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2019
07.08

波にのって踏み出す一歩。『きみと、波にのれたら』感想。

kimito_namini_noretara
2019年 日本 / 監督:湯浅政明

あらすじ
君が眺めている水面は。



サーフィン好きの向水ひな子は、自室の火事騒動で出逢った消防士の雛罌粟港と付き合うことに。しかし港が海で溺れた人を助けようとしたことで悲劇が訪れる。呆然自失のひな子だったが、ある日二人の思い出の歌を口ずさんだときに水の中に港が現れる……。湯浅政明監督による青春ラブストーリー。

『夜は短し歩けよ乙女』『マインド・ゲーム』の湯浅政明監督が初の恋愛物語を描くオリジナル長編アニメ。火事をきっかけに出逢ったひな子と港を中心に、若者たちの心情と苦悩、成長を描きます。ラブストーリー主体とは湯浅監督らしからぬ題材だなあ、などと思ってましたが、これがすんごくイイ。序盤は恋人たちの甘い話がこれでもかと展開するものの見せ方が巧みなので楽しくなるし、アニメーションとしての動きの細やかさ、晴れやかな海や小粋な街、暖かみのあるカフェなどの美術も気持ちがいい。伏線の張り方や「波にのる」という言葉が持つ二重の意味なども深みがあります。そして『夜明け告げるルーのうた』を凌駕する水表現の自由さに加え、炎描写も秀逸。フンワリしてるようで結構スリリングなシーンも多々あり。素晴らしかったです。

港役は"GENERATIONS from EXILE TRIBE"の片寄涼太、ひな子役は『亜人』川栄李奈。この二人の恋人加減が自然な感じで良くて、特に川栄李奈は驚きの上手さ。港の妹・洋子役の『恋は雨上がりのように』松本穂香のものすごいめんどくさいキャラや、港の後輩・山葵役の『ルームロンダリング』伊藤健太郎の人の良い感じなど、脇のキャラにも掴まれます。脚本は『夜明け告げるルーのうた』でも湯浅監督と組んだ『ガールズ&パンツァー 最終章 第2話』『若おかみは小学生!』吉田玲子。この吉田玲子脚本を繊細さと大胆さで映像に描き出し、しっかり湯浅作品になってるのが凄いです。

水のなかでしか会えないせつなさ、喪失を乗り越えて進むことの難しさ、取り戻す自分らしさなど多層的。ラストのスペクタクルには圧倒されます。GENERATIONSによる主題歌「Brand New Story」が頭から離れなくなるという副作用はありますが、現実とファンタジーの程よい融合と青春恋愛物語としての見応えは幅広い層への訴求力あり。あとオムライスが食べたくなります。

↓以下、ネタバレ含む。








意外と力の入るシーンが多くて、冒頭の崩れそうになる箱というちょっとした日常から(どんだけ荷物多いんだよ)、自分のマンションが火事になって屋上に逃げちゃうというピンチからの脱出とか、ロープからぶらさがる山葵がなかなか這い上がれないとか、観てて何とも焦ってくるんですよ。かと思えば、青空のもとサーフィンで波に乗るときの気持ちよさであるとか、超常的な力でせり上がってくる水の面白さとか、アニメーションとしての楽しさも随所に見られます。演出が本当に巧みなので、恋人たちのイチャイチャもそこまでイヤな感じがしなかったです。ひな子と港がデートを重ねるシーンなどはバックで二人が歌いながら時々笑い合うというとんでもないイチャつきであるにも関わらず、二人の時間の積み重ねがこれ以上ないほど感じられるし、カードの名前とか錠前とか雪原のテントで絡ませる指とか、ラブラブ描写オンパレードだけどその甘さが心地いい。消防士、レスキュー、喫茶店、花屋などのお仕事描写がしっかりしてるところにリアルな生を感じるし、お食事描写もオムライス、玉子サンド、コーヒーとどれも美味そう。

ひな子はすぐにどこかに駆け出すのが忙しないし、よく確かめずに食器をエレベーター穴に落としたりとか、とにかくおっちょこちょいという言葉が似合うんですが、明るく親しみやすいとは言えるでしょう。それに比べると港は正直心情が読みにくく浮世離れした雰囲気があるんですが、そこは霊体?化したときの違和感のなさに繋がってるかも。物語は港が亡くなるという悲劇的な死を扱いながらも単純なお涙頂戴にはなっておらず、港に再会できたひな子の疑心暗鬼とそれが幻じゃないと知ってからの日々の幸福さ、でもスナメリを連れ回すのが端から見れば狂気としか思えない危うさ、そして水のなかでしか会えず触れ合うことができないというせつなさが次々と押し寄せます。やがてこのままでいいと言い張るひな子と、彼女が自分に縛られていると感じ始める港に、仄かな別れの予感が漂うわけですね。山葵がひな子に想いを告げるのも、現実は動き続けていることの一端として描かれます。

ただそこで単に此岸と彼岸だから離れるというわけでなく、ひな子がどうやって先に進めるようになるのか、というのが焦点となっていくんですね。港がひな子を「僕のヒーローだ」という理由が、幼い頃海で溺れた港を助けたのがひな子だったからで、このエピソード自体はちょっと出来すぎな気もしますが、それがあったから港は昔からずっとひな子を見てきたという理由付けになっているし、この事実を知ったひな子がレスキューに興味を持つきっかけにもなるわけです。また散々突っかかってきていた妹の洋子が自分でカフェを営みたいという夢を語るのも、人知れずひな子の背中を押してもいます。この辺りの積み重ねがとても丁寧。洋子はかなりめんどくさい子ですが、それも周囲に馴染めなかった過去があったからというのもわかるし、山葵との関係が進展するのも微笑ましい。

港はひな子にだけ見える幻影なのではないか、という不安もずっとあって、それだとあまりにもツラいなあと思ってたんですが、それを一気にひっくり返すクライマックスは圧巻。二人の出会いのきっかけでもある放火騒ぎがさらに大変な規模で繰り広げられる絶体絶命の場面で、港が見せる水の奇跡。重力を超越した超常現象のさなか、洋子と山葵も港と再会し、最後はとんでもないビッグウェーブにひな子と洋子がのって、港が幻想ではなかったことが証明されます。しかし「ひな子が波にのれるまで」と言っていた港は、文字通り波に乗りながらこの先の人生の波をも捉えたひな子を見届けることになり、自身は天へと上っていくのです。ファンタジックなスペクタクルと、現実との折り合いという二重の波。これが素晴らしい。あと放火犯たちがちゃんと捕まるのが良いですね。

最後の港からの一年越しのメッセージは、来年もまた一緒に来ようという港の想いでもあったわけですが、その「いつまでも一緒だ」というのが別れの言葉になってしまいます。そして号泣するひな子。ここにおいて、ひな子が港を失ってから一度も声を出して泣いていなかったことに気付きます。ひな子が前に進むめの最後の試練は、港の喪失を受け入れることだったわけです。

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