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2019
05.24

ただ真っ直ぐな復讐。『ザ・フォーリナー 復讐者』感想。

The_Foreigner
The Foreigner / イギリス、中国、アメリカ / 監督: マーティン・キャンベル

あらすじ
名前を言え。



ロンドンでレストランを営むクァンは、アイルランドの組織による無差別テロに巻き込まれ最愛の娘を失ってしまう。復讐に燃えるクァンは北アイルランドの副首相リアム・ヘネシーの存在を知り、彼から犯人を辿るべく近付いていくが……。ジャッキー・チェン主演のサスペンス・アクション。

あのジャッキー・チェンがいつもの笑顔を封印して復讐者に徹するという、予想以上にシリアスなサスペンスです。無差別テロの爆発に巻き込まれて大学生の娘を亡くしたクァンは、復讐のため手段を選ばぬ犯人探しに。アイルランドの実力者ヘネシーが情報を持っていると踏んだクァンはヘネシーを執拗に問い詰めていきます。復讐の鬼と化したジャッキーが、死んだ目で、静かに、でも頑なに詰め寄る狂気を湛えた姿は異常で、ときに恐怖を感じるほど。アクションもコミカルさはなく、痛みを伴ったリアルな格闘がそのまま心の痛みの発露であるかのようで悲しい。対するヘネシーはアイルランドの副首相であり、一ロンドン市民であるクァンとは全く立場が違うわけですが、ヘネシー本人としても思いもかけない関わり方をしていきます。きな臭さと息苦しさが張りつめる、苦い復讐劇が幕を開けます。

『カンフー・ヨガ』『ポリス・ストーリー REBORN』など近年は一味違う作品も多いジャッキー・チェンですが、今作のクァン役は背中丸めてよたよた歩きながらも容赦なく叩きのめす姿が本当にヤバくて、トップクラスの怒らせちゃいけない男であることを実感させてくれます。ヘネシー役には5代目ジェームズ・ボンドでもあるピアース・ブロスナン。アクションから『マンマ・ミーア!』などのラブコメまで幅広く演じますが、今作ではダンディながら一癖ある政治家役。直接テロに関わったわけでないのに散々な目に遭って気の毒なほど。クァンの娘ファン役は『ハリポタ』のチョウ・チャンことケイティ・ルングですね。

監督は『007 カジノ・ロワイヤル』のマーティン・キャンベルで、どんよりしたロンドンを舞台にタイトな演出で魅せます。爆発シーンの迫力が秀逸。『オンリー・ゴッド』『ネオン・デーモン』のクリフ・マルティネスによる不穏さを煽る音楽も独特。クァンとヘネシーが全く噛み合ってないのに話はどんどん転がっていくという、実はかなり変な作りなんですが、アイルランドの抱える闇という超社会派ドラマがノワールに変わる面白さがたまらんです。

↓以下、ネタバレ含む。








車で迎えに行った年頃の愛娘がボーイフレンドと仲睦まじいのを見て気が気でないものの、それでも屈託なく笑う娘の成長に満更でもない様子のクァン父さん。それが爆弾テロにより一瞬で世界が変わり果てます。車をぶつけていざこざが始まりそうと思ったら、さらに大きな悲劇に、というのも事態の大きさの対比に。娘の遺体を抱えて座り込む姿は痛々しさの極地。ここで写真を撮るジャーナリストが後にPCに爆弾仕掛けられるという緩い繋がりもありますね。経営する店を知人女性に譲り復讐を開始するジャッキーですが、そもそも犯行声明もないため犯人がわからない、そこで取る行動が警察に大金渡して犯人を教えてくれというもの。ここから既に常軌を逸してますが、ヘネシーに狙いを定めてからはますますエスカレートしていきます。表情のない顔でほとほとと歩きながら行動には迷いがなく、電話攻勢に始まりするりと事務所に入り込んでのアポなし突撃。ひたすら繰り返す「名前を言え」にはヤバさしかないですよ。冷静に爆弾こさえて躊躇なく仕掛けて追い詰める姿など、もはや狂人ではないかと思うほど。

そこまでするのも娘のファンが唯一の家族で、妻と娘二人をタイの海賊に奪われたという悲痛な過去があるからなわけです。もはや復讐だけが生き甲斐。復讐を果たした先には空しさだけが残るのではという予感を孕みつつも、元特殊部隊員という経験とスキルを最大限に活用して真相に迫ろうとします。でもクァンは犯人以外は犬も含め殺さないですね(ヘネシーの部下も殺してはいなかった、はず)。ギリギリ狂人の線を踏み越えずに踏ん張るわけです。対するヘネシーは元アイルランド闘士ながら、今は北アイルランドの副首相として一見平和に尽力しているように思えるし、実際テロには直接関わっておらず、仲間にも犯人を探せと指示を出しています。裏ではイギリスの要職とも通じ、ロンドン警察と情報交換まで行おうとする。でも割りを食った気の毒な人なのかと思わせて、どうやら過去に爆弾事件を起こしながらも罪に問われず権力を振るっているし、身内の不始末を身内でつけたいだけで、実際はテロの指示自体はしていたわけです。犠牲者を出さずにイギリスに圧力をかけていくつもりが、仲間の暴走で計画が狂っていく。殺さずに優位性を得ようとするのはクァンと同じですが、クァンとは逆に犠牲を増やしていくわけです。

アクションはジャッキー的なリズミカルなものではなく何とも泥臭いものですが、ヘネシーの手下との戦いでは民宿の屋根をぶち破って屋根の上に逃げたり、その屋根から落ちるときのワンカットなどでしっかり身体性の高さを見せてくれます。林の中でのヘネシーの甥っ子ショーンとの特殊部隊員対決では、木々の間を縫って手足を交錯させる攻防が見もの。ラストの討ち入りでは、狭い部屋の中での激しい銃撃戦や、テレビでブッ叩くという大技(技じゃないけど)、首締めでの決着などスリリング。突入部隊が迫るなか犬を抱えてさりげなく消える姿はまさに暗殺者という感じです。ヘネシーにはジジイ呼ばわりされますが(あんたもジジイだろとは思うけど)、そんなナメた態度が彼に手痛いしっぺ返しを食らわせます。ヘネシーは変な中国人に絡まれるわ、愛人はハニートラップだわ、妻と甥はデキてるわ、おまけにイギリスには「こちら側」と釘を刺されるし、テロリストと繋がりがあると見なされる写真をばらまかれるしで散々な目に。結果的に過去の爆弾事件のツケを払うことになるのです。

本作はアイルランドとイギリスの長年に渡る確執を背景としており、テロ犯とその首謀者、扇動者ヘネシーと警察だけでも進む話であって、実はクァンがいなくても成り立つんですよね。警察もテロ犯アジトに突入寸前まで行くし、どちらにしろヘネシーは力を削がれる結果になっていたでしょう。その観点ではクァンは場を引っ掻き回しただけの完全なる異端者です。でもそれが大義の名目で人命を奪う者たちと、命を奪われた一市民が歪んだ大義を叩き潰すという対比の構図になっているわけです。原題の『The Foreigner』はクァンがイギリスに住むアジア人いうことで当然「外国人」という意味ですが、「異質」という意味もあるらしいのでそれも含んでいるのでしょう。復讐を遂げたクァンは予想通り空しさに包まれますが、友人女性に愛をもって迎えられることで涙を流すことができます。抱き合いながらこめかみにレーザーポイントされるという緊張感ある画を経て、警部の「奴には借りがある」で終わるのがシブい。ジャッキー新境地、と言われた作品は過去にもありましたが、ここまでイメージを覆したのは初めてかも。進化し続けるジャッキーに感服です。

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