FC2ブログ
2019
03.05

恋する天使は狂戦士の夢を見る。『アリータ:バトル・エンジェル』感想。

alita_battle_angel
Alita: Battle Angel / 2019年 アメリカ / 監督:ロバート・ロドリゲス

あらすじ
お父さんは心配性。



数百年後の未来。天空に浮かぶ都市ザレムの下、サイバー医師のイドがクズ鉄町のスクラップ捨て場で見つけたサイボーグの少女アリータ。脳だけが無傷の状態だった彼女はイドにより生き返ることができたものの、記憶を失っていた。やがてアリータは自分が持つ力を知っていく……。木城ゆきとのコミック『銃夢』をハリウッドで実写映画化したSFアクション。

スクラップとして捨てられ記憶を失ったサイボーグ少女アリータが、自分を狙う権力者と戦い己を取り戻していくというSFアクション。原作は日本のSF漫画である木城ゆきとの『銃夢(ガンム)』で、僕も大好きだった作品。「アリータ」は海外版コミックのタイトルのようですが、これが実写化、しかも『アバター』のジェームズ・キャメロンが脚本・製作、『シン・シティ』のロバート・ロドリゲスが監督ということで、コミック実写化という不安はありつつも期待を抱いて観ました。で、これが期待以上の再現度。雑多で残酷なザレムの支配世界が原作まんまに拡がる映像に、銃夢だ!ガリィだ!と感激(ガリィは日本版原作のアリータの名前)。「バトル・エンジェル」のタイトルに恥じない壮絶バトルに、恋する天使アリータの力と心が激映え。ジャンクなSF空間の緻密さは人々の生活感を感じさせ、生きるための悲しさに説得力を持たせます。300年前の失われた技術を持つアリータと彼女を襲う凶悪なサイボーグとの対決に、ボールを追ってコースを回る格闘技のようなスポーツ・モーターボールの迫力も相まって、非常にエキサイティング。

主人公アリータ役は『メイズ・ランナー』シリーズのローサ・サラザールですが、その見た目は原作に合わせてCGでかなり変わっています。特に誰もが気になるのがマンガのような大きく描かれた目。でもこれは観ているうちに意外と慣れるし、むしろ馴染むので問題なかったです。またアリータの親しみやすさとピュアさと十代らしい恋する乙女な姿がとても魅力的で、かつキレたら怖い暴れっぷりとギリギリまで戦う闘争本能が熱い。アリータを救う医師のイド役に『007 スペクター』クリストフ・ヴァルツ、イドの元妻チレン役に『オンリー・ザ・ブレイブ』ジェニファー・コネリー、ベクター役に『ムーンライト』マハーシャラ・アリと、アカデミー俳優を揃えた脇もやたら豪華。ほか、ヒューゴ役にキーアン・ジョンソン、ザパン役に『デッドプール』エド・スクレイン、グリュシカ役に『エンド・オブ・キングダム』ジャッキー・アール・ヘイリー。

原作を知らなくても特に問題ないですが、原作ファンとしてはハンター受付の顔だけのヤツ(デッキマン)とか、犬使いのハンターが出てきたりなどが嬉しい再現度。細部まで作り込まれたサイバーパンクな世界に浸れる感が最高だし、機甲術にモーターボールとアクロバティックなアクションにも興奮。スピード感、メカニカル感に溢れ、それでいて権力に抗う者の話であり、一人の少女のせつない恋物語でもあります。

↓以下、ネタバレ含む。








■見上げれば空中都市

冒頭の20世紀FOXのロゴが「26世紀FOX」になってる!というわけで遥か未来が舞台になるわけですが、そこは没落戦争により多くの空中都市が壊滅し、唯一残った空中都市「ザレム」が支配する世界。多くの人々はザレムに搾取されながら地上のクズ鉄町(アイアンシティ)で底辺の生活をするというディストピアでもあります。背景の描き込みが常軌を逸していて、上下左右に拡がるクズ鉄町の光景には活気が溢れ、建物も戦争後の崩れた感じにゴチャゴチャ足していったごった煮の趣があってイイ。アリータがヒューゴと見下ろす町の風景、見上げれば眼前に浮かぶザレムの威容、町を離れた「悪地」では荒れ地が拡がり、その先には自然の木々と宇宙船の落ちた湖。この手のSF作品は世界観を表す描写が多いほどノッてくるので、美術の素晴らしさはたまりません。

世の中はサイボーグ化が進み、それと共にサイボーグによる犯罪も多発、医師のイドは貧しい者に義手や義足を付けてやる町医者なんですね(もうタダで診てやらないぞ、で場を鎮めるのには笑います)。とりあえず脳が無事なら生きていられる、ということで、生身の肉体の重要性は薄れています。サイボーグなので容赦なくバラバラにされるというのがなんともロドリゲス監督っぽい(生身の人間も真っ二つになりますが……)。あと義体のデザインも凝っていて、特にアリータの最初のボディは透かしなどが美しいですね。またサイボーグならではの機械的ギミックがバラエティに富んでいて愉快。同じハンターでも戦い方が全く異なるし、銃は使えないという法律があるので格闘と刃物に特化しており、これが近接戦の迫力へと繋がっています。


■戦うサイボーグたち

ゴツいハンターたちが多いなか、非常に小柄なアリータが暴れまくるのは痛快。速いスピードで相手の動きを見切り、マーシャルアーツ的な機甲術(パンツァークンスト)でぶちかますのにはアガります。グリュシカ率いるサイボーグ殺人鬼を秒で片付ける強さを見せ、バーでのハンター戦士たちとの大喧嘩では多数を相手に大立回り。時折挟むスローの使い方がちょうどいい塩梅なんですよ。アクション演出は見やすいですね。バーでは犬を殺されてその血を目の下に塗ることで本来のガリィのビジュアルまで再現するのが心憎い(犬は可哀想すぎるのでサイボーグとして生き返ってほしい……)。グリュシカとの地下での戦いでは腕一本になっても立ち向かう踏ん張りを見せるし、やられた!というシーンでアングルが変わったら想像以上に斬られてたというのも凄いです。

モーターボールのシーンは超スピードのなかのラフ・ファイトがサイボーグならではの攻め方でいちいち愉快。途中からレース放棄して高所のチェイスが始まるという大胆な展開も。一見ちぐはぐなハンター戦士としての話とモーターボールの話をここで絡め、アリータを狙う黒幕がモーターボールの主催者であるベクター、それを陰で操るのがザレムのノヴァであるという点で繋げるので、そこまで解離しない形にしてるのは上手いですね。ちなみにちょっとだけ顔を見せるモーターボール・チャンプのジャシュガン役は『スーサイド・スクワッド』『ターミネーター:新起動 ジェニシス』のジェイ・コートニーじゃないですか!続編でアリータとバトってほしいぞ。


■父さんは娘が心配だ

アリータは300年前のURM最終兵器という出自であり、抑えきれない闘争本能に突き動かされる戦士です。それでいて中身は想像以上に10代の女性であり、モーターボールをクールと言い、チョコレートにとろけ、恋する気持ちはノンストップ、というギャップがキュート。勝手に体が動いて戦う自分に戸惑ったり、バーで暴れて調子こきすぎたのをイドに見つかって「ヤバい」みたいに伏し目がちになったりと、ちょくちょく見せる子供っぽさがお茶目だし、自分を縛り付けようとするイドに反抗してハンター戦士のライセンス取っちゃったりして、年頃の娘は難しい。大きな瞳は時々アニメ的に見えなくもないですが、寄りの画では感情を表しやすいという利点があるのかも。バーサーカーボディに変わって少し大人っぽくなったらヒューゴとキスシーンというのは大人の階段登った感がありつつも、生身かどうかはもう関係なく人は精神的な部分で繋がるのだというのをすんなり肯定してみせますね。「私のハートをあげる」と言って本当に心臓を出すのには「重いな!」となりますが、若者らしい恋の情熱ではあるし、心臓を取り出せるというのが後にヒューゴを救う際の伏線にもなっています。

イドが実はハンター戦士であるというのは医師として救う仕事と矛盾するようですが、自分が強化したサイボーグに娘を殺された過去が怪物を作り出したという罪悪感となり、犯罪者を狩っているということなんですね。娘の死を受け入れられずベクターと共にサイボーグ側に肩入れしてザレムに戻ろうとするチレンとは逆で、そこが夫婦の悲しい対比になっています。ただチレンに関しては今一つ掘り下げが足りない気もします。登場の仕方もいつも唐突で、イドの家の前、バーで暴れたあと、ヒューゴをかくまったときなど、不自然すぎるタイミング。とは言えイドが最初にアリータの涙を拭いたのと同じようにチレンもアリータの涙を拭いてあげる、というシーンが良くて、愛する者を失おうとしているアリータを見て医者であり母親であることを思い出した、というのにも(一応)納得できます。一貫してクールなジェニファー・コネリーが良いですね。

一方のイドは、最初は娘に厳しい父親としてアリータに接していたのに、アリータがグリュシカに破壊されたあとはバーサーカーボディは付けるわモーターボールには協力を惜しまないわ「戦士の心には戦士の体が必要だ」ともっともらしい理由付けするわで、超親バカになるのが笑います。ボディも名前も元々娘のものなので重ねちゃうのはしょうがないか。バーサーカーボディにより少し大人っぽくなった体を見て、アリータの成長を認めたというのもあるのでしょう。生身の肉体性は薄いけど、代わりにメタルのボディでもって肉体の重要性を出している、というのが面白い。アリータもイドの思いはわかってはいて、「自分を責めるな、体を有効に使え」と自分を認めて戦えと言ってくれるイドに対し「ありがとう、父さん」と言うシーンなどは瞬間涙腺刺激がスゴいです。クリストフ・ヴァルツの安心感はさすが。イドの原作みたいなショッキングな姿まで出てきたらどうしようと思ってたけどそこは一安心。代わりにチレンがエグいことになってしまうのがムゴいです。


■手から落ちた居場所

ベクターの謀略とグリュシカの恨みが迫るなか、それとは関係なくアリータとヒューゴを追い詰めるザパンも厄介。演じるエド・スクレインの酷薄な感じがハマっていて、本作といい『デッドプール』や『ビール・ストリートの恋人たち』に至るまですっかり悪役が板についてしまいましたね。『トランスポーター イグニション』でステイサムの後を継いだ男なんだが……。最後は自慢のブレードで顔をそがれちゃいますが、続編があるなら原作のように再登場してほしいところ。アリータがザパンのブレードを自分のものにしてるのはちゃっかりしてるな!もう一つの脅威であるグリュシカはグラインドカッターのヤバさを散々見せておいてからのラストにそれを全てブチ折るアリータというのが熱い。ベクターはノヴァに操られるだけの傀儡で、そこにマハーシャラ・アリを使うというのが贅沢ですが、中身の別人が喋りながら本人は死んでいくという演技がさすがですよ。あとその中の人、ノヴァを演じるのが『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のエドワード・ノートンというのにはブッ飛びました。ノヴァはもっと狂気をみなぎらせながらプリンを食べてほしいところでしたが、黒幕感は十分。

スクラップ場に捨てられていた少女はイドという父親に出会い、ヒューゴという愛する者に出会うことで、この搾取される世界に居場所を見つけます。ヒューゴもまたザレムに行くという夢をアリータのために諦めようとするものの、犯罪者とされた絶望のあまりそこに逃げるしかないとチューブを登ります。強盗行為は罪ではあるものの、それが想定以上の罰として振りかかってしまったヒューゴに、それでも「お互いが居場所だ」と繰り返すアリータの言葉は確かにヒューゴに届きます。しかしノヴァが始動した防御リングの逃げ場のなさはさらなる絶望で、若き恋人たちを切り裂いてしまう。最後に落ちていくヒューゴはキャメロンの『タイタニック』をも彷彿とさせます。アリータがモーターボールを続けるのは戦いの本能を満たすと共に、そこで生きることが失った居場所の代替でもあるのでしょう。そしてチャンプになれば仇のいるザレムへ行ける。ブレードを天に掲げるアリータの姿は悲しくも誇り高く、彼女の新たな物語を予感させるのです。

……ということで、原作ファンも納得のSFアクションで非常に楽しめましたよ。原作ではまだまだ序の口の部分だし、あちこち伏線も張ってあるので、『アバター』もいいけどぜひともこちらの続編も作ってくださいよキャメロン!

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1508-51cc817d
トラックバック
back-to-top