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2019
03.28

誇りを取り戻す怒りの鉄拳。『イップ・マン外伝 マスターZ』感想。

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葉問外傳 張天志 Master Z: Ip Man Legacy / 2018年 香港、中国 / 監督:ユエン・ウーピン

あらすじ
僕らのヒーロー、ブラック・バット!(誰)



詠春拳の正統争いでイップ・マンに敗れたチョン・ティンチは、武術の世界から退き小さな食料店を営みながら息子のフォンと暮らしていた。そんな折り、町を仕切る長楽グループのキットに追われる女性をたまたま助けたティンチは、キットたちから狙われることに……。『イップ・マン』シリーズのスピンオフとなる香港アクション。

ドニー・イェン主演の『イップ・マン 継承』に登場した詠春拳の使い手チョン・ティンチを主人公にした、『イップ・マン』番外編とも言うべき作品。組織の跳ねっ返りであるキットたちからジュリアとナナの二人の女性を救ったティンチは、その腹いせに自身の営む店を燃やされてしまいます。ただ普通に暮らしたいだけの親子に降りかかる理不尽な仕打ち、そして恩人への悲劇に対し、捨てたつもりだった武術で再び立ち向かうティンチ。そこに裏家業をやめて真っ当な商売をしようとする長楽グループの総帥クワンや、街にはびこる阿片を売り捌く闇の勢力が絡んできます。正当なる詠春拳の座をかけてイップ・マンに敗れた後のチョン・ティンチを、1960年代のイギリス統治下の香港という歴史的背景も活かし、いわれのない嫌がらせや人々を苦しめる害悪に立ち上がる者として描きます。熱い!

ティンチ役はもちろん『狂獣 欲望の海域』『パシフィック・リム アップライジング』のマックス・チャン。とんでもない色気に満ちた存在感と、とんでもない怒濤のアクションがこれでもかと堪能できます。そして戦う相手がまたとんでもない豪華ゲスト。長楽のクワン姉御役は『グリーン・デスティニー』『メカニック:ワールドミッション』のミシェル・ヨー、何年もアクションをやってないのでもうやらないのかと残念に思っていたら、そんな心配を吹き飛ばすほどの美しくガチなアクション。レストランのオーナー、デヴィッドソン役は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のデイヴ・バウティスタ、彼がここまでガッツリと格闘バトルするのは、自分が観たなかでは『アイアン・フィスト』以来かも。そして謎の殺し屋役、よく見たら『トリプルX:再起動』『SPL 狼たちの処刑台』トニー・ジャーじゃないですか!『ドラゴン×マッハ!』以来のマックス・チャンとのバトルには興奮必至です。ジュリア役の『ドラゴン・コップス 微笑捜査線』リウ・イエン、フー役の『コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝』シン・ユーもイイ。

監督は『マトリックス』を始め数々のアクションを手掛けてきた巨匠ユエン・ウーピン。家族を守り、権力に抗い、数で圧倒する敵を相手に一歩も引かないティンチの姿は、まさに『イップ・マン継承』のイップ師匠と対を成すヒーロー。そして夢破れた男が誇りを取り戻すという話でもあります。想像以上に深いドラマに引き込まれ、手数の多さと速さを絵になる舞台で魅せるアクションの連続に酔いしれ、詠春拳を名乗るティンチの限界突破するカッコよさに震えます。

↓以下、ネタバレ含む。








『イップ・マン継承』ではイップ・マンと詠春拳の正統を賭けて戦うチョン・ティンチですが、決して悪役ではなく、確かな腕と正義感を持つ者として描かれます。ただ、なかなか陽の目を見れないという不運の人であり、それを打開するために多少強引なこともするんですね。結果イップ・マンに敗れて愛する武術から身を引くことになるわけですが、息子を養うため汚れ仕事を請け負って金を稼ぎ、ようやく開いた商店も女性たちを助けるためにブチのめしたチンピラに腹いせで焼かれてしまう。警察上層部は私腹を肥やし、思考停止した部下の地元刑事にも助けてもらえない。ということでやたら理不尽な目に逢うティンチ親子が不憫でしょうがないんですが、今作では愛想のよくないティンチが親しくなれる人々と出会うというのがドラマを深めます。助けた女性ジュリアの家で暮らすことになるという展開には「え、ラブコメかな?」と一瞬思いますが(さすがに違う)、クラブのシンガーとして働くジュリアも、その兄でクラブを仕切るフーも根が善人なので見てて気持ちが良いです。

特にフーは屋上でティンチとコントのようなやり取りをして「母親にもぶたれたことないのに!」とアムロみたいなことを言ったりしますが、それも人情家な彼なりの慰め方で半分芝居だったのでしょう。実際はクワン姉御のところに殴り込みに行ったら用心棒らしきナイフ使いも倒しちゃうほど強い強い。ティンチとの友情も深まり、ティンチがイップ・マンに一手差で敗れたことを「武術は勝敗じゃない」と言って武術を取り戻させようとするくだりは胸熱です。それだけにデヴィッドソンになぶり殺しにされるシーンはツラい。そして友人のナナと兄の両方を亡くすジュリアもツラい。ジュリアが酒場街のネオンが一斉に灯るのを「日の出」と表すことからも、世知辛い世の中を笑って過ごそうとする人たちであることは窺えるし、それはティンチに人との繋がりを思い出させ、再び立ち上がるきっかけを与えてくれるのです。

物語をアクションで語るという語り口は本家シリーズにもひけをとらないほどどれも素晴らしいです。長楽のクワン姉御は、バーでのティンチとのグラスを介した攻防が最高で、あれでティンチの腕前を測りつつクワン自身が相当の使い手であることもわかります。殴り込みにきたティンチと剣を取っての対決では、弟キットの悪行に業を煮やしながらも、かと言って黙って弟の命を差し出すわけにも組織の面子を潰すわけにもいかないという苦悩が表れます。激しい剣戟と見事な体捌き、加えてキットの腕一本で手打ちにしようとするけじめの付け方には「うおおミシェル・ヨー!」となりますよ(わりには合わないけど……)。クワンは組織を裏家業から表の仕事に変えようとして奮闘しますが、今までの悪事のことでオークションを追い出されたりもするという、過去の傷から立ち上がろうとする人物でもありますね。その点はティンチとも通じるものがあります。

デヴィッドソンについては演じるのがバウティスタの時点でただのレストランオーナーではなかろうとは思うものの、予想以上に冷徹な悪党。ステーキを食いながら紳士の仮面をサラッと外す姿には震えますよ。こちらもまた最近はそこまでアクションをやるという感じではなかったですが、それを覆す動きの良さ。打っても効かない体のブ厚さ、強力すぎてティンチでもいなせない打撃の強さ、加えて投げ飛ばしブン回しパワーボム的なプロレス技と、とんでもない強敵。ちゃんとティンチの攻撃を捌くのもスゴい。しかしこれはティンチにとっては負けられない戦い。「パパはブラック・バットだ、僕のヒーローだ」と言う息子フォンが、嫌がっていた白粥と揚げパンを「また食べたい」と願う日常に戻るために。そして亡きフーの言葉に従い、ついに本来の自分の型を取り戻し「詠春拳、チョン・ティンチ」と名乗るシーンの激熱さ!デヴィッドソンに全力の詠春拳を叩き込むティンチにはもはや敗者のうらぶれ感は微塵もなく、一人の誇り高き武術家の再生があるのです。

商店街での自転車や周囲の小物を使っての日常を守るためのバトル、酒場街の看板の上での上り詰め蹴り落とす立体バトル、長楽殴り込みでの首を掴んで周囲をぐるりと蹴り倒す勢いのあるバトルなど、現状を打破していく様を盛り込んだ舞台設定の工夫は秀逸。あとトニー・ジャーの殺し屋との戦いがエキサイティングで、ナイフをギリでかわしたり店のショーウィンドウに互いを突っ込ませたりといった互角の戦いが熱い。この殺し屋はティンチが店を開くための資金稼ぎで裏仕事をしていたときの同業者であり、ティンチの後ろめたい過去の象徴でもあるでしょう。二人の戦いは決着が付かずに終わりますが、それだけにここからティンチが自分を取り戻す道が始まったとも言えるのが粋です。この殺し屋は最後にデヴィッドソンに氷のナイフを投げて暗殺。氷を使うのは凶器から足が付かないようにということですかね、プロだわあ。建物の屋上で佇むシルエットがこれまたクールでシビれます。

背景にある殖民地としての香港の苦悩にも一区切り付けるのが大したもので、怒った野次馬が警察に歯向かい暴行を受けるなか、上司の横暴に耐えてきた地元刑事が証拠を見つけてクズ上司を逮捕。ちょっと出来すぎ感もありますが、『イップ・マン継承』では人知れず姿を消すしかなかったティンチを思えば、周囲が彼に味方するというのがまた熱い。終わってみれば夢破れた男が誇りと信頼を取り戻すという大団円ですが、最後に息子とジュリアと三人で囲む食卓によって、不幸続きだったティンチが失われた日常までもを取り戻し、新たな家族の予感まで見せるという実に沁みるラストになっています。エンドクレジットでは親子で木人椿を叩き、エンドロールではフォン君が殴られたいじめっ子に倍返しと、ヒーローである父を最後まで信じた息子との話としてもこれ以上ない出来。『イップ・マン』本シリーズとは多少テイストが異なる本作ですが、またチョン・ティンチの活躍が観たいと猛烈に思わせられます。

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