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2019
03.25

走っても歌っても引き離せない孤独。『運び屋』感想。

The_Mule
The Mule / 2018年 アメリカ / 監督:クリント・イーストウッド

あらすじ
タタ=じいさん(わりとそのまんま)。



仕事一筋で生きてきた90歳のアール・ストーンは、ないがしろにしてきた家族とは今は絶縁状態。商売も失敗し途方に暮れていたとき、荷物を車で運ぶだけの仕事を持ちかけられる。依頼を引き受けたアールだったが、その仕事は実は麻薬の運び屋だった……。実話を元にしたドラマ。

クリント・イーストウッドが自身の監督作では『グラン・トリノ』以来10年ぶりの主演(俳優としては6年ぶり)を務め、87歳の老人が一人で大量のコカインを運んでいたという実際の報道記事から着想を得たお話です。ナチュラル・ポーン・人たらしだけど、仕事ばかりで家族からは総スカンなアール爺さん。デイリリーというユリの栽培に生涯を賭けてきたものの、インターネットに客を奪われて失職、家も差し押さえられ、孫娘の結婚記念パーティーでは娘や元妻に糾弾されるという孤独な老人になってしまいます。そんな彼の無事故運転の経歴に目をつけた男が紹介したのが、謎の荷物を運ぶ仕事。気軽に引き受けたアールはやがてその荷物が麻薬であることに気付きますが、金のために続けることに。クライム・ストーリーであり孤独な老人が家族を取り戻そうとする話なんですが、このアール爺さんは生来お気楽なのか、ヤバい仕事も俺流で楽しく愉快に、という感じなのでそこまで悲壮感や罪悪感もなく、むしろコミカルなシーンも多いというのが意外。それでいて家族に贖罪しようとするというところがまあ勝手なもんだとは思うんですが、それでもどんどん大きな役割を担っていくのが面白いです。

『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』『15時17分、パリ行き』と監督としては実録ものが続いたクリント・イーストウッド、本作も実話が元ではありますが脚色はかなり強めなようで、イーストウッド自身にも重なるような老人の悲哀と人生観みたいなものを感じさせつつも、しっかり娯楽作として昇華。役者としてはおそらくあえてのお爺ちゃんっぽい枯れた感じを出しつつ、御年88歳ながらどこか色気は残ってる佇まいが、老いてなおますます盛ん!という感じです。また実際の当事者をキャスティングした前作から一転、共演が何気に豪華。アールを追う麻薬捜査官ベイツ役に『アメリカン・スナイパー』ブラッドリー・クーパー、その上司役に『ジョン・ウィック チャプター2』ローレンス・フィッシュバーン、相棒のトレビノ捜査官役に『アントマン&ワスプ』マイケル・ペ~ニャ、麻薬カルテルのボス・ラトン役に『ゴーストバスターズ』アンディ・ガルシアなど。『死霊館のシスター』タイッサ・ファーミガやイーストウッドの実娘アリソン・イーストウッドも出てますね。

実在の麻薬の運び屋という点では『バリー・シール アメリカをはめた男』を思い出すんですが、本作は主人公が人生の引き際を知る、みたいなところが味わい深い。人はいくつになってもやり直すことができるのか?失った絆は取り戻せるのか?そんな命題をイーストウッド自身が演じることで説得力を持たせます。あと、トップが代わって効率重視になった途端組織がギスギスするというのはどこでも同じだなあと思わせられます。

↓以下、ネタバレ含む。








アール爺さんは安全運転のごく自然なドライビングで、誰もこの老人が麻薬を運んでいるとは思わないわけで、確かにこれは捜査する側からしたら盲点でしょう。ベイツ捜査官らも追い詰めはするものの全く疑おうともしないし、なんなら直接会話までしてるというのが皮肉。と言うかアール自身が麻薬を運んでると気付いた後も結局続けてしまうというのが、豪胆なのか老人ゆえの怖いもの知らずなのか。組織の連中も最初は胡散臭がるものの、やがてこの物怖じしないマイペースさに心を開いていく、というのが可笑しい。やってることは犯罪だし、その麻薬が人々にどう影響するかなど考えていないのは問題ですが、そこまで話は広げずに(その点はちゃんと罰も受けるので)、アールの視点に寄り添うことで彼の人となりや今までの人生について描くというバランスの取り方なんですね。

このアール爺さん、朝鮮戦争の帰還兵というのが『グラン・トリノ』とも被るものの頑固ジジイという感じはなく、むしろ陽気でお気楽。序盤のデイリリー品評会でも小粋なジョークで周囲を取り込むし、麻薬を運んでいるのにドライブスルーも普通に寄るし、パンクした車の手助けまでするし、娼婦を呼んで踊ったりもします。運転しながらラジオから流れる色んな曲を陽気に歌ううちに、組織の監視役までが引き込まれてしまう始末。かかる曲も基本陽気だけど歌詞がたまにどうかしていて、「女に病気をうつされて小便すると痛い」というカントリー曲とか何なの?ぶっちゃけすぎなんですけど。監視役のフリオとサルが職質されそうになったときにはキャラメルコーン2缶で警官を煙に巻くという機転も見せ、とうとう二人も凄むのは諦めて受け入れざるをえなくなっちゃう。この社交性は天然ですね。ボスにメキシコに来いと言われてあっさり行っちゃうのも驚きだし、美女二人を相手にハッスルしちゃうのも驚き(心臓ヤバいと連呼するのが笑います)。ちなみにパーティーシーンは水着美女の尻の映し方がフェティッシュでナイスです。

アールは奥さんが言うように他の人に認められたいという欲が強い、もてはやされたい人なのかなという気がします。だから頼られるとやる気出して大量のコカインも運ぶし、得た金は新車や家を買い戻すのに使いつつも(新車で車庫にスーッと入ってくるのがスマート)、それ以上に孫娘の結婚パーティーや退役軍人会のビル修復などにポンと大金を出す。そこには罪を償う意図があるかもしれませんが、結婚式をすっぽかされた娘や長年放っておかれた妻にしてみれば、いまさらどのツラ下げてになるわけです。ただ、アールがやることは大体は悪気がないのでしょう。黒人に対してニグロとかメキシコ人にタコス野郎とかサラッと言うし、麻薬カルテルのボスに「どれだけ人を殺した」とか悪びれもせず聞いちゃう。「年を取ってるから何でも正直に言える」と言われて確かにそれもあるんでしょうが、物事をあまり深く考えてない気がします。考えてたら家族とここまでこじれはしなかっただろうし。ボスの家でご機嫌なフリオに突然「組織を辞めろ」と言うのも彼の立場とか経緯とか全く考えてないですが、それも後悔させたくないという思い付きが言わせたのでしょう。突然のボス交代(『パシフィック・リム』のテンドーさんだ)で締め付けが強まった職場を見れば、結果的にはそれは正しい意見だったわけですが。銃を突き付けられて「俺は戦争に行ったんだ、そんなもの怖くない」と言うのも、そこで相手がどう出るかあまり気にしてないような感じです。

だからいつか何とかなる、という思いで生きてきたアールは、死の床につく妻を見て、ようやく取り返せないものがあることを悟ります。「大事なのは家族、仕事は二番目でもいい」という言葉はありきたりですが、その言葉の真意が「金で何でも買えたが時間だけは買えなかった」というところに取り返しのつかなさがあって、本当に後悔してるんだなと納得できます。でもたとえ過ぎた時間は取り返せなくても、やり直すことはできる。自身の罪を全面的に認め、家族と別れて刑務所に入るアールは、そんな思いを噛み締めながら再び造園に精を出すのです。

アールがギャングの言い争いのなかでおもむろにリップクリーム塗り始めたり(爆笑)、DEA捜査官たちが捕まえた男が「人生で最悪の5分間だ」と喚き続けたり(爆笑)と、全体的にコミカルな語り口で覆われてはいるものの、アールとベイツの食堂での邂逅や最後に捕まるときの二人の再会などはスリリングだし、好きに生きてるようで実は孤独だと気付く老人の、贖罪とその先の解放まで描いてみせつつ、しっかり娯楽作として見せきる手腕はさすが。意志さえあればいくつになってもやり直すことはできるかもしれない、という勇気をもらいましたよ。

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