけではないため悲壮さは薄めながら、確実にそこに向かう史実を元にしているという緊張感も凄い。そして数字の美しさに魅せられた櫂がその美しさゆえに浮かべてしまう微笑みと、冷静な平山の中に二重に含まれる憂国の思いに震えます。監督の山崎貴は『永遠の0』でも第二次大戦という同じ題材を扱ってますが(観てないので比較はできませんが)、少なくとも本作は映像も音響も演技も抜群で、極上のエンターテインメントに仕上げています。……あ、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』のことはひとまず忘れましょう。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭いきなり始まる大海戦、原作の最初の方だけ読んだら存在しないシーンだったので映画オリジナルのようですが、わらわらと飛びくる戦闘機に応戦する大和が海に沈むまでを描くこの5、6分のシーンが素晴らしい迫力。轟音立てて飛ぶ航空戦力の恐ろしさ、爆弾投下の音が近付く緊張感が、様々なカットでノンストップで映し出されます。VFX主体である山崎貴の面目躍如ですが、それだけではなく演出も良いんですよ。大和の乗員たちが砲手も助手も叫びながら撃ちまくるのには鬼気迫るものがあるし、あと驚いたのは、撃墜されパラシュートで海に落ちた敵兵を救いにくる専用機があり、それを見た大和の乗員たちが呆気に取られるシーン。これは特攻隊を編成し、死ぬまで戦えと言う日本では考えられないわけです。戦争の理不尽さと非情さ、命の考え方の違いを描くのにこういう捻りを入れるのは見事。そして転覆し海に沈み行く大和の、巨大であるがゆえに取り返しのつかなさが凄い『タイタニック』のような最期に圧倒されます。物語の中心にいるかと思われた大和が沈むシーンから始まることで、大和建造を阻止しようとする櫂は敗れたのか、あるいは何か意外な展開が待っているのかと俄然興味が湧いてくるんですね。

櫂直は海軍が嫌いで人の言うことなど聞かず何でも測ってしまうという、天才にありがちな変人として描かれますが、頭の回転が早く決して諦めず、権力にも媚びないアウトローであることがわかってきます。五十六の誘いに乗るのも、アメリカと戦争になったら負けるという言葉が実感できるからで、巨大戦艦さえあれば勝ったも同然とたかをくくるお偉いさんとは真逆の存在。このキャラクター造形が菅田将暉のちょいとひねくれた演技にハマっています。資料が全く手に入らないのを他の戦艦を自ら測ることで設計図に起こしたり、軍艦設計の基本を一夜で覚えたりと、不可能に思えたミッションを次々クリアしていくのは痛快。一方の嶋田側は資料の閲覧ができないよう根回ししたり、鏡子との関係をスキャンダラスに拡げたりと、姑息かつ高圧的な手で妨害してきます。そのくせ嶋田はセカンドのことをバラされたりするのが滑稽。この権力との戦いというのが面白さの一つですね。

また田中の存在もよくできています。階級に不満を唱えたり櫂に振り回されたり、柄本佑のしゃっちょこばった演技が可笑しいのもあってコメディ色が出ています。「敬語はやめてください」と半ギレで言うのとか笑います。そんな田中が最初は無礼極まりない櫂に苛立っていたのが、コンビとして難題にチャレンジしていき、櫂の才能と諦めない思いに打たれて徐々に信頼するようになっていくのが熱い。信頼したらもうベタぼれなのが犬っぽくてキュートですね。そして田中泯の平山ですよ。最初は上下関係にうるさいただの管理職かと思ったら、模型お披露目のタイミングや決定会議での沈黙後のここぞというときの鋭い言葉など、とにかく重厚。予算の虚偽を証明されて「それがどうした」と言うのは開き直りではなく、真に国のことを考えての言葉であるわけですね。そのことを淡々と論理的に語り、反対派の五十六どころか精神論しか言えない嶋田までが黙ってしまうのには震えます。それでいて設計ミスを指摘した櫂の設計図にそれまでの冷静さをかなぐり捨てて食いつくところが、根っからの技術者。

会議シーンは追い詰められた櫂の時間稼ぎから田中の奮闘、嶋田側の若手との言い合いに嶋田の根回しと、法廷劇を思わせる戦いが実に上手い。設計者の矜持から平山が手を引き櫂の勝利となるものの、逆転に次ぐ逆転の展開には引き込まれます。難を言えば、大阪に行ってからが少しテンポが悪い気はするし、終盤にそれまでなかった櫂や平山のモノローグが突然入るのには引きますが、不合理な体制との争いや、微かなチャンスで道を繋げていくなど、見せ場も多くて実に面白い。必要以上につけすぎない音楽も良かったし、浜辺美波の鏡子は可愛い。と言うか可愛いな!そして平山が最後に見せる本心には驚愕。彼が大和を作る理由は戦争に勝利するためなどではなく、その美しさと巨大さで戦意の象徴たる大和が沈むこと、それにより日本が滅ばないことこそが目的なのだと、会議で語った建前とは別のさらなる憂国の思いがあることが明かされます。そして大和の設計図を書いていた櫂が微かに浮かべていた笑みが、平山に同士と言われて否定できない櫂の苦さとなって残るのです。

戦争そのものを描くのは冒頭だけなので、以降は悲壮感も薄いんですが、この最後の平山の言葉が冒頭の大和撃沈に嫌でも繋がっていくので、これから起こる戦争の悲劇が暗に示されるんですね。そして真珠湾攻撃を模索し始める山本五十六の軍人としての真の顔に見る、逃れられない史実。ラストで見送る戦艦にこの先の悲劇を重ねて「この国を象徴してるようだ」と涙する櫂に対し、若い軍人が屈託のない笑顔で希望を重ねる姿に、本作の優れた戦争映画の一面もあると思うのです。

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