FC2ブログ
2019
06.02

背負った過去と、道理で振るう剣。『居眠り磐音』感想。

inemuri_iwane
2019年 日本 / 監督:本木克英

あらすじ
注:寝ません。



江戸での三年の勤めを終えて故郷の九州・豊後関前藩に戻った坂崎磐音、小林琴平、河井慎之輔の幼なじみ三人。戻った翌日には琴平の妹である奈緒との婚礼も控えていた磐音だったが、信じがたい悲劇が起こったために再び故郷を出ることに。浪人として江戸に舞い戻った磐音は、脅されているという両替商の今津屋で用心棒を始めることになるが……。佐伯泰英の小説『居眠り磐音』シリーズを実写化した時代劇。

優しく穏やかだが剣の達人である坂崎磐音を主人公とし、2002年から50巻以上刊行されている佐伯泰英の時代小説『居眠り磐音』の映画化。三年ぶりに江戸から故郷の豊後関前藩に戻った磐音を突如襲った悲劇から始まり、江戸に戻った磐音が昼は鰻割き、夜は用心棒として暮らすなかで起こるドラマが描かれます。ストーリーがまず面白い。サスペンスがあり人情劇があり悲恋があり、歴史に根差しながら勧善懲悪もある。やや唐突な展開もあるものの、転がっていく物語は観る者を飽きさせません。映像は叙情的な美しさがありつつ、高低差のある町並みや海を臨む引きの画、生活感を感じる舞台などの描写もイイ。そして剣劇もしっかり魅せてくれます。西部劇のような対峙による緊張感、そこからの空間を意識した殺陣はアクションとして高レベル。連鎖する悲劇がありながら痛快さもあり、ドラマチックな物語、ダイナミックな殺陣、と時代劇の面白さが詰まってます。

おっとりした性格で、「居眠り剣法」と呼ばれるような力の抜けた剣技を振るう坂崎磐音。頭脳も明晰、というのがまた良いんですが、これを演じた『孤狼の血』松坂桃李は出色で、スター映画として作品を引っ張る風格さえあります。そして陽気な琴平役の柄本佑、真面目な慎之輔役の杉野遥亮という仲良し幼なじみとの絡みが一夜にして変わる驚き。琴平の妹で磐音の許嫁である舞役の『累 かさね』芳根京子は、清楚かつ凛とした存在感で、磐音の物語の鍵となります。おこん役の木村文乃も江戸っ子な感じで良いですよ。他、磐音の師匠役の佐々木蔵之介、今津屋主人役の谷原章介、田沼意次役の西村まさ彦、おこんの父役の中村梅雀、化け物っぷりが凄まじい有楽斎役の柄本明などなど、脇を固める人々も皆イイ。また不祥事のため降板したピエール瀧の代役として出た奥田瑛二もしっかりヤダ味ある役で存在を示します。

監督は『超高速!参勤交代』シリーズの本木克英。予想を超えるシリアスさから、ほのぼのしたお江戸描写、政治経済も絡めたお仕事バトルにヒロイックな立ち回りまで、様々な見せ場が楽しい。口のなかに苦味が残るような展開もまたいいんですよ。気っぷのよい町娘たちの魅力や、黒幕の憎々しさなどキャラクターもよくできていて、時代劇全部乗せな魅力が満載です。

↓以下、ネタバレ含む。








序盤の故郷に帰って来たばかりの三人を襲う悲劇、そして連鎖する不幸。なぜこんなことにという思いがあまりに強い鬱展開には、予想もしなかった衝撃を受けます。まず問いただすということさえしなかったのは、慎之輔が叔父の言うことを真に受けるほど真面目で、かつ妻への愛情が強かったからこそ裏切られたという怒りに駆られたということなんでしょうが、まあやるせないです。しかも琴平は斬られた妹の遺体を引き取るだけのつもりが、髪飾りのことから真相に気付いて逆上した慎之輔を斬り捨ててしまう。さらには元凶の次男坊まで斬り殺し、血だらけの様相で現れた琴平の姿はまさに鬼神。そして琴平を止めようとした磐音との一騎打ちに。琴平の「いつか本気でやりあうときは」という言葉は二人の対決を予感させてはいましたが、まさかこんなに早く、しかも生死をかけた形で実現するとは。揺れる門の向こうで琴平が斬りあう音、門を潜っての西部劇のような対峙と、怒涛の緊張感。磐音が琴平の名前を呼ぶときの伏し目がちな姿は、琴平が慎之輔のところへ来て名前を呼ぶときと同じなんですよね。現実を直視できないのでしょう。

二人の対決は声をあげずに斬り合ったり、突きを結構使ったりするのがリアル。全体的に、血が飛び散るまではやらないけど流血や斬り傷はわりと映るので、刀の威力、怖さというものが実感できます。「居眠り剣法」は眠っているかのように半眼で腕をダラリと下げてからの一撃という感じなのかな?琴平が「自分から打ってくれば」みたいに言うので、力を抜いてどんな攻撃にも対応できるというところなんですかね。実戦でも常に使うわけでもなさそうだし、どういう剣なのかちとわかりにくいんですが、それでも今津屋では何人も倒した刺客を圧倒するのが素直にカッコいい。磐音は意外とヒロイックな活躍をする場面が多いので、非常に受け入れやすいです。個性的な用心棒二人との対戦では、二刀流の黒岩に苦戦するも「そなたに次などない」で斬り伏せるのにはシビれます。磐音は無敵というわけでもなく強敵からはわりと傷も受けるのがスリリング。琴平とは対友人ということで出足の鈍さもあったり、終盤の天童との戦いでは有楽斎の言葉を背後に聞きながら斬り合って勝つという、磐音の抱える苦しみを剣にぶつけるような立ち合いがあって、物語とアクションが絡むのが良いです。

物語は今津屋の脅し事件から貨幣を巡る政治的な話に進展、田沼意次という歴史上の人物も出て来て経済的な利鞘の争いまで描かれますが、金貨1両に銀8枚を銀を安く買い付けることで儲けを出そうとするところはわかりやすいのでさほど混乱もなく、その上で磐音の案による阿波屋出し抜きも愉快。魚河岸の橋本じゅん、役者の早乙女太一、吉原の中村ゆりといった面々が並ぶネタばらしは痛快だし、そこに顔が利く吉右衛門もスゴいな。吉右衛門役の谷原章介は最初出てきたときは用心棒役かと思ったくらい貫禄ありました。それにしても有楽斎役の柄本明が顔のメイクから演技に至るまで凄まじい悪徳商人っぷりで、死に際でもなかなか死なずに磐音を差し置いて見せ場をかっさらおうとするのが恐ろしい。ちなみに柄本佑とは親子共演ですが一緒には映らずでしたね。演出的には、急に磐音がおこんに過去を語りだしたりといった唐突さが時折あるのが気になりましたが、アバンで「縁側の猫のようだ」と言われて猫が映ってのタイトルというほのぼのした出だしから、数時間前まで苦楽を共にしていた者たちの顛末、おこんたち町娘たちのチャキチャキした気持ちよさ(おお、川村ゆきえもいる)、磐音とひとしきり打ち合った佐々木蔵之介の師範代(ちゃんと磐音より強いのがイイ)の「よう来たな、よう来た」に泣かされたりと良かったですよ。

そして最後のとびきりのせつなさ。磐音の目に浮かぶ奈緒は「白い南天の花の前でいつまでも待つと言った姿」だと言いますが、その姿を見てから3年経って帰った後一度も会わずに出奔してるので当然なんですよ。兄を斬ったという罪悪感から奈緒に合わせる顔がないという磐音の思いは自己満足でしかなく、「悲しみを分け合いたかった」という奈緒の気持ち、その後の奈緒の厳しい人生には考慮が及ばなかったという皮肉。それこそ居眠りしてたのかと言わんばかりの浅はかさだったと気付いたときには彼女は吉原で手の届かない存在に。それでも「いつまでもあなたの妻です」と微笑を見せて去っていく奈緒のきらびやかな悲しさには泣かされます。季節はうつろい、心は変わらず、でも全ては過去となってしまったという、大団円とはいかない苦さがなんともたまらない余韻。身請け金1200両って、もう子供にうなぎ奢ってる場合じゃないよ磐音さん。一年を通して描き、最後は再び白い南天の花で締めるというのも美しい。ドラマもアクションも実に見応えがあり、時代劇の娯楽性に現代的なアプローチも上手く融合していて、とても楽しめました。膨大な原作を考えればシリーズ化もできそうですが、果たして。

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1540-aa371940
トラックバック
back-to-top