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2019
03.20

信じて飛べば、始まる君の物語。『スパイダーマン:スパイダーバース』感想。

Spider-Man_Spider_Verse
Spider-Man: Into the Spider-Verse / 2018年 アメリカ / 監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン

あらすじ
じゃあもう一度説明するね!



ニューヨークのブルックリンで名門私立中学に通うマイルス・モラレスは、ある日謎のクモに噛まれて特殊な能力を得る。そんななかたまたまニューヨークのヒーロー・スパイダーマンが戦う場面に遭遇したモラレス。しかしその戦いのさなか、特殊な加速装置により時空が歪められたせいで、別次元のスパイダーマンたちがマイルスの世界に現れることに……。新たなスパイダーマンの活躍を描く長編アニメ。第91回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞。

スパイダーマンの能力を得た少年マイルスが、本家スパイダーマンのピーター・パーカーの指導の元、別次元から来た様々なスパイダーマンたちと共に戦うアニメ作品。実写版ではトビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランド主演でそれぞれ映画化されてきたスパイダーマンが、ここにきて『21ジャンプストリート』『LEGO ムービー』のフィル・ロード&クリストファー・ミラー製作によりアニメ映画化というのはそれだけで期待が高まるところですが、これがちょっと今まで観たことのない質感の映像が奔流のように襲いくる驚きの出来。2Dのコミックをそのまま3DCGにしたかのような、言葉で説明しにくいんですが、真にコミックの映像化とも言うべき完成度には驚嘆です。

マルチバース(平行世界)のスパイダーマンたちはその世界観の差異が絵柄の違いにまで表れており、ピーター・パーカーやグウェン・ステイシーはともかく、遥か未来からやってくるペニー・パーカーの日本アニメ風、2頭身な上にブタというルーニー・トゥーンズのようなスパイダー・ハムのカートゥーン風、コートを翻すハードボイルドなスパイダー・ノワールのグラフィック・ノベル調タッチなど、それぞれの絵柄というのを変に統一せずそのまま共存させ、それが不自然に感じないというのは凄いですよ。加えて音響も迫力。グウェンはキュートだし、メイおばさんはメイおばさん史上最強のメイおばさんで最高です。

声を当てるのはグウェン役に『ピッチ・パーフェクト』シリーズのヘイリー・スタインフェルド、ノワール役に『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』ニコラス・ケイジ、キングピン役に『スポットライト 世紀のスクープ』リーヴ・シュレイバー、アーロン役に『グリーンブック』マハーシャラ・アリなど豪華。と言いつつ吹替版で観たのでその豪華さは観れてないんですが……。ただ吹替の方は、マイルス役に『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』のジョルノ役・小野賢章、ピーター・B・パーカー役に『GODZILLA 星を喰う者』宮野真守、グウェン役に『君の名は。』悠木碧、キングピン役に玄田哲章など本職の声優を揃えており、画面の情報量を考えると吹替の方が隅々まで映像を観ることに集中できそうです。

物語の主人公マイルス・モラレスは両親の過度の期待に応えようとしながらも何かが違うと思う日々。そこに突然スパイダーマンの力を得て戸惑いながらも、仲間や大事な人たちを守るため奮闘することに。そんなマイルスを、テンポのよさにトリッキーな展開で動かし、関係性の構築や繰り返し表現による巧みな構成で魅せ、マスクを被ることの勇気にまで繋げる、とストーリーテリングも抜群。めくるめく映像体験による熱きヒーロー映画!

↓以下、ネタバレ含む。








■動くアメコミ

映像の奇妙な味わい、最初はなんか背景がボヤけてたり動きがカクカクするところがあったりと違和感を覚えるんですが、やがてこれがコミックらしさを映像に落とし込んだ演出だというのがわかってくるんですね。台詞が吹き出しで表示されたりコマ割りや擬音が使われたり、スパイディのマスクの目が動いたり、コミックのような決め絵カットが瞬間的に挿入されたりして、どこを取っても絵になるというのがアメコミ的。逆さになった街を昇るかのようなマイルスの画などは超カッコいい。スパイダーセンスの表現が頭からピヨピヨ出るもコミック的で愉快です。3Dで作った映像に2D的な描き込みを加えているとのことで(しかも手描きらしい!)、それが個々の世界観をより強烈に浮き上がらせて面白い。ペニーの日本アニメ的な表現へのこだわり、ハムのキュートでなんでもありなカートゥーン描写、ノワールの一人だけ風が吹くというクールな佇まいなど、どれも個性的です。それぞれがコミックの紹介的な見せ方で出自が語られるのもテンポがよく、そこからそのまま飛び出した感があるのにやけに馴染むんですね。これはアニメでしかできないアメコミ表現として斬新です。

音響も良くて、オープニングで鳴り響く音がどんどん大きくなるところは心臓バクバクの興奮が凄いし、加速機の重低音は腹の底から響いてくるし、様々な楽曲もシーンにあってます。そしてアクションは実写版のスパイダーアクションではできないようなものも多くて滅法面白い。マイルスが気絶したピーターと一緒に電車に引っ張られるのはスリリングなのに爆笑だし、メイおばさん家のバトルは狭い部屋でスピーディーに動き回るし、マイルスがプロウラーから逃亡するシーンでは地下鉄で電車を避けながらの攻防がイイ。マイルスがまだスパイダーパワーを使いこなせてないために危機一髪感があります。クライマックスでは他次元のビルや列車が飛び交うサイケな異次元空間まで出てきますが、その異質な世界での戦いがまたスリル。飛び交うビルの間をすり抜けて落ちていくマイルスとかカッコいい。あとスゴく好きなのがピーターと二人で林をスイングしながら飛んでいくシーン、リズムの良さと二人の師弟感がなんだか泣けてくるほど良いです。


■スパイダーマンたち

マルチバースについてはアニメシリーズの『アルティメット・スパイダーマン ウェブ・ウォーリアーズ』でもやっており初めてではないんですが、マイルスが主人公である点やキャラ設定なども違うので新鮮。特にペニーは知らなかったので面白い。『ネクストロボ』を思い出します。ノワールは大塚明夫の声がシブすぎてシビれる!やたらバイオレンスな探偵でマイルスをしごくのが困りもんですが意外と優しい。ルービックキューブを気に入るというのがラストで活かされるのが上手いです。ハムは癒し系と思わせてそうでもなかったり、「あのブタ野郎」という言葉に反応したりと愉快。グウェンはね、超カワイイですね。マイルスより少し年上のお姉さんっぽさがありつつ、マイルスの手が髪にくっついたせいで変わった髪型もクール。

そしてピーター・B・パーカーがスゴく良いんですよ。すっかり中年となり、腹は出てるし下はスウェットだしMJに未練タラタラですが、そのダメさ加減とダメであっても正しさは揺らがないところ、コミカルさを失わないけどいざというときの経験と知識が頼れる、というのが大人になったピーター・パーカーだなと思えるんですよ。名台詞「大いなる力には……」は聞き飽きたなんて言いますが、まあずっとやってればそうだよね。MJとは別れメイおばさんは亡くなっているので、マイルスの世界のMJにしどろもどろだったりメイおばさんを見る顔が感慨深そうだったり。なんかちょっとジェイク・ギレンホールに似てる気も(ギレンホールは今度『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』に出ますが)。マイルスに「死なせない」と言われて「仲間っていいな」とか言っちゃうし、マイルスの世界のスゴくしっかりしてそうなピーター・パーカーとはエラい違うのが味です。ちなみにピーターBの世界ではコカ・コーラの看板があったけどマイルスの世界ではコカ・ソーダになっていたり、MJとのキスシーンの立ち位置がピーターBの方がライミ版『スパイダーマン』と同じだったりするので、ピーターBの世界が(映画版の系譜と考えれば)一応正史ということになるんでしょうね。

メイおばさんの秘密基地にはバットケイブか!とビックラこきますが、基地があるってのは戦隊ものみたいでアガるし、実際個性を活かした連携アクションなども見せるので戦隊ヒーロー的な味もありますね。対するヴィラン側、キングピンはパワーと固さと密度の高さを感じさせるぬりかべみたいな体格が強烈。キングピンの悪事を知って逃げる際に事故死した妻子を蘇らせようとして、また同じ状況の現場を見られてしまうというのが何とも悲しい。あとオリヴィア・オクタヴィアス博士がドック・オクというのは意表を突かれました。予告で観ててっきりアイアン・スパイダーかと思ってたよ。グリーンゴブリン、トゥームストーン、スコーピオンと結構ヴィランも出てきます。そしてスタン・リー御大がスパイダーマンスーツを売る店主としてカメオ出演してくれるのも嬉しい。


■新たなスパイダーマン

マイルスは父親の言いなりで自分に選択権がないことに辟易しており、もちろん愛情ゆえであることはわかってるけども(学校の前で「父さん愛してる」はキツすぎですが)、好きなグラフィティも描けない窮屈さを感じています。進学校に自分が合わなくて居場所がないと思っており、それが透明になるという能力に繋がってるのかもしれません。でもスパイダーマンになったということは、最初のピーターに言われるようにさらに選択の余地がないことなんですね。街を救ってくれという約束も果たせず、スパイダーアクションもなかなか上手くできない。しかもマイルスは慕っていた叔父のアーロンがプロウラーだったことにショックを受け、その叔父がマイルスを庇って命を落とすという悲劇まで食らうことに。

「じゃあもう一度説明するね」の繰り返しは、各スパイダーマンが自分のことは自分の世界ではおなじみ、ということです。本来はそれぞれが主人公という意味合いで「この世界でたった一人のスパイダーマン」と言うわけですが、これが同時に一人で戦うことの孤独も表しているわけです。そして皆が大切な人を亡くしている。ハムの言う「全ての人は救えない」がヒーローの深刻さを物語ります。それでも自分にできることをやりたいと思うマイルス。そしてアーロンの「真っ直ぐ生きろ」、母親の「うちの家族は逃げない」、父親の「お前には才能がある」、ピーターの「信じて飛べ」そして必要なのは「勇気だけだ」といった言葉が、マイルスに覚悟をもたらします。選択の余地がないなら自分を信じて真っ直ぐ進むだけ。そして自分たちは一人じゃない、別の次元で同じように孤独に戦う自分がいる。

それはピーターBやグウェンも感じていたことであり、皆がスパイダーセンスで共有する思いでもあり、だから彼らはもう孤独ではないのです。そうしてマイルスが覚醒したことを、彼が表紙のコミックが皆のコミックに重ねられるという形の演出が熱い。他の皆を自分たちの世界に返すマイルスには対等の頼もしさが備わり、だからこそそれぞれの別れが沁みます。グウェンとの別れでは「友達?」「友達」でそれ以上余計なことは喋らず見つめ合うのが泣けるし、ピーターBには自分がやられたように足払いで倒して後は任せろと送り返す。マイルスの思いの強さは電撃となり、アーロンから教わったショルダータッチでキングピンを倒します。父への思いをマスクをしたままハグで示すのは可愛らしいですが、「あなたの隣人スパイダーマン」のメッセージには新たなヒーローの誕生が明確に示されています。


■ヒーローは立ち上がる

マスクを被れば君もなれる、それは勇気をもって進めばなりたい自分になれるというメッセージ。とても王道な着地なんですが、それをポップでありながら鮮烈なビジュアルと魅力的な人物関係でひたすら楽しませながら描いてみせた完成度の高さには脱帽です。細部の演出まで凝っており、最初のピーターに「イヤだ」と言っていたマイルスが最後にパネルに辿り着くまでの動きがピーターが上っていくのと同じ動きだったり、スパイダーマンである期間がピーターが22年間、グウェンが2年間、マイルスが2日と「2」で縛ってるのも細かい。そして何度でも立ち上がるヒーローの矜持の熱さ。観終わった後にすぐにもう一度観たくなる中毒性がありますよ。

それにしてもエンドクレジットのスパイダーマンだらけのクレイジーな映像はドラッギーでブッ飛んでるし、エンドロール後に登場するスパイダーマン2099(声はオスカー・アイザック!)と元祖スパイダーマンの指の差し合いは何のコントなの?ただラストでマイルスに話しかけるグウェンらしき声が聞こえたり、スパイダーマン2099が次元を移動できるようになるみたいなことを言うので、続編もありそうな予感。期待しちゃいますよ?今度はレオパルドンも出たりして。

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