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2019
08.12

暴力と欲望からの解放。『ゴールデン・リバー』感想。

sisters_brothers
The Sisters Brothers / 2018年 アメリカ、フランス、ルーマニア、スペイン / 監督:ジャック・オーディアール

あらすじ
歯磨きは大事。



1851年のゴールドラッシュに沸くオレゴン、最強の殺し屋である兄イーライと弟チャーリーは、一帯を取り仕切る提督の命令で黄金を探す化学式を発見したという化学者を追うことになる。連絡係の男と並行して化学者を追う兄弟だったが、黄金に魅せられた4人は成り行きで手を組むことに……。ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した西部劇サスペンス。

ゴールドラッシュのアメリカを舞台に、本来は組むはずのなかった4人の男が行動を共にし、それぞれの思惑が交錯していくというサスペンスにして西部劇。シスターズ・ブラザーズという冗談みたいな名前ながら有能な殺し屋の兄弟、ゴールドラッシュに純粋な夢を見る男、自由を求め金探しな話に乗るインテリという異質な四人の組合せが独特。何に従うのか、何を求めるのか、時代の過渡期に足掻き、ときに暴力から逃れようとしながらまた暴力に帰結する奴らのドラマに引き込まれます。リアルな生活感や揺れ動く情感の機微、不意に訪れる不穏さが秀逸。先の読めない面白さ。ちょっと『恐怖の報酬』を思い出しました。

兄弟の兄イーライ役は『僕たちのラストステージ』ジョン・C・ライリー。強面ながら実は純粋で優しい人物というのがハマり役。一方の弟チャーリー役は『ドント・ウォーリー』ホアキン・フェニックスで、酒癖が悪く危うさの漂う感じがこれまたハマってます。二人の連絡係となるジョン・モリス役の『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』ジェイク・ギレンホールは真面目ながらどこか追い詰められたような焦りが、ウォーム役の『ヴェノム』リズ・アーメッドは迸る情熱とそれだけに怪しさが漂います。それにしても何とも豪華な面子。あとこれが遺作となったルトガー・ハウアーが提督役なんですが、不覚にも気付けませんでした……。

監督は『ディーパンの闘い』『君と歩く世界』のフランスの名匠ジャック・オーディアール。英語劇は今回が初めてとのことですが、それがいきなり西部劇サスペンスで、しかもこの出来、さすがです。過去の出来事から複雑化している兄と弟の立ち位置というのがキモになってて興味深く、撃ち合いはあるけど撃ち合ってる双方を映すシーンはあまりないのも特徴的。ちょっと長さは感じるものの、メイン4人が皆イイし、この展開でこのラストの意外性というのも良いです。

↓以下、ネタバレ含む。








舞台はゴールドラッシュの時代ということで、開拓時代と近代化の合間のような落ちつかなさ、人間の欲望が渦巻く闇深さ、撃ち合いで簡単に人が死ぬ危うさというのが全編に漂っています。冒頭からして兄弟の殺しのシーンであるのも象徴的。欲しいものは非情な手段を使っても手に入れようとす権力と、仕事だからと容赦なく振るわれる暴力。そこに金という人間を狂わせる富が加わり、様々な思惑が交錯します。そのなかで物語の中心となるシスターズ・ブラザーズ。姉妹?兄弟?と一瞬戸惑うものの、そんな翻弄される感じは名前だけではなく兄弟の立ち位置にも見られます。イーライの方が年上に見えるのに仕事はチャーリーが取り仕切り、指揮官も彼だと言うのでちょっと混乱します。後にチャーリーがDVな父親を殺したということがわかり、「自分がやるべきだった」とイーライが後悔するシーンが映され、イーライにはチャーリーに対する後ろめたさとそこからくる遠慮があるのでしょう。チャーリーが暴力的でいつもしこたま酔っ払うのもその辺りが影響しているのかも。イーライが夢で見るのは恐らく父親を埋めているところであり、それが兄弟の在り方に大きく影響していることが窺えます。

そういう意味では、本作は父権による暴力的抑圧から逃れようとする話だと見ることができます。イーライはそんな父親が反面教師になったのか随所で優しい面が出ており、冒頭の納屋の火事で馬を助けようとしたり、愛馬のタブを最初は「駄馬」と言うのに最後は「並だが」と愛着を見せたりします。女性からもらったスカーフを大事に持ち歩き臭いをかいだり、それをもらったときの光景を再現しようとしたりするところには、純粋で優しいが故の孤独さも感じられます。彼が歯磨きをするシーンが印象深いですが、この清潔にするという行動が、血と泥と悪臭にまみれた暴力とはかけ離れているのも象徴的。一方のチャーリーは泣いたふりして慰めに来たイーライを笑ったりするように、イーライの優しさに甘えるところも見受けられます。でも彼は父殺しにより暴力に囚われているので、もう引き返そうというイーライの提案には従わず殺しを遂行しようとする。提督に成り代わろうとする野心を抱くのも結局は父権的な権力から逃れられてないからなのでしょう。そんな弟でも、なんだかんだで離れられない兄、という構図が最後まであります。

ジョンもまた父親から逃れるために自由になろうとしていることがわかってきます。ウォームに父親のことを話し出すのは少々唐突ですが、彼の場合は父の影響下に囚われていることを自覚しており、そのために提督を裏切ってウォームについていきます。イーライとは歯磨き仲間であることが彼の望む清潔さを表してもいますね。ウォームは理想を求めて暴力に支配されない町を作ろうとしており、ジョンに対して「すれ違ったあとも笑みを崩さない」ということを評価している辺り、優しい世界を夢見て、人の善性を信じたいと願っているようです。若干の胡散臭さも拭えないんですが、裏を返せばそれは人に裏切られてきたからこその到達点であり執念なのでしょう。父の影を引きずり優しさと暴力に分かたれた兄弟と、父の影響を逃れたいジョン、暴力を逃れたいと願うウォームと微妙にシンクロする4人が、成り行きとは言え一緒に行動するようになるのは面白い。でもそのきっかけは銃撃戦という暴力ではあるんですが。

序盤の襲撃以降、メイフィールドの宿での手下との銃撃戦まで意外にも撃ち合いはないんですが、それでも追う兄弟と追われる二人の追跡劇が緊張感あるし、山のなかでイーライが命の危機に晒されたり(寝ながらクモ食べるの食いしん坊か!と思ったけど)と、なんだかんだあって大変。ジョンに捕まったあとの銃撃戦は、相手の姿が見えないのにガンガン撃たれるのがスリリングですが、兄弟が結構強いので撃退。実はああ見えてイーライが強いんですよね。終盤に襲ってくるレックスら相手にも、チャーリーが戦えないなか一人で圧勝。暴力から逃れたいイーライが暴力で現状を切り開くというのが皮肉です。また、ジョンやウォームとも打ち解けてきて暴力の縛りから徐々に解放されていたチャーリーが、今度は川面に浮かぶ金の輝きにとりつかれて薬品をブチまかしてしまうのも皮肉。ようやく金が採れるというアガるはずのところで、緊張感ある音楽が流れたり「痛みを感じたら洗い流せ」という台詞が不穏だったりするので嫌な予感はするんですが、案の定かなりの劇薬なんですね。自由を求めたジョンは瀕死のなか自ら引き金を引き、ウォームはイーライを親友ジョンと思い込んで息を引き取る。4人が並んで川岸に腰掛けるショットなどとても良かっただけに、なんともやるせない展開。

愛馬タブがなんで離れて死んでいたのかよくわからなかったり(繋がれてなかったっけ)、チャーリーがイーライを平手打ちしたと言うのがそうだっけ?と思ったり(ウソなのか?見逃しただけ?)、とちょっとわかりにくかった部分もあるんですが、まあそれは置いといて。ともかく片腕を失ったチャーリーはもはや銃を撃てず、彼を突き動かしていた暴力衝動は行き場を失います。さらには提督にかましてやろうと息巻いて向かったら既に死んでいるという肩透かし。結果的に父権的な暴力権力から解き放たれてしまうわけです。もうやることないし、金はこりごりだし、じゃあどうするかと言えば、まさかの「家に帰る」。母親に迎えられ(うっかり殺されそうになるけど)、深い事情を聞く前に食事と風呂という、あんな穏やかなラストが待ってるとは驚き。時代のうねりや何より過去の罪を抱えたことで翻弄され走り回った兄弟は、憑き物が落ちたように解放される。それは命が軽くなりがちな西部劇にあって、これ以上ない優しい結末であり、命のあることが何と幸福かという深い余韻となって残ります。

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