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2019
06.20

ズレた報復、捻れた復讐。『スノー・ロワイヤル』感想。

Cold_Pursuit
Cold Pursuit / 2019年 アメリカ / 監督:ハンス・ペテル・モランド

あらすじ
模範市民なのに大暴れ。



雪の深い田舎町のキーホーで、真面目な除雪作業員として模範市民賞を贈られたネルズ・コックスマン。しかし麻薬の過剰摂取で死亡した一人息子が実は何者かに殺されたことを知る。ネルズは麻薬組織を一人ずつ問い詰め黒幕へと迫っていくが……。リーアム・ニーソン主演のサスペンス。

殺された息子の復讐を誓う父親を描くクライム・ドラマです。元ネタは2014年のノルウェー映画『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』で、そちらの監督も本作と同じハンス・ペテル・モランドということでセルフ・リメイクなんですね。物語もほぼ同じようですが、そちらではステラン・スカルスガルドが主演で、本作の主演はリーアム・ニーソンとなっています。地元の麻薬王バイキングの組織に息子が殺されたことを知ったネルズが、様々な手段で組織の人間に報復していくという、まさに『96時間』シリーズのような復讐劇、ではあるんですが、やがて犯罪組織間の抗争に巻き込まれていくことで思わぬ展開を見せていきます。復讐に燃える名誉市民が躊躇なく悪党を亡き者にしていくノワールでありながら、変な人たちが出ては死にまくり、オフビートな笑いまで提供するという、何かすんごい変な映画なんですよ。むしろブラック・コメディと言うべき珍妙な味わい。でもこれが予想とは違う方向で面白い。命の重さと軽さを同時に感じさせるという演出は出色です。好きだなあ。

ネルズ役の『トレイン・ミッション』『沈黙 サイレンス』リーアム・ニーソンは怒らせちゃいけない人物の代表みたいになってますが、本作でも表彰までされたよき市民であるはずのリーアムが、復讐とは言ええげつないほど容赦なく殺っていきます。と言うかこれ、結構な狂人じゃないか?妻のグレイス役は『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』ローラ・ダーンで、息子を失い悲嘆に暮れる母親としてさすがの存在感。麻薬王バイキング役の『オリエント急行殺人事件』トム・ベイトマンはロジカルなのにクレイジーな感じが面白い。警察のキム役は『DRAGONBALL EVOLUTION』のブルマことエミー・ロッサム、野心に燃える若き警官として事件を追います。

雪景色や若者の死、ネイティブ・アメリカンなど『ウインド・リバー』を彷彿とさせる点も多く(同作のジュリア・ジョーンズもバイキング妻役で出てるし)、あるいはリーアム・ニーソンということで『THE GREY 凍える太陽』も思い出しますが、テイストはかなり異なります。中盤から意外な展開に惑わされ、繰り返しや食い違いの描写にはニヤリとなり、独特な場面転換でテンポも良いです。色んな人の関係性がどんどんと捻れていくのが愉快。それでいて無双親父のガチアクションや除雪車の利用もちゃんとあるのがたまりません。想像をいい意味で裏切っていく面白さです。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭、雪を吹き上げ雪原を疾走する除雪車はまるで荒々しい生き物のようで、この先の激しい展開を予期させるかのよう。実際、息子を殺されたネルズは関係者の末端からガンガン殺していきます。関係者の名を聞いたらもう即です。しかもわりと躊躇なく殺すし、良心の呵責も見せないし、殴り疲れたら撃ち殺すという、何か復讐を越えて殺すのが目的になっているかのよう。警察が来ても怯まず、ちょっとめんどくさいな程度の反応だし。しかも今回は、死体を金網に巻いて川に捨てれば魚が食べてガスで浮かぶこともない、というのを「小説で読んだ」と言うように(小説かよ!)、元エージェントとか元軍人とかでもないんですよね。真面目な働きぶりで表彰されるほどの良き市民なのに容赦がない、これは『ザ・フォーリナー 復讐者』のジャッキー・チェン以上になかなかの狂人ぶりです。エレベーターで殴り倒したりブライダル・ショップでブッ放したり除雪車で追い回したりと、シチュエーションも豊富。でも殺るときの迫力はしっかりリーアム・ニーソンなので、その辺りのリベンジ・アクションとしても見れるんですよ。

でも何かが変だな、と思ってるうちに、これはコメディでもあると気付いてきます。特に死者の名前と宗教的シンボルがいちいち画面に刻まれる、というのはちょっと見たことのない演出。『96時間』のソフトにはリーアムが殺した人数をカウントしていくというおまけが付いてたようですが、それとも異なるのは脇役に至るまで皆に名前とニックネームがあるということですね。これには命の重みを感じるんですが、いっぱい死ぬので命の軽さにもなっている、というのが可笑しい。この名前表示のように繰り返されることで可笑しみに繋がるシーンが多いのも特徴で、死体を金網に巻いて川に捨てるのもそうだし、死体安置所で息子の遺体がキコキコいってなかなか上がってこない気まずさは、ホワイトブルたちが死体を入れた棺をトラックに乗せるのが同じようにゆっくりなのにも通じます。一方でネルズがカフスを付けられず妻に付けてもらうシーンは、息子の死後は付けてもらえないという哀愁あるシーンと対比になってたりします。

リーアム無双が続くかと思いきや、中盤からバイキングとホワイトブルの三つ巴、警察も含めれば四つ巴になり、しかも途中はネルズが全く絡まないのでますます変になっていきます。しかも勘違いしたバイキングがホワイトブルの身内を殺すことから報復合戦が始まるという、何とも噛み合わない可笑しみ。ネルズの妻であるローラ・ダーンが白紙のカードを置いて突然出ていき二度と登場しないんですが、そこからはまともな人は付いていけない展開だからかもしれません。出てくる人も変な人ばかりで、バイキングはいちいち動作がオーバーでうるさいのに、依頼人を裏切った殺し屋や助けてくれた人を密告するような奴は許さないという妙に律儀なところがあったりします。殺し屋エスキモーは殺し屋の倫理観どうなってんの?というくらいあっさり裏切り、そしてあっさり殺られるし、メイドナンパ率3割の股間テント野郎は、言葉通りのことをやろうとして全裸で殺られるマヌケぶり。ボスのバイキングにいちいち口答えする手下にはヒヤヒヤしますが案の定殺られるし(バカだろうか)、そいつとデキてるマスタングは「見られちゃマズイ」と言いながらむっちゃチューするし(ラブが過ぎる)。でも恋人が殺されても忠誠を崩さないのかと思われたマスタングが、最後にホワイトブルを呼んでバイキングへの復讐を果たすのは地味に良いです。

変な人たちなのはバイキング側だけでなくホワイトブル側も同じで、雪のなかで大はしゃぎする大人たちは一体なんでしょうか、自然と触れあうのが楽しくてしょうがないのか。ホテルのリザベーション(予約)を「保留地のことか」と難癖付けて宿を取る辺りはマフィアっぽいですが、先住民の差別みたいなのを描いてそうで意外とそうでもないです。なんとなくバイキングよりは被害者のように思えてしまいますが、30年間コカイン売り捌いてるんだからホワイトブルも別に善人ではないわけです。バイキングが「インディアン」と言う一方で、原住民の女性はインド人を「インディアン」と呼んで死体片付けさせる、というのがむしろ差別する側にも思えます。

他にも兄貴のウイングマンが弟の罪をかぶって死ぬのは泣かせますが、その妻のタイ人?が爪にやすりかけながら中指立てたり、ネルズの目の前でむっちゃチューしたり、変なエアロビやってたり、最後は墓にツバ吐きかけて去るなどエキセントリックで笑います。バイキングの息子ライアンも自らストックホルム症候群と言っちゃったりして、暴力でやり返そうとする父親を否定する子なのでいつかこうなると思ってたのかリーアムの父性にやられたのか、達観した感じが同時に今までの抑圧や孤独も感じさせます。除雪車カタログもリーアムがあの声で読むと物語性がある読み物になるのはホントに凄い(笑うけど)。場面の転換も何か変なところで切り替わって最後まで映さなかったりするのが独特なテンポのよさ。あとキムとヨリを戻したい元カレとの電話とか、バイキングの息子への暴力のススメとか、バイキング妻が誘拐犯を元夫と決めつける早とちりなど、意味がなさそうで話に絡んでくる会話も面白い。

勘違いで殺されたカイルの復讐から始まり、敵対勢力のせいと勘違いしたバイキングによって始まる抗争。なんともズレた組織間の殺し合いと、そんな対立など大して気にもしないネルズの不可思議な立ち位置。誘拐されたのに当事者意識の低い少年に、野心に燃える警官と、まさにカオス。そんなカオスが収束し、一気に爆発するラストの銃撃戦は壮絶で、最後にネルズが重機でキメるのにはアガります。でもあっという間に大勢が死んで一気に名前が刻まれるのには、笑いそうになると同時にちょっとうすら寒さも感じるんですよ。バイキングもホワイトブルも勘違いをきっかけに勢力を拡大しようとして、それぞれが今まで積み上げたものと仲間や家族の命を失っていくんですね。序盤の表彰式でネルズは「人は違う道に行きたがるが自分はそうしないよう努力している」みたいなことを言ってたのに思い切り道を踏み外しており、復讐にかまけるあまり妻も去ってしまう。それぞれが本性を表し日常に背を向けたことで日常の方が逃げてしまうわけです。

だからこそネルズは最後にいつもの除雪の仕事に戻ったのでしょう。失ったものを噛み締めるために。彼を殺そうとやってきたホワイトブルもそんなネルズの姿に我に返ります。息子を殺された者同士、何とか日常を取り戻さんとするかのように雪道を行く二人。そしてそこに降りてくる「飛ぶために生まれてきた」あいつ……イヤあんた何してんの!?撒き散らされてるよ!?エンドクレジットで一人ずつ名前が白くなって消えていくのが人の命の儚さも表しているようで、死ぬときなんてあっけないな、と感慨深くなるのです……なる気がします。

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