FC2ブログ
2019
02.16

彼女がくる空を見上げて。『メリー・ポピンズ リターンズ』感想。

Mary_Poppins_Returns
Mary Poppins Returns / 2018年 アメリカ / 監督:ロブ・マーシャル

あらすじ
不可能でさえ可能。



成長し三人の子供を持つバンクス家の長男マイケルは、妻を亡くし金銭的にも行き詰まって家を失う危機に陥っていた。しかしそんなバンクス家にあの魔法使い、メリー・ポピンズが再び姿を現す……。ミュージカル映画『メリー・ポピンズ』の20年後を描く続編。

1964年公開、アカデミー賞5部門に輝いたディズニー映画『メリー・ポピンズ』が54年経ってまさかの続編。舞台は前作から20年後、大恐慌時代のロンドン。かつてメリー・ポピンズの魔法に魅せられた子供たち、ジェーンとマイケルも今ではすっかり大人となり、ジェーンは母のように活動家となり、マイケルは実家を受け継ぎ父の働いていた銀行で仕事に就いています。しかし妻が亡くなり三人の子供を養うマイケルは金銭的な苦境に陥り、家は差し押さえ直前に。そこに再び空から現れたのがかつてのマイケルたちの教育係メリー・ポピンズ。全く年をとっていない彼女が、今度はマイケルの子供たちに素敵な魔法を見せてくれることになります。現実的な問題を歌と魔法で解決する、というわけではなくて、実際はわりと現実的な対応だったりするんですが、そこに至るための閃きや高揚をもたらすというのがまさにメリー・ポピンズ。ユニークでファンタジックで、ラストは意外な大仕掛け。いやあ楽しい。

監督は『シカゴ』『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』のロブ・マーシャル。ミュージカルは得意分野ということでの登板なのか、『イントゥ・ザ・ウッズ』が微妙だったので心配してましたが今回は挽回したかと。メリー・ポピンズ役はその『イントゥ・ザ・ウッズ』でも監督と組んでいたエミリー・ブラント。『クワイエット・プレイス』『ボーダーライン』など強めの役が多いせいかオリジナル版よりちょいと圧が強めですが、これはこれで良いです。前作のバートの役回りに当たるジャック役は『モアナと伝説の海』などで作曲家としても活躍するリン=マニュエル・ミランダ。大人になったマイケル役に『007 スペクター』ベン・ウィショー、ジェーン役にエミリー・モーティマー、他にも意外な大物が登場します。

前作では父と子供の関係がメインでしたが、今回は大恐慌という事態に関係して家を追われるかもしれないというシビアな展開。そこまで社会情勢が反映されてるわけでもないですが、背景が前作とは異なるわけです。そんななかメリー・ポピンズはどんな魔法を見せてくれるのか。予想外な登場シーンに笑い、アニメパートは楽しく、灯りが点る先にハッピーが溢れます。前作を観ておけば感動は段違いですよ。

↓以下、ネタバレ含む。








■再び現れた彼女

桜通りにマイケルの家、提督の甲板屋根や2ペンスで鳩のエサを売ってた階段など懐かしい風景が前作を感じさせ、一方で映像がリアル寄りになってもいるんですが、そこは時の経過というふうにも取れます。そうしたお膳立てがあるので、メリー・ポピンズは時が流れても当然傘に掴まって降りてくるだろうと思っていたんですが、まさかの凧にぶら下がっての登場だったので思わず笑ってしまいました。いや凧って!でも前作ラストで家族揃って凧をあげていたことを考えると、この登場の仕方は忘れていた家族の絆を思い出させるものでもあるんですよね。そして家を追われるという危機がメインで描かれるものの、その中心には家族が絆を取り戻すというテーマがあるわけです。

何気ない顔でその手助けをすることになるメリー・ポピンズ、演じるエミリー・ブラントはオリジナル版のジュリー・アンドリュースより顔が強いし、歌にコブシを効かせたりまでするのでかなり印象は違うんだけど、思ったより違和感を感じないのは前作との繋がりを随所に見せてくれるからでしょう。飛べるうえに喋る傘コプター、何でも出てくる四次元カバン、鏡に写った自分がそのまま残るフエルミラー(増えてません)など、個人的に前作で感じた某ネコ型ロボット味がさらに強くなり、今回の彼女が問題に直接関わりすぎているという点もその印象を補強します。ただそこはエミリー・ブラントの強さの印象に上手くハマっていて納得させられるし、それでいてわりと笑顔を見せる(前作はほとんど笑わなかった)のが強さを緩和していて、そんな諸々が違和感を感じさせないようちょうどよく作用している気がします。


■前作と繋がる作り

ミュージカルシーンも前作に劣らず不可思議でワクワクします。バスタブに入ったら海の中、イルカに海賊の宝、風呂の泡は雲となりいつの間にか子供たちもキレイさっぱり。器のなかに入り込んだら前作のようなアニメパート、ディズニーらしさ満載の手書き風アニメで衣装までそれに合わせた質感なのが凝っており、実写とアニメとの融合が過去に類を見ないほど違和感がなくて、素晴らしい映像のマジック。メリー・ポピンズがむっちゃ歌って踊るオンステージにはあんたが踊るんかいとツッコみそうになりますが、前作もメリーゴーランド競馬で優勝インタビューとかしてたし、何よりゴージャスで見応えあります。犬紳士と馬が駆け付けるところが超カッコいいし、ジョージーをさらう狼が後に銀行頭取にも繋がるのが上手い。また前作の煙突掃除人に代わり登場する灯火人たちのシーンでは、霧のなか小さな灯りを辿る不安げな雰囲気から、街灯に灯を点して見事なダンスを披露する灯火人たちという明るさに変化するのがイイ。楽曲も良いですよ。前作に比べるとインパクトが弱く感じるかもしれませんが、さすがに50年聴かれてきた楽曲と比べるのは酷でしょう。

前作との繋がりという点で、バートに代わりメリー・ポピンズとバンクス家の間をスムーズに取り持つ役割を果たすジャック。メリー・ポピンズが何をしても動じず即座に乗っかるのが頼もしいし、ハシゴ自転車にも高いバランス感覚で乗っかります。どんなにツラくとも前向きに生きれば楽しさはあるんだというのを体現する人ですね。実は最初はバートと同一人物と勘違いしてて、こいつも年取らないな、妖精か?などと思ってましたが別人でした。そりゃそうだ。メリー・ポピンズのことを知っているということはバートとも関係ある人物なのでしょう。ジェーンとラブになるというのはマジかと思いましたが……。逆に前作にはない要素に思えるのがメリー・ポピンズのいとこ(!)、逆さまトプシーです。ここでまさかの『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』メリル・ストリープ登場というのが手厚い(そういや『イントゥ・ザ・ウッズ』にも出てました)。あまり本筋には関係ないですが、よく考えたら前作の笑い上戸おじさんとのティータイムみたいな位置付けですね。こうして見ると思いの外前作をなぞった作りになっています。


■取り戻す絆

本作は家族の絆を取り戻す話ではありますが、前作のように成長するというよりは、悲しみを乗り越える、というのが異なる点でしょう。マイケルが亡き妻を思うシーンはベン・ウィショーが涙混じりに歌いあげるのもあって泣けます。かつてマイケルの父は仕事と上流意識に支配されていましたが、対してマイケルは悲しみに支配されているんですね。妻を失い、絵描きの夢も捨て去り、父が働いていた銀行で臨時職員として働く日々。子供たちを叱ろうとして、どうすればいいかわからないと思わず言葉を詰まらせてしまうところに彼のいっぱいいっぱいな心情が見られます。そんな父に息子のジョージーたちは「お母さんは消えたのではなくここにいないだけ」と歌って慰めるのがまた泣けますよ。実は今作も父親が救われる話であり、かつマイケルとしては二度目の救済の話であったわけです。

そして差し押さえのタイムリミットが迫るなかの「時間を戻せる?」に「もちろん」と答えるメリー・ポピンズには震えます。実際はビッグベンの時計を戻すという物理的な解決なんですが、そのためにジャックたちが命がけでサポートする姿には「なんてイイ奴らなんだ」とグッときますよ。結局メリー・ポピンズが飛んで時計の針を戻しちゃってジャックたちの頑張りは……と思いそうになりますが、いや明かりを消すという大事な役割を果たしてますから!む、無駄じゃないから!そして時計を5分遅らせるという話でまさかと思ったら、ビッグベンの鐘と5分遅れていた提督の大砲がピッタリ重なる、これが快感。

さらに頭取の悪知恵でもうダメだとなったときに現れる前作のバート役、ディック・ヴァン・ダイク!「義足の男の話」を口にする姿にニヤリとし、御年93歳での華麗なステップに驚かされます。エンドクレジットで名前の文字が入れ替わるという演出をやってくれるのも嬉しい。かつての2ペンスがかなりの額になったというのは出来過ぎな気もしますが、畳み掛けるのは嫌いじゃないです。ただ唯一異物感を感じるのが『キングスマン』コリン・ファースが演じる銀行頭取で、前作にはいなかった明確な悪役であり、ラストに至るまで唯一救いがなく改心もしないので浮いてるんですよね。所業を思えばその扱いもいたしかたないんですが、ちと世知辛い気も。でもまあ悪人には容赦ないのがディズニー映画らしいとも言えますかね。風船がストンと落ちたときのコリン・ファースの悲しそうな顔が気の毒ながら可愛いです。


■空を見上げて

ラストの風船で皆が空を飛ぶのは、それまでメリー・ポピンズの魔法が他の人にも共有されるということはなかったので意外。マイケルが「少年の心を思い出したから飛べた。メリー・ポピンズのしたことは全部本当だ」と言うように、子供のように楽しむ心があれば空を飛ぶ気分にだってなれる、というのを街中の人が実際に飛んで見せることでハッピーさをさらに畳み掛けようということでしょう。ここで頭取の風船だけは飛べないわけですが、実はもう一人飛べない人物がいて、それがメリー・ポピンズです。魔法をかけた張本人なのだから飛べないわけはないんですが、空で楽しく舞う人々を眩しそうに見上げながらも彼女はその輪に入ろうとしません。人々を幸せにしながら彼女だけが実は異端なのだな、と強く感じてしまいました。常にフルネームで呼ばれるのも特別な存在だからでしょう。

一体メリー・ポピンズとは何者なのか。それは前作でも今作でも明確には語られませんが、子供たちの教育係としてやってきながらかつて子供だった者へも魔法の時間を与える、そんな素敵な夢であるというだけで十分ですね。「扉が開くまでいる」という言葉通り、最後に扉が開いて桜が舞い散る美しさのなか彼女は去っていきます。ロンドンの空を見上げて歌うジャックから始まり、ラストでもまた空を見上げて終わるというのも形として綺麗。つまり、「上を向いて歩こう」ということなのです。

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1500-ec2157e2
トラックバック
back-to-top