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2019
08.27

地獄はここに、未来はどこに。『ゴーストランドの惨劇』感想。

Incident_in_a_Ghostland
Incident in a Ghostland / 2018年 フランス、カナダ / 監督:パスカル・ロジェ

あらすじ
ラヴクラフトさん降臨。



人里離れた叔母の家を相続して移り住むことになった親子、シングルマザーのポリーンと双子の娘ヴェラとベス。家族は新しい家に越してきた日の夜、家に押し入ってきた二人の暴漢に襲われるもこれを撃退。それから16年後、家を出て小説家として成功していたベスは、まだあの家に住んでいるヴェラに電話で呼び出される……。パスカル・ロジェ監督によるホラー映画。

母と娘二人に突如襲い掛かる恐怖を描くホラーです。活動的な姉ヴェラと、それとは対照的に内向的な妹ベスの双子の姉妹が、母ポリーンと共に越してきた田舎の家。古い人形や調度品に囲まれた不気味な家に着いたその夜、惨劇は幕を開けます。襲いくる謎の人物二人に逃げ惑う少女たち、母が取る決死の行動。しかし物語はそれで終わりではないのです。いやこれは凄い、もう怖いなんてもんじゃない。心を折る絶望。出口のない地獄。91分とは思えない体感時間の長さに息が詰まります。この恐怖は『悪魔のいけにえ』に匹敵するでしょう。また本作は相当なイヤミスでもあって、その伏線の妙にまんまと罠にかかります。天地が引っくり返るような戦慄、まさに惨劇。それだけに必死に逃れようとする姉妹が愛しくなってきます。

ベス役を演じるのは、10代がエミリア・ジョーンズ、大人になってからはクリスタル・リード。この二人がよく似てるのでシームレスに話が繋がってる感があるし、どちらも良かった。特にエミリア・ジョーンズはまさに美少女という感じで画面によく映えます。ヴェラ役は10代がテイラー・ヒックソン、大人はアナスタシア・フィリップスでこちらも似てますね。劇中では言及されてなかった気がするんですがベスとは双子という設定だそうです。このあまり仲が良くない姉妹の関係性も見所。また母ポリーン役のミレーヌ・ファルメールがどこか超然と見えるのも実はわけがあったりします。

ポップなキャンディ・トラックの不気味さ、恐怖で壊れることの痛ましさ、いざというときの子供たちの非力さなど、多方面から引きずり込まれるヤダ味が満載。一方で映像作品ならではのミステリーとしての構造が秀逸で、恐怖を煽る演出もいちいち凄いです。『ヘレディタリー 継承』を思い出すトラウマ展開ですが、あちらより現実的な怖さであるのがまたイヤな気分にさせてくれるし、それだけにラストがとても胸に迫ります。

↓以下、ネタバレ含む。








■予想外の逃避

タイトルから霊的な恐怖を描くのかと思いきや全く違って、そこにあるのは残虐な暴力による現実的な恐怖。なので心の準備ができてないまま狂人たちの凶行に突き進んでいくのが非常に恐ろしいです。始まりが女性三人だけでの道行きというのからして不安だし、煽ってくるキャンディ・トラックが後を付けてくるのは『激突!』のような怖さがあるし、ベスが見つけた新聞記事により不安はますます増大。田舎とはいえ家のドア開けっ放しにしちゃうのには「早く閉めて!」と言いたくなるし、そんななかヴェラが一人悪態ついてるところでとくに何もないのに急にギャン!と効果音が鳴るのでビビります。ヴェラの「妹が憎い」と言うのが惨劇のスタートなのだと言わんばかりに。やがて襲われてヴェラが連れていかれるシーンが絶望的でイヤーな展開なんですが、それでもポリーンが命懸けで撃退して16年もの時間が飛ぶので、なんとか最悪の事態は乗り切れたのだなと安心するんですよ。ホラー映画での恐怖を乗り切った先の安心感というのはとても大きいし、その後また怖い目に逢うとしても「次はなんだ」と身構えることができるわけですが、本作はそうじゃない。そういう安心させてからのとんでもない絶望が何度もあるわけですよ。これがえげつなくて凄まじい。

大人ベスは夢だった小説家となり、過去の事件を元にしたホラー小説でベストセラー作家に。結婚して子供ももうけ、忙しくも充実した日々です。そんななかヴェラの不審な電話を受けてベスは十数年ぶりにあの家に戻るわけです。でもどこかがおかしい。売れっ子作家なのにタイプライターで原稿を書いていたり、夫や子供の印象もどこかぼんやりしているベス。カートに山盛りの人形を持ってくる母は、ベスの夫や孫のことを何も聞かない。なぜ鏡に書かれたヘルプ・ミーの文字をそのままにしておくのか。なぜ母は「若い体がほしい」と言うのか。ヴェラは何を恐れているのか。このレコードの音はどこから聞こえてくるのか。そうして、ベスが過去の恐怖を乗り切ったどころか、現実ではまだ現在進行で絶賛惨劇中だというのが明かされるわけです。一気に地獄へと引き戻される、この絶望感は並みではありません。ヴェラがベスに「置いていった」と言うのは家を出ていったということではなく、ヴェラを現実に残し自分は空想に入っていたということだったんですね。


■暴力と狂気の惨劇

夫も子供も不気味に佇む犬もインタビュアーの女性も、そこにあった写真の投影。自分のインタビュー記事を自作していたというのがあの番組の伏線でもあります。喉をかっ切られたのは暴漢ではなく母の方であり、部屋の隅に動かぬ体として放置されているのもえげつない(だから若い体がほしい、なんですね)。心を閉じて、見えるもの聞こえる音を妄想にマッピングさせていくベスの空想力は凄いですが、そこまでしないと心を守れないほど追い詰められていたということ。振り返れば、冒頭のラヴクラフトを称える言葉はエリザベス・ケラー、つまりベスのものであり、物語の頭から全てがフィクションだと信じ込もうとしていたわけです。ベスは初潮を迎える年齢なので12、3歳くらいでしょうか、仮にこの物語が「大人への通過儀礼」という意味合いも含んでいたとしたら、痛ましいにもほどがあります。パスカル・ロジェ監督、容赦ない。

姉妹をいたぶる二人は"魔女"と"化け物"と形容されますが、その残虐性と暴力性はまさにその呼び名そのもの。魔女の方は声が低く顔もあまり映らないので性別もよくわかりませんが、恐らく二人は母子であり、ヅラを被っていたことから何か不治の病にかかった結果、頭が弱く異常な性癖の息子のために生け贄を探していた、というところなのでしょう。ヴェラが中指立てたのがきっかけなのか、最初から狙われてたのかはわかりませんが、予期せぬ暴力と理解の及ばぬ狂気がこれほど恐ろしいものだというのがイヤというほど実感できます。ベスを人形に仕立てるシーンでは、その異常さと人形の股を嗅ぐ汚らわしさ、バーナーを取り出す恐ろしさと生きた心地がしません。鏡の中のビックリ人形がスリルだけでなく救いになったりもするし、反撃のチャンスも訪れますが、首刺されても頭を殴られても平気なのがまた絶望感。そこでトドメをさすんだ!とも思うけど、実際非力で怯えきっている少女にそんなことはできないわけですよ。


■悪夢からの脱出

二人で脱出して駆けるシーンは、それまでの薄暗い家での悲壮さがあるだけに美しく感動的。偶然にも警察車輌が通りかかったことで、ようやく解放感が得られます。無線で話す警官の向こうにキャンディ・トラックらしき影が見えたときは震えますが、全然別で一安心、ようやく乗り切った……と思ったら、またもや急転直下の地獄行きとなるのには驚愕。トラックの内装がやたらポップなのと裏腹に、手錠に繋がれ乱暴に揺られる二人の目の前に見えてくるのが元の家。もう絶望しかないです。そして再び空想のなかに閉じこもるベス。でもそんなベスを今度もヴェラが呼び戻そうとします。「お姉ちゃんは壊れたよ」という声は実際に言われたものなのかベスの思い込みなのかはわかりませんが、実はヴェラは壊れていたわけではないようで、「声を出さないように」など色々ベスを気遣ったりする気丈さも残ってますね。叫び声は実際の声だったかもしれないし、かなりギリギリではあったでしょうが。あの強気だった姉がこうも変わり果てるのかと戦慄しましたが、あれはベスが自分が受ける恐怖を空想のなかで姉に肩代わりさせていたからなのかもしれません。

だからこそ、再び妄想に閉じこもったベスが「私の姉なのよ」とヴェラを救うために自ら現実に戻るのはその償いということもあったのだろうし、それ以上に空想のなかでラヴクラフトが「これは傑作だ」と言うように、生き延びてこの物語を自分のものとする決意の表れでもあったでしょう。絶体絶命のなか決着がつき今度こそ本当に解放されたベスが、最後に運ばれるヴェラに「愛してる」と言うのには、かつては「嫌い」と言っていただけに泣けます。本当にこの姉妹の無事に安堵し、愛しさが込み上げるのです。ラストに母の幻影が「書き続けろ」と言わんばかりにタイプライターを指すことで、ベスは妄想のなかで見た自分を目指していくのでしょう。救急隊員に「スポーツは好きか」と聞かれ「書くことが好き」と答えるところに、恐ろしく悲しい記憶を乗り越えて「ゴーストランドの惨劇」を上梓する未来のベスの姿が浮かんできます。この禍々しいタイトルは、実は未来への希望でもあったのです。

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