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2019
03.06

伝説の革命!愛は県境を超えて。『翔んで埼玉』感想。

tonde_saitama
2019年 日本 / 監督:武内英樹

あらすじ
そこらへんの草でも食わせておけ!



かつての埼玉県民は東京都民から迫害を受けており、ひっそりと暮らしていた。そんななか東京トップの高校である白鵬堂学院にアメリカ帰りの転校生・麻実麗がやってくる。生徒会長の壇ノ浦百美は次第に麻実に惹かれていくのだが……。魔夜峰央の同名コミックを実写化した埼玉コメディ。

『パタリロ!』の魔夜峰央が自ら住んでいた埼玉県を自虐的に描いた1982年発表のギャグ漫画がまさかの実写映画化。娘の結納会場へ向かう菅原一家の車のラジオから流れてきたのは、かつて迫害されていた埼玉県を救った者たちの都市伝説。そこでは東京から人ならざる扱いを受ける埼玉を始め、千葉や神奈川、群馬など関東一円を巻き込んだ壮大な歴史が語られることになります。特産品も何もないと揶揄される埼玉県、栄華を極める東京都など、県のパブリックイメージを最大限に突き詰めてデフォルメした結果、やりすぎてほとんどファンタジーになっていて爆笑。さらには大河ドラマにまで昇華されたかのように勘違いさせられるという、郷土愛溢れる関東一大叙事詩です。監督が『テルマエ・ロマエ』シリーズの武内英樹ということでテイストは近く、壮大なバカ話を全力でやりきるのが謎の感動さえも呼び起こすんですよ。これは面白い。

白鵬堂学院にやってくる見目麗しきスーパー転校生、麻実麗役はGACKT、都知事の息子で生徒会長の壇ノ浦百美(男です)役は『リバーズ・エッジ』二階堂ふみ。この二人を中心に埼玉v.s.東京+αの争いはエスカレートしていきます。GACKTはいつもの耽美な感じが眉目秀麗、容姿端麗な麻実にドハマりだし、二階堂ふみの全力での大仰な演技は可愛すぎ。百美の家の執事である阿久津翔役の『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』伊勢谷友介などはノリノリの怪演が素晴らしいです。あと埼玉デューク(名前がスゴい)役の京本政樹の謎の妖艶さは還暦直前とは思えぬセクシーさで、GACKTに負けてません。

しかしこれ埼玉より群馬の人の方が複雑な気分になるのでは……いや知事一人の胡散臭さでまとめられた神奈川の方が怒るだろうか?まあその反応はそれはそれで郷土愛だしいいんじゃないですかね。あくまでコメディなので笑って許しましょう。散々ディスられる埼玉ですが、権力に抗うレジスタンスの話でもあるので、故郷の誇りを賭けた熱き戦いの記録は涙なしでは観れませんよ(笑いすぎて)。GACKTが高校生役なんてすぐに気にならなくなるほど話がブッ飛んでいて楽しいです。ダイバーシティは埼玉から始まるのだ!と言えなくもない!

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭に作者の魔夜峰央を出して「いやあフィクションなんすよー」とエクスキューズをキメるという、のっけから反則技(男性だというのをすっかり忘れて女性だと思い込んでたのでちょっと驚きましたが)。一応埼玉県民への目配せですが、それ以降は怒涛の埼玉ディスが続くので、まあ気休めです。東京はきらびやかでポールダンスの女性が何十人も踊るような店があり(ねーよ)、一方の埼玉県人は通行手形がないと東京に入れず、土地は荒れ、スカウターみたいなので見ると「さ」印が浮かび上がり排除されるという、昔なのか未来なのかよくわからないという世界観からしてめちゃくちゃです。サイタマラリアという埼玉特有の伝染病まである始末。まあ東京の描き方も大概ですけどね。取り締まりする人たちの銀ピカの服装とか(宇宙人か)、都庁の壁面にデカデカと都知事の写真が飾られてるとか(北京か)、すっかりファンタジーですね。僕は過去に埼玉の川越というところに住んでいたことがあり、劇中語られるように東京と言えば当然のように池袋だったので、西武と東武とパルコの看板が並ぶ桃源郷のような風景には感動……と思ったけどイヤそれどこだよそんな景色ねーよ。

そんななか東京至上主義者が集まる白鵬堂学院に転校してきた麻実麗。実は埼玉県人である彼が東京を内部から瓦解させるため、身分を隠して敵地に乗り込んでくるわけです。何でもできるスーパー埼玉リアンである麻実は、都知事の息子である生徒会長の百美に睨まれながらも、東京テイスティングで見事に勝利。このシーンだけで芸能人格付けチェックで無敗を誇るGACKTのキャスティングが活きていて爆笑です。西葛西はインド人が多いとか知らなかったよ。そんな麻実に唇を奪われハートも奪われてしまう百美。百美が実は女性だった、というのがなく設定としては最後まで男で、ゲイとか関係なく惹かれ合うというのが『パタリロ!』っぽさもありつつもっと根っこの方での人間同士の繋がりという感じで良いですね。所沢と言えなかったり春日部と聞いてふらついたり、二階堂ふみのコメディエンヌっぷりは最高です。GACKTとのキス時間が二階堂ふみより伊勢谷友介の方がねっとり長いうえにエロいというのも笑います。あとGACKTの鼻にピーナッツ詰め込まれそうになってのあえぎ声は何のサービス?

他の登場人物も変なのばかりで、麻実の義父である麿赤兒は攻め込まれても微動だにせずふんどし大開脚をキメるし、百美の父である都知事の中尾彬は完全にお代官さまだし、母は武田久美子!だし、千葉の海女戦士・小沢真珠が貝殻で迫りながら「海の音をきけ」というのは笑うし、竹中直人の神奈川県知事は胡散臭いにもほどがあります。伊勢谷友介はなぜ大漁旗をマントにするのか。埼玉デュークの京様はなぜあんなに目張りがスゴいのか。ライバルのエンペラー千葉(名前がスゴい)の役がJAGUARさんとかどんだけテレビネタを入れるのか。GACKTが「合戦じゃー!」とか言い出すのは大河ネタなのか。などなど挙げたらキリがない小ネタの応酬。さも重要そうに出てくる地名がどれも埼玉の地名、というのも微妙にくすぐってきます。そしてついに激突する埼玉対千葉での有名人対決にはGACKTの盟友YOSHIKIやアルフィー高見沢(嫌いじゃないぜ)が写真で登場、ゆうこりんと小島よしおは弱くて「家政婦は見た」は強いという基準もよくわから……いやそれはわかるか。と言うか、埼玉と千葉が結託して東京を攻めるならあの川原の対峙は何だったのか?待ち合わせ?大規模な待ち合わせなの?双方が睨み合う橋がシーンの緊張感に反してショボいというのも笑います。

これ以上ないほど明確な格差社会、県差別の描き方に、これはポリコレな話なのか?とも思うんですが、振り返るとそこまでの重みはなく、せいぜいケンミンSHOWでのお国自慢程度というヌルさを通すのがそれはそれで秀逸です。それでいて何年にも渡り革命の準備をした麻実や、埼玉解放戦線の命を賭けた戦い、ライバル千葉との主導権争い、秘境の地・群馬の思いがけない伏兵ぶりなど、政治的・軍事的な駆け引きが高度に展開するため(そうか?)、大河ドラマのような壮大なスケールをも醸し出しています。また人物一人一人も結構印象的に動かすので、チョイ役であっても意外とその動向が熱かったりして、盛り上げ方がなかなか上手いんですよ。なので「史上最大の茶番劇」と銘打ちながら、まあ冷静に観ればそうなんだけど、でも観てる間はとにかく楽しいし、なんならハラハラしながら見入ってしまう、というのがスゴい。「埼玉のポーズ」は『ブラックパンサー』のワカンダポーズみたいだったり、群馬が天然の『ジュラシック・パーク』だったり、ラストシーンで麻実と百美が歩いていくバックの曲が『スター・ウォーズ 新たなる希望』のラスト曲の完全なるパクりだったりといった映画ネタも多く、こうした細部までこだわった小ネタに手抜きがないところには観客をひたすら楽しませようというこだわりが見られて素晴らしいです。

埼玉が東京を打ち倒して現在に至ったという都市伝説により、散々ディスられたのも愛情の裏返しだったのよ、という帰結には大きなめでたし感。現代パートではブラザートム、麻生久美子に加え娘の婚約者の成田凌までがこの伝説に涙です。要はふるさとを愛そうぜ、ということであり、差別の話を一歩進めて各県それぞれに特色はあるんだよという多様性の話に落とし込むんですね。……と思ったら、都市伝説を放送していたのがあの二人というのが明かされ、もはや時系列までが謎の領域に突入、何が本当で何が作り話かさえ曖昧にするという、より巨大なスケールへと変貌するのには呆れ、もとい恐れ入りますよ。都市伝説を笑い飛ばす常識人だったはずのぱるること島崎遥香までが最後にはしっかり埼玉ポーズを決め、日本の次は世界埼玉化計画が進行していくという、まさにシラコバトが空へと羽ばたく勢いの埼玉。エンドロールのはなわの歌も、ほぼ佐賀の歌の流用っぽいと思いつつも面白い。ぜひお近くの埼玉県人の方に勧めてあげて欲しい一作です。

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