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2019
05.07

涙を笑いに、人生を舞台に。『僕たちのラストステージ』感想。

Stan_and_Ollie
Stan & Ollie / 2018年 イギリス、カナダ、アメリカ / 監督:ジョン・S・ベアード

あらすじ
笑わせるのもラクじゃない。



1930年代に数多くのコメディ映画でお笑いコンビとしての時代を築いたローレル&ハーディ。しかしその16年後、人気の衰えた二人は映画製作の資金繰りのためホールツアーを開始することに。そんななかちょっとした口論から二人の仲に亀裂が入り……。実在した2人組コメディアンを描く伝記ドラマ。

出演映画が世界中で上映されてコメディ界の頂点を極めた二人組、ローレル&ハーディの晩年を描いたドラマです。アボット&コステロは辛うじて聞いたことがあったけどそれ以前の1930年代に活躍していたこの二人のことは正直知らなくて、でも特に問題なく観れます、というか知らない人ほど観てほしい作品。物語は二人が人気絶頂の頃に始まりますが、メインはその16年後。もはや過去の人になりつつあった二人が敢行することにしたイギリスでのホールツアー。待遇も客足も悪いなかそれでもユーモアを忘れなかった二人が、コンビ解消の危機に直面することになります。コメディを演じる者の話だけどコメディではなく、ピークを過ぎた喜劇芸人が過去の傷を抱えながら、それでも唯一無二の相棒と進むという、ある種のロードムービーなんですね。未練や執着以上に純粋な情熱があるのに、世間の方が移ろってしまったせつなさや現実の世知辛さ。そしてふとしたことで始まった口論は目をつぶっていた事実までも露にしていきます。そんな二人が再び互いと向き合っていく姿に泣かされます。

スタン・ローレル役は『ナイトミュージアム』シリーズのスティーヴ・クーガン。真面目なのにとぼけた味が可笑しくて、それだけに抱えた哀しみも際立ちます。頭をかく仕草がイイ。一方のオリバー・ハーディ役は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジョン・C・ライリー。本物に寄せるため特殊メイクで激太ってますが、その佇まいがキュート。ウン!と荒い鼻息を出すのがお約束なんでしょうね。この二人の醸し出す往年のコンビ感が抜群です。ちょっと驚いたのが、監督・脚本のジョン・S・ベアードってマカヴォイが引くほどクズい『フィルス』の監督・脚本の人なんですよ。落差がスゴいな……でも過去と向き合う者の話という意味では通じるものがあると言えます。

ハリウッドの映画創成期に伝説的な存在となったコンビ、しかしそこには年を経たからこその許せない思いと離れがたい思いが交錯します。それでもショーも人生も続くのだ、という真理。劇的さを抑え気味なところに老年の時の流れを感じるバランスも上手く、ツラさもあるけど暖かいローレル&ハーディの物語、原題がファーストネームの「スタン&オーリー」というのも実にしっくりきます。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭の長回しの会話で、二人の立ち位置や性格やギャラ問題を一気にインプットされるので飲み込みやすいです。しかしそんな1937年のキャリア絶頂期から始まるので、もしやと思ったら案の定ツラいですね。ギャラの話でもめて、それでも映画撮影をこなしたと思ったら時は飛んで16年後の1953年。映画資金を得るために始めたイギリス・ツアー、しかしホテルは安宿、舞台は小ホール、もう引退したかと思ったと言われるし、客席は半分も埋まらないというやるせなさ。ツアーと言うより巡業です。それでも互いにジョークを言い合ったり、ホテルの受付嬢相手にコントをやったりと、めげずに人を笑わせようとします。笑わせることが心底好きなんでしょうね。面白いものを作ろうとする情熱はあるから、自ら宣伝に出たり奥さんたちまでコントに巻き込んだりして、やがて徐々に売上も伸びていく、というのが熱いです。映画の方が多くの人に見てもらえるというのはあるんでしょうが、舞台で直に感じる熱量が増えていくのは痛快。

舞台シーンは、その再現度はわからないもののかなり似てるんだろうと思えるだけの芸の完成度があります。病院でのコントとか、駅の二つの入口を使ったコントなどは、ドリフの笑いに触れたことがある人ならフフッてなりますよ。こういうアイデアがある、と言っていたのをちゃんと映像にするのも好ましいし、手配師であるデルフォントの表面上のにこやかさがやがて驚嘆に変わっていくのにもニヤニヤ。あと奥さん二人はどちらもクセが強くて厄介そうではあるんですが、「スタンに無理させられてないか」「オリーはちゃんとやってるか」と、それぞれ夫を思っての言動ではあるんですよね。

しかしそんな上向き具合と同時に描かれていくのが、すっ飛ばした16年間の出来事。契約の関係でスタンは一人で事務所を移ることになり、オリーは別の者と組んで「象の映画」に出ることになったわけです。二人がいつどういう経緯を経て再び組んだのかはわかりませんが、象の映画に出たことと先に辞めたことを言い合うことに。それを越えてまた一緒にやってるのかと思いきや、互いに相手が自分を裏切っていた感が拭えないままここまで来てしまったんですね。16年の経過は話を一気に進める効果だけでなく、そこに隠された秘密も含まれていたわけです。そんな二人のケンカがコントだと思われるというのがさらにやるせない。奥さんたちも互いへの不信感が敵意じみたものにまでなってしまうし、ついにはスタンとの決別を口にするオリー。本当はそれぞれが想っているからこその不和、というのがなんともツラいです。

オリーが倒れたことで、コンビ解消どころかオリーが引退を宣言することになってしまい、言われるがまま新たにクックという人物と急ごしらえのコンビを組んだスタン。しかしテンパったクックの姿と悠々と自分を待っていたオリーの姿を重ね、そこにいるべき人がいないという欠落感に襲われます。客を楽しませようとしてきた男が、舞台の幕を開けることさえできない。何度も「ショー・マスト・ゴー・オン」という言葉が出てきますが、ショーを続けるために絶対必要な存在がオリーであることを思い知るわけです。オリーの側も実は同じで、映画のシナリオをスタンが話すときのオリーの目がものすごくキラキラしているんですね。オリーが映画がダメになった話をどう知ったのかは明言されませんが、スタンの「知らないふりをなぜ続けていたか」という問いに「ほかに何をする?」と、自分たちの笑いへの思いを軽やかに示して見せるのにはシビれます。「ケンカして言ったことは本気か」というのにお互いに「ノー」と答え、二人並んでベッドに座るショットにはじわりときます。なんだかんだで両思いなのに、変なプライドや当時の寂しさのせいでついつい意地になっていたんですね。

そんな後なのでアイルランドの人たちの歓迎ぶりには胸が熱くなります。最後のステージ、スタンはオリーの体を気遣って構成も変えてたんだなというのがわかるんですが、そうして歌さえもカットしようとしたのにあえて全盛期のようなダンスを踊ると言い出すオリー。二人でしかできないステージをやろうという、それは信頼であり誇りです。何よりオリーの「ずっと楽しかった」という一言に、共に歩んだ道のりが凝縮されていてもう爆涙。客席でスタンの奥さんがオリーの奥さんの手を握るのにもやられます。それでも多少は話を盛ってるんじゃないかと思っていたら、最後の「スタンはオリーの死後も誰とも組まずローレル&ハーディの脚本を書き続けた」には泣き崩れますよ。笑いの裏にある涙、舞台の裏にある人生、それでも涙を笑いに変え、人生を華やかな舞台としたコンビの物語が心に響きます。

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