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2019
07.11

そして少年は世界を救う。『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』感想。

Spider-Man_Far_From_Home
Spider-Man: Far From Home / 2019年 アメリカ / 監督:ジョン・ワッツ

あらすじ
ボゥ!



夏休みに高校の研修旅行でヨーロッパへ行くことになったピーター・パーカー。思いを寄せるMJとの楽しい旅を計画していたピーターだったが、旅先のヴェネツィアで水を操る怪物に遭遇。そこに謎のヒーロー、ミステリオが現れ危機を救われる。一方でニック・フューリーにより世界の危機が迫っていることを告げられるピーターだったが……。『スパイダーマン ホームカミング』の続編となるマーベル・ヒーロー映画。

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に合流したスパイダーマンの単独作第2弾。と言いつつ『アベンジャーズ エンドゲーム』から直接続く、MCUフェーズ3の最終作でもあります。指パッチンから生還してサノスとの激しい戦いを終えたスパイダーマンことピーター・パーカーは、親友ネッドや想いを寄せるMJらと共にヨーロッパを回る学校の科学旅行に参加します。スパイダーマンであることを一旦忘れて夏休みを満喫しようとしていたピーター、しかし謎のヒーロー・ミステリオや「エレメンタルズ」と呼ばれるモンスターに遭遇、さらには元「S.H.I.E.L.D.」長官ニック・フューリーが現れ夏休みを支配されることになります。前作『ホームカミング』は史上最も若いスパイダーマンということで若者の成長を描く青春映画としての側面が強くありましたが、本作でもそれは同様。しかし『アベンジャーズ エンドゲーム』以降である、ということが色濃く反映されてもいます。失われた者の大きさに対する引け目、残された者の生き方の選択、変わってしまった世界で何を信じるかの問いかけ。若きヒーローが直面する継承の行方や、身悶えするような恋など、多層的なテーマに笑って泣けて熱くなります。期待を遥かに越える面白さ。

スパイダーマンことピーター・パーカー役の『白鯨との闘い』トム・ホランドは、ティーンエイジャーらしい若気の至りと背負った宿命への苦悩、軽口を叩きながらの魅せるアクションが素晴らしい。師であるトニー・スタークへの思いには泣けてきます。「椅子の男」こと親友ネッド役のジェイコブ・バタロンとのコンビも相変わらず楽しいですが、今回はネッドがまさかの大人の階段を!そして『グレイテスト・ショーマン』ゼンデイヤの演じるMJのちょっとねじくれたキュートさが最高すぎて「ああもう、ああもう!」ってなります。でも『マネー・ショート 華麗なる大逆転』マリサ・トメイの演じるメイおばさんにも「ああもう!」ってなるので、おれは一体どうすればいいんだ!(錯乱)またミステリオことクエンティン・ベック役として『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』のジェイク・ギレンホールがMCU初参戦。この上ないナイス・キャスティングとなっています。ほかニック・フューリー役のサミュエル・L・ジャクソン、ハッピー・ホーガン役のジョン・ファヴローらも登場。

監督は前作に続きジョン・ワッツ。さらにアグレッシブになったアクション、さらにドラスティックになった物語で、『エンドゲーム』後がスパイダーマンであることの意義を見せてくれます。足元が崩れる感覚の恐怖が世界の現状でもある怖さ。アベンジャーズの頼れるヒーローが誰もいないなか、もはや親愛なる隣人だけではいられない状況に求められる覚悟。そして再び問われる、大いなる力への大いなる責任。それでも彼は一人じゃないんだ。過去を受け入れ新たに始まるフェーズに震えます。

↓以下、ネタバレ含む。








■トニー・スタークの不在

いきなりホイットニーの名曲で泣かせに来る冒頭、ファンメイドのムービーってことでしょうが、ちゃんとナターシャやヴィジョン、(死んだわけではないけど)キャップも映っていたのが『エンドゲーム』にはなかったフォローになってますね(さすがにロキはいないけど)。そして半数の人は5年の空白があるというのも述べており、指パッチンを境に変わってしまった世界であることが強調されます。ピーターはごく普通に学校の旅行を楽しもうとするものの、報道陣からはアベンジャーズの新リーダーのことを聞かれ、世界中の至るところでアイアンマンことトニー・スタークを悼むのを目にします。トニーがいないという喪失感は失った瞬間よりもじわじわと大きくなり、若いピーターにとっては悲しみよりプレッシャーの方が大きくなっていくんですね。そこにトニーの残したARグラサンことイーディスがフューリーから手渡されることで、事態は混乱していきます。と言うかウルトロンを配備したトニーらしい、遺品というにはヤバすぎる代物。トニーは写真でしか出てないにも関わらず本作に大きな影響を及ぼしています。

ベックことミステリオもその影響下にある人物。突然現れて強敵に勝ち続ける強さ、ピーターにも理解を示す懐の深さと、突然加わったヒーローにして出来すぎな好人物なため、どうもキナ臭さが拭えない。でも非の打ち所がないわけです。エレメンタルズもヴィランとしては個性に欠けて何だか適当っぽさまで感じるけど、でも『エンドゲーム』後だから時空の裂け目でマルチバースが現出というのがやけに説得力がある。これにピーターたちや観客までもが騙されるわけです。ベックは天才ではあっても想像以上に普通の人間であり、トニーに否定された逆恨みが原動力になっているわけですね。善人と悪党の演じわけがさすがのジェイク・ギレンホール。しかも仲間には『アイアンマン』1作目で間接的にトニーに迷惑を被った科学者まで!そこ繋げますか!


■ミステリオの示すもの

このミステリオ・プロジェクトチーム、超絶ホログラムと高機能ドローンという現在進行で進化している技術を、シナリオや演出といった虚構でパッケージングしており、リアルタイム・ハリウッド映画という感じながらもありうる現実として迫ってきます(スゴいマシンパワーだなとは思いますが)。丸いヘルメットは顔を隠して描写コストを減らすためか?こんなトリックはいつかはバレるでしょうが、ベックの演技力が半端じゃないのもあって、ヒーロー不在の今は通じてしまうわけです。現にピーターはミステリオの強さ、大人の男の大きさ、家族を失った悲しみなどにすっかり騙されます。さりげなく薬指の指輪を触れるのなど芸が細かいし、グラサンかけたピーターを「マヌケ面だ」と評するのもイーディスを手放すのに多少影響してるかも。そして本物としか思えない立体映像と物理的破壊のシンクロの凄まじさ。目に見える現実感がある以上、疑わない限りわからないわけです。

延々と幻を見せられるシーンはドラッギーすぎて何を信じればいいのかわからなくなるし、現実だと思ったものが消えていく恐怖に文字通り足元が崩れていく感覚が凄い。スパイダーセンスが使えないピーターには見破るすべがないんですね。これはアイアンマンという象徴的ヒーローを失い、何にすがればいいのか困惑している人々もあっさり信じてしまうということです。序盤の校内放送でもヒーロー不在を嘆いていたように。特にトニーは自ら素性を明かしていただけにその喪失は大きく、ピーターにも外から内から影響してきます。さらにベックには大人ならではのしたたかさがあります。クライマックスで映像を消してドローンを見せたのもピーターに罪を被せるため。前作のバルチャーのように直接ぶつかってくる敵よりも厄介です。あ、バルチャーは上手く出せる場面がなかったようで登場しないのが残念ですが、これは仕方ないですね。


■ピーターと仲間たち

そんな危機的状況と並行して進む旅行話は本筋から解離しそうなところですが、逆に深く本筋と融合していく脚本がスゴい。好きな女子に告白したいというすんごい初歩的な恋愛模様が、フューリーにより旅行先をコントロールされたり、不意の戦いにでなきゃいけなくなったり、恋のライバルが現れたりと、身悶えするような青春ラブストーリーになっています。ピーターがMJと二人になるときには、ピーター何やってんのもう!言えよ、誘えよ、そこで渡せよ!とヤキモキするし、かと思えばブラッドにスキャンダル写真撮られたのをイーディスで攻撃しそうになるシーンでは、コメディとアクションで魅せながらイーディスの恐るべき機能のデモンストレーションにもなっています。序盤の飛行機のなかとかね、先生に逃げた妻の話されてるときの失意のドン底みたいなピーターの顔とか最高。というかあの先生コンビのマヌケぶりも愉快。カメラ落としそう、ああ大丈夫だった、ってやっぱり落とすんかい!の流れ、正直不要だけど面白い。あと本当にヨーロッパ中を回るので、ヴェネチア、プラハ、オランダ、ロンドン、ベルリンと結構景色に見とれる旅行ガイド的な映像になってます。でも何度も話に出るパリには結局行かないんですが(エッフェル塔はベックの幻には出てくるけど)。

ゼンデイヤのMJはライミ版でのMJとは異なり人付き合いが苦手(そもそもメアリー・ジェーンではなくミシェル・ジョーンズだから別人なんだけど)、史跡に残る不気味な逸話に詳しいなどなどちょっと変わり者という扱いですが、終盤に「本心を言って傷付けちゃう」と自己評価しながらも、ピーターには「スパイダーマンか知りたくて見てた」って嘘ついてたのが可愛い。『ホームカミング』のときから何かにつけてピーターに話しかけてきてたのも好きだったからってことじゃないですか可愛い。終盤に鉄球メイス持ったままピーターのところに現れたり、自らチューするのも可愛すぎる。壊れたブラックダリアのアクセサリーに「欠点のある方が好き」と言うのも印象的。そんなMJに「アイ・アム・スパイダーマン」と告げるピーターに、正体を明かしたトニーが重なります。状況は違うしMJだけにというのが現状のピーターらしいスケールなんですけどね。

しかしヨーロッパでモテモテ作戦とか言ってたネッドが、まさかの才女ベティとラブラブになるというのはどういうことだ!お前こっち側(非モテ側)じゃなかったんかい!彼女ができた途端言うことがいちいち大人びてくるのがイラッとしながも笑っちゃうんですが、まだ「椅子の男」だと言い張り、正体を知ったMJとは「スパ友」と言いつつ自分の方が先だと張り合うのも憎めないです。ちなみにベティ役のアンガーリー・ライスは『ナイスガイズ!』の子。また、登場するだけでスパイダーマン史上最高にセクシーだったのがさらに色気を増してきたメイおばさんには、まさかのハッピーとの一夏の情事が!何してんのジョン・ファヴロー!?そんなハッピーが「自分はトニーじゃない」と叫ぶピーターに「彼は親友だった」「トニー自身も悩んでいた」と、共にトニーを偲ぶシーンには泣けます。『ホームカミング』ではピーターにむっちゃ冷たかったですが、トニー亡きいま保護者の自覚が出たか?スーツを作るピーターに「BGMは任せろ」とAC/DCをかけるのが粋ですが、ピーターが「ツェッペリン最高!」とか言っちゃうので残念!でもあのスーツ工房が出てきたときにアベンジャーズのテーマのアレンジが流れるのは熱いです。


■世界の隣人

アクションは前作以上。グルリと回ったりする大胆すぎるカメラワークがとにかく楽しいし、尻についた炎を川で消したり、ウェブを壁や網のように使ったりといった捻りも軽やか。スリリングで力も入ります。引きの画も交えることで空間的な拡がりも認識させますね。またウェブシューターだけじゃなくクモ型のパラシュートやウィングスーツなどのギミックが豊富なのもMCU版スパイディの強み。スーツも『エンドゲーム』のアイアン・スパイディから黒一色のナイト・モンキー、ピーターオリジナルである赤と黒のデザインまで。ベックの幻影のなかでは昔の手作りスーツまで出てきます(なぜあの格好を知ってるのかは謎。イーディスの情報?)。橋の看板を盾に、電子部品をハンマーに見立てるというキャップ&ソーへのオマージュには、アイアンマンだけじゃなくアベンジャーズとしてのピーターの気概を感じて震えます。ついでにハッピーも盾を投げて奮闘(失敗するけど)。ラストにはニューヨークでのスパイダースイングも見せてくれるのが嬉しい。あとマリア・ヒルの屋上からランチャードーン!には喝采ですよ。まあマリア・ヒルではなかったわけですが……。

『エンドゲーム』以降にあった、人は何を信じるのか、目に見えるものは真実か、情報に踊らされてないかといった懸念を如実に示してみせるミステリオに対し、ピーターは甦ったスパイダーセンスことピータームスムズで最後の一撃もかわします。誰もが信じるものを求めてしまうなか、ベックの虚構やイーディスの計算や予測とは真逆の「直感」とも言える力を手にしたことは、ピーターが一つ成長したことの証しでもあるでしょう。そして例え偽りだらけであっても、他のヒーローがいなくても、ピーター・パーカーは一人じゃない。MJにネッド、メイおばさんにハッピーがいる。彼らにはもう正体を隠す必要もない。そしてフラッシュのようなスパイダーマンを信じてくれる人たちがいます。前作で本当のスパイダーマンとなったピーター・パーカーは、今作で本当のアベンジャーズとしての覚悟を得たことでしょう。これからのスパイディにも超期待。

……と思ったらなんだあのポストクレジットシーンは!ようやくMJに正体を明かせたと思ったら、世界中に正体バレちゃったよ!しかもそれを伝えるのはデイリー・ビューグル社の J・ジョナ・ジェイムソンこと、J・K・シモンズ!!ライミ版『スパイダーマン』の名脇役がブッ込まれるというまさかの展開に「どうすんのこれ!」とピーター同様頭を抱えてしまいます。さらにはエンドロール後に明かされる、フューリーが実は偽物で『キャプテン・マーベル』のタロスが化けていたという驚きの事実。見えるものが真実とは限らないというのをここまで徹底するとは……。結局本物はピーターに会ってないわけですね。当のフューリー本人は呑気にバカンスかい、と思わせて何かドでかい宇宙ステーションみたいなところにいるんですが、どこそれ!?つまり「ファー・フロム・ホーム」なのはフューリーってこと?フェーズ3の最後でありながらとんでもない引きで幕を閉じるMCU、やはりおそるべし……!

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