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2019
03.02

電話越しの罪と救済。『THE GUILTY ギルティ』感想。

THE_GUILTY
Den skyldige / 2018年 デンマーク / 監督:グスタフ・モーラー

あらすじ
ずっとおっさんのアップ。



緊急通報指令室の電話オペレーターであるアスガーが取った一本の電話。それはまさにいま誘拐されているという女性からの通報だった。彼女の行方は電話の電波や聞こえてくる声、微かな音に頼るしかなく、アスガーは必死で女性の居場所を突き止めようとするが……。デンマーク発のサスペンス。

電話からの声と音を頼りに誘拐事件を解決しようとするサスペンス作品。誘拐されそうになっているという女性の緊急通報を受けたオペレーターが、その場にいながら事件を解決しようとするお話です。これはかなり異色で、舞台となるのは日本でいう119番の緊急センター、その建物の1フロアのみ。そこで緊急電話を受けた主人公アスガーだけが延々と映されるのです。ほぼ同じ場所で同じ男がずっと電話で喋るだけ。本当にそれだけなのに、聞こえてくる声と音だけを頼りに進むとんでもない緊迫感と、やがて見えてくるドラマの深みにやられます。低予算なのは間違いないんですが、そんなチープさは微塵も感じさせない予測不能な展開にやられまくり。時間経過は全てリアルタイムでノンストップの88分、長く感じる時間さえも意味がある。これはスゴい。

カメラがずっと映し続ける主人公アスガー役のヤコブ・セーダーグレンが、薄くはないけど濃すぎないという良い塩梅の顔立ちなので、わりと飽きずに観続けられます。と言うか観てる方も電話に耳を澄まし続けてしまうので、画面を見てるのか音を聞いてるのかよくわからなくなってくるというある種の臨場感があります。スゴいのは、電話の向こうの見えない風景がありありと浮かんでくるということなんですよ、人の想像力を刺激する話運び、台詞のチョイスというものが素晴らしい。

緊急センターを舞台にしたサスペンスと言えば『ザ・コール 緊急通報指令室』とかあるんですが、本作の突き詰め方はそれを遥かに超えています。話の過程で何かがアレなことに気付いたりもして……ああこれ以上はネタバレになるので何も言えません。集中して観ないと意識が途切れる可能性があるのでそこは注意ですかね。観終わった後にタイトルの意味が響きます。

↓以下、ネタバレ含む。








■カメラが寄り添う三つの効果

立ち上がったり移動したりカメラアングルが変わったりはするものの、基本はアップで映るアスガーが座って話すだけ。音楽もなく、聞こえてくるのはほぼアスガーと電話の主との会話のみです。周囲にはピントも合わないし、隣席のオペレーターと話をしてもすぐに終わってしまう。このアスガーへの焦点の当て方には色んな効果があって、まず一つは変わりばえのしない同じ顔を見続けることで音の方に集中してしまうということです。ある種の会話劇であり、話すのは誘拐されているというイーベンだけではなく、その犯人らしきイーベンの夫ミカエルや、娘のマチルデ、捜査側では元上司や北シェラン指令室、パトカーで向かった警官にまで及ぶので、その都度シーンは変わっていきます。実際は携帯の電波から最寄りの基地局までは割り出せますが、詳細は電話から聞こえる音だけが頼り、後ろの音で事態を推測していくしかないというのを痛感させられます。

ただ本来は北シェラン指令室のように伝達して終わりのはずなので、アスガーの行動は完全に職域を逸脱してるんですよね。最初は正義感ゆえなのかと思うものの、本来は現場の刑事である習性が彼を動かしたのでしょう。そんなアスガーにカメラが寄り添うのは、実は彼がこの場で一人浮いている存在であるということを強く意識させることにも繋がっており、これが二つ目の効果になっています。もちろん、アスガーの額に光る微かな汗、ヘッドセットの着脱、発泡の薬やら不意に机で響く自分の携帯やら、着信を示す赤ランプの不吉さなど、臨場感を煽るというのが三つ目の効果としてありますね。誘拐されてヤバいというときに自転車で膝をぶつけたーという人に構ってられないとか、無下にされた人は気の毒ではあるものの、ゴメンちょっと後にして!と思ってしまいます。


■見えるかのような惨劇

それでもアスガーの頑張りにより事態は進行していくので、安楽椅子探偵のような話になっていくのかなと思うんですよ。しかしその過程でちょいちょい出てくる「明日」というキーワード。記者からの電話、上司からの「明日で終わりだな」という言葉、相棒ラシッドの「明日の裁判の証言」という台詞。これらにより、アスガーが本来は刑事であり、何かをやらかしたために閑職の電話番に回されているということがわかるんですね。他のオペレーターを見下すような態度も見られるし、少し鼻で笑うような顔もしたりする。現に隣席の人に「今まで軽んじてすまなかった」と謝るということは自覚があってやってたのでしょう。進行している誘拐事件とは別のドラマがあることを匂わせ、これがどう絡んでくるのかというのも軸としてあるわけです。

メインである誘拐事件の方は、必死で犯人に取り繕いながら電話で話そうとするイーベンに同情し、なかなか警察が車を見つけられない焦燥感にスリルが止まりません。6歳9か月という娘マチルデもそりゃ放っておけないよね!ということで保護させようと動くアスガー。しかしよかれと思って赤ん坊のオリバーのそばにいろと言ってしまった結果、マチルデはオリバーの死体を見つけてしまうわけです。死亡を確認したのかと問うアスガーに警官が告げる「切り裂かれている」という衝撃。「マチルデは血だらけだ」と言うのは、つまり部屋がそれだけ血の海だったか、あるいはその遺体に触れたということです。この電話を切った後の沈黙が非常に長く、そのために凄惨な場面をありありと思い浮かべてしまいます。


■嘘と罪

荷台に閉じ込められたイーベンと電話が繋がり、なんとか元気付けようとするアスガー。水族館ブルー・プラネットの話になり、お互いにあなたが好きだというシーンには、早く悪逆な夫ミカエルを捕らえて二人で幸せになってほしい、と思わせられるんですよね。それだけにその直後の「ヘビを出した」と告げるイーベンにはさらなる衝撃。そしてこれまたよかれと思ってのアドバイスによりミカエルまでも危ないというところで切れる電話。またも長い沈黙。イーベンを救おうとアスガーが電話でミカエルを怒鳴り付けたときに「放っておいてくれ」と言ったのは精神病院へ向かっていたからだったわけです。当初とは真逆の様相を見せていく展開にクラクラします。

これは誘拐事件を解決しようとする話などではなく、嘘と罪の話だったのてす。正気を失ったイーベンの、取り返しのつかない罪。アスガーの、幼い娘に弟の死を見せてしまった罪。ミカエルまでも殺させるところだった罪。そしてアスガーがイーベンに明かす、人生の何かを取り除くために19際の少年を殺せたから殺した、という罪。その罪を「嘘」によって塗り固めようというのがアスガーの「明日」だったわけです。マチルデのためにミカエルは嘘をつき、イーベンは嘘をつかないでと言って橋から飛び降りようとします。そこで電話が切れてまたもや長い沈黙。それはさらなる罪を重ねたということであり、この沈黙によりアスガーに去来する思いを観ている方も共有してしまうのが凄い。

もう嘘をつかなくていいと相棒ラシールに告げるアスガー。そしてイーベンの保護により免れることができた最後の罪。出口に向かい、そこでアスガーが電話するのは上司か判事か、ともかく緊急センター最後の夜の数時間でアスガーは有罪(ギルティ)を受け入れることにしたのでしょう。そして誘拐された女性を必死で救おうとした彼は、今度こそ人生の何かを取り除いたのかもしれず、ドアの向こうの明るい光に踏み出すことができたのです。

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