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2019
06.07

やさしい歌は世界を変える。『小さな恋のうた』感想。

tiisana_koi_no_uta
2019年 日本 / 監督:橋本光二郎

あらすじ
あなたに逢いたくて。



米軍基地のある沖縄のとある町、オリジナルで人気を博す高校生の亮多ら4人のバンドは東京のレーベルからスカウトされ、プロデビューすることに。しかし喜ぶ彼らに思いがけない事態が起こり、バンドはバラバラに。そんなとき一人の少女が亮多の前に現れる……という青春音楽映画。

沖縄の高校生たちがバンド活動を通しての仲間や家族への思いを描く物語。タイトルは沖縄出身バンド「MONGOL800」のヒット曲『小さな恋のうた』にちなんだもので、劇中演奏される曲もモンパチの曲を主人公たちのオリジナル曲という体で使っています。高校生の音楽系青春映画と言えば『リンダリンダリンダ』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』など素晴らしいものが多くありますが、本作はそこにまたひとつ新たに加わった煌めき、と言ってよいでしょう。勢いと熱さ、悲しさとせつなさ、現実と希望!バンド仲間とのドラマだけでなく、沖縄が抱える社会派なテーマも取り込み、歌の力と使いどころでそれら全てを昇華させています。序盤の不自然さからの意外性、一風変わったライブシーンの熱量、フェンス越しの友情、どれもとても素晴らしい。ラストは堪えきれず爆涙です。

お調子者のボーカル亮多役は佐野勇斗、いつもニコニコのドラム航太郎役は森永悠希。この二人は『ちはやふる -結び-』では先輩後輩でしたが今回は同学年。真面目なギター慎司役は眞栄田郷敦、これがデビュー作かつ新田真剣佑の弟なんだそうです。クールなベース大輝役には鈴木仁。そして慎司の妹である舞役の山田杏奈、『ミスミソウ』でもそうでしたが可愛らしい顔ながら目力があって、色んな感情が溢れてきてとても良いです。リサ役のトミコクレアさんも大変キュート。若手陣を支える大人たちも皆イイですよ。清水美紗に金山一彦、そしてやらかしマスター世良公則がなんとも良いです。やらかすけど。ひょっとして歌ったりする?と期待したけどさすがにそれはなかったです。

監督は『orange オレンジ』『羊と鋼の森』の橋本光二郎。監督作を観るのこれが初だったんですが、真っ直ぐさと捻りがバランスよく配されていて良いですよ。モンパチは有名曲を知ってるくらいの知識でしたが特に問題ないし、メロディが良いので脳に入りやすいです。と言うか名曲に寄っ掛かった話では全くなく、むしろ曲との相乗効果で物語が抜群に味わい深くなるという素晴らしい出来。魂が熱くなるライブシーン、米軍基地で暮らす少女とのフェンス越しの友情、歌うことで届けようとする想い。歌詞とリンクするせつなくも愛しい青春、最高です。

↓以下、ネタバレ含む。








■失われたもの

序盤は色々と気になる点もあったんですけど、それも物語を語るうえでのちょっと変わった構成のためなんですね。正直言うと、最初は学校で練習してるだけでそんなに人が集まるかい、とか調子こいてて少しウザいなーとか思ってちょっと入り込み辛かったんですけど、それだけ人気のあるバンドであり、だからこそプロデビューの話もきたということですね。慎司が教師からも期待されているというのが後に父親が慎司にかけていた期待とも繋がるし、亮多が事故後に「こんな状態で歌ってもすぐに楽しんでないとわかる」と言うのが良いんですが、それを裏付けるようにこのときは楽しみまくっているのが伝わるわけです。事故の後で慎司が入院患者である亮多を夜中に連れ出すとか、亮多が突然記憶が戻ったかのように話し出したりとか、何かがおかしいというスリリングさ、そしてまさかの逆という意外性。二人とも無事だったのかという安堵を覆すのがショッキングですが、記憶をなくした亮多の「あんたと友達だったんだな」に「友達どころじゃないよ、バンドなんだよ」と言うことで記憶を取り戻させ、かつ二人の関係性も示します。

友の死を最初に描きそこから再び立ち上がる、というストーリーラインに独自性を与えるのが、米軍基地という沖縄ならではの事情。事故の犯人が基地の兵士の可能性があると報じられたことで、多くの人に影響が出てきます。舞の父は基地で仕事してる以上そこにいる人々を知っているわけで、「まだ米兵と決まってない」と言う受け入れたくない思いもわかるし、実情を知っているから「昔から何も変わってない」とも言うのでしょう。事故現場に花と一緒に「米軍を許すな!慎司君は怒っているぞ」みたいな札を見つけてそれを亮多が花の裏側にサッと隠しますが、それこそ人の死をダシに主張する外野の嫌らしさですね。ただそんな事情をむやみに重くするのではなく、沖縄の人も基地の人も双方を描いて、かつその間を繋げようとすることがバンドの復活とも重なっていく、というのが良いです。確執はある、でもそこに生きている人々がいるということの重要性。それがリサとの関係として描かれます。


■受け継いだもの

慎司を失い散り散りになったバンドに光明をもたらす慎司の妹、舞。兄とはそこまで親しげでもなかったのに、ライブでギターを弾く兄に微笑み、亡き後は兄の作った曲を全て弾けるようになるというのが泣かせます。航太郎が舞がギター弾けると知った途端ニッコニコで走り出すのもわかるというものですが、でもベースの大輝は既に別のバンドに。学祭に出たいからというのはもちろん建前で、彼も慎司の死がツラくてそこから逃れたかったのでしょう。後に羨ましいと言いながらゲリラライブの手助けをしてくれるし、あそこで加入したばかりのバンドを抜けないのは彼の責任感の強さですね。ともかく三人でバンドを再開する亮多たち。ギターはアンプの使い方も知らない素人ながら、亮多の「DON’T WORRY」に続く舞の初めての「BE HAPPY」には、新しいことが始まった感があってゾクゾクします。山田杏奈の歌声、ギターを掻き鳴らす姿は可愛いしカッコいい。演奏するのはモンパチの曲ですが、男女でパートを振り分けたり三人のハーモニーが見事だったりと、「このバンド」の曲としてしっかり聞かせるのが実に良いです(そういやライブハウスに来た三人はひょっとしてモンパチ本人?)

スタジオでの練習やライブなどで徐々にバンドとしてのグルーヴ感が増していくのが成長を感じさせてイイんですね。亮多はずいぶん簡単にベース弾けるようになったな?とは思いますが、何度も夜の屋上で練習するシーンもあるので努力したってことだろうし、海をバックに三人で歩くショットなんかはお約束ながらやはりイイ。学校の屋上のゲリラライブは、放送使って音流す時点でそりゃ止められるだろうとは思いますが、でも向こうの校舎の屋上との距離感、というのがスゴく新鮮で超気持ちいい。思わずこれがクライマックスかと思ったほどですが、案の定止められ不完全燃焼。一方で学祭に駆けつけようとしたリサはデモに阻まれ参加できず、そのまま基地を去ることに。舞とリサのたどたどしい英語でのやり取りがとても微笑ましくて、「恋って英語でなんて言うんだろう」とか本当に愛しくて、それだけに手紙とサヨナラドールでの別れがせつない。ここで舞が慎司の未完の曲に歌詞を付けたのが『SAYONARA DOLL』というのが泣かせます。リサの家の前での生ライブ、「国境も~越えた」のところで両者の間にあるフェンスが不意に消えて、同じ地に立っていることの尊さを映し出す、というのがまた泣けます。


■未来へ進むもの

大人たちも良いんですよ。世良公則のマスターは学祭でやらかしたときは一緒になって落ち込んでるし、涙する航太郎の肩を力強く抱えたりと良き理解者。亮多の母は息子の歌を口ずさみ「いい曲じゃん」と笑ってくれるし、航太郎の父は学祭で呼び出されたときはきちんと謝らせ、漁師に関しては「継がなくていいぞ」とも言ってくれる。舞の父は息子を亡くし娘だけでもせめて、という思いがギター破壊に繋がるんですね。大人しかった舞の叫びに心底後悔したことは「ギターを直したい」とだけ告げてそれ以上は言わないところに見受けられます(さすがにあれはもう直せないだろうけど)。

ラストのライブシーンはここまでの喪失、復活、感情のぶつかりと理解などを経てのものなので、観ている方も否が応でもアガります。気付けばステージ後方には慎司の姿が。慎司に満面の笑みでサムズアップする亮多が横を見れば、舞と航太郎も同じ方向を見て笑っている。皆に慎司が見えている、というのに泣きそうになるんですが、そこはまだ耐えられるんですよ。でもその後の『あなたに』演奏中、「あなたに逢いたくて」で亮多が慎司に手を伸ばし慎司も返す、というところでたまらず号泣。思えばこのバンドは一度もバンド名が出てこないんですが、名もなき若者たちの普遍的なドラマを紡ぐという意味合いもあったんですかね(ちなみにキャスト陣は「小さな恋のうたバンド」名義で劇中の曲をリリース!)。タイトルの『小さな恋のうた』はもちろんモンパチの曲名なわけですが、「小さな恋」が示すのはそんな人たちの抱く友情や親子愛など広義の愛情を示すものにもなっているのでしょう。素晴らしかったです。

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