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2019
05.15

世界の見え方が変わる誕生日。『バースデー・ワンダーランド』感想。

birthday_wonderland
2019年 日本 / 監督:原恵一

あらすじ
錬金術師はザ・フライ。



小学生の少女アカネの前に突然現れた、謎の大錬金術師ヒポクラテスとその弟子ピポ。自分たちの世界を救ってほしいと訴える2人に連れられ、叔母のチィと共に向かった先は不思議な異世界。そこでは色が消えてしまうという世界の危機が迫っていた……。柏葉幸子の児童文学『地下室からのふしぎな旅』を原恵一監督で映像化した長編アニメ。

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』『百日紅 Miss HOKUSAI』の原恵一が初めて挑んだファンタジー作品。誕生日の前日、自分に自信がない小学生のアカネは叔母のチィが営む骨董屋の地下室の扉から、ワンダーな国へ半ば無理やり連れて行かれることになります。自由人のチィ、怪しげな紳士にして錬金術師のヒポクラテス、その弟子のピポと共に巡るのは、不思議な生物が闊歩し、カラフルでいながら現実離れしすぎない異世界です。テンポはわりとゆったりめだし意外と淡々と進むという印象ですが、そのぶん心地よさはありますね。ロシア出身のイラストレーター、イリヤ・クブシノブによるキャラやビジュアルデザインも絵柄が話とマッチしてる感はあるし、年の離れた女性コンビが主役というのも新鮮。泣かせようとする演出ではないのにじわりときます。

主人公アカネの声は『勝手にふるえてろ』松岡茉優。『聲の形』など声優実績もあるのでさすがに上手い。アカネは小学生にしてはデカい気がするけど、小学校高学年なら実際あれくらいかも。他のキャスト陣も声優実績のあるところを揃えているので違和感はないです。チィ役は『百日紅 Miss HOKUSAI』の杏で、この役は杏の当て書きなんだとか。アカネの母ミドリ役は『未来のミライ』麻生久美子、ヒポクラテス役は『映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記』の市村正親。またワンダーランドから色を奪おうとするザン・グ役が藤原啓治、その相棒ドロポ役が矢島晶子と、『クレヨンしんちゃん』の元父ちゃんと元しんのすけという嬉しい共演。

主人公の求心力が弱すぎるけど、そこはまあ自信を持てない小学生が自分と向き合うというテーマならそうなるかもなあ、と思います。いきなり救世主に祭り上げられての冒険を繰り広げ、やがて大きな決断を迫られる少女、という話にしては今一つ盛り上がりに欠けるというのはあるんですが、クライマックスの涙腺爆発力は素晴らしいし、ラストで明言しないことでの余韻も良い。もう一度観れば好き度が跳ね上がる気がします。

↓以下、ネタバレ含む。








自信のないアカネと自由すぎるチィの年の差女性コンビによる異世界ファンタジー、ということで、見たことのない世界を大騒ぎしながら繰り広げる笑いと涙の大冒険、みたいな感じを想像してたんですが、なんか意外と落ち着いてると言うか、成すべき役割はあるし次々と障害に襲われるし様々な人とも出会うものの、いまひとつ話が転がっていく感じが薄い気がします。旅をする話ではあるしそこでの成長というのもあるにはあるんですが、どうも点から点に移動してる感じが強いと言うか、あまりロードムービーという雰囲気でもないんですよ。「色が消える」という危機感もいまひとつ感じられないのもちょっとツラい。これは主人公が連れ回されるという主体性のなさに起因しているのか、世界を救うという目的が曖昧なせいなのか、シーンごとには面白いのにトータルでは微妙に退屈さを感じてしまいました。ただ、それがむしろ本作の持ち味、つまり荒唐無稽とか勢い重視とかではなく、フワフワしてるように見せて意外と地に足がついた作品なんですね。

例えば、チィの口八丁で物怖しない大胆さ、すぐに周囲に馴染むバイタリティは前半多く描かれていて、あまり言葉も動きもないアカネとは真逆のように思われますが、アカネが自身の気持ちで動き始める後半では徐々にその差が目立たなくなります。異世界に行った後は、急かされて来たわりには危機的というほどでもないのがアカネのペースにはちょうどいいし、登場人物がわりと人間の姿が多いのでアカネも馴染みやすいしと、アカネの立場に寄った作りになっているので無理がないですね。それでいてアカネが急に一皮剥けたように活き活きしだしたりもしますが、それは自分と同じ苦しみを持つ者に親近感を持ったからだし、小学生くらいならありそうな話。それほどブッ飛んだ独自のファンタジー設定もないですが、でもこのゆったりした感じはアカネが心を解放していくテンポでもあるのでしょう。カラフルで美しい美術には懐かしさと心地よさがあり、そこまでアニメ絵的ではないキャラデザインもリアルに寄った話には絵柄的に合っています。

あまりコミカルさが活きる絵ではないですが、それでもアカネが固まったまま持ち運ばれたり、ピンクの羊の防寒着が可愛らしかったり、ヒポクラテスがハエから戻っても手をすったりなど、クスリと笑うぶんにはちょうどいいのかも(自由すぎて男にフラれるのは気の毒だが笑う)。猫裁判は猫Tシャツ着てたから無罪とか、ラストにほっぺチューをもらったピポの「うらやましいですか!」などは微笑ましい。巨大羊のもふもふや、微妙に怖いけどインパクトある巨大鯉や金魚、ハート型の貝殻のようなちょっとした現実との差異なども面白い。チィが開けっ放しにした引き出しをアカネが閉めるとか、鳥の卵をチィがエプロン部分でナイスキャッチするといった細かい描写で人物を描いていくのも上手いです。台詞に頼りすぎない演出が好ましいんですよ。ザン・グが魔法で姿が変わったやさぐれ王子だったのには驚くし、その姿が変わったのを機に自分を苦しめる井戸を破壊しようとするというのもわかります。王子が失敗するのが怖くて逃げていたこと自体が、色を失うということと重なってもいます。

自信が持てず逃げていたアカネに兵士長が「そちらの世界には深刻なことなどないというのか」というのにはやけに性急さがありますが、それも人生において不意に迫られる決断という試練なのでしょう。「前のめりの錨」という暗示はアカネを行動させ、「しずくきり」に失敗した王子を救おうとする勇気をもたらします。吹き出す奔流にmiletが歌うテーマ曲『Wonderland』が被さり、切った水が鳥のように飛んで行くクライマックスには、あまりの美しさと荘厳さに泣きますよ。この祝祭感に溢れたシーンは本当に素晴らしい(アカネとチィも泣いてるのはちょっとズルいなあとは思いますが)。地道に積み重ねてきたエピソードの成果がここで一気に花開くのは、点として培った経験が集約されたということなんでしょうね。線で繋いだ連続性を感じにくいのはこのラストへ向けた構成のためだと思えば納得もいきます。

ピポとドロポのちょっと気まずい関係とか、預かったセーターがしっかり賞を取っているとか、魔法使いのカマドウマが実は一番食わせ者なのでは?とか細部も味わいがあります。ヒポクラテスたちとの別れがせつなくも爽やかなのも似つかわしい。またワンダーランドの一日が現実の一時間ということ、始まりが母ミドリの「プレゼントを受けとってきて」だったこと、王子からもらった旗を見て微笑む姿などから、過去に現れた「緑の髪の女神」がミドリだったと匂わせる。これをハッキリ言わないのがとても素敵な余韻となるし、大冒険だったことを帰ってきたら寝ちゃうという形で表すことでさらに余韻が深まります。クラスでのいさかいをエンドロールで解決するのは余韻を壊さない解決編としてスマート。そしてアカネが去り際にワンダーランド出口の壁に付けた手形は、またその子へと受け継がれるかもしれないんですよね。その手形こそが、「世界は広く、キレイ」ということを伝える特大のバースデー・プレゼント。ときには学校サボって冒険も良いよね、と思うのです。

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